空さんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.12点 | 書評数:1521件 |
No.601 | 7点 | 巣の絵 水上勉 |
(2013/03/04 21:23登録) 水上勉と言えば、『飢餓海峡』の津軽海峡や『海の牙』の不知火海岸など、地方の情景を迫力ある筆致で描き出す名手で、一方証拠固めや犯人の行方追跡などの捜査小説としての面白味はあっても謎解き的要素は少ないのが普通です 本作でも、貧しいながらも人情味ある生活感がよく出ているところはこの作者らしいのですが、舞台は東京とその近郊のみです。そして何よりも驚いたのが、幻燈画家が殺される原因の意外性でした。大きな偶然を2つ組み合わせていて、作中で登場人物にも偶然が過ぎるというようなことを言わせているのですが、それでもこの被害者の仕事に関連した方の偶然の鮮やかさにはうならされました。いわゆる本格派ではなく、組織犯罪がらみの事件であることは第2の殺人で明らかになるのですが、謎解き面では水上勉の作品の中ではベストでしょう。犯人たちがあまりに策略をめぐらせ過ぎているところはありますが。 |
No.600 | 9点 | 利腕 ディック・フランシス |
(2013/02/28 21:03登録) フランシス中期の代表作との前評判に違わぬ傑作でした。フランシスが一人称で男の生きざまを描く作家であることは先刻承知なのですが、いやあ、ここまでやられるとまいったと言わざるを得ません。最初のうちはまだ、普通同一主人公を使わない作家のくせになんで『大穴』のシッド・ハレー再登場なんだ、とケチもつけていたのですが、これは納得。 開幕早々、シッドは次から次へと3つの事件を引き受けてしまい、それぞれが裏でつながっているわけでもなさそうなのに、どうするつもりなのかと、心配していたのですが、それも杞憂に過ぎませんでした。こんなふうに全体としてまとめることもできるんですね。 また、フランシスの作品では悪役は不愉快な、残忍なというだけの人物が多いようですが、本作のラスト・シーンで示される悪役の思考、行動には驚かされました。この息詰まる対決シーン、まさに名場面です。 |
No.599 | 7点 | 凶手 アンドリュー・ヴァクス |
(2013/02/24 17:08登録) バーク・シリーズでアンダーグラウンドなハードボイルド世界を描き出してくれたヴァクスですが、シリーズ外本作の主役=語り手は殺し屋です。それも道具を使うのではなく、素手での殺し専門ということで、人間性はバーク的な感じですが能力としてはバークの仲間音無しマックスをも連想してしまいます。邦題はもちろんその主役の殺し方を指しているのでしょうが、原題は初期バークものと同じく登場する女性の名前で"Shella"。 話は大きく2つの事件(仕事)に完全に分かれていて、それに20ページほどのエピローグとも言える第3部が付いた構成です。暗いアウトローな世界であることはバーク以上に当然で、文体も特に簡潔なハードボイルドです。ハッピー・エンドになるはずがない書き方で、実際第3部は乾いた叙情性の感じられる哀しみの結末になりますが、それまでの内容はノワールよりも冒険スリラーに近いように思いました。 |
No.598 | 5点 | 白の恐怖 鮎川哲也 |
(2013/02/20 23:21登録) 江守さんが書かれている通り、改稿予定のため再版されないままで入手困難な作品として知られていますが、確かにこれは改稿されていれば、傑作になり得ていたかもしれないと惜しまれます。全体的なストーリー構成と結末の意外性には、雪の山荘テーマにあまり興味のない自分でも、感心しました。しかしこれも江守さんご指摘の通り、なんと言っても伏線が弱いのです。最終章で星影竜三と田所警部は、ほとんど事件の経緯を説明しているに過ぎず、「推理」とまで呼べそうにありません。また小説としてのふくらみに欠けるのも、プロローグで言い訳はしているのですが、だからと言って物足らなさが解消されるわけではありません。 作者が作者だけに、そのプロローグを付けたこと自体に何か意味があるのではないかと疑念を持ったのでしたが、事件が解決されてみると、なるほど、この1文を書きたかったためだったのかと納得できました。 |
