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ミステリの祭典

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八百万の死にざま
マット・スカダー

作家 ローレンス・ブロック
出版日1984年04月
平均点6.91点
書評数11人

No.11 3点 メルカトル
(2023/05/06 22:38登録)
アームストロングの店に彼女が入ってきた。キムというコールガールで、足を洗いたいので、代わりにヒモと話をつけてくれないかというのだった。わたしが会ってみると、その男は意外にも優雅な物腰の教養もある黒人で、あっさりとキムの願いを受け入れてくれた。だが、その直後、キムがめった切りにされて殺されているのが見つかった。容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが…。マンハッタンのアル中探偵マット・スカダー登場。大都会の感傷と虚無を鮮やかな筆致で浮かび上がらせ、私立探偵小説大賞を受賞した話題の大作。
『BOOK』データベースより。

以下はあくまで個人の感想です。これから酷い事を書きますので、気分を害したくない方は御遠慮下さい。
まず無駄に長い割りに肝心の事が描かれていない。この内容ならば真面に書けば半分以下の枚数で収められた筈です。次に文章が下手、訳も下手。これは色々受け止め方があると思いますが、私には中身が頭にすんなり入ってこなかったし、情景も浮かばず、心にささるものもありませんでした。そしてマットと誰かしらの会話文も、相手の人称が彼、彼女で通しているので、最初に注意深く読まないと誰と話しているのか分からなくなりそうです。また主人公が只のアル中。私立探偵マットに魅力が感じれず、ああだこうだと言いながら結局アルコールを断ち切れない情けなさ。ハードボイルド、これでいいのか?と思いますね。更に余計な要素やエピソード(特に禁酒断酒の集会)に多くのページが割かれており、事件そのものがそれらに埋没してしまっています。事件も地味で最後に取って付けた様な解決編がいきなり始まり、何処でどう調べたのか疑問。

まあ気になった点だけでこれだけあります。まだまだ書きたいことはありますが、嫌味になりますのでこの辺でやめます。最後にこれだけは言いたい、例えばこれを国内の無名の作家が書いたとして、日本の読者に果たして受け入れられるのでしょうか、否だと思いますよ。その前に編集者がストップを掛けるでしょう。こんなの読むのだったら、そこら辺に転がっているラノベを読んだ方がまだましです、少なくとも私は。少しだけ人生の無駄遣いをしましたね、そんな気分です。ああ、行き過ぎた感想をお許しください。決して他の高評価の方をどうこう思ってませんから。タイトルだけは良いです。

No.10 6点 クリスティ再読
(2023/02/13 11:31登録)
なぜか未読だった作品、読んでみようか。

いややっぱり思うのは、1982年の本作でも、やはり60年代末~70年代のヒーロー性があるネオハードボイルドからのシフトチェンジみたいなものを感じるんだ。
マット・スカダーのアル中設定(と死に関連するウツ)が中心課題なんだが、同じアル中のカート・キャノンと比較してみれば「ヒーロー性」が大きく欠如している、というのが嫌でも目に付くことになる。モノガタリの主人公である以上、どこかしら「貴種流離譚」な部分、言いかえれば「街と馴染んで馴染まない」部分が、そもそものハードボイルドの「固ゆで」要素だったんだと思うんだが、マット・スカダーは「街のありふれた暴力とその結果の不条理な死」に馴染み過ぎている。ついつい強盗に反撃してしまうわけだし、最後の囮だって内心では消極的な自殺になっても仕方ない?くらいだったのではないのだろうか?

もはやニューヨークにはヒーローは棲むことができない。だからこそか、黒人の「黄金のヒモ」であるチャンスの「成功譚」な部分が、やたらなリアリティと魅力を発している。街を描けば描くほど、風俗小説に近づいてくるのが、80年代以降のハードボイルドの宿命みたいなものなのだろうか?

No.9 7点 ROM大臣
(2021/09/01 13:06登録)
卑しい街に住む、卑しい男が都会の風景とそこに蠢く人間たちの孤独と夢と現実を的確に見据えながら、どうにも出来ない現況を目の当たりにし、己の無力さとやるせなさを感じていく。そのことを作者は、淡々と描写していく。
社会の中の暗黒と腐敗の部分を、底辺の視線から描こうとする作者の姿勢が感じられる。

No.8 6点 文生
(2020/08/30 15:14登録)
悪くはないが少々長すぎで、記憶に残っているのはアルコール依存症のエピソードだけ。事件の方はちっとも印象に残らないのが難。
それでもラストは感動的でよかったです。

