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ミステリの祭典

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探偵を捜せ!

作家 パット・マガー
出版日1961年03月
平均点5.33点
書評数9人

No.9 6点 人並由真
(2023/08/11 17:10登録)
(ネタバレなし)
 もと女優だったが芽が出ず、年上の資産家フィリップ(フィル)・ウェザビーと結婚した金髪美人のマーゴット。だがフィルは病身で養生のため、娯楽も少ないコロラド州、ロッキー山脈周辺の、自分がオーナーである小ホテルに隠遁生活を送る。女優時代に自分の面倒を見てくれたやはり元女優の老女トムリンソン(トミー)を女中として随伴し、やむなく夫についてきたマーゴットは、こんな地味な生活に耐えきれず、夫の殺害をはかった。だが殺される直前、フィルはマーゴットに、自分はかねてから妻の害意に気づいており、親友の私立探偵「ロッキー・ロードス」をすでに召喚しているのたと語った。勢いのままに夫を殺したマーゴットは、その死を偽装。だがシーズンオフのホテルに、順繰りに男女4人の客が現れた。そしてこの中の誰かが、夫の死を探る探偵ロードスの変名のはずだった!?

 1948年のアメリカ作品。
 マガーの変化球フーダニットシリーズ第三弾。

 とはいえ今回は変化球のパズラーというよりは、ほとんどフツーの倒叙サスペンスで、しかも設定上、メインの登場人物をそんなに多く出せない、各キャラクターの個人エピソードまで話を広げにくい(客の個々でそれをやると、誰が探偵なのか判明してしまうので)ため、マーゴットの三人称一視点の描写を丁寧に書き連ねるしかなく、もちろんサスペンスはあるものの、一方でお話が一本調子で冗長。深夜に読んでいて、うっすら眠くなった(汗)。
 地味なキーパーソン(準キーパーソン……くらいか)がトムリンソンおばあちゃんで、マーゴットの現役女優時代から、彼女の成長を見守っていた先輩女優であり、今も母と娘のような絆で結ばれている。お話の流れでも、彼女の存在がひとつのポイントであった。詳しくは言わないが。
 
 クライマックス、マーゴットと「探偵」との対峙、そして終盤の二人のダイアローグなどはいい。しみじみと心に染み入ってくるクロージングであった。
 全体的にこの設定なら、もっと面白くできるはずという伸びしろが悪い意味で感じられた作品。広義のクラシックとしてこの本を読んで、俺ならもっと面白く書いてやると考えて、同傾向の発展的な作品を書いた新本格系の作家とかは、あちこちにいそう。まあ、具体例はちょっとすぐ思いつかないが(汗)。

No.8 6点 クリスティ再読
(2023/01/06 21:20登録)
なぜか読み落としていた作品。一応創元オジサン印なんだけども、印象は悪女ものサスペンスか、あるいは倒叙。正体不明の「探偵」との攻防があるから、倒叙でもいいと思うんだ。
うんでもこれって「そして誰もいなくなった」の変形なんだと思う。「そして~」も本格か、といえば微妙な作品だと思うけどなあ...で本作はずっと悪女スリラーに寄ってるし。心理描写が細かいんだけども、それでも「煮え切った」ヒロインでもあって、心理小説というニュアンスはまったくない。いやだからこそさ、客観描写オンリーで舞台劇みたいに仕上げたら傑作になったんじゃないかな...などと夢想する。いや実際、これってシニカルな喜劇なんだと思うんだ。

そうしてみると「探偵を呼んだ」とヒロインに告げた夫が、この事態を招いたわけだから、真犯人(人形遣い)は夫、という解釈もアリなのかしら(苦笑)

No.7 5点
(2020/10/25 15:47登録)
犯人を探るのではなく、探偵を見つけるミステリーなので、いちおう本格派推理小説といっていいだろう。
主人公のマーゴットの心境描写には半ばお笑いのような怖さがあるから、変格サスペンスといってもいい。
主人公はいち早く探偵を見つけ出し始末したいと考えている、とんでもない悪女。でも、どうやって探偵を探し出すのか、どうやって犯人とばれないようにふるまうのか、そのあたりの行動が読んでいて楽しいところなので、探偵を推理するよりも、主人公がどうなるのか、どんな結末を迎えるのか、そっちのほうの期待が膨らんでいった。
ということで謎解きに関しては不参加だった。
登場人物は少ないし、しかもどんどん減っていくから、推理はしやすいはずではある。

それと、ちょっと気になる点、というか興味深い点がある。
(若干のネタバレあり)

三人称の小説で、主人公のマーゴットは、「マーゴット」か「彼女」と表現されているのに、なぜか「私」も登場する。この「私」はマーゴットのはずだが、かならずしも独白ということでもない。主人公視点だと考えてスルーすればいいが、すこし違和感を覚えた。
でも最後の章の「私」は、独白みたいなもの。このアイデアはすごいと思った。

No.6 6点 nukkam
(2015/09/12 10:36登録)
(ネタバレなしです) 1947年発表の第3作で犯人が探偵を探すという異常な設定の作品です。前の2作品が安楽椅子探偵的な謎解きだったのに対して、本書は犯人と探偵の立場を入れ替えているのが珍しい、プロットの骨子は捜査と推理によるオーソドクッスなスタイルです。空さんのご講評で指摘されているように英語原題の「Catch Me If You Can」は犯人と探偵のどちらが主語でも通用する二重の意味があって巧妙なタイトルだと思います。オーソドックスなプロットのためか前の2作品と比べて評価が低いのはもっともだと思いますが本書は本書で他作家の作品と比べれば十分に個性的です。謎解きは結構粗いですが、その弱点を埋め合わせているのがサスペンス。探偵を追い詰めているはずの犯人マーゴットが心理的に追い詰められていく展開が印象的です。本格派推理小説と犯罪小説のジャンルミックス型として成功していると思います。

