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ミステリの祭典

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象牙色の嘲笑
リュウ・アーチャーシリーズ

作家 ロス・マクドナルド
出版日1955年03月
平均点6.62点
書評数8人

No.8 6点 斎藤警部
(2021/10/15 11:04登録)
いいですね、事件全貌の一部だけチラ見せ続けて誤誘導するトリック。そこに時間の経過が被さるもんだから。まるで「群盲象を評す」の四次元版のよう。このパズル興味を輝かせるものこそ、物騒で手の早いそれなりのHB的魅力、そして明暗の人間ドラマ。なかなか小気味良い(?)屍体消失トリックも鮮やかでした。

No.7 6点 クリスティ再読
(2018/02/12 09:13登録)
「ぼくはブロンドの女を信用したことがないんだぜ」いや、アーチャー、カッコの付け方が若いなぁ(苦笑)。なので本作は後期の疲れた中年男のアーチャーじゃなくて、まだ若さがあるアーチャーだ。アクションシーンだってこなしちゃうし、皆殺しで大不毛な結末も「ハードボイルドらしさ」がある。また凝った比喩もバランスよく入っていて、文章も悪かない。
けどねえ、ちょっとだけ引っ掛かるのだが、ロスマクって老女を描かせるとすごく凝るけども、それと比較すると若い美人はおざなり、という印象がある。そのせいか知らないが、本作のファム・ファタ―ルの造形があまり効果的に評者は感じなかった。逆算すると黒人看護婦のルーシーはムダに美人だ。なにか途中で構成を変更したように感じるのはヨミスギかなぁ。
というのも、前半の展開からすると、黒人問題をテーマにするような布石があるのにもかかわらず、真相は白人たちの間での殺し合いであって、発端を形作り印象的なルーシーはただの端役に過ぎない。ひょっとして、黒人問題をテーマにしようとして、編集者に止められたか?

No.6 5点 あびびび
(2017/09/21 15:21登録)
ロスマクの型通りの流れと言うか、いったん疑問を持ったら止まらない探偵リュウ・アーチャーの捜査を熱く追う物語。

自分的にはほぼ予想通りの結果であり、特に優れたところは分からなかった。やっぱり、「さむけ」に尽きるのかも知れない。

No.5 7点 E-BANKER
(2017/09/08 23:18登録)
リュウ・アーチャー登場作としては四番目に当たる長編。
1952年発表。
原題は“The Ivory Grin”。 ハヤカワ文庫の新訳版で読了。

~私立探偵リュウ・アーチャーは怪しげな人物からの依頼で、失踪した女を探し始めた。ほどなくしてその女が喉を切り裂かれて殺されているのを発見する。現場には富豪の青年が消息を絶ったことを報じる新聞記事が残されていた。ふたつの事件に関連はあるのか? 全容を解明すべく立ち上がったアーチャーの行く先には恐ろしい暗黒が待ち受けていた・・・。錯綜する人間の愛憎から浮かび上がる衝撃の結末。巨匠の初期代表作!~

紹介文のとおり、本作は作者初期の代表作ということになっている。
訳者解説によれば、まだチャンドラーの影響が色濃く残っていた頃の作品ということなのだが、個人的には決して嫌いではない。
リュウ・アーチャーもまだまだフットワークも軽くて、活動的&情熱的という印象だ。
中期以降の代表作「さむけ」や「縞模様の霊柩車」と比べれば一枚落ちるけれど、プロットとしても十分納得できるレベルだと思う。

さて、今回は(というか今回も)実に印象的な女性が登場する。
寄ってくる男たちを手玉に取り、自身がのし上がっていくための踏み台にする女。
そう、まるで女王蜂。
男たちは女王蜂を我が物にするため、犯罪はおろか殺人にまでも手に染めてしまう・・・
終盤に差し掛かる前には大凡の事件の構図は見えたと思っていた刹那、驚くべき真相がラストで判明する。
いやいや、思い詰めた男って、一番やっかいな人種なんだね・・・昔も今も。
巻き込まれたのは、貧しい身の上から何とか脱却したいと考えた底辺に生きる男女というのが切ない。

