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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.785 7点 ブルー・ドレスの女
ウォルター・モズリイ
(2015/04/21 22:33登録)
原作は1990年に出版され、シェイマス賞と英国推理作家協会賞両方の新人賞を受賞したという、評判作です。
時代設定は1948年。一人称の語り口は、通常のハードボイルドがいつそれを書いたのかという疑問を無視しているのに対して、当時は~だったというように、過去を振り返っているところが見受けられます。
黒人とユダヤ人夫婦の間に生まれたモズリイですから、人種差別をテーマに据えるのは当然でしょうし、だからこその時代設定と言えそうです。世評の高さも、そのテーマのとり上げ方によるところが大きいでしょう。プロット自体は特に優れているとは思えませんでした。ただし、原題は “Devil in a Blue Dress” ですから、主人公のイージー(エゼキエル・ローリンズ)が捜す女が怪しげなことは明らかですが、彼女の秘密には驚かされました。なお、イージーは本書ラストで私立探偵になり、シリーズ化されることになります。


No.784 6点 殺人者の空
山野浩一
(2015/04/18 09:22登録)
J・G・バラードのファンとしては、同じニューウェーブSFの作家ということで名前は知っていた山野浩一ですが、実際に読むのは今回、表題作など6編を収めたこの短編集(仮面社版)が初めてです。
このタイプの元祖といえばやはりカフカ。彼の持つ絶望的な重いリアリティに明確な科学的根拠を与えて理知的に(しかも熱狂的に)世界を構築したのがバラードだとすると、山野浩一は科学的な説明を多少入れることはあるにしても、むしろ不条理な世界を奇妙な明るさ、軽さを持ってそのまま描いた、安部公房に近い作風です。果てしなく続き渡ることが不可能なハイウェイ(『メシメリ街道』)、地球上からの加速度的な人間消失(『Tと失踪者たち』)など、理屈が全く通らない世界です。そして主人公の自己喪失感、『首狩り』中の言葉では「どのみち私には敗北しかない」という感覚が、ほぼ全作品に共通しています。全然ミステリではありません。


No.783 6点 死者のノック
ジョン・ディクスン・カー
(2015/04/12 14:14登録)
密室トリックの説明に不備があることがよく話題にされる作品です。翻訳の問題なのか、原文も間違っているのか、議論もあるようです。
しかし個人的には、ずいぶん以前に読んだ時にそのことには全く気づかず、すんなり納得できてしまっていました。原理がシンプルで、実行手順も明確なため、細かい用語の使い方は気にならなかったのでしょう。今回読み返してみると、説明自体には1ヶ所問題点があるのですが、実際の事件の設定ではその見方に対する対処ができています。
そんなわけで密室は覚えやすいトリックなのですが、それ以外は記憶に残っていませんでした。しかし再読で、フーダニットとしては他の方々も書かれているように、かなりのものだと再認識しました。体育館での理由不明な「いたずら」やある人物が何を見たのかの謎にもうまく説明をつけていますし、人物関係的な意味での犯人の設定も意外性を生み出していると思います。


No.782 5点 トフ氏と黒衣の女-トフ氏の事件簿〈1〉
ジョン・クリーシー
(2015/04/09 22:37登録)
500冊以上もの小説を書いたジョン・クリーシーですが、翻訳作品はJ・J・マリック名義のギデオン警視ものを除くと、本作より前にはほとんどありません。
原題は ”Here comes the Toff”。”Toff” とは固有名詞ではなく、上流階級のダンディーな紳士を意味することは、訳者あとがきだけでなく、小説の冒頭部分にも書かれています。そんな言葉を「トフ氏」としたことを訳者は「これで勘弁していただきたい」と断っていますが、個人的には悪くないと思います。
巻頭に置かれた「読書の栞」で、横井司氏は、トフ氏を遠山の金さんにたとえていますが、なるほどと納得のいく内容です。それも主役のキャラクターだけでなく、ストーリーや雰囲気にも共通点があるのです。ジャンルは冒険・スリラー系ですが、ディック・フランシス等のような緊迫感はまるでありません。ゆるい冒険を気楽に楽しむものだとわりきって読めば、それなりにといったところでしょうか。