No.5 5点 斎藤警部
(2015/06/01 09:31登録)
(ややネタバレ?) まさか手の込んだ叙述トリックで「私=探偵」じゃないだろうな? と疑いつつ読んでしまい(苦笑)、ふつうに探偵があぶりだされた結末に安心するやらちょっとがっかりやら。予想外に強いサスペンスと、ちょっと怖い終結部が良かったです。

No.4 6点
(2015/05/31 15:33登録)
マガー初期4作は、邦題では『七人のおば』以外同一パターンですが、原題には統一性はありません。で、本作の原題は “Catch Me If You Can”。同じタイトルのスピルバーグ映画もありましたが、話はまるっきり別物です。鬼ごっこ等で使われる慣用句ですが、これがなるほどと思わせられます。Me が主役の殺人者とも、探偵とも解釈できるわけで、最後にどっちに転んで一件落着となるかは、読んでのお楽しみ。
犯人がどんなトリックを使うか、またどんな手がかりが残されているかといった興味の「倒叙」ではありませんし、犯罪心理小説系とも言い難い。探偵探しの趣向であれば、当然主人公は犯罪者になるにしても、じっくり謎解きタイプにもできたと思いますが、探偵がいる「雪の山荘(ホテル)」の中でさらなる殺人を犯したりして、なかなかサスペンスがありました。ただし、最後に主人公が手がかりに気づくところは嘘っぽいですね。

No.3 6点 E-BANKER
(2011/07/06 23:37登録)
「被害者を捜せ!」などに続く作者の長編第3作目。
貫井徳郎の作品に触発されて、「本家」の方を手に取ってみました。
~病弱な夫を殺して、金と自由を手に入れようとした美貌の若妻。だが、殺人を決行した夜、その山荘を訪れた4人の中に、夫が死ぬ前に呼び寄せた探偵がいるらしい。妻は探偵を探し出そうと必死の推理を展開。目星を付けた男を殺したが、探偵はまだいなくならない、さらに次の人物を・・・~

なかなか楽しめる作品だとは思います。
もちろん、50年代の作品ですから、いろいろと細かな齟齬や、「もう少しやりようがあるだろ!」的な部分は目に付きますが、それでも作品のプロット自体はよく練られているのではないでしょうか。
犯人側からみた一種の「倒叙」に、真犯人探しならぬ「探偵探し」を加えているわけで、考えようによっては、通常のフーダニットよりも気が利いていると言えなくもないような感じ。(言い過ぎか?)
マーゴットのキャラは、紋切型といえばそれまでかもしれませんが、終盤に向かうほど徐々に追い込まれていく心理がよく追われていて、サスペンス的な要素も楽しめます。
まぁ、ラストがちょっとあっけないというか、捻りがないというのが不満といえば不満ですが、トータルでは十分に水準レベルの作品ではないかと思います。
(自己チューの女って、ホントに怖いね!)

No.2 3点 mini
(2008/10/19 11:18登録)
「被害者を捜せ!」や「七人のおば」は話が淡々として地味だからサスペンスのある「探偵を探せ!」が代表作、みたいな事を言う人もいるが私は賛成できない
何々を捜せみたいな特殊な設定という側面ばかりが強調されがちなマガーだが、基本的にマガーはあの過去回想を淡々と語るのが特徴である
地味とか派手とかではなく、あの語り口調が持ち味なので、眼前のサスペンスが主題の「探偵を捜せ!」はマガーの本領とは言えない
趣向的にもただ単純に探偵と犯人の役を入れ換えただけでさぁあまり芸が無い
そもそもこれってさ、いわゆる犯罪サスペンス小説そのまんまでしょ、つまり変化球を狙ったのに、本格派以外のジャンルとして見れば形式的な直球そのままになっちゃってるんだよ
これを一種の変化球に感じる読者ってのはさ、犯罪サスペンスものを殆ど読まずに本格派しか読みませんみたいな読者だけでしょ
むしろ変化球としてなら、「目撃者を捜せ」の方を私は推したい

私は、その作家にとっての異色作というのは代表作と認めない主義だ
だって例えばある作家が100作書いていて、99作が特定のシリーズ物で、1作だけノンシリーズの人気作だったと仮定して、シリーズ物もそれなりの水準なら代表作はその中から選ぶべきだろう
たった1作のノンシリーズが代表作ってのも変だと思う
例えば「そして誰もいなくなった」が傑作で無いとは言わない
しかしポアロもマープルも登場しない同作を私はクリスティの代表作とは呼べないのだ
”代表作”というのは必ずしも”最高傑作”でなくてもいい、その作家の中でも全体の3~4番手位の出来映えでもいいのだ、それよりもその作家の特徴が充分に発揮されているかの方が代表作と呼ぶには重要だと私は思う
やはりマガーの代表作は「被害者を捜せ!」「七人のおば」あたりから選ぶのが妥当だろう

No.1 5点 ElderMizuho
(2008/05/24 13:04登録)
犯人が探偵を探すという奇抜な設定の割には大きな不自然さや矛盾点も無く無難に纏め上がられているのは評価できると思います。
一方で無難すぎて大きなサプライズも無く、伏線も凄みに欠ける。
大きな期待をしなければそこそこ楽しめる作品ではないかと。

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