空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1530件 |
No.810 | 7点 | ファイル7 ウィリアム・P・マッギヴァーン |
(2015/08/09 18:10登録) マッギヴァーンを読むのはこれが初めてなのですが、初期の有名な『殺人のためのバッジ』が悪徳警官を扱った作品であることを考えると、犯罪者の人物像を描くのが得意な作家ではないかと思えます。ただし本作では悪徳どころかハードボイルド系にしばしば現れる不愉快な警察官も一人も登場しません。ハヤカワ・ミステリ版には「FBI誘拐事件簿」のサブタイトルがついていますが、まさにそのとおりの内容で、有能なFBI捜査官たちが活躍します。全編にわたって、幼児誘拐犯のグループ視点とFBI視点のカットバックによって緊迫感を生み出す手法が採られています。 誘拐犯グループの部分では、デュークとハンク(ハンクは事件に巻き込まれる善玉役)の兄弟、それにエディとその情婦ベルとの関係がかなりじっくり描かれていますし、もう一人別行動の犯人クリーシーのいびつな性格もなかなか印象的です。 |
No.809 | 6点 | トリプルX L・A・モース |
(2015/08/04 23:57登録) デビュー作『オールド・ディック』では過去のハードボイルド作家への目配せがやたらにあったL.A.モースですが、この3作目では完全にスピレイン系の過激なハードボイルドになり、巨匠への言及は消えています。ただしマイク・ハマーが意外にセックスに対しては潔癖なところがあったのに対し、本作のサム・ハンター(いかにもな名前です)は、何人もとやりまくっています。このタフガイ探偵の特徴はもうひとつあって、なかなかの食通なんですね。やたらに食事のシーンが出てきて、料理(とビール)が並べたてられています。 謎解き的要素もかなりあり、事件の全体的な構造はなかなかつかめません。ただ、真相が複雑すぎて、本当に整合性がとれているのかどうか理解できないようなところがあります。複雑と言っても、ロス・マクみたいな整然とした結末ではなく、無理に複雑化している感じがしました。 |
No.808 | 6点 | 犯罪者たちの夜 結城昌治 |
(2015/07/28 23:09登録) 紺野弁護士シリーズ第2作には、1969年から1929年までの間に書かれた9編が収められています。前作『死者たちの夜』は1973年に出版されていますから、前作はそれまで書いたものをすべてまとめたわけではなかったことになりますね。 タイプとしては、弁護士が主人公であっても、雰囲気は私立探偵真木ものの『暗い落日』等と共通していて、つまりはロス・マク風ハードボイルドです。妻の失踪、三角関係の悩み、猫の誘拐(紺野弁護士は法律的には窃盗になると言っています)等から始まって殺人にまで発展するもの、それに最初から殺人罪で逮捕された者の弁護など、様々です。が、読み通してみると短編にはしにくいスタイルなのではないかと思えました。真相はそれなりに意外ですが、解決シーンが唐突であっけない感じのするものが多く、もっと長くしてじっくり読ませてもらいたいという気にさせるのです。 |
No.807 | 4点 | 引き潮の魔女 ジョン・ディクスン・カー |
(2015/07/24 23:53登録) 歴史ミステリと言っても、これくらい新しい時代(1907年)になると、それらしい雰囲気はほとんど感じられません。カー自身が生まれた直後の時代設定ですからね。タイトルからも窺える足跡トリックがメインです。その前に地下室からの人間消失の謎もありますが、こっちはがっかりな真相でした。その地下室の方に対する、不可能に見せかける理由の欠如という問題点は、足跡トリックの方にもある程度当てはまります。 不満点は他にもあります。登場人物たちが好き勝手なことを言い合って話がうまく噛み合わず、それでわけがわからなくなっているようなところがあるのです。3人のうち誰が名探偵役なのかはっきりさせない構成も成功していると思えません。また最後の推理は、その人物に殺人動機があったことの論理的な指摘にとどまっていて、犯人であることを示す明確な手がかりが不足しています。犯人の設定自体はいいと思うのですが。 |