No.781 4点 白妖鬼
高木彬光
(2015/04/03 23:11登録)
酒場での一幕の後、弁護士が、記憶喪失だと言う女を家に連れて帰ったところ、妙な暗号電報を受け取るところから事件は本格的に始まります。ごく簡単な暗号で、解いてみると「白妖鬼」(当時の電報なのでカタカナですが)なる人物からのものだと判明して、というわけで、なぜ暗号にする必要があったのか、「テヲヒケ」とは何からなのか、といった点に疑問を感じながら、なんだか乱歩の通俗作品っぽいなあとも思っていたのですが。
結局、そのあたりの論理的整合性がとれていない作品でした。最大のポイントは第2の殺人でしょうが、これも基本的な発想はなかなかおもしろいのですが、そうする必然性が弱いと言わざるを得ません。また、犯人のキャラクターがあまり印象に残らないのも、不満なところです。第2の殺人の方法に明確な理由を与えられないのならば、むしろに八方破れな通俗作品にしてしまった方がよかったかもしれません。


No.780 5点 奇妙な花嫁
E・S・ガードナー
(2015/03/31 23:05登録)
訪れてきた依頼人が、自分自身のことを友だちから尋ねられたことだと偽ったことに対して、メイスンがわざと尊大ぶった冷ややかな態度をとったことを反省して、調査に乗り出すというところから事件は始まります。
殺人事件の本筋には、露骨過ぎると言ってもいい伏線が早い段階であり、誰もそれを問題にしないのが不思議なぐらいです。しかし、裁判でも重要視される建物の入り口のベルを鳴らしたのが誰かという点については、2人のうちの1人が結局どうだったのか、あいまいなままに終わってしまっています。また、メイスンがそのベルに関して行うあることに関しては、その音の響きの偶然、検察側の態度の偶然等に頼っていて、鮮やかに法廷戦略をきめることのできる確率は低いと思わざるを得ません。それにその行為が本当に適法範囲内なのか、非常に疑問でもあります。話はおもしろくできてはいるのですが、完成度は今ひとつ。


No.779 6点 その男 凶暴につき
ハドリー・チェイス
(2015/03/28 00:06登録)
邦題については、北野武監督の映画とは、「男」の後に読点がつくかどうかだけの違いですが、内容は全く無関係です。またジャンル的にも、創元推理文庫では拳銃マーク(ハードボイルド/警察小説)であるものの、武映画のような無骨なリアリズムとは無縁です。テレル署長を始めとするパラダイス・シティ警察シリーズの第4作だそうですが、警察小説でもありません。ほとんどSF的とも言える新発明金属を事件の核とした荒唐無稽な冒険/スパイ・スリラー系作品でした。ちなみに邦訳出版は1972年なので、武映画の17年前。
全体的には手慣れた感じで、普通におもしろいという程度だったのですが、最後にはとんでもない結末が用意されていました。いや、結末そのものは、純粋なSFじゃないんだからそうならざるを得ないだろうと予測できるのですが、その結末の原因が、肩すかしというか意表外というか、チェイスらしいのです。


No.778 5点 ハーメルンの笛を聴け
深谷忠記
(2015/03/22 21:57登録)
深谷忠紀はこれまで倉敷や伊豆の情景を丁寧に描いた壮&美緒のトラベル・ミステリ・シリーズしか読んだことがなかったので、本作はストーリーだけでなく架空の町を中心舞台にしたところも意外でした。1982年乱歩賞候補作になった後、1989年に初出版されたものだそうです。その間にどの程度改稿されたのかは不明ですが。
途中まではハーメルンの笛吹き男を名乗る人物からの謎の手紙を中心に置いたミッシングリンク系の本格派という感じで、作者自身がサスペンスと定義している理由がわからなかったのですが、クライマックスに突入してからは、納得できました。ただ、事件が長期に渡っていて、最後近くになるまでむしろじっくり型なのは、この終わり方にはあまり合っていないように感じました。
あと、第4の事件の起こし方については、犯人の意図にはそぐわないはずだという問題は少々気になりました。


