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ミステリの祭典

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暴走
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1974年08月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 5点
(2019/07/16 06:46登録)
 若くしてイギリス・ジョッキイ・クラブの捜査主任に選ばれたデイヴィッド・クリーヴランドは、イギリス人騎手ボブ・シャーマンが競馬場の売上金を盗んで姿をくらました事件を捜査するため、北欧ノルウェーに出向く。盗聴を恐れる旧知のノルウェー人調査員アルネ・クリスチャンセンの要請により、オスロ沖合いのボート上でおち合ったデイヴィッドだったが、突如疾走してきた大型快速艇に衝突され、フィヨルドに転落してしまう。彼は離島に流れ着き漁師に救助されるが、海面に落ちる前の記憶では、艇には船名・登録番号・所属港ほか何一つ記されてはいなかった。
 再び捜査に戻り、エーヴェルヴォル競馬場理事会から意見を求められたデイヴィッドは、事件を最初から精査しボブの死体を捜すことを提案する。明けて月曜日。浚われた場内の池からは見つからなかったが、スタンド裏からナイロン・ロープに縛られ、黒いキャンバス地で覆われたボブ・シャーマンの遺体が発見された。死因は鈍器による殴打。頭蓋骨を三個所骨折し、死後に一度水中に投げ入れられていた。
 彼は憔悴したボブの妻エマと共にひとまずイギリスに帰還するが、その翌日、祖父の家に匿われていたエマが二人の暴漢に襲われ、彼女は流産してしまう。男たちはノルウェー人と思われ、「ボブは書類をどこに隠したのだ」と叫びながら二人を殴り続けたのだ。怒りに震えるエマの祖父ウィリアム・ロムニイはノルウェーに赴くが、何も探り出せなかった。エマはデイヴィッドの問いかけに「ボブはノルウェーに何度もポルノ写真を持っていった」と語る。
 事件を解く鍵はやはりノルウェーにある。デイヴィッドはそう確信し、エーヴェルヴォルの懇請に応え再度のノルウェー行きを決断するが、その矢先に彼はふたたび凶刃に見舞われるのだった。
 「煙幕」に続くシリーズ第12作。1973年発表。舞台も炎熱の南アフリカから厳寒の北欧へ。色々と変化を加えてはいますが、物語はあまり冴えません。tider-tigerさんの書評にもある通り、友情・恋愛・父子の相克いずれも中途半端。サイドストーリーに広がりを欠いているという指摘は正鵠を射ているでしょう。わかりやすいダミーの存在はともかくとして、黒幕の冷徹さは買えますが。
 結局は友情を主題として纏めているものの、そこに至るまでにテーマが絞りきれなかったのがマイナス部分。ややバラけてますね。発端こそ派手ですが本質としては地味な捜査が主体。そこらへんは工夫もあり、決して悪くない。
 まあ、例の採点表はあんまりかな。フランシスのワースト作品は他にあると思います。

No.2 5点 tider-tiger
(2019/02/24 22:45登録)
ノルウェーから招待されて騎乗したイギリスの騎手がレースの売上金を強奪して行方をくらました疑いがある。英国ジョッキークラブは調査のためにデイヴィッド・クリーブランドをノルウェーに派遣した。
ところが、デイヴィッドがノルウェー人の旧友と船上にて密会していたところ、その船が大きな船と衝突して沈没。デイヴィッドは冷たい海に投げ出されてしまう。
デイヴ舟に乗ってまさに行かんと欲すのはずが、デイブ舟に乗ってすぐに逝かんと欲すとなりかねない深刻な事態にあいなったのだ。