No.806 | 5点 | ガーディアン・エンジェル サラ・パレツキー |
(2015/07/21 21:45登録) ヴィクのシリーズ第7作にして、邦題が初めて原題そのままの作品です。このシリーズ、回を重ねるごとに長くなって、本作は文庫本で580ページの大作です。しかし、それだけの長さを必要とする事件だったかというと、疑問があります。2つの事件、その一方は違法かどうか微妙だという程度のもので、もう一方もある会社が殺人を複数回起こしながらも、動機はそんな重罪を犯す必要があったとはあまり思えません。2つの事件の絡み具合がまた微妙で、意外な結び付きがあったというほどでもありませんし、無関係なものを並行して描いたとも言い切れないのです。ヴィクのアクションはおもしろかったのですが、以上のような不満もあり、この点数。 なお、過去の作品にも登場していた人物たちの中でも、ヴィクと仲の悪い隣人や、元夫の弁護士も、事件に関わりがあるという、その意味では今までの総決算的な作品とも言えそうです。 |
No.805 | 6点 | 山下利三郎探偵小説選Ⅰ 山下利三郎 |
(2015/07/15 22:09登録) 収録22遍のうち『朱色の祭壇』だけは約80ページもある中編です。発表当時(1929年)としては、かなり本格的なフーダニット構成と言えるでしょう。ただし発端部分の意味が説明不足ですし、老若2人の刑事の捜査方法の対比も明確ではありません。もっと書き込んで長くすべきだと思えました。 横溝正史は山下利三郎について、乱歩に「あんな漱石ばりの文章では困る。」と言ったそうです。実際、文章は乱歩などに比べて古めかしいのですが、さすがに格調はあります。漱石との関連では、『君子の眼』は、巻末解題に『吾輩は猫である』を意識したものだろうと書かれていますが、1行目の「住み難いからつて他へ移ればなお住み難くなる。」という文からして『草枕』冒頭部分のパクリでしょう。コメディ、人情話、謎解き要素の強いもの等さまざまなタイプが並んでいますが、さすがにいわゆる通俗的な感じはしません。 |
No.804 | 5点 | 殺人者はへまをする F・W・クロフツ |
(2015/07/12 13:29登録) 「犯罪」と「フレンチの解決」の2つの部分からなる、いわゆる倒叙形式の《二重の物語》12編と、フレンチ警視の一人称のみの《単独の物語》11編が収められています。総体的には倒叙による前半分の方が、殺人の動機や計画などが一応は描かれてそれなりに小説らしくなっているためでしょうか、楽しめました。 ミステリは小説なのですから、そのパズル性は、小説としてのリアリティを踏まえていなければならないでしょう。その意味で、本書の特に《単独の物語》のかなりの作品に不自然さを感じました。犯人の証言の中にそれが嘘であることを証明する言説があることを、フレンチが見破るというパターンが半分以上を占めるのですが、犯人がなぜそんなばれるような嘘をつくのか、釈然としない作品が多いのです。このタイプで意外性と説得力を兼ね備えていたのは、最後の『待っていた自動車』だけと言っていいでしょう。 |
No.803 | 6点 | 笑ってくたばる奴もいる A・A・フェア |
(2015/07/06 22:04登録) シリーズの第17作で、第1作でB・クール探偵事務所に雇われることになったドナルド・ラムもすでに共同経営者になってからずいぶん経っています。最初から、バーサ・クールが自分のことを「タフでハードボイルド」だと言ったり、テキサスから来た依頼人が金持ちのくせにやたらケチだったりと、いかにも軽ハードボイルドなノリです。事件そのものは失踪人捜索というお決まりパターン。 作者がガードナーですから、謎解き要素は十分ありますが、本作は分量も短く、トリックはあっさりしています。過去に似た事件が起こったことが判明したところで、真相には、誰でも気づくでしょう。さらに問題の土地契約のことについての解決も、当然といった感じです。 それでもバーサ・クールが大ムクレになるラストまで、わかりやすい伏線がきれいにまとまっていく、軽快なストーリーは楽しめました。 |
No.802 | 5点 | 横浜・長崎殺人ライン 深谷忠記 |
