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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1445 7点 ふくろうの叫び
パトリシア・ハイスミス
(2023/06/12 21:17登録)
クロード・シャブロル監督によって映画化されたこともある作品で、粗筋を読む限り原作に忠実な映画も、評価が高かったようです。
この事件は普通だとロバート、ジェニファー、グレッグの要するに三角関係だけで話が進んでいくものでしょうが、そこにロバートの前妻ニッキーが加わることによって、事態は異常さを増していくことになります。なにしろニッキーは他の3人をあわせたよりもまともじゃないのです。なお、否応なく事件に巻き込まれ迷惑顔のニッキーの現夫はごく常識的な人間として描かれています。衝撃のラスト・シーンもニッキーがいるからこそで、彼女抜きでは、いくらグレッグの気持ちがおさまらなくても、穏やかな結末にならざるを得なかったでしょう。
ただロバートを窮地に追い込むある出来事は、偶然が過ぎます。ルパンが有名短編で使った手は無理ですしね。この出来事はなくてもよかったのではないでしょうか。


No.1444 7点 枯れ蔵
永井するみ
(2023/06/08 21:37登録)
1996年の第1回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した作品で、巻末の選評を見ると、審査員全員一致で推されたようです。確かに小説としてのきめ細かさは相当なものです。審査員たちが不満をもらしていた自殺理由については、投稿後に改訂されたのではないでしょうか、なるほどと納得させられました。
不可能犯罪や、派手なアクションがあるわけではありません。過去の自殺事件(実は殺人だったなどというひねりはありません)と、現在の富山県での稲作に対する害虫であるウンカの異常発生とを組み合わせた、地味な事件です。また真相に奇抜なアイディアがあるわけでもありません。しかしストーリー展開には説得力があり、文章も新人作家とは思えない巧みさです。ただ犯行については、たぶんこの罪状になるんだろうなとは思えますが、むしろ民事的な問題の方が重大で、ここまでやるかという気はしました。


No.1443 7点 鮮血色の夢
マイクル・コリンズ
(2023/06/02 20:50登録)
ダン・フォーチューン・シリーズの長編は、本作まではすべて翻訳されています。その後は2作とばして評判が良かったのであろう『フリークス』がやはり創元推理文庫から出ているだけ。
本作は、2/3を過ぎるあたりまでは凡作ではないかと思っていました。フォーチューンが依頼されるのは祖父を探してもらいたいということなのですが、冒頭に教会でその祖父を簡単に見つけたにもかかわらず、すぐ見失ってしまうシーンを持ってきています。で、その後はなんだかねえという展開で、移民とその子孫たちの祖国に対する思いも、わからなくはありませんが、それほど響いてこなかったのです。フォーチューンが不意を突かれてやたらノックアウトされるのも、ハードボイルドとしてはどうなの、という感じです。
しかし最後に至って説得力のある意外性をたたみかけられ、うならされたので、この点数になりました。


No.1442 6点 修道士の頭巾
エリス・ピーターズ
(2023/05/30 22:42登録)
原題 "Monk's-Hood"、直訳すれば確かに修道士の頭巾なのですが、トリカブト(鳥兜)のこと。英語でも日本語でも、似たような発想の名前のついた植物なんですね。もちろん猛毒として知られていますが、塗り薬としては効果的なのだとカドフェル修道士は説明して治療に使っています。取り扱いには気をつけろと注意されてはいても、西暦1138年のことですから、現代のような厳重管理というわけにはいきません。
この作者を読むのは初めてなので、他作品と比べてどうなのかはわかりませんが、謎解き的興味はそれほど高くありません。文学的な味わい以外では、むしろカドフェルが容疑者にされた少年をかくまった後、少年が見つかり、馬に乗って逃げ出して、というサスペンス系的な顛末が楽しめました。
意外性は、殺人動機に関するものだけと言っていいでしょう。単純ですが、中世の地理的条件を利用していて、なるほどと思わせられました。


