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ミステリの祭典

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ひそむ罠

作家 ボアロー&ナルスジャック
出版日不明
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2024/11/19 10:51登録)
シムノン風味のボア&ナル。
そう思うのは「裏切り」の感情に悩まされ、本人から見ればある意味「不当に」出世したという爆弾にも似た思いを抱えながら、危うい成功生活を送る男が主人公なあたり。いや本作の主人公って実に善人なんだよね。そして腐れ縁の果てに殺されることになる男も、だらしはないが悪人とも言いにくい。そんな悪のない「不運」としか言いようのない世界。
まあ後期ボア&ナルって、冷徹に殺人を企む殺人者の登場率が下がってきて、わけのわからない状況で、嫌々殺人に手を染めるとか、そういうリアルさが主眼になってくる。けど、プロットの仕掛けはしっかりあって、うっちゃりを食らわすのもお約束。評者は後期の方が好感を持てるなあ。今回はリアルなフランス戦後政治が背景にあって、ミステリとしては弱くても、大河ドラマのような読み心地。

ドイツ占領中の暗い夜で、学校教師の主人公プラディエは襲撃を受けた男プレオーを偶然助けた。プレオーは対独協力者と噂され、この襲撃もレジスタンスによるものらしい。危うさを感じながらもプラディエはプレオーに友情めいたものを感じる。プラディエは家庭教師として有力者のマダム・ド・シャルリュスのシャトーに通い養子のクリストフの勉強を見るのだが、このシャトーが実はレジスタンスの隠れ家であることを知る。さらに、プレオーはマダムの前の夫でもあり、マダムに恋するプラディエは、プレオー暗殺の命を受けた....優柔不断なインテリのプラディエには荷の重い仕事でもあり、結局プレオーを殺さずに済むが、運命の悪戯でプラディエは、プレオー暗殺者としてレジスタンスの英雄に祭り上げられた! 戦後には政界の有力者として日々を過ごすプラディエは、クリストフが士官として従軍するアルジェリア戦争と、それに伴う政界の動揺に心も揺れるのだが....

というあたりの設定の話。第二次大戦でドイツに占領されたフランスには、ヴィシー政府などの対独協力者を追求する元レジスタンス、という構図で戦後処理があったわけだ。これ結構フランス人にとってトラウマ的でセンシティヴな出来事でもある。対仏協力をした女性が髪を丸坊主にされてリンチされたとか、そういう話もあるもんなあ。さらにこの小説に背景にはアルジェリア戦争があり、ドゴールの下で戦った元レジスタンスがフランス軍の中枢を占めている事情もあって、政局が不安定になり短命政府が続く政情。その中での左派政治家としてのプラディエの苦闘が描かれている。この状況は結局はドゴールが収集することとなり、アルジェリア独立を受け入れて第五共和政が始まるのだけど、「親分のドゴールに裏切られた!」と恨む軍人たちが暗殺を策謀する(「ジャッカルの日」)といったあたりが頭に入っていると、この話の連続性が理解できてリアルに受け取られるだろう。

No.1 6点
(2023/08/27 09:27登録)
原題 "La lèpre"、癩病のことで、最後近く第11章に「私までらい病患者になってしまった」(比喩的な意味で)という表現が出てきます。邦題の方は、う~ん、罠と言うのでしょうかねえ。
1976年発表作で、前書きで作者は、登場人物は架空だが、「史的なバック・グラウンドは、われわれの記憶の中に刻みこまれたとおりのものである」と宣言しています。1944年から1957年までの政治的情勢を背景にしていて、近過去の社会派時代小説といった趣があります。人を殺さなかったのに、殺したと人々に信じられたため、英雄的な扱いを受け、代議士になった元高校教師の話で、ラスト数ページを除き、彼が軍隊で少尉になっている養子に書き送った手紙の体裁です。小説としては主人公の苦悩がじっくり描かれていて読みごたえがあったのですが、ミステリとしての終わり方はありふれたものでした。

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