No.597 | 5点 | メグレと録音マニア ジョルジュ・シムノン |
(2013/02/16 09:16登録) 訳者あとがきにも書かれていますが、携帯テープレコーダーといった当時の最新機器が出てくる作品です。それだけでなく、メグレが新聞社編集長と話し合うところがあるのも、シムノンにしては新しい感覚ではないかと思えます。 邦題の「録音マニア」は被害者を指していますが、原題を直訳すれば「メグレと殺人者」となります。この点については、メグレが「犯人だよ…殺人犯というと、計画的でなくては…」と言うところがあります。たぶん「殺人犯」はassassin、「犯人」が原題で使われているtueur(英語ならkiller)ではないでしょうか。本作は内容的には被害者よりもむしろ犯人の方に力点が置かれているのですが、河出書房はすでに邦題を『メグレと殺人者たち』とした作品も出版してましたから、まあしかたがないでしょうね。殺人者が最後にとる行動は、この犯人だからよかったようなものの、という気にもさせられました。 |
No.596 | 7点 | 勝手に来やがれ ジャネット・イヴァノヴィッチ |
(2013/02/12 20:40登録) 内容を知らずに図書館から借りてきたのですが、なんと季節にぴったり、バレンタイン・デーにちなんだ話でした。嘘っぽい偶然はバカミスだけでなく、現実にもあるものなんです。アメリカのバレンタイン・デーですから、もちろん日本みたいなチョコレート会社主催日ではなく、愛の告白の日。 本作は、保釈逃亡者を捕まえるバウンティハンター、ステファニー・プラム・シリーズ中でも番外編で、ほとんどミステリという感じはしません。捕まえるべき行方不明保釈人は恋愛相談アドバイザーで、その保釈人の仕事を引き受けなければならなくなったステファニーと、話を持ち込んだ超能力者(なんでしょうね)ディーゼルのコンビの奮闘ぶりが、ユーモラスに描かれて、楽しく仕上がっています。恋愛悩み相談というと、クリスティーのパーカー・パインもの短編にも通じるところがあります。まあ途中で殺し屋が出てきたりもするんですがね。 |
No.595 | 5点 | 鳥獣の寺 山村美紗 |
(2013/02/08 22:05登録) 山村美紗の代表作の1つともされている本作は、作者自身が終戦後韓国から引き上げてきた体験を生かした設定になっています。ヒロインの湯川彩子はその時代の体験を基にした小説がベストセラーになった作家ということで、ソウルで起こった事件が、現在の連続殺人の根底にあります。 『エジプト女王の棺』ほどではありませんが、てんこ盛り印象の強い作品で、第2の殺人までは、ダイジェスト版を読んでいるような気になるくらい、さっさと話が進められます。そしてヒロインの兄を名乗る2人の登場が事件を複雑化して、次から次へと死体は増えていきます。 最終的な決着を見ると、確かに伏線は張っているのですが、あまりに露骨なものもある一方、偶然頼みが過ぎるミスディレクションもありますし、説明不足というか破綻している部分もいくつか(特に2人の「兄」について)見受けられます。 |
No.594 | 6点 | 死者たちの礼拝 コリン・デクスター |
(2013/02/04 20:40登録) 前半はモース主任警部休暇中の事件です。次作にも登場するベル主任警部が担当して一応決着していた教会での殺人事件に、モースが暇にまかせて首を突っ込んでかぎまわってみると、新たな死体を発見して、という展開です。 結末部分の構成の妙とか意外性演出など、見るべきところは多いのですが、全体的にはガーネットさんと同じく、論理が今ひとつ物足らないかなという印象を持ちました。本作でも、教会の塔から墜落死した「牧師」は本当に牧師自身だったのかとか、モースとルイスが発見した死後数か月の死体は服装どおりの人間なのかといった議論はあるのですが、その論理がどうもあいまいなままで話が進んでいくように思われるのです。 事件関係者のひとりルースの視点がところどころに挿入され、彼女が事件の秘密をかなり知っていることは読者に知らされるのですが、この手法も本当に効果的だったかどうか疑問です。 |