No.1441 6点 ひまつぶしの殺人
赤川次郎
(2023/05/27 00:07登録)
1978年、『三毛猫ホームズの推理』と同じ年に発表された、早川家シリーズの第1作です。シリーズと言っても、ホームズみたいにいくらでも書けるような単純な設定ではありませんから、全部で3冊だけですけれど。本作は何と言っても登場人物設定のとんでもなさが売りです。弁護士である早川圭介(一応彼が主役と言っていいのでしょうか)の母が大泥棒、兄が殺し屋、妹が詐欺師(違法かどうか微妙と圭介は思っているようです)、弟が真面目過ぎる警察官、そして家族の犯罪を知っているのは冒頭段階では圭介だけ。
圭介がそれを知ったいきさつから始まり、偶然をこれでもかというぐらい詰め込んで、ダイヤ・コレクションを持つ富豪をめぐり話は展開していきます。この作者だからこそ軽くしみじみさせる最後の意外性は、横溝正史が扱えば(実際正史が好みそう)どろどろの悲劇になりそうな気もしますが。


No.1440 8点 Le pouce crochu
フォルチュネ・デュ・ボアゴベ
(2023/05/22 21:30登録)
原題の意味は「曲った親指」、1885年に発表された作品で、快楽亭ブラックにより『かる業武太郎』(別題『剣の刃渡』)の邦題で1/3以下に短縮翻案されています。翻案には改良になっていないと思われる改変がかなりあり、また原作のトリックや意外性演出を全く無視しています。これは語り聞かせる講談だからでしょう。話を単純化しなければ聴衆は付いて行けません。
タイトルに関するトリックはごく単純ですし、犯人の正体は3/4ぐらいの時点でどんなに鈍い人でも気づくように書かれています。しかし、その直後、読者が気づくからこそのサスペンスを演出し、さらに前に出てきた獰猛な犬を再登場させることでスリリングなシーンを持ってくるなど、たたみかけのうまさには感心させられます。その直前の章の地下蔵爆発シーンも、100年後のハリウッド映画を思わせる危機一髪連続です。書かれた時代を考慮すれば、少しおまけしてこの点数で。


No.1439 6点 被告側の証人
A・E・W・メイスン
(2023/05/17 23:19登録)
『矢の家』が有名なメイスンの作品だからというので(初期)本格派の作品として読むと、1点しかつけられないでしょう。伏線と言えるほどのものはありませんし、殺人事件の真相はあまりにあっけないのです。巻末解説では、ミステリではあっても「探偵小説でもない」とされています。「探偵小説」の定義を、玄人、素人を問わず事件を捜査する探偵役が主人公の話とするなら、確かに探偵小説ではありません。中盤、インドでの裁判が終わった後の展開が意外で、被告人だったステラがどうなるのかのサスペンスはあるので、ジャンルはサスペンスにしたのですが、その他でもよかったかなと思えるほどです。
最後の方「第二十六章 見知らぬ二人」(お互いの気持ちを知らなかったという意味)に、「そのことを知ってさえいれば!」という文が出てきます。つまり、HIBK (Had-I-but- known) 派の作品とも言えると思います。


No.1438 5点 第六の大罪 伊集院大介の飽食
栗本薫
(2023/05/14 15:42登録)
Wikipediaによると「日本のカトリック教会では七つの罪源」と訳されている罪のうち6番目は、現代のカトリックでは、暴食(貪食)だそうで、本書に収められた4編に共通するテーマは一応グルメです。書下ろしなので、最初からそのテーマを様々な角度から捉えようという構想で書かれたのでしょう。
伊集院大介が本当に名探偵として活躍するのは、最後の『地上最凶の御馳走』だけで、100ページぐらいの中編です。最凶なのはワニで、グルメ番組で料理しようとしていたワニが逃げ出したという事件の依頼を、「中華の神様」とされる料理人から伊集院大介が受けるのです。真相は納得できないわけではないのですが、それでも無茶な話。最初の『グルメ恐怖症』で伊集院大介が受ける相談内容も、ばかばかしいような話。『食べたい貴方』は伊集院大介が登場する必要はありません。『芥子沢平吉の情熱』は彼の学生時代のラーメン屋台おやじの思い出話です。


