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ミステリの祭典

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メグレと録音マニア
メグレ警視

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1978年06月
平均点5.00点
書評数4人

No.4 5点 クリスティ再読
(2022/05/18 08:33登録)
読む前には「1969年に録音マニアというと...」でオープンリールのデンスケなんだろうか?なんて憶測していたんだけど、商品化も間もないカセットテープレコーダーで正しいようだ。持ち主というか被害者はブルジョア家庭の育ちのソルボンヌの学生。まさに時代の最先端行ってたわけだ。このお坊ちゃん、怪しげなカフェに出入りして「音による社会のドキュメント」というテーマで、会話を録音する趣味があった...この録音に殺害の動機があるのでは?

うん、こんな話。確かに謀議を録音された美術品窃盗グループも絡むんだけどもね。被害者の学生はブルジョア家庭に育ったのが負い目になっていて、こんな趣味を通じてコンプレックスを晴らそうとするわけだ。
実は殺害の犯人にも別なコンプレックスというか衝動もあって微妙に重なる、といえばそうかもしれないのだけども、ちょっとまあ、そんな読みは無理筋か。シムノンの興味と狙いが途中で変わっちゃったような印象の方が強くて、話がバラバラ、と批判すればまあその通り。言い訳しようがない。
それでも真犯人を「あやす」ようなメグレの対応がそれなりに面白い。

どうやら自作の「メグレとワイン商」が同じような話だそうだ。連続して読もうとしっかり準備してある。としてみると、本作で当初の予定から脱線してしまったのを、もう一度本来のプランでやり直そう、という狙いなのかなあ。
実際「メグレたてつく」と「メグレと宝石泥棒」の関係もそんなニュアンスを感じるからね。確認してみよう。

(ごめん上記予想は外れ。どうでもいい話。学生の頃の親友の趣味がこれ。オープンリールのデッキを担いで生録。サンパチツートラなんて呪文を憶えたよ)

No.3 5点 tider-tiger
(2019/10/22 00:14登録)
~パルドン医師の家で恒例の食事会が行われていた。ところが近所の住人が医師宅のドアを叩いた。通りで怪我人が出たという。雨の中、現場に駆けつけるメグレとパルドン医師。二十歳そこそこの青年が刃物で刺されて意識を失っていた。病院に到着してすぐ彼は死んだ。彼の持ち物の中には黒いテープレコーダーがあった。~

1969年フランス。読みはじめてすぐに、これは今でいうオタクについて書かれた先駆的な作品ではないかと予感した。ところが、そんな話ではぜんぜんなかった。
そもそもフランス語の原題には『録音マニア』という言葉は含まれてはいないらしい。やむを得ない事情があってこの邦題となったそうだが(詳細は空さんの御書評を参照)、録音マニアなる言葉は使用すべきではなかったと思う。
本作は前半と後半が分断されて別の話のようになってしまうので、前半は結局なんだったんだろうとキツネにつままれる読者もいるかもしれない。タイトルに録音マニアとあるのにいつのまにか録音はどうでもよくなってしまい、疲労感は増大する。
結局シムノンが何度か扱ったあの手の話になってしまうのだ。それだったらテープレコーダーを活かして新機軸の話にすればよかったのにと思ってしまう。当時はテープレコーダーなんてものは珍しく、それを登場させるだけでも意義はあった?のかもしれないが。
さらにこの作品は過去の作品のさまざまな要素(エピソードやキャラ、構造など)が見え隠れしている。細かいこと言わせてもらうと、メグレ夫人が外出するのに花柄のワンピースじゃ寒いかしらみたいなことを言って、メグレが大丈夫だよと返事する作品が他にもあった気がするし、ラストシーンまであの名作とかぶる。
ただ、ラストの印象はガラリと変わっている。メグレが優しすぎる。シムノンも年を取ったのかなと思わせる。これはこれでなかなか味わいがあって嫌いじゃないです。
※空さんと雪さんが『メグレとワイン商』は本作のリメイクと指摘されていますが、自分は未読です。
多作だし似たようなことを書いてしまうのは致し方ないとは思うものの、どうも悪い意味での継ぎ接ぎ感がある。きちんと先を見通して書いたのではなく(いつもそんな感じらしいのだが)、いわゆる手癖で書いているように思えた。これは失敗作だと思う。
ただ、メグレシリーズのいいところ?は完成度が高かろうが低かろうが、あまり関係なく、面白く読めてしまうことである。だから最低でも5点はつけたくなってしまう。
本作も4~5回は読んでいるが、やはり面白い。メグレ夫人もいい感じだし。
シムノンで4点以下をつける作品……空さんが低評価、雪さんもダメな作品の例としてあげていたのがあるけど、候補はあれくらいかな。

No.2 5点
(2018/10/22 06:41登録)
 ヴォルテール大通りのパルドン医師宅の夕食会に招かれたメグレ警視。だがそのひと時は突然の闖入者によって破られた。ポパンクール大通りで若い男が襲われたというのだ。突風をともなった氷雨の中、現場に向かうパルドンとメグレだったが、被害者は既に手の施しようのない状態だった。
 搬送先の病院で事切れた青年の名はアントワーヌ・バティーユ。ミレーヌ化粧品社主の息子で、背後からナイフで数回刺されていた。犯人は、被害者が倒れてからも後もどりしてさらに刺し続けたというのだ。それも目撃者の眼前で。
 メグレは彼の父親に会い、アントワーヌがテープレコーダーと集音マイクを用いて街の人々の生活を録音していたことを知る。犯行直前に酒場で録られたテープには、押し込み強盗の打ち合わせと思われる会話が残されていた。
 アントワーヌは犯罪に巻き込まれて殺されたのだろうか・・・。
 メグレシリーズ第98作。シリーズ末期に近い頃の作品で、次作「メグレとワイン商」は本作のリメイク版です。「ワイン商」はテーマをより強調するために贅肉を削った感がありますが、本書は本書でなかなか。メグレがムン=シュル=ロアールでカード遊びをするシーンなど、ゆったりとした趣があります。個人的にはこっちの方が好み。
 前々回は「メグレの拳銃」を取り上げましたが、あちらがパルドン初登場なのに対し、こちらは彼の最後の登場作品。冒頭部の夕食シーンでは、メグレにかなり深刻な告白をしています。
 シリーズはこの後5作ほど書かれますが、後半部の準レギュラーとなったパルドンは「もう一人のメグレ」と呼ぶべき存在。一時は医師の仕事に疑念を呈しても、メグレが現場に執着し続けるように、やはり貧民街の患者たちに接し続けるのでしょう。

No.1 5点
(2013/02/16 09:16登録)
訳者あとがきにも書かれていますが、携帯テープレコーダーといった当時の最新機器が出てくる作品です。それだけでなく、メグレが新聞社編集長と話し合うところがあるのも、シムノンにしては新しい感覚ではないかと思えます。
邦題の「録音マニア」は被害者を指していますが、原題を直訳すれば「メグレと殺人者」となります。この点については、メグレが「犯人だよ…殺人犯というと、計画的でなくては…」と言うところがあります。たぶん「殺人犯」はassassin、「犯人」が原題で使われているtueur(英語ならkiller)ではないでしょうか。本作は内容的には被害者よりもむしろ犯人の方に力点が置かれているのですが、河出書房はすでに邦題を『メグレと殺人者たち』とした作品も出版してましたから、まあしかたがないでしょうね。殺人者が最後にとる行動は、この犯人だからよかったようなものの、という気にもさせられました。

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