No.593 | 6点 | 女体愛好クラブ ミッキー・スピレイン |
(2013/01/31 21:16登録) 手を出すのがためらわれるほど何ともいかがわしい邦題ですが、内容との関連からもこれはよくないのではないでしょうか。原題は”The Body Lovers”で多少はましか。 さて、その内容は冒頭1ページ目からして、いかにもハードボイルドらしい香りがします。『裁くのは俺だ』の頃から見ると文章も達者になってきていて、地の文にも気の利いた視点の表現がかなり見受けられます。とは言っても、マイク・ハマーの思想はやはり単純なアメリカ中心の倫理観で、反共産主義。『ガールハンター』で10年ぶりにカムバックした時には酒に溺れて、ネオ・ハードボイルド探偵の先取りみたいだったそうですが、その3作あとの今回は、愛しのヴェルダと共に最初からタフガイぶりを発揮してくれます。 プロットはベタな設定ながら、おもしろくできています。最後はあまりにご都合主義だなと思えますが、派手に決めてくれました。 |
No.592 | 6点 | 七週間の闇 愛川晶 |
(2013/01/27 17:29登録) 本作については、ミステリとホラーの融合ということが言われているそうです。しかし臨死体験や胎児の記憶、チベット仏教等が取り入れられていても「ホラー」とは限らないでしょう。本作ではそれらの扱いがかなりまじめ(学術的)で、カーなどのような得体のしれない不気味さは感じられません。実際のところ本作の怖さはむしろ、一人称形式で語られる章の「私」こと亜矢子の心理的サスペンスです。 しかし、その超自然・宗教的要素とミステリ的要素とは確かにうまく絡み合っていると思います。ただ、作中で言い訳をしてはいるものの、やはり考え方自体に身勝手な矛盾があります。 文庫化された時、エピローグを付けるなど改訂されているそうですが、読んだのはその前のオリジナル版です。ラストはプロローグとの結びつきがあいまいで気になることは確かですが、読者の想像にゆだねるこのままの形でもいいと思いました。 |
No.591 | 5点 | ブラックウォーター湾の殺人 ポーラ・ゴズリング |
(2013/01/24 21:00登録) ゴズリングはこれが2作目ですが、前に読んだアクション・スリラー『逃げるアヒル』とは全く違うタイプの作品でした。いかにも映画向きな場面作りだけは共通していると思いますが。 全体の9割近くまでは、休暇中のストライカー警部補が地元の若い保安官に頼まれて殺人事件の捜査を手伝うという、オーソドックスな謎解きユーモアミステリっぽい展開で、楽しく読んでいけました。それが最後になって、突然はらはらサスペンス調になるのですが、これでは木に竹を接いだようにしか思えません。まあ、冒頭部分に呼応してはいるのですが。しかもこのサスペンス部分、どうも安易で中途半端になってしまっているのです。また全体構成の面からも、この部分の犯罪はむしろない方がよかったのではないでしょうか。エンターテイナー、ゴズリングのサービス精神が裏目に出たという印象です。 |
No.590 | 5点 | メグレの幼な友達 ジョルジュ・シムノン |
(2013/01/20 18:24登録) タイトルの幼な友達については、作中でメグレ自身が友達ではなくて同級生だと言っています。高校のころはむしろそのひょうきんぶりで人気者とも言えた嘘つきのフロランタンが、殺人事件に巻き込まれて、警視庁にメグレを訪ねてきます。話を聞いてみると、どうも怪しい。彼の話をそのまま信じることもできないけれど、だからといって愛人を殺すような男でないことも間違いないというわけで、仕事の話を家庭に持ち込まないメグレにしては珍しく、夫人にやっかいな事件だとぼやいています。 さらにフロランタンが墓石と呼ぶ無表情な女管理人がまた、なかなかインパクトのある人物なのですが、彼女の証言も怪しい。 その二人の他に容疑者が三人いて、さて真犯人は誰かという点については、完全にフェアプレイが守られているとは言えないものの、意外に論理的にフーダニットしている作品でした。 |