(2015/07/03 22:32登録) 作者の言葉にもありますが、この壮&美緒シリーズ第8作は、趣向を変えて二人が脇役に回った作品です。主役は神奈川県警の薬師寺警部補。しかしほとんど観光案内的な旅情は相変わらずで、港の見える丘公園はともかく、長崎の町はかなりていねいに描かれています。 真相の大筋は簡単に見当がつくとは言え、論理的整合性に優れていて、好感が持てます。被害者の身元を一時的に隠した理由に説得力がありますし、プロローグの意味も最後の方になってわかります。 しかし、全体の6割過ぎあたりで思い込みを打ち破る発想を壮が示唆するのはいいのですが、その後アリバイ・トリック解明のヒントまで壮にもらうというのでは、薬師寺刑事たち頭が悪すぎだと思えます。また犯人逮捕については、現代日本で(30年近く前の作品ですが、法的原則は現在と同じです)こんなことをしてはダメでしょう。それでマイナス1点。 |
No.801 | 6点 | 夜を深く葬れ ウィリアム・マッキルヴァニー |
(2015/06/30 21:54登録) 1977年度シルバーダガー賞受賞作。凝った文章が特徴で、高尚な比喩が頻出します。原題はシンプルに主役警部の名前である “Laidlaw”。ずいぶん意味ありげな邦題をつけたものです。 レイドロウ警部が主役とは言っても、彼の活躍だけを追っていく通常の警察小説パターンではありません。警察の他に、中心となる殺人事件の犯人を探し出そうとする2つのアウトロー勢力を描いた部分もかなりあり、カットバックがなかなか緊迫感を出しています。 殺人事件担当になると、妻子持ちであるにもかかわらず1人でホテルに泊まり込んで事件捜査にのめりこむというレイドロウ警部の極端なキャラクターは、個人的にはさすがに理解の範囲を少々超えています。訳者あとがきによると、ロスマクはこの警部に魅了されたと言っているそうですが。一方彼とは犬猿の仲のミリガン警部の型にはめ込むプロフェッショナリズムもちょっと誇張が過ぎるかなと思えました。 |
No.800 | 8点 | 八百万の死にざま ローレンス・ブロック |
(2015/06/24 23:20登録) 実はジェフ・ブリッジスが主役を演じた映画版を公開時に見ていたのですが、たいしたことはなかったという印象のみで、話は全く記憶に残っていませんでした。それで今回原作を読んだ後WEBで粗筋チェックしてみたところ、内容はここまで変えるかとあきれるほど違っていました。 最後近くまで読んできて、なんとなく思い浮かべたのが『長いお別れ』。あの名作がマーロウとテリー・レノックスの友情物語でもあったように、本作ではマットとチャンスの友情物語でもあると思ったわけです。この娼婦のヒモの黒人というチャンスが実に魅力的に描かれています。二人の友情は、中心となる事件と直接の関係はありませんが、事件が解決した後の部分が抜群にいいんですね。 タイトルの意味は他の方々が書かれている通りですが、ロスマクの ”The Way Some People Die”(『人の死に行く道』)をも踏まえているのではないでしょうか。 |
No.799 | 4点 | 津和野の殺人者 中町信 |
(2015/06/21 11:54登録) これもプロローグに叙述トリックが仕掛けられているのかと疑惑の目で読んだのですが、それほどのことはありませんでした。それでも、もちろんちょっとしただましの意味はあります。 謎の提出の仕方はさすがで、最初のうち様々な疑問点が山積みになっていくところはおもしろいのですが、その後がどうも冴えません。3番目以降の殺人では、誰もが意味もなくある秘密を隠したままでいて、その秘密保持のために次々に殺されていくという、ご都合主義な展開に馬鹿馬鹿しさを感じたのです。 真相が明らかになってみると、最初の事件ではあまりにも偶然を使いすぎていますし、第2の殺人のダイイング・メッセージも、不自然なものでした。メッセージの数字の意味は推理できるタイプではなく、誰にも理解できないものなのですから。まあ読者にとっては、数字の意味に意外性があるとは言えますけど。 |
No.798 | 6点 | 雨の殺人者 レイモンド・チャンドラー |
