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ミステリの祭典

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加田伶太郎全集

作家 福永武彦
出版日1970年01月
平均点6.75点
書評数4人

No.4 7点 クリスティ再読
(2017/01/25 20:45登録)
そのかみの文学少女御用達作家、福永武彦が1冊だけ書いたミステリ短編集である。ヒネクレ者の評者とかこっ恥ずかしくって「好き」とか言いにくい作者だ。
最初の「完全犯罪」は割とよくアンソロに入ってたりしたな。「ミステリ書いてやる!」という気持ちで「完全武装」した感じで、パズルのためのパズル..なんだけど、行間からにじみ出る清潔なリリシズムみたいなものが心地よい。で、前半3作くらいは本当にパズルのためのパズルだけど、後半の伊丹モノはいろいろバラエティが出てくる。ジュブナイルでもないのに、子供が登場する作品が多く(おまけの「女か西瓜か」とかサンタの話も子供視点だし)、これが独特の「少年的感受性」といった味わいがあってナイス。なので「湖畔事件」とか「電話事件」がイイように感じる。まあ、ミスディレクションなしで細かいデータから真相を想像するようなものなので、読者が推理しても当てるの難しいなぁ。
この人出発点は、パズルみたいな定型押韻詩のマチネ・ポエティックだった。マチネ・ポエティックの推敲をするように、細かい時間割とか物理トリックをああでもないと検討していたであろう姿を想像すると、微笑ましいものがある。その光景に萌える。

No.3 8点 nukkam
(2016/01/14 08:53登録)
(ネタバレなしです) もともとは純文学作家の松本清張の成功例に刺激されたのか、純文学作家がミステリーに手を染めるケースが1950年代後半以降に増えたように思います。そういう人たちが書いたから社会派推理小説だったのか、社会派推理小説の人気絶頂期だったから社会派推理小説を書いたのかはわかりませんが福永武彦(1918-1979)はその中では異色の存在で、1956年から1962年にかけて8作の短編を発表しましたが全て伊丹英典を探偵役にした本格派推理小説でした。理由は単純に本格派が好きだからというもので、本格派好きの自分としては思わず「やった~」と喝采したくなります。作者は「余技で書いた」と主張していますが、魅力的な謎と充実の推理だけでなく、「完全犯罪」の推理合戦、「温室事件」の犯人との心理かけひき、「眠りの誘惑」のスリラー演出、「湖畔事件」のユーモラスな展開とちょっと不気味な締め括りと創意工夫に溢れた逸品ぞろいです。これだけしか書かなかったのが本当に残念です。ちなみに加田伶太郎とは作中人物ではなく、本書を発表した時のペンネームです(タレダロウカのアナグラム)。

No.2 5点 ボナンザ
(2015/02/01 00:02登録)
昭和ミステリ秘宝で読了。
知られざる良作揃いだが、流石に都合が良すぎる部分もある。

No.1 7点
(2012/03/10 09:11登録)
作者は「誰ダローカ」なんて、いまだにこの名前を表に出しているんですね。著者名は本名の福永武彦になっているのに。生と死を見つめた『死の島』『忘却の河』などの純文学で知られる作者ですが、ミステリについては文学的テーマなど不要と主張していた人(ただし後にはロス・マク好きになります)だけに、謎解きに徹した短編集になっています。特に第1作『完全犯罪』は、密室・多重解決を50ページほどのうちに詰め込んだ古典的類型踏襲ぶり。その後はカー風の怪奇的謎にクイーン風の意外な論理を当てはめた『幽霊事件』、一人称サスペンス・タッチの『眠りの誘惑』、最初から冗談めかした『湖畔事件』など様々なパターンが出てきます。
本サイトの作品登録は「昭和ミステリ秘宝」ということで扶桑社から出版された版ですが、自分が持っているのは新潮文庫版で、伊丹英典シリーズ8編のみ。船田学名義で書かれたSF『地球を遠く離れて』等は入っていません。

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