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ミステリの祭典

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雨の殺人者
創元版チャンドラー短編全集4/旧書名『チャンドラー傑作集4』

作家 レイモンド・チャンドラー
出版日1970年09月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 7点 クリスティ再読
(2019/06/15 18:46登録)
創元のこの巻は「大いなる眠り」のネタ2つ「雨の殺人者」「カーテン」、「さらば~」の元ネタ1つ「女で試せ」、三人称ハードボイルド単発「ヌーン街で拾ったもの」、ファンタジー「青銅の扉」という5本立て。
「雨の殺人者」は妹娘側の話、「カーテン」は姉娘側、とそれぞれ別な女性の話を「大いなる眠り」では姉妹として合体させたのが面白い。短編で読んでみると、こっちのが話の辻褄が合いやすくてイイようにも思うんだが...長編版でオミットされたドラヴェックの結末が評者好きだなあ。ちなみに「オレだって知るものか!」とチャンドラー本人も開き直った、運転手殺しの真相は元ネタの「雨の殺人者」でもはっきりしないのがご愛嬌。
「ヌーン街」は三人称でマーロウ物よりも派手にバイオレンス寄り。映画的でスピーディな話で、ありきたりとはいえ、マーロウ物が避けがちで評者とかとても不思議だったハリウッド内幕のネタなのも、映画風味。クールでドライな語り口がナイス。
「青銅の扉」はチャンドラーの英国趣味全開な不思議犯罪小説。ハードボイルドな味はまったくないが、やたらと達者なのが逆に新鮮。今更言うのもなんだが、小説上手だ。
で、「女で試せ」は大鹿マロイを巡る話のちゃんとしたバージョン、という感じのもので、「さらば」だと実のところ枠組みくらいでしかなくて、中途半端な扱いなマロイに、きっちりドラマを作ってみせている。なので後半はほぼ別物で、「さらば」はマロイのキャラを借りただけ、という気がしないでもない。
というかね、日本の読者はチャンドラーをまず長編で読んで、それからファンが短編を読む、という流れになるのは当然なんだけど、作品の成立ももちろん逆だし、「ハードボイルド書き下ろし長編」という出版形態の意味を考えたときに、実のところ「ブラック・マスク」に掲載された短編の方を軸に考えた方のがチャンドラーという作家をちゃんと理解できんじゃないのかな? 執筆時ではパルプ雑誌での「書捨て・読み捨て」だった、小説家としては最底辺レベルの仕事の中で、アメリカ文学の最良の部分が育ってきた...という歴史的な皮肉があって、それが一躍クノップ社ハードカバーの「長編ハードボイルド」に仕立て直されて、表舞台のビジネスに乗って「ハメット・チャンドラー・マクドナルド・スクール」とか呼ばれちゃう流れを通じて、チャンドラーを理解する必要があるんじゃないかとも思うのだよ。
本作の短編は、長編の試作でも、元ネタでもなくて、それ自身で独立した生命を備えた作品、と読んで行きたいと思うんだ。どうだろう?

No.3 6点
(2015/06/16 22:26登録)
最初の『雨の殺人者』の一人称探偵役には、当然ハメットからの影響でしょうが、名前がありません。マーロウでも問題ないと思いますが。いかにもな雰囲気ですが、ちょっとごちゃごちゃした感じがします。
『カーテン』は内容的には『大いなる眠り』を思わせますが、冒頭の1文「はじめて私がラリー・パッツェルを見かけたのは、『サーデイ』の店の前で…」は言わずと知れたあの作品そっくり。
『ヌーン街で拾ったもの』の探偵役は麻薬課の潜行刑事で、これはさすがにそのままマーロウものにするわけにはいきません。本集中でもかなり気に入っている作品です。
『青銅の扉』は異次元への(?)扉を手に入れた男の話で、完全にファンタジー。第3集収録『ビンゴ教授の嗅ぎ薬』以上の異色作です。
そして最後の『女で試せ』ですが、昔の恋人を探す大男という設定は『さらば愛しき女よ』の元ネタながら、結末には大きく異なる点があります。どっちの結末がいいか、うーん…

No.2 5点 E-BANKER
(2014/01/18 23:54登録)
東京創元社が編んだチャンドラー短編集の第四弾がコレ。
(なぜ第四弾から手を出したのかというと・・・単なる買い間違いだったりする・・・)
F.マーロウものを含む全五編。

①「雨の殺人者」=ロサンゼルスという街の雰囲気がよく出てる、いかにも的な作品。台詞まわしや静謐な筆致など、チャンドラーの魅力の要素はつまってるよなぁ・・・
②「カーテン」=F.マーロウ登場作。でも早川の清水俊三訳版に慣れている身にはどことなくマーロウの造形に違和感を感じてしまう。プロット自体は単調。
③「ヌーン街で拾ったもの」=これもまた“いかにもチャンドラー”らしい一篇。登場人物たちの会話がとにかく何とも言えない雰囲気を醸し出す。このリズムと空気は真似できない。
④「青銅の扉」=ちょっとよく分からない・・・
⑤「女で試せ」=これは「さらば愛しきひとよ」の原型なんだろうなぁ・・・。②につづきマーロウが登場し、やはり美女との絡みが用意されている。これが最も読ませる作品かな。

以上、全5作。
さらに巻末には稲葉明雄氏により、チャンドラーが作家デビューするまでの半生、経緯が紹介されている。
(これはなかなか興味深い・・・)

短篇になっても、チャンドラーはチャンドラーだし、マーロウはマーロウという読後感。
この独特の世界観や静謐な文章は他の追随を許さない。
ただし、ハードボイルドはやはり長編でこそという思いは強くなった。
やっとその作品の世界観に浸ってきた・・・という辺りで作品が終局を迎えてしまうのが、「どうもねえ」ということになってしまう。

というわけで、長編作品より上の評価は無理かな。
(個人的ベストは断然⑤。次点が①。後は横一線というところ)

No.1 7点 Tetchy
(2010/03/23 21:24登録)
収録作は表題作、「カーテン」、「ヌーン街で拾ったもの」、「青銅の扉」、「女で試せ」の短編5編。

本作では『大いなる眠り』と『さらば愛しき女よ』というチャンドラーの2大傑作の原型となった作品が読める。長編と読み比べてどう変わったのか確認してみるのもまた面白いだろう。
従ってベストは「女を試せ」。次点は変り種「青銅の扉」か。

この東京創元社が編んだ短編集には抜けている作品もあり、これらを全て補完したのが後年早川書房から出た文庫版短編集である。ただあちらはこちらと区別するためか題名が原題のカタカナ表記であり、なんとも味気ない感じがする。チャンドラーの持つ叙情性は日本語の美しさと通じるものがあると私は思っているのだが、それが見事に損なわれている。
表紙も含め、チャンドラーのイメージに合うのはこちらの短編集なのだがチャンドラーの作品を網羅しようと思うと物足りない。チャンドラリアンにとって日本の出版事情とはなんとも具合の悪いことだろうか。

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