(2015/06/16 22:26登録) 最初の『雨の殺人者』の一人称探偵役には、当然ハメットからの影響でしょうが、名前がありません。マーロウでも問題ないと思いますが。いかにもな雰囲気ですが、ちょっとごちゃごちゃした感じがします。 『カーテン』は内容的には『大いなる眠り』を思わせますが、冒頭の1文「はじめて私がラリー・パッツェルを見かけたのは、『サーデイ』の店の前で…」は言わずと知れたあの作品そっくり。 『ヌーン街で拾ったもの』の探偵役は麻薬課の潜行刑事で、これはさすがにそのままマーロウものにするわけにはいきません。本集中でもかなり気に入っている作品です。 『青銅の扉』は異次元への(?)扉を手に入れた男の話で、完全にファンタジー。第3集収録『ビンゴ教授の嗅ぎ薬』以上の異色作です。 そして最後の『女で試せ』ですが、昔の恋人を探す大男という設定は『さらば愛しき女よ』の元ネタながら、結末には大きく異なる点があります。どっちの結末がいいか、うーん… |
No.797 | 6点 | おばちゃまはシルクロード ドロシー・ギルマン |
(2015/06/13 10:14登録) ミセス・ポリファックス・シリーズ第6作の舞台は中国。 今回は誰が相棒なのかという、意外な謎があるのが、前半の見どころです。ミセス・ポリファックスがある任務を果たした後で、その相棒の方から接触してくるのを待つという設定で、わざとらしい感じもしますが、楽しめます。その後は相棒の計画にトラブルが発生し、悪役の登場ということになるのですが、作中で弁解しているとは言え、この悪役の行動はやはり間抜けでした。 ミセス・ポリファックスにこんなことまでさせるのかと違和感も覚える一応のクライマックスの後、登場する中国の警察官が頭脳明晰な人格者です。これは現代中国に対する作者の敬意の表れかかもしれませんが、かえって不自然になっていると思いました。検死で凶器の特定はできないはずですし。 このエピローグ、シリーズはまだまだ続くわけですが、以後の設定はどうなっているのでしょうか。 |
No.796 | 7点 | フリージア 東直己 |
(2015/06/09 23:29登録) 東直己の作品は初めて。本作の主人公である殺し屋の榊原健三が登場する作品は後に2作書かれ、第2作が日本推理作家協会賞を受賞した『残光』ですが、こういう作品はシリーズ化してもらいたくないような気もします。 この作家らしく札幌を舞台にしていますが、暴力団同士の抗争を背景にしたハード・アクション小説で、迫力があります。この主人公、ダーク・スーパー・ヒーローって感じで、次から次へと人を殺していきます。しかし冷酷な悪役ではなく、過去に関係のあった多恵子を守るため。ただし多恵子とどんな関係があって、どんな事件が過去に起こったのかは、ほとんど描かれていません。 ハード・ボイルドなキャラクターということでは、謙三よりも丹沢刑事の方がそれっぽい印象を受けました。何を考えているのかわからないと他の登場人物たちから不思議がられる人物ですが、クライマックス直前、それが明かされてみるとなるほどと納得させられました。 |
No.795 | 6点 | 恋人たちの小道 ナンシー・ピカード |
(2015/06/03 21:35登録) 第1回アンソニー賞(1986)のペーパーバック賞受賞作。 主人公のジェニファー・ケインは市民財団の所長というキャリア・ウーマンで、町の経済復興計画をめぐる事件に直面します。甘ったるい印象の邦題とは全く関係ない内容だなあと思いながら読み進んでいたのですが、最後近くになって、この小道のことはほんの少しだけ言及されていました。しかし特に事件と関係あるわけでもなく、原題の “Say No to Murder”を踏まえた邦題にできなかったものか思います。 諮問委員たちの集まっている桟橋にトラックが突っ込んできた理由には、教会での事件が起こってみると疑問が出てくる(そんな必要がない)ので、そこが事件解決の鍵かと思ったのですが、結局その点に関して説明はありませんでした。 miniさんが『死者は惜しまない』評で書かれているように、コージーとハードボイルドの中間的なスタイルで、ジャンル分けはしにくいのですが。 |
