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ミステリの祭典

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殺人の駒音

作家 亜木冬彦
出版日1992年05月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 メルカトル
(2014/03/17 22:24登録)
再読です。
ミステリのパートを除いては、将棋を指すシーンや将棋を生業としているキャラたちのエピソードがいちいち面白いのだ。いっそのこと、殺人事件など取り除いて、エンターテインメント一本で作品を仕上げてしまったほうが良かったのではないかと思うほど、対局シーンなどが際立っている。それは確かに劇画的なタッチと言えるかもしれないが、普段将棋など全く指さない私でも自然に引き込まれるような臨場感あふれる描写であり、本当に素晴らしいと感じる。
一方、ミステリとしてはさして特筆すべき点はない、どちらかと言うと平凡な作品と言えよう。ただ、ミスリードも含めて、意外な犯人であるのは評価できる。しかし、新味はないし、殺人事件の話になると、急に面白味が半減してしまうので、せっかく娯楽小説として一級品であるだけに勿体ない気がする。
エピローグがまたいい味を出している。私が過去に読んだミステリの中でも、5本の指には間違いなく入る、素晴らしい締めくくり方ではないかと思う。
総括すれば、エンターテインメントとしては8点超え、ミステリとしては4点くらいな感じだろうか。しかし、約20年ぶりくらいに読んで良かったと素直に思った。また何年かしたら忘れてしまうだろうが、その時はまた読めばいいかなと思わせるような作品ではあった。

No.1 7点
(2012/03/30 22:48登録)
将棋の世界を扱ったエンタテインメントとしてよくできていると思いました。
作者自身のあとがきによると、純文学系の短編も書いていたそうですが、それだけにさすがに文章が手慣れています。読み始めてすぐ感じたのですが、ちょっとした風景描写を入れるタイミングなどがうまいのです。何度も繰り返される将棋の勝負の場面も、文章に迫力があります。出番はごく少ないものの話の要の一人にもなっている谷山名人の他、以前の名人として犬山、長原なんていかにもな名前を出してきているだけでなく、金田耕助、野里小五郎、神津警部補と、どこかで見たような登場人物名を並べるお遊びもあります。
謎解きミステリとしては、ちょっとしたどんでん返しがあるとはいえ、驚くようなところはありませんが、事件解決後もさらに将棋小説としての話は続き、そういったところがおもしろいのです。エピローグだけは、ちょっと長すぎたかなとも思えますが。

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