No.589 | 6点 | 太陽の坐る場所 辻村深月 |
(2013/01/16 21:12登録) 高校3年生時代の同級生5人のそれぞれの視点から描かれた5つの章に、プロローグとエピローグを付け加えた構成の作品です。 だましのテクニックは取り入れられていて、それが重要な要素になっているのですが、全体としてはあまりミステリという感じはしませんでした。むしろそれぞれの登場人物たちを描いていく心理小説というべきでしょう。前半は、まあよくもこんなに屈折した(特に由希の祖母に対する感情)者ばかり集めたもんだ、と思えるような展開です。 だましの方は、最初から明らかな違和感がありますし、不自然な書き方になって意味が取りにくいところもあって、その点が明かされるところでは、ああそういうこと、という程度でした。ただ、そこからラストに向かっての収束はなかなかのものです。小説が完結してみると、最初の2人の話が、全体の中で坐り場所を見失っているように思えるのは不満でしたが。 |
No.588 | 8点 | ダウンタウン・シスター サラ・パレツキー |
(2013/01/13 12:21登録) 本作は、英国推理作家協会シルヴァー・ダガー賞を受賞したということで、読んでみました。確かにこれはおもしろくできています。邦題のシスターとは、ヴィクに父親探しを依頼してくるキャロラインのことでしょう。ヴィクが子供のころに面倒を見ていたというこの妹分の強烈なキャラがなかなかの見ものです。なお原題は”Blood Shot”で、内容に則したハードな感じ。 ハードさということでは、今回ヴィクは本当に殺されそうに(殴られたり銃を突きつけられたりなんてお馴染みのものではなく)なります。謎解き的には二つの無関係に見える事件がどうつながっているのかというところが中心。 グラフトンのキンジーを自分と対比する場面もありますが、その他に作中で挙げられている名探偵はホームズを始めむしろパズラー系の人たちばかりです。なおジェームズ・レヴィン(40章)という名前も出てきますが、これは実在の指揮者レヴァインのことですね。 |
No.587 | 8点 | 九マイルは遠すぎる ハリイ・ケメルマン |
(2013/01/09 22:32登録) 序文によると、表題作は作者が学生に推論の課題として出した文が基になっているそうですが、今回再読して意外だったのは、その短さでした。まあ、1文から思いがけない推論を引き出すことも可能だと主張するニッキイ・ウェルト教授の推理のみでほとんど構成されてしまっているのですから、そんなに長くできないことは確かですが。 2作目からはもっとオーソドックスな、まず犯罪が起こってというミステリが続きますが、『おしゃべり湯沸かし』は、湯沸かしの音が隣室から聞こえてきたことから推理をふくらませていく、表題作に近いタイプです。いずれにせよ、発表誌EQMMの編集長クイーンを思わせる論理中心スタイルは守られています。 論理だけでなく、犯人による不可能犯罪トリックも仕込まれているものは2編。超自然的な『時計を二つ持つ男』と、最後の一番長い『梯子の上の男』です。 |
No.586 | 7点 | 密航定期便 中薗英助 |
(2013/01/06 12:17登録) 1963年に発表された本作は中薗英助の代表作と言われています。アンブラーの系列に属するスパイ小説ではありますが、アンブラーよりも冒険スリラー的な要素の強いシリアス・エンタテインメントになっています。 同時期の結城昌治の『ゴメスの名はゴメス』等と違い、日本を舞台にした国際謀略が描かれていて、労働心理相談所の調査員西条が大金を持って失踪した女の行方を捜査していくうちに、当時の韓国政情をめぐる事件に巻き込まれていく話です。朴正熙が大統領になって第三共和国体制が始まる直前の不安定な状況が裏にあることは、読後にWikipediaで見て知ったのですが、韓国の現代史を知らなくても充分楽しめる、政治に対する普遍的テーマを持った作品だと思いました。 ただ、西条が事件に関わりあうことになった事情は、最後に一応説明されてはいるものの、やはり弱いのではないでしょうか。 |