No.794 | 6点 | 探偵を捜せ! パット・マガー |
(2015/05/31 15:33登録) マガー初期4作は、邦題では『七人のおば』以外同一パターンですが、原題には統一性はありません。で、本作の原題は “Catch Me If You Can”。同じタイトルのスピルバーグ映画もありましたが、話はまるっきり別物です。鬼ごっこ等で使われる慣用句ですが、これがなるほどと思わせられます。Me が主役の殺人者とも、探偵とも解釈できるわけで、最後にどっちに転んで一件落着となるかは、読んでのお楽しみ。 犯人がどんなトリックを使うか、またどんな手がかりが残されているかといった興味の「倒叙」ではありませんし、犯罪心理小説系とも言い難い。探偵探しの趣向であれば、当然主人公は犯罪者になるにしても、じっくり謎解きタイプにもできたと思いますが、探偵がいる「雪の山荘(ホテル)」の中でさらなる殺人を犯したりして、なかなかサスペンスがありました。ただし、最後に主人公が手がかりに気づくところは嘘っぽいですね。 |
No.793 | 6点 | 函館水上警察 高城高 |
(2015/05/25 22:18登録) 和製ハードボイルドの草分け的存在だった作者が、久々に筆を執った本作は、明治時代の函館港を舞台にした警察小説でした。一応4作収録の連作短編ですが、話としてそれぞれが独立しているわけではなく、特に第1作『密猟船アークテック号』(密漁ではなく密猟。獲るのはオットセイやラッコ)でのもやもやした結末に第4作『スクーネル船上での決闘』で決着をつけていて、全体としてみればマクベインなど警察小説にありがちなモジュラー型とさえ言えそうです。期間的にも明治24年の夏から秋にかけての事件というわけで、連続性が重視されています。 そのシリーズの他にもう1編収録された『坂の上の対話―又は「後北游日乗」補遺』は森鴎外が21歳の時函館を訪れたことがあるという記録を基にしたフィクションですが、コレラで最初に死亡した2人は何者なのかという謎の設定があって、ミステリ度はこの作品が最も高いとも言えそうです。 |
No.792 | 7点 | エステルハージ博士の事件簿 アヴラム・デイヴィッドスン |
(2015/05/22 22:26登録) 20世紀初頭、バルカン半島にある架空の帝国を舞台とした連作短編集で、1976年度世界幻想文学大賞(アンソロジー短編集部門)を受賞した作品です。 タイトルが「事件簿」となっているからといって、アシモフみたいなSF系の謎解きミステリを期待してはいけません。最初の『眠れる童女、ポリー・チャームズ』では、架空帝国の首都ベラが紹介された後、警視総監がエステルハージ博士を訪ねてくるシーンから始まります。レストレード警部がホームズに難事件について知恵を借りに来たようなものかと思いきや、何のことはない、眠れる童女の見世物見物の誘いに来ただけという、おとぼけぶりです。 結局収録8編のうち、ミステリ(本格派ではない)と断言できるのは、『エルサレムの宝冠 または、告げ口頭』のみ、他に『真珠の擬母』もそう言えるかなあという程度です。エステルハージ博士を案内人とした不思議な架空帝国巡りを楽しむ作品です。 |
No.791 | 6点 | 暴走 ディック・フランシス |
(2015/05/19 23:45登録) 競馬スリラーの中でも、本作は舞台がイギリス国内ではなくノルウェーである点が珍しいと言えるでしょうか。開幕早々、その10月の冷たい海中に、主人公は投げ出されてしまいます。まだどんな事件かほとんど説明されないうちからの危機一髪シーンという構成は、期待を抱かせます。 主人公は英国ジョッキイ・クラブ調査部主任で、冒頭のつかみの後は競馬の売上金盗難事件に関する聞き込み調査になります。で、80ページぐらいで早くも、調査結果から事件のからくりを説明してしまいます。この推理が非常に論理的ですし、以後についても本作はかなり謎解き的要素を重視した作りになっています。一方でさらに主人公が殺し屋に狙われたり、自動車爆発シーンがあったりと、派手な見せ場もあります。 ただ、フランシスとしては緊迫感は並み程度かなというところでした。締めくくり方も悪くはないのですが、鮮やかさには欠けるかなと思いました。 |