No.777 8点 武器の道
エリック・アンブラー
(2015/03/17 23:45登録)
冒頭にウェブスター辞典の “passage” 第9項の意味を並べ立てていることからすると、早川邦題は今ひとつです。miniさん評の「武器が辿る道」とまで言ってしまえばいいのでしょうが、辞典から引用されている取引、誓約の取交し、交戦といった言葉が、作品内容にはあてはまっていると思えるのです。
最初のうちは既読アンブラー作の中でもとりわけゆったりした展開です。武器発見からそれが取引対象になる経緯の後、特にアメリカ人夫婦が船で日本を巡るあたりは全然ミステリでないだけでなく、普通の小説としてもむしろ退屈と言えるほどです。ところが後半になってくると、武器の取引をめぐって、しだいに緊迫感が高まり、ついには派手な戦闘シーンにまで発展していきます。
武器取引の決着がついた後、一人これではちょっとかわいそうかなと思った登場人物もいたのですが、その点もすっきり満足いくラストを用意してくれていました。


No.776 5点 私立探偵
ローレン・D・エスルマン
(2015/03/11 22:29登録)
邦題にもかかわらず、主人公のラルフ・ポティートは厳密には私立探偵ではありません。デトロイトの興信所に勤めているとはいうものの、資料整理係に格下げされているという状況。このラルフが下品で実にいいかげんな小悪党なのです。ばれるに決まっている嘘を平気でつきますし、ネコババなんかは日常茶飯事。しかし悪賢いところはなく、かなり間抜けという設定です。
そんな主役が活躍するというより、いろいろおかしくも悲惨な目に合いながらも、最後には事件がなんとなく解決してしまう小説です。ハードボイルド的なアウトローなところはあるのですが、スラプスティックなギャグが連続するコメディ・ミステリです。
かなり大げさな事件の裏が結局整合性のとれたものだったのかどうかも、読み終えてみてはっきりしないような作品でしたが、こんなとぼけた作風なら、それでいいのではないでしょうか。


No.775 6点 蟻の木の下で
西東登
(2015/03/07 11:20登録)
1964年の乱歩賞受賞作ですが、論理やトリックを期待して読むと、がっかりするでしょう。序章は一応伏線になっていますが、情報不足で読者にはその意味は絶対わかりません。その後第1章から登場する人物は素人探偵役のように見える展開ですが、途中であっけなく覆されます。新興宗教の会員が付けているバッジが手がかりになりそうなのですが、これも事件とは全く無関係で、ただその新興宗教を出してくるために無理やり現場近くで発見させただけのご都合主義です。ヒグマが殺したのかどうかなんて、偶然の土砂降りがあっても、検死でわかるはず。
とまあ、ミステリ構成上の欠点はずいぶんありますが、作者の狙いは戦時中の軍隊での非人間的な軍曹と、金こそご本尊としか思えない新興宗教を描くことにあったわけで、社会派的な事件の骨格自体は悪くないですし、そのテーマを描く中盤は迫力があります。最後が駆け足になり過ぎたことが残念。


No.774 8点 眠れる美女
ロス・マクドナルド
(2015/03/03 21:48登録)
冒頭の、本作の悲劇的ヒロインとも言えるローレルが石油まみれになったカイツブリを抱いているシーンが印象的です。そのカイツブリは水鳥の一種ということしか知らなかったので調べてみたら、湖や沼地に生息することが多く、見た目にはカモ系みたいですが、動物学的にはフラミンゴに近いそうで。
ローレルの失踪事件が誘拐事件らしき様相を呈してきて、さらに一見無関係な人物の死へと続いていくストーリーは、ロス・マクらしい複雑な人間関係を少しずつ暴き出していきます。偶然と思われていた複数の出来事が必然的なつながりを持つことがわかってきて、過去の事件が明るみに出てきて、と疑問の多い事件を収束させていく手際はやはりうまいものです。そして最後には疑問を抱く暇もないほどの連続どんでん返し早業で締めくくってくれました。そんな意外性を出す技巧が悲劇性を損なっていないところ、さすがです。