No.1437 6点 のぞき屋のトマス
ロバート・リーヴズ
(2023/05/09 20:59登録)
トマス・セロン教授の第1作『疑り屋のトマス』のタイトルは聖書の使徒トマスのことだそうですが、この第2作は普通名詞的に使われる、手元の辞書では「観淫者」と訳されている Peeping Tom を基にした “Peeping Thomas”。なんだか最初から第2作を予定していたみたいにも思えますが、2作の間は5年も空いています。女性学部学部長からの電話で叩き起こされた二日酔いのセロン教授は、ポルノ・ビデオ業界の裏を探っていくことになるという話ですし、彼が書きあげた小説の方にもセックスがからんでくることになり、なるほどと思えるタイトルです。
ジャンルとしては、一応ユーモアに入れました。ポケミスの訳者あとがきでは「ソフトボイルド探偵」なんて書かれていて、確かにユーモラスな文章で綴られてはいますが、テーマ的には実はかなりシビアで苦い後味、クライマックス部分などかなり緊迫感もあります。


No.1436 7点 誰の死体?
ドロシー・L・セイヤーズ
(2023/05/05 23:22登録)
1993年初版の創元推理文庫訳者あとがきは、「ミステリの世界において、名のみ高く、実物にお目にかかれないというのでは、ドロシー・L・セイヤーズ作品に勝るものはないでしょう」という文から始まります。そんな時代だったんですね。その70年前、つまり現在からだと100年前に発表された、ピーター・ウィムジイ卿第一作です。
クリスティーや、特にクイーンなどのような意味での「本格派」ではないと思います。小説構成的に連想したのが、アリンガムの『幽霊の死』で、本作を参考にしたのかもしれません。後100ページ近くも残っている時点で、ピーター卿は真相に気づき、以後作者は犯人の正体も、殺人計画の基本構想も読者に隠していません。ピーター卿と犯人との心理的対決シーンは、緊迫感満点でしたし、その後の犯行裏付け処置もいい雰囲気です。ただ、殺人計画で不要物の後始末が面倒すぎるのは間違いありません。


No.1435 5点 代理処罰
嶋中潤
(2023/05/02 23:44登録)
タイトルは、「国外に逃亡した犯罪容疑者について、捜査資料を提供し母国や逃亡先の国の法律に基づいて裁いてもらう手続き」と作中で説明されています。「ブラジルでは自国民の他国への引き渡しを憲法で禁じている」そうで、本作の中でも、その憲法規定が冒頭で起こる事件のその後の展開の基本要件となっています。ただ代理処罰制度の方は、あまり重要視されておらず、その意味ではタイトルとして適切だとは思えません。
また、プロローグの後、章分けが「0(ゼロ) 手紙」から始まっているのには特別な意味があるのかと身構えてしまったのですが、そんなことはありませんでした。
と、細部にはいくつかケチをつけたいですし、前半主役岡田亨の心理、記憶の描写は少々うるさい感じがしたのですが、彼がブラジルに着いてからのサスペンスはなかなかのもので、真相には多少拍子抜けのところはあるものの、事件構造はきっちりできていました。


No.1434 7点 死を選ぶ権利
ジェレマイア・ヒーリイ
(2023/04/27 00:09登録)
ボストンの私立探偵ジョン・フランシス・カディのシリーズ第6作は、彼がボストン・マラソンに出ようという「いわばひとつの挑戦」を決意するところから始まります。彼の恋人である地方検事補のナンシーから反対されながらも、元ランニングのコーチだった男と偶然知り合い、大会を目指して練習に励んでいくことになります。
…なんて、全然ミステリじゃないじゃないかと文句をつけられそうですが、一方でタイトル(原題 "Right to Die")からも想像できる、安楽死を推進する女性法学教授に対する脅迫状の差出人調査があり、もちろんこれがメインです。可能性のありそうな人物を洗い上げ、一人一人聞き込みを続けていくという調査がほとんどなので、ずいぶん地味な展開です。事件らしい事件が起こるのはほとんど終盤になってから。マラソンの話は事件とは無関係なのですが、うまく調和している感じですし、結末の意外性もあり、楽しめました。


