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ミステリの祭典

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メグレと老外交官の死
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1980年01月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 6点 クリスティ再読
(2024/09/23 15:45登録)
う~ん、評者は結構この作品好きだなあ。
シムノンにはありがちだが「ミステリとしてはどうよ?」な面があるんだけども、舞台設定の妙もあってそれが「人生こんなこともあるんだよね」といった方向に印象が流れる結果になっているようにも思う。ミステリとしては?でも小説としてはギリギリ成立するあたりに、評者は面白味を感じてしまう。
でもさ、この面白味というのも、両親の老いを見て悲しみ、介護とか頭に入れつつも、自分の老いも感じてしまうようなあたりに醸されるようなものだから、若い人にはピンとこない話だと思う。原題だって「メグレと老人たち」だよ。そんなもんさ。

でこの舞台設定の妙、というのが、メグレ物にしては珍しい上流階級が舞台。中の上~上の下あたりに成りあがった下層出身者が疎外感を抱く話はシムノンの定番だけど、この事件の被害者は外交官を引退した老伯爵、そしてその人生を賭けた思い人は公爵夫人。政略結婚で結ばれた夫の公爵が事故死し、ようやく結ばれることも可能になった?その夜に老伯爵は4発の銃弾に見舞われて死んでいるのが見つかる...この老伯爵と公爵夫人の恋がホントにプラトニックなもので、公爵に義理を立てて間接的にしか関係を持たない(でも毎日お手紙!)というもので「十八世紀から抜け出してきたか?」とメグレがボヤくようなもの。でも生まれつきの貴族の話だから....でメグレも納得。それには出身の村でのサン・フィアクル伯爵夫人のイメージとか、メグレ自身が抱えるコンプレックスにも理由があることに気がついて、メグレも苦笑い。
上流相手だと勝手が掴めないのはたとえば「かわいい伯爵夫人」もそうだけど、ムリしないのが「メグレ流」でもあり、メグレというキャラに品位が感じられるあたり。
(まあだからメグレ物を系統的に読むつもりがあるならば、少年時代のメグレに言及がある「サン・フィアクルの殺人」は早めに読むべきだと思うよ)

No.2 5点
(2019/01/19 18:02登録)
 メグレ警視は局長を通じて外務省から内密の呼び出しを受けた。既に引退した老外交官サン・ティレール伯爵が、ドミニック通りのアパルトマンの書斎で回想録を執筆中、数発の銃弾を浴びて殺害されたのだ。伯爵は七十七才。四十年以上彼に仕える家政婦マドモワゼル・ラリュ-との二人暮らしだった。
 彼は積年の恋人である公爵夫人イザベルとの恋を温め続け、公爵の急死により晴れて彼女と再婚することになっていた。それは周囲の人々すべてが周知している事実だった。伯爵は温和で公私の敵もなく、もはや政府の機密にも関与していない。実際、彼を憎む人物など見当たらないのだ。
 メグレは老女ラリューの視線を意識しながら、過去に生きる人々に接触するが・・・。
 シリーズ第84作。1960年発表で、円熟期からそろそろ後期に入りかけた頃の作品。メグレの苦手な上流階級の事件で、道徳観や世代の壁もおまけつき。ティレール伯爵アルマンが恋人を譲っただの譲られただの、潔く身を引いたのと話を聞かされ「人間ってそんなもんじゃないでしょう!?」などと内心軽くキレるメグレ。被害者や周辺の人物に共感しようにも、倫理観が違い過ぎて全くとっかかりが無い。読んだ中では彼が最も苦戦した事件ではないでしょうか。
 メグレシリーズとしては若干短いですが、土壇場まで五里霧中の状態。しかし被害者の孫からある証言を得たことで、急転直下の勢いで事件は解決します。新機軸を謳っていますが、正直身構えるほどの真相ではないですね。シムノンにトリックを期待して読んではいけません。富豪たちの世界が舞台の「メグレとかわいい伯爵夫人」のように、慣れない環境に戸惑うメグレの姿を楽しむのが読み筋ではないでしょうか。

No.1 5点
(2012/02/06 21:11登録)
WEB上で読めるあらすじには、ミステリのタブーに挑戦したとなっていますし、訳者あとがきではさらに詳しく、カー、クリスティー、クイーンを引き合いに出して、彼等に対する異議申し立てであるかのように書かれています。しかし実際には、クリスティーやクイーンにも同じアイディアを使った作品はあり(クイーンの場合さらに一ひねりしています)、その意味ではタブーでも何でもありません。むしろ、最後に明かされる動機が少々安易ではないかと思えるところ、作者が作者だけに不満です。事件を複雑化することになる別の人のある行動理由については、納得できたのですが。
原題の意味は「メグレと老人たち」で、実際タイトルの老外交官を始め登場人物はほとんど老人ばかりです。それも作中で18世紀的とまで形容されるほど古めかしい威厳を備えた上流階級の人たちで、メグレが困惑しているところが楽しめるとは言えます。

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