No.585 | 6点 | 大穴 ディック・フランシス |
(2013/01/04 13:20登録) 今まで読んだディック・フランシスの中で、原題の意味が最もとりにくいのがこの作品です。against all odds だったら大きな困難にもかかわらずという意味になりますし、odds にはハンディキャップの意味もあるので、シッドの片手が使えないのを表しているようにも思えます。大穴(一般的にはもちろんdark horse)的な意味も含めて、様々なニュアンスを込めているのでしょうか。 フーダニット的な要素というと、クライマックスでちょっと意外な共犯者が現れるぐらいのことですが、トラック事故の起こし方や最後に悪役たちがどんな「事故」を画策しているのかといったあたり、ミステリ的な要素も冒険スリラー系としてはかなりあると思います。ただ、シッドを過少評価させる策略が活かされていないという点はminiさんに全く同感です。正体がばれそうになるはらはら感をもっと味わせてくれるのかと期待していたのですが。 |
No.584 | 6点 | メグレと殺人予告状 ジョルジュ・シムノン |
(2012/12/26 22:27登録) 原題直訳は「メグレためらう」で、殺人予告状と言っても、その文面には『ABC殺人事件』等のような警察や名探偵に対する挑戦めいたところはありません。むしろ、運命の修繕人と呼ばれることもあるメグレに対して訴えかけるような手紙です。 殺人を行おうとしているのはその予告状を書いた人物自身なのか、誰が誰を殺そうとしているのか、というのが本作の中心的な謎だと言えます。便箋から簡単に、ある弁護士一家の誰かが書いたことは突き止められるのですが、問題をはらんだその家庭の状況を、事件は起こらないままにメグレは調べていきます。 ついに殺人事件が起こるのは、全体の2/3ぐらいになってからですが、被害者が決定されてみると犯人が誰であるかは容易に想像がつきますし、犯行の証拠も死体発見から数時間後には発見されるというわけで、殺人以降は長いエピローグとさえ思えるような構成です。 |
No.583 | 5点 | 烙印 天野節子 |
(2012/12/23 19:47登録) 1609年にスペイン船サン・フランシスコ号がフィリピンからメキシコへ向かう途中難破して、現在の千葉県御宿町に漂着したという実際に起こった事件を取り入れた作品です。その過去の出来事はところどころに少しずつ分けて挿入されているのですが、これは最初にまとめてしまってもよかったのではないかと思えました。現在の殺人事件との結びつきは、早い段階で見当がついてしまうのです。作中の刑事たちはもちろん400年も前に起こった難破事件のことなど知らずに捜査を進めていくわけですが。 容疑者もごく早い段階で浮かんできて、そのアリバイが問題になります。と言っても、意外なアリバイ・トリックというほどのものはありません。動機も、またその動機があることの証拠も、簡単にわかってしまいます。小説としてつまらないというわけではないのですが、これほどの長さが必要だったかなと思えました。 |
No.582 | 6点 | 技師は数字を愛しすぎた ボアロー&ナルスジャック |
(2012/12/19 22:28登録) 登場人物の不安な心理を執拗に描いて強烈なサスペンスを生み出すフランスのコンビ作家による異色作です。300ページ足らずの文庫本で不可能犯罪がなんと4回、それもすべて30秒以内という短時間に犯人が密室から消え失せるというよく似た現象が起こります。真相は最初の殺人を除くとがっかりだという人もいるでしょうが、偶然もうまくからめていて、個人的には好みにはまっています。 メインになるその最初の殺人については、カーの某作品との類似も指摘できますが、そういうことだったのかと納得させられました。まあその前段階の原理だけだったら、誰でもすぐ思いつくパターンですが。 ただ、今回は事件を担当したマルイユ警部の心理が描かれているのですが、不可能犯罪と核物質盗難に頭を悩ましているだけなので、他作品のような得体の知れぬ怖さが全くないところ、平板との批判ももっともだと思えます。 |