No.1433 7点 呪い
ボアロー&ナルスジャック
(2023/04/22 18:17登録)
大部分がパリの弁護士に当てて書かれた、フランス西部大西洋岸近くの街に住む獣医の手記という体裁をとった作品です。そのことを意識して読むと、後半なるほどと思えます。
この獣医が惹かれる女流画家の住む島と本土とをつなぐ「長さ四キロの、満潮のたびに海水に蔽われる隄道」(Le Gois)(巻頭の地図からはわかりませんが、本土と最も近い部分にあるのではありません)は、皆さんご指摘のとおり全編を通し、さらに特にクライマックスで効果的に使われています。
獣医の「優柔不断さの方が目立ち」(蟷螂の斧さん)というご意見ももっともですが、最後は彼がそのような性格だからこその悪夢的展開です。『悪魔のような女』や『死者の中から』では、そんなに都合よくいくかなと疑問に思うところもあったのですが、本作では最後に明かされる真相は衝撃的(意外性とは違う)であると同時に説得力を持った形にしてありました。


No.1432 5点 死美女の誘惑
丸山天寿
(2023/04/19 23:56登録)
秦の始皇帝時代中国を舞台とした、5話からなる連作短編集です。
巻末の初出情報によると、第2話『夢美女の呼び声』が「メフィスト」に掲載された以外は、書き下ろしだそうです。ということは、第1話の名探偵役の巫医(ふい:医者のこと)佳人の初登場シーンは、後から考えられたのでしょうか。第1話の表題作で琅邪(ろうや)の町にふらりと現れたこの探偵役は、既に死んだ町の医者佳人の幽霊と思われ、町の人を怖がらせます。この探偵役の佳人(自分でそう呼んでくれと言います)の設定は怪しげでなかなか魅力的ですが、最終話『蛇美女の嫁入り』で彼が琅邪の町から消える結末は、そんなものかという感じでした。
第2話は、上記の理由によるのでしょうか、ひとつだけ解決に非現実的な要素を取り込んでいますが、他の4編は、怪異な現象の事件に完全に現実的な説明をつけたものになっています。


No.1431 6点 アンサンブル
サラ・パレツキー
(2023/04/13 23:16登録)
パレツキーのデビュー30周年記念と言うことで、日本で独自に編集された短編集です。最初に「第一部 V・I・ウォーショースキーの事件簿」としてヴィクものが4遍収められています。3編はこの作者らしい硬派な作品ですが、4編目の『V・I・ウォーショースキー最初の事件』は、彼女がまだ幼い頃に巻き込まれた殺人事件のことで、三人称形式で書かれ、ヴィクは従兄からそう呼ばれている「トリ」の名前で表記されています。事件の真相が多少ハードボイルドっぽいと言えるかなというぐらいです。
後の6編はバラエティに富んでいて、『スライドショー』や『偉大なるテツジ』はミステリとは言えません。後者は、『ヴィク・ストーリーズ』の中の『高目定石』と同じく、囲碁をテーマにしています。『分析結果』や、なぜだか「ボーナス・トラック」とされている『ポスター・チャイルド』はヴィクものにも通じる作品でした。


No.1430 6点 骨と翅
サイモン・ベケット
(2023/04/10 23:04登録)
法人類学者デイヴィッド・ハンターの一人称形式で語られる、シリーズ第3作です。この作家の作品を読むのは初めてですが、前作でハンターが腹に傷を受けた顛末が書かれているのは、間違いなく前作のネタばらしになっているでしょう。どうも発表順に読まれることを大前提として書いていく作家のようです。
作者もハンターもイギリス人ですが、今回の舞台はアメリカのテネシーで、以前そこで学んだこともある「死体農場」にやって来ます。死体農場と言うと、コーンウェルの作品タイトルでもありますが、同じ実在の施設を意味しています。その近くで起こるおぞましい殺人事件は、見過ごされていた過去の数多くの殺人につながってきます。
クライマックスに向けてのサスペンスは盛り上がりますし、犯人の異常さが際立つ作品ですが、何となく、その人が犯人でなくてもかまわなかったのではと思えてしまいました。


