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ミステリの祭典

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思い乱れて

作家 ボアロー&ナルスジャック
出版日1959年01月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 9点 クリスティ再読
(2024/11/11 15:45登録)
なぜか初読。いや~本作今まで読んでなかったのは情けない。素晴らしい。
ミステリと言うよりも、小説としての完成度が半端なくて、ボア&ナルの理想の集大成かもしれないや。

密会現場を押さえられたことで、逆上し夫を殺した間男。その死体を事故に見せかけて始末するが....というごくごくありふれた基本線。これを巧妙な味付けで読ませきる。殺された夫はシャンソンの巨匠。妻は夫の歌を歌って名を馳せた歌手、間男は若いピアノ伴奏者。事故として片づけられてほっとした二人のもとに、一枚のレコードが届く。そのレコードには、裏切った妻に捧げる夫の新作シャンソンと、夫の妻へのメッセージが吹き込まれていた。別に夫は旧知のレコード製作者にこのシャンソンを送り、レコード化を依頼していた...

そんなシャンソン、夫を裏切り殺した妻としては、知らぬ顔で唄えるわけもない。夫の愛人らしい歌手が歌い大ヒット。それによって二人は追い詰められていく...

この設定が秀逸。夫は死んだはず。しかし、二人の関係はお見通しで、他にどんな手を打っているのかわからない。そんなサスペンス。そして夫は本当の天才シャンソニエで、妻も、そして作曲者として売り出そうと狙っていた間男もその才能に圧倒されているため、余計にこの罠が恐ろしい。
だから、芸道小説としての面白さも強く出ている。夫の天才っぷり(ゲンスブールかいな)が説得力があるために、ミステリとしてしっかり成立しているわけだ。

後半に警察で妻が例のシャンソンを唄うシーンもあって、これがなかなかの名場面。いやぜひ映画化希望!と言いたいくらい。

それだけじゃなくて、実はこの小説、愛の不条理、とでもいった男女のすれ違いをしっかり描いた恋愛小説としての妙味も素晴らしいんだよね。

物が人間の愛を受けるように、男たちがおとなしく愛されていればいいとあたしは思った。人間はそれらの物をながめ、さわり、そして行ってしまう。あたしは男たちが言葉のない大きな風景みたいだったらいいと思った。

こんな女の愛と、一途に思い詰める間男の愛。それらが必然的な別れとなる中に、ミステリの真相が仕組まれている。実にボア&ナルらしい達成感のある名作だと思うよ。

No.1 6点
(2012/03/27 01:17登録)
タイトルは、作中に出てくるシャンソンの題名でもあり、また作品そのものの内容を示したものにもなっています。
あとがきにも書かれているように、ミステリとして見れば、『死者の中から』等に比べると「迫力も劣る」ことは間違いありません。愛人の夫であるシャンソン界の重鎮作曲家を殺してしまったピアノ奏者ルプラの視点からほぼ描かれた作品です。死んだ作曲家のメッセージが録音されたレコードが送られてくるという謎とサスペンスはそれほどでもありませんし、さらに起こる殺人事件で使われるトリックにしても、現代ではありきたりなものです。
しかし、真相の見当は簡単についても、だから結末はどうなるのかという点については、かなり意外な展開が用意されています。最後のルプラの一見矛盾したような行動については、シムノンの純文学系作品を想起させるところもありますし、ラスト1ページの息詰まる心理的葛藤にはさすがだと思わせられました。

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