ということで、ハードボイルドファンにもロスマクファンにも、十分満足できる作品ではないか。
もちろん探せば瑕疵はいろいろあるんだけど・・・
水準以上という評価。
(ミッキー・スピレインへの対抗意識の話はなかなか興味深い・・・<訳者解説>より)

No.4 5点 mini
(2015/10/14 09:58登録)
* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第1弾ロス・マクドナルドの5冊目

ロスマクを初期・中期・後期で分けると、本名のケネス・ミラー名義の頃が初期、名義をジョン・マクドナルドに変えリュウ・アーチャーが初登場する「動く標的」からが中期かな
ちなみにその後、ジョン・D・マクドナルドという作家から名前が紛らわしいとイチャモンを付けられミドルネームにロスを加えている
再びイチャモンを付けられ、今度は名前からジョンを削除してロス・マクドナルド名義とした「凶悪の浜」からターニングポイントと言われる「運命」「ギャルトン事件」あたりまでが中期か、まぁその2冊は中期と後期との過渡期の作という意見も有るようだ
その後アーチャーの登場しない単発作「ファーガスン事件」を挟んで次の「ウィチャリー家」から完全に後期に突入する

「象牙色の嘲笑」はまさに中期の真っ只中の頃の作で、初期の旧式なハードボイルドの亜流から脱却したが、後期のいかにもこの作家らしさも全開とは言えず、悪く言えば中途半端と言えなくもない
ただ私はハードボイルドでさえも本格派としてどうかという視点が嫌いで、いかにもハードボイルドらしいハードボイルドの方がが好きな読者なので、正直言って後期のロスマクはあまり好きではなくて、むしろ中期の方がバランスの良さを感じる面も有る

とまぁ概略的な話はこれ位にして
「象牙色の嘲笑」ってさ、あまり突っ込んだ書評を見た事無いのだけれど、いや私が勘違いして読み間違えているだけかも知れないのだけれど
「象牙色の嘲笑」ってさ、結構バカミス級のトンデモな作だと思うんだけど

No.3 8点
(2012/03/24 00:14登録)
確かにラストは衝撃的です。ロス・マクにしてはかなり早い段階で、なんとなく真相の概要が見えてしまう作品だと思うのですが、それでも最後20ページぐらいには驚かされます。これはやはり核になるアイディアというより書き方、盛り上げ方の問題なんでしょうね。このラストの決め方で評価がアップします。初期にしてはあまりハードボイルドらしくない筋立てなのも本作の特徴でしょうか。
翻訳で主語を「おれ」としていることについては、ロス・マクには合わないという人もかなりいるようですが、個人的にはそれよりも、地の文で「おれ」なのに、会話の中でリュウは「ぼく」と言っている点に違和感を覚えました。
なお原題の”grin”は、ニヤリと笑うということなので、それこそハードボイルド探偵がたまに浮かべる笑みなどもそんな感じ。”mock”(嘲る)の意味はありません。そのことを意識して最後部分を読んでみると、タイトルの味が伝わってきそうです。

No.2 8点 ロビン
(2009/06/28 01:25登録)
あの事実が明らかになった時は、思わずゾッとした。ハードボイルドという冷徹な文体が成せるインパクト。
ある意味、この作品でロスマクはアーチャーというキャラクターの動かし方、彼が直面する悲劇の原形を掴んだのではないかと思います。

No.1 8点 Tetchy
(2009/05/17 00:50登録)
今回も彼は完膚なきまでに質問する。読んでいるこちらが当惑するほどに、個人の領域に立入る。
そのあまりある執拗さは、終いには犯人が「なぜきみはおれを苦しめるのだ」と身震いさせられるくらいまでにもなる。
だがしかし、そこまで行いながらも彼の影は見えない。
犯人は最後、足枷のように影を引き摺るのに、彼には影すら見えない。「質問者」である以上に「傍観者」である所以だ。

真相は戦慄を憶えた。しかし、未だに謎なのは、被害者は何を「嘲笑」っていたのだろうか?

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