home

ミステリの祭典

login
メグレと善良な人たち
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1983年12月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点
(2019/02/10 13:39登録)
 ヴァカンスから戻ったメグレ警視は、真夜中の電話を受けて夢から脱け出した。モンパルナスのノートルダム=デ=シャン通りで犯罪が発見されたという。やっかいな事件になりそうなので来て欲しいというのだ。
 殺されたのは元ボール紙工場の経営者ルネ・ジョスラン。肘掛椅子に座っているところを至近距離から二発の銃弾を受けていた。妻と娘が芝居を観に向かった後の出来事だという。居残ったルネは婿のポール・ファーブル医師とチェスを指していたが、ポールが偽電話で呼び出された直後に射殺されたのだった。
 自ら鍵を開けて迎え入れている所から犯人はごく親しい仲と思われたが、家族も知人も心当たりは無いという。捜査を進めても、規則正しい生活を送るルネを悪く言う人間はいないのだ。
 何の曇りもない中産階級の人々の間で起こった事件――だが止むを得ない理由なしに殺人など行われはしない。メグレは夫の死体を発見した直後に自失状態に陥った、ジョスラン夫人に注意を向けるが――。
 シリーズ第86作。「メグレと優雅な泥棒」の次に書かれた作品で、前作と同じく1961年発表。とらえどころの無い事件で、作中何度も「善良な人たちか・・・・・・」「もちろん、そうだろう!」などとメグレが愚痴ります。
 残された家族も何かを隠しているような、薄皮を隔てたような対応で、全てを積極的に打ち明けようとはしません。とりわけ未亡人フランシーヌは態度こそ冷静そのものですが、常に身構え神経を尖らせています。
 そんな事件もトランス刑事がアパルトマンである発見をしたことにより大きく動き出し、やがて一家の抱える秘密が明らかになります。
 エンディングは静かなもので、全般に描写はあっさりめ。この時期の作品としては及第点というところでしょうか。余韻というほどのものはありませんが、読後感はそんなに悪くないです。

No.1 6点
(2012/02/26 11:30登録)
原題の意味も邦題と同じで、まさに善良そのものといった感じの家族の中で起こった殺人が扱われています。強盗などでない個人的な殺人がこんな家族の中で起こるとは考えられないと、誰もが口にする事件で、どこから手をつけたらいいのか戸惑うような状況に、メグレは善良な人たちに対してほとんど恨みを感じそうになるぐらいです。
それでも殺人後の犯人の行動が判明し、さらに地道な聞き込み捜査を続けるうちに浮上してくる家族の抱えるある秘密が明らかになった時、事件は一気に収束していきます。メグレものの中でも短めな作品ではあるにしても、そのあまりのあっけなさには不満を感じる人も当然いると思います。しかしシムノンの手にかかると、『メグレと老外交官の死』のようなひねりのある結末よりも個人的にはむしろ好感が持ててしまえるのですから、妙なものです。

2レコード表示中です 書評