No.773 6点 サクリファイス
アンドリュー・ヴァクス
(2015/02/26 00:15登録)
バーク・シリーズの第6作は、第1期最後の作品と言われています。以降のシリーズがどうなるのかは、知らないのですが、本作では以前の作品の登場人物たちがかなり回想されています。またヴァクス自身作家になる前にそれが専門の弁護士だったという子ども虐待のテーマが明確に打ち出された作品です。
一方、最後に派手なシーンはあるものの、既読の『フラッド』『ブルー・ベル』に比べるとハードさが減退しているのが少々不満。
タイトルが登場人物の名前でないのは今回が初めてですが、内容とそぐわない気もしました。「犠牲」とは何らかの、特に神聖な(Sacred)目的のために捧げられたものだと思うのですが、今回バークが守らなければならない少年ルークは犠牲者(Victim)ですし、ヴードゥー教のクイーンが作品に宗教的な色彩を与えてはいますが、悪役のエセ黒魔術の視点にはそんな高尚な思想など全くありません。


No.772 5点 西尾正探偵小説選Ⅰ
西尾正
(2015/02/22 12:48登録)
13編の短編と評論・随筆を収録しています。
小説デビュー作『陳情書』は、合理的な説明もできそうなのに、あえて不思議さをそのまま放置したような、とりあえず怪奇探偵小説と呼べる作品です。同じ手を別の形で使った『床屋の二階』、さらに代表作の一つと言われるだけあって不気味な雰囲気はずばぬけている『海蛇』もホラーないし幻想系。その3作も超常現象そのものよりもそれに捉われた異常心理に重点を置いているのが、作者の持ち味なのでしょう。これも代表作の『骸骨』、その他『土蔵』『青い鴉』『めつかち』等も大雑把に言えば異常心理を扱った作品です。巻末解題で定住していたのか避暑に訪れていたのか不明確だとしている鎌倉を始めとして、海岸沿いの町を舞台にした作品が多いのですが、海水浴場の明るさからは程遠い、陰鬱な雰囲気が特徴です。
一方ひねりすぎの『打球棒殺人事件』『白線の中の道化』では作者の野球ファンぶりを見せてくれます。


No.771 5点 カブト虫殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2015/02/17 23:39登録)
作者の代表作と言われる直前の2作が派手な連続殺人だったのに対して、今回は地味なじっくり型という印象です。事件に関連する古代エジプト学についての薀蓄もたっぷり披露されていて、古典的な風格があり、ヴァン・ダインらしい重厚感に満ちた作品と言えるでしょう。一方謎解き面では、犯人が仕掛けるメイントリックは、本作の10年ほど前に書かれたイギリス有名作家のアイディアの焼き直しです(ヴァン・ダインはその作品を読んだことを公言しています)。しかし原案の方がそれ以外のアイディアも盛り込まれて意外性演出に工夫が凝らされていましたし、本作の方が狙い実現の確実性が劣ると思えるのでは、後発の意味がありません。
なお、タイトルの「カブト虫」とは実際の昆虫(Beetle)ではなく、Scarab。井上勇氏の訳ではスケラブとしていますが、普通はスカラベと表記される、古代エジプトで使われていた甲虫型の印章のことです。


No.770 5点 死の記憶
トマス・H・クック
(2015/02/14 11:36登録)
トマス・H・クックの記憶シリーズ第1作…というより、本当に「記憶」に相当する言葉が原題に含まれているのは、本作 “Mortal Memory” だけです。
文学性豊かだとか重さがいいとかいう意見が多いようですが、正直なところ、むしろ現在の「私」の態度、愚かさにあきれた作品です。そのうちばれるに決まっている嘘を無自覚に(病的な嘘つきではないにもかかわらず)つき続けますし、S・キングの『デッドゾーン』の透視能力者じゃあるまいし、体験していない過去の出来事を勝手に「見た」と思い込みますし。
その「私」の愚行が間接的原因で起こる悲劇も、その後の「私」の執念の原動力になっていると言えなくはないのですが、必然性はあまりありません。
一家に起こった過去の惨殺事件を少しずつ暴いていく過程や、ラストで明らかにされる真相はよかったのですが、もう少し違った書き方はできなかったものかと思ってしまいました。


