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ミステリの祭典

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ファイル7

作家 ウィリアム・P・マッギヴァーン
出版日1962年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2017/09/17 09:05登録)
マッギヴァーンという作家のイイところは、アーチスト的というよりも腕利きのデザイナーのような、「情報が整理されている」感覚なんだよね。中編「高速道路の殺人者」と本作、それから「ジャグラー」が、そういうマッギヴァーンの鳥瞰的な視点と、無駄のない語り口で事件の顛末をドキュメンタリ映画でも見るかのように伝えてくれる。

しかしいま連邦警察が必要とするのは推定ではない。必要とするのは、事実であった

サイレント期の饒舌気味な字幕のような、若干レトロな気取りのある説明的描写がカッコイイ。本作の狙いは誘拐を含め州間をまたぐ大規模な犯罪に対応する連邦検察局FBIを、それ自体として一個の精妙なマシンであるかのように描くことである。この狙いは成功している。人間臭いドラマは犯人サイドの担当だ。
犯人サイドは、まあマッギヴァーンなのでトリッキーな計画でもファンタジックなくらいに精密なものでもなくて、ごくありふれたプランなのだが、やはり「らしく」飛び入り要素が盛りだくさんである。幼児だけでなくその保母も気まぐれに一緒に攫うし、犯人の一人の弟(善玉)のログハウスを潜伏場所にするのだが、その弟が急に戻ってきたためにこれも捕虜にする。でこの弟とカインとアベル風の確執があるが、こういう要素の方がかえって古びるようだ。誘拐というと犯人側だって待機時間が多いのだが、暇になった犯人がもう一人の犯人をマウントしたがったり、と予想外のイベントが盛りだくさんにある。捜査側としては「重大案件だが特別な事件ではない」のだが、犯人側(もちろん被害者側も)にしてみれば「本当に特別なヤマ」になるわけだ。そういう対比が効いている。
本作は比較的長めなので、じっくりと犯人のキャラも書き込まれている。プランナーのグラントが最初は主導するのだが、屈折した問題児タイプのデュークが、微妙な心理戦をグラントに仕掛けて屈服させる(この手で弟のハンクを奴隷化した)とか、あるいは交渉役の第3の犯人もオタクタイプで性格が歪んでるのが印象に残る。
というわけで、本作はマッギヴァーンという作家が、自分のイイ面を目立たせるように、自分でうまく「狙いを絞って」書いた印象を受ける。この人の自己プロデュース力みたいなものを感じるな。

No.1 7点
(2015/08/09 18:10登録)
マッギヴァーンを読むのはこれが初めてなのですが、初期の有名な『殺人のためのバッジ』が悪徳警官を扱った作品であることを考えると、犯罪者の人物像を描くのが得意な作家ではないかと思えます。ただし本作では悪徳どころかハードボイルド系にしばしば現れる不愉快な警察官も一人も登場しません。ハヤカワ・ミステリ版には「FBI誘拐事件簿」のサブタイトルがついていますが、まさにそのとおりの内容で、有能なFBI捜査官たちが活躍します。全編にわたって、幼児誘拐犯のグループ視点とFBI視点のカットバックによって緊迫感を生み出す手法が採られています。
誘拐犯グループの部分では、デュークとハンク(ハンクは事件に巻き込まれる善玉役)の兄弟、それにエディとその情婦ベルとの関係がかなりじっくり描かれていますし、もう一人別行動の犯人クリーシーのいびつな性格もなかなか印象的です。

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