1973年イギリス作品 
フランシス後年の作『名門』のあとがきには池上冬樹氏によるフランシス作品の採点表が付いておりました。『本命』(1962年)から『連闘』(1986年)までの26作のうち、本作『暴走』は☆が2個半で単独最下位でした(ちなみに☆5個は『興奮』と『血統』の二作、☆3個は『転倒』と『試走』の二作)。
これを見て、自分は俄然『暴走』に興味を持ちました。初読時の感想は「これがワーストなら、競馬シリーズは『連闘』までの26作、どれを読んでも大丈夫だな(読んでも時間の無駄にはならない)」でありました。
いろいろ思うところはありますが、今回の書評ではなぜ『暴走』は半馬身差をつけられての単独最下位となってしまったのかについて所感を述べたいと思います。

導入は旧友アルネと船上で密会、その数頁後にはデイヴィッドは海に落ちています。序盤はハードボイルド、ミステリ色の強い展開となります。そして、100頁も読まないうちに事件の構図に変化が現れ、この序盤から中盤にかけての流れは悪くないと思います。むしろいいくらい。ミステリとしてもスリラーとしても面白くなりそうな予感ありました。ところが、中盤以降は序盤のテンションを維持できずに失速してしまった感があります。けして悪くはありませんが、まあ平凡といえば平凡。
ただ、これだけでは最下位の栄冠を勝ち取るほどのものではないように思います。
本作がどこか物足りないと感じさせる原因はサブプロット(主人公の個人的な物語)の不在ではないかと思います。
競馬シリーズの多くは、基本となる事件だけではなく、主人公の個人的な物語にも筆が費やされてメインの事件に絡んでいくことが多いのですが、本作はそのような結構になっておりません。よくいえばストイックに謎解きとアクションで勝負しております。男女のドラマ、友情のドラマ、父子のドラマとサイドでなにか起こりそうな芽はあるも、花が咲くところまではいきませんでした。
もう一つの問題は人物。まず主人公。有能ですが常識的な人物であまり面白味はありません。さらに苦悩や葛藤多きシッド・ハレーと同じ職業なのでやはり比較してしまいます。すると人物造型の物足りなさが浮き彫りになってしまいます。調査員だと職業ネタも絡めづらい。そのうえ本作は競馬ネタまで不足気味。
脇にいい味を出しそうな人物が何人かいたのですが、みんな中途半端な印象で終わってしまいました。本作はラストがちょっと尻切れトンボな気がするのですが、あの人物をもっと描きこんでいれば、同じラストでも印象がまるで変っていたのではないでしょうか。

結論は「最下位にされるのはわからなくもないが、その不名誉を他と分かち合うことなく単独だった理由まではよくわからない」というものであります。かなり厳しいことを書きましたが、つまらない作品ではありません。実際、今回の採点に当たって軽く流し読もうとしたら、結局きちんと読んでしまったくらいなのです。
※以前、私は『再起』に4点をつけましたが、あれは意識的に厳しく採点したからで、普通に採点するなら5点以上をつけてもまったく問題のない作品だと思います。7点以上はつけませんが。
※作中に、リレハンメル(原文リリハンメル)という街を知っているか?、みたいなセリフありましたが、冬季オリンピックのお陰で今は誰でも名前くらいは知る町になりました。

No.1 6点
(2015/05/19 23:45登録)
競馬スリラーの中でも、本作は舞台がイギリス国内ではなくノルウェーである点が珍しいと言えるでしょうか。開幕早々、その10月の冷たい海中に、主人公は投げ出されてしまいます。まだどんな事件かほとんど説明されないうちからの危機一髪シーンという構成は、期待を抱かせます。
主人公は英国ジョッキイ・クラブ調査部主任で、冒頭のつかみの後は競馬の売上金盗難事件に関する聞き込み調査になります。で、80ページぐらいで早くも、調査結果から事件のからくりを説明してしまいます。この推理が非常に論理的ですし、以後についても本作はかなり謎解き的要素を重視した作りになっています。一方でさらに主人公が殺し屋に狙われたり、自動車爆発シーンがあったりと、派手な見せ場もあります。
ただ、フランシスとしては緊迫感は並み程度かなというところでした。締めくくり方も悪くはないのですが、鮮やかさには欠けるかなと思いました。

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