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ミステリの祭典

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凶手

作家 アンドリュー・ヴァクス
出版日1994年05月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 tider-tiger
(2024/03/18 23:06登録)
『シェラが生理になったとき、ひどい腹痛を起こしたことがあった。こらえきれずに泣き叫ぶほどだった。おれはどうしたらいいかわからなかった。冷たいタオルを持ってきて、額にのせようとした。シェラはそのタオルをおれに投げつけた』本文より

~俺はゴーストと呼ばれていた。得物は持たず素手で仕事をする殺し屋。踊り子のシェラと出会い、俺たちは美人局をはじめた。だが、殺人事件に巻き込まれてしまい、俺は服役することになった。その間にシェラはどこかへ消え失せていた。~

1993年アメリカ。ノンシリーズ作品。原題は『Shella』
タイトルに女性の名を冠する点ではバークシリーズと同じで、その世界もまた然り。ただ、そこに拠り所も人生観も正義もない男、ゴーストが放り込まれている。簡潔な文章で綴られた清澄な作品。

非常によい作品だと思うが、第一部の『ゴースト』と第二部の『ジョン』があまりにも肌合いが異なり、少し気持ちが悪い。前者はハードボイルドの文体、筋立てだが、後者の筋立てにはバークシリーズ的なものも感じる。
ゴーストのキャラはしっかりと確立されている。ゴーストのシェラへの執着はいったいなんなのか。感情や知性にいまひとつ欠け、ただただ漂うようにシェラを求めていく姿には「なぜ?」という疑問も浮かぶのだが、一人称で語られるその筆致は純粋で美しい。ある意味では正義感の欠如がそう感じさせているのかもしれない。
ゴーストのキャラに呼応させるかのように簡潔に描かれていることでヴァクスの別のセンスを知ることができる作品だが、バークシリーズと表裏一体となっている作品でもあると思う。

邦題の『凶手』はゴーストが素手による殺しを生業としているところに由来するのだろうが、自分は先に好手、悪手、巧手といった言葉の類語のように感じてしまった。すなわち災いを招く一手。

No.1 7点
(2013/02/24 17:08登録)
バーク・シリーズでアンダーグラウンドなハードボイルド世界を描き出してくれたヴァクスですが、シリーズ外本作の主役=語り手は殺し屋です。それも道具を使うのではなく、素手での殺し専門ということで、人間性はバーク的な感じですが能力としてはバークの仲間音無しマックスをも連想してしまいます。邦題はもちろんその主役の殺し方を指しているのでしょうが、原題は初期バークものと同じく登場する女性の名前で"Shella"。
話は大きく2つの事件(仕事)に完全に分かれていて、それに20ページほどのエピローグとも言える第3部が付いた構成です。暗いアウトローな世界であることはバーク以上に当然で、文体も特に簡潔なハードボイルドです。ハッピー・エンドになるはずがない書き方で、実際第3部は乾いた叙情性の感じられる哀しみの結末になりますが、それまでの内容はノワールよりも冒険スリラーに近いように思いました。

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