No.1429 6点 黒の回廊
松本清張
(2023/04/07 23:35登録)
光文社文庫版の巻末解説によると、本作が雑誌に連載されたのは1970年台前半で、単行本として一般に発売されたのは1976年です。清張はこの連載開始少し前にやはりヨーロッパを舞台にした2編のパズラー系中編を書いています。その1編は、スコットランドのゴルフ発祥の地と言われる町が舞台の『セント・アンドリュースの事件』ですが、本作もやはり、セント・アンドリュースから遠くないレブン湖で殺人は起こります、殺人が起こるのは、全体の半分を過ぎるあたりで、その後、ヨーロッパ舞台のもう1編の中編『アムステルダム運河殺人事件』のモデルになったバラバラ殺人への言及もあります。
巻末解説ではビガーズの『チャーリー・チャンの活躍』が作者の脳裏にあったのかもしれないと書かれていますが、全体的な雰囲気や犯人の設定など、むしろ中近東を舞台にしたクリスティーに近いような感じを受けました。


No.1428 5点 A Bad Woman
ジェームス・ケイン
(2023/04/01 20:22登録)
ケインが1938年に書いた戯曲のアイディアを基に、最初1947年に "Sinful Woman" のタイトルで出版された作品で、このKindle版タイトルでは2015年に出ています。当然作者の許諾があったわけでもなく(アメリカではともかく、日本の法律では著作者の相続人でも勝手な題名変更はできないはずです)、しかも原題の方がいいと思われます。最初のページに、"her figure was wholly sinful" という表現が出て来るのです。
その罪深い姿の有名女優シルヴィアを、ルーカス保安官が呼び止めるところから話は始まります。彼女と離婚手続きしていた夫ヴィッキーの死は、他殺、自殺、事故のいずれなのかがミステリ的興味の中心。とりあえずシルヴィアを守ろうとする映画関係者たち、死亡保険を払いたくない保険会社、それに保安官それぞれの思惑が、予期せぬ展開を生み出します。結末は、ある意味では予想外と言えるでしょう。


No.1427 5点 おばちゃまは香港スパイ
ドロシー・ギルマン
(2023/03/28 22:18登録)
既読の『おばちゃまはシルクロード』に続くシリーズ第6作です。その前作や、それより前の作品から引き継いでいる登場人物などの設定がかなりありますが、『~シルクロード』を読んだのも8年近く前で、記憶も既に大部分消えている状態。2作続けて(発表は2年間を置いた1985年ですが)東アジアが舞台ということになります。
1997年の中国への返還について、開幕早々、おばちゃまことミセス・ポリファックスに説明させていて、実際事件そのものも返還を前提としたところがあります。気の早い話で。その香港を舞台にした、インターポールも目をつけているテロリストたちも関係してくる連中の計画は、ずいぶん派手で乱暴なもので、まあおもしろいとは言えるのですが、既読2作ほど感心はしませんでした。おばちゃまに出番が回って来る原因の、香港にいるCIA情報員が連絡を絶った原因が、どうも平凡なのです。


No.1426 4点 天命の扉
遠藤武文
(2023/03/25 09:42登録)
作品紹介には「渾身の社会派密室ミステリ」としてありますが、松本清張以来のリアリズム文学的意味での社会派では全くありませんし、殺人現場である長野県議会議場には議員や報道陣が多数いたわけですから、銃が発見されないという謎はあっても、密室とまでは言えなさそうです。
狭義の「トリック」ということでは、この消えた銃の謎に関するものだけで、これは某米国作家の短篇と同じアイディアです。さらに日本では有名作家にその米国作品以前に別方法を使った似たトリックがあります。そんなわけで、殺人事件直後の調査結果の段階で、このトリックについてはすぐわかってしまいました。
まあ、中心となるのは善光寺の秘仏蘊蓄を絡めた犯人の動機の方でしょうが、相当無茶(異常)な動機設定です。ダミー犯人の思い込みも大げさすぎますし、クライマックスのサスペンスは悪くないのですが…

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