No.769 7点 死のある風景
鮎川哲也
(2015/02/09 22:07登録)
角川文庫版巻末解説で河田陸村氏は、鮎川哲也と海外の巨匠たちとの関係、比較を書いていますが、その中でクロフツについては、あえて違いを述べています。鮎川の場合にはクロフツと違って、地名が日本人にとってお馴染みだというのがその趣旨ですが、これは読者の側の違いにすぎないでしょう。それよりも、鮎川はむしろクロフツ流の、1人の警察官(主にフレンチ警部)が思いつきを地道に検証していく、その捜査過程で読ませる作家ではないと思えます。本作でも、聞き込み捜査は何人かの刑事が行っていて、鬼貫主任警部の出番は全13章のうち1章だけです。
さらに本作では第1章の自殺事件が、その後の殺人とどう絡んでくるのかという構成的な興味もありますが、そのような構成の意外性は、私が今まで読んだ限りではクロフツ作品にはありません。まあ、本作でもその結び付きを最後まで引っ張るわけではなく、途中であっさり明かしてしまいますが。


No.768 6点 復讐は俺の手に
ミッキー・スピレイン
(2015/02/06 21:19登録)
悩める探偵といえばまずクイーンを思い浮かべますが、本作ではマイク・ハマーは過去の事件を思い出してかなり悩んでいます。とは言っても、スピレインですからクイーンみたいなマジな重さはなく、白々しい感じもしますが。思い出しているのは『裁くのは俺だ』のラスト・シーンなので、あのデビュー作の結末を踏まえた上で、どうひねりを加えるつもりなのかと思っていたら、こう来ましたか。最後の3ページぐらいで思いがけないことを起こしてくれます。その時点で、発表当時の常識、しかも作者の発想を考えれば、当然そうだろうと想像できるのですが、これまたクイーンばりに最後の1行でタネを明かしてみせる技巧まで使うとは、驚きでした。
そんな意外性演出以外にも、冒頭の事件でハマーが私立探偵の免許を取り消され、私立探偵の資格を持っているヴェルダを表に立てて捜査を続ける構成など、なかなか楽しめました。


No.767 8点 ハリウッド警察25時
ジョゼフ・ウォンボー
(2015/02/01 14:00登録)
ドキュメンタリー風警察小説と犯罪小説とのミックスとでも呼べばいいのでしょうか。
単なるちょっとした喧嘩なども含め、ハリウッド警察が扱う様々な事件をパトロール警官や刑事たちが処理していく様子が描かれていて、最初のうちはミステリとは呼べないとも思えるほどノンフィクション的です。しかしこのエピソード羅列が、ユーモアもありなかなか楽しいのです。10人を超えるパトロール警官が登場しますが(登場人物表の約2/3が警察官)、それぞれの個性がしっかりと描かれています。まあ始めのうちはさすがに名前が覚えられず少々混乱しましたが。
それでも、早い段階からメインとなる事件は犯罪者の側から書かれた部分が所々に挿入されていきます。これも最初は大した事件になりそうにもなかったのが、どんどん話が大きくなっていき、いつ警察に尻尾をつかまれてしまうかというサスペンスもあります。ラストの感動部分も含め、非常に楽しめました。


No.766 5点 奥信濃殺人事件
中町信
(2015/01/27 21:38登録)
プロローグは、何か仕掛けてあることは明らかで、しかしエピローグを読んでなるほどと感心させられる1文が含まれていました。
ひなびた温泉で起きる毒殺事件、さらに東京の病院での殺人と続く中盤までは、あまり興味の持てない展開でした。フーダニットであるにもかかわらず、関係者の数は極端に少ないのです。さらにローレンス・ブロックや水上勉の後に読むと、小説としてのうま味がありません。
しかし、証言をしなかった理由について、「私が疑われてしまうからです」とある登場人物が語るあたりから、謎解きの興味がふくらんできます。それ以前にも、別の人物が口にしたあるセリフや、恐喝とは信じられないといった謎もあるんですけれど。そして最後には毒殺の経緯や密室の逆転発想などさすがにトリックに対するセンスの良さは感じさせてくれました。ダイイング・メッセージはかなり苦しいですけど。

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