No.7 5点 レッドキング
(2019/02/23 16:51登録)
レイモンド・チャンドラーが、クリスティやクィーンのミステリを「リアリティがない」とか否定して「ハードボイルド」ジャンルを作ったみたいな話を聞いた。チャンドラーが本当にそんなことを書いたか言ったのかは知らない。ありがちな「伝聞神話」かもしれん。ただ言えることは、この作品のアル中探偵には、マーロウなんかより遥かに「リアリティ」を感じるし、何より魅力的だ。
「それから、最高に下らないことが起きた」・・・最高だ。

No.6 8点
(2015/06/24 23:20登録)
実はジェフ・ブリッジスが主役を演じた映画版を公開時に見ていたのですが、たいしたことはなかったという印象のみで、話は全く記憶に残っていませんでした。それで今回原作を読んだ後WEBで粗筋チェックしてみたところ、内容はここまで変えるかとあきれるほど違っていました。
最後近くまで読んできて、なんとなく思い浮かべたのが『長いお別れ』。あの名作がマーロウとテリー・レノックスの友情物語でもあったように、本作ではマットとチャンスの友情物語でもあると思ったわけです。この娼婦のヒモの黒人というチャンスが実に魅力的に描かれています。二人の友情は、中心となる事件と直接の関係はありませんが、事件が解決した後の部分が抜群にいいんですね。
タイトルの意味は他の方々が書かれている通りですが、ロスマクの ”The Way Some People Die”(『人の死に行く道』)をも踏まえているのではないでしょうか。

No.5 8点 E-BANKER
(2015/02/19 23:20登録)
ゾロ目1,111番目の書評は、マット・スカダーシリーズの最高傑作との呼び声高い本作で。
シリーズ五作目となる本作だが、“飲酒”との戦いに挑む(?)スカダーは果たして・・・?
1982年発表。

~新聞の見出しを見ると、胸が苦しくなり、苦痛がこみ上げてきた。コールガール惨殺さる・・・その女性キムは足を洗うため、ヒモと話をつけてくれと私に頼んできたのだ。ヒモの男・チャンスは意外にもあっさりと彼女の願いを受け入れたのだが、キムの死はその直後だった。やがてチャンスが真犯人を探して欲しいと依頼してくる・・・。マット・スカダー登場。巨匠がアメリカ私立探偵作家クラブフェイマス賞を受賞した代表作!~

このタイトルは実に深く、素晴らしい。
八百万とはNYに住む人々の数(つまりは人口)だが、この街には「八百万もの死にざま」があるということ・・・
「死にざま」なんだな。あくまでも「死にざま」! 「死に方」ではないのだ!
本作の被害者はナタで惨殺された死体で発見される。
もちろんその「死にざま」も酷いのだが、アルコールに毒され、アルコールにより「死」を迎えるかもしれないスカダーもまた自分の「死にざま」を頭に浮かべる。

ヒモのチャンスもしかり、達観した刑事ダーキンもしかり、スカダーが関係していく人物すべてがこの街NYに翻弄されていく。
連続惨殺事件の行方ももちろんなのだが、本作では街VS人という構図がどうしても頭の中に残った。
ラストにようやく判明する事件の真相や背景にしても、まさにNYならではというもので、真犯人は「誰それ」というよりは、NYという魔物に取り憑かれた何か、という存在のように思える。
とにかく最上級のハードボイルドを味わうことができ、さすがにブロック!のひとこと。

まぁでも読む順番はやっぱり間違えたな。
「倒錯三部作」から先に読み、本作に遡ったわけだが、他の方も書いているとおり、やはりシリーズものは最初から読むのがベスト。
緩やかだが、当然シリーズの世界観も進行しているわけで、その通りに読む方が絶対いいに違いないと感じた次第。
評価はこんなものかなぁー。個人的には倒錯三部作の方が好き。(分かりやすいからね)

No.4 8点 あびびび
(2015/02/03 19:28登録)
ローレンス・ブロックの代表作と言えばこれだが、マット・スカダーシリーズは8作も読んでいて、あまり感動がなかった。最近の作の方が切れ味あり、ニューヨークらしい情緒が楽しめる。

しかし、それはエレイン(少し登場)、T・J、ミック・パルーがいないせいでもある。やはりシリーズ物は、順を追って読まなければならない。深く反省である。

ただ、その評価は思い入れがありすぎて残念がる個人的なもので、作品的には完成度が高く、ページをめくる手が止まらなかったのは否定できない。8日目にして禁酒を破り、意識不明になったマットが如何にも興味深かった。

この作家の表現として、「なぜ、この作品を8点以下にできる?」というところではないか。

No.3 8点 Tetchy
(2014/05/08 19:42登録)
本書こそローレンス・ブロックという作家の名を世に知らしめ、そしてマット・スカダーシリーズを一躍人気シリーズにした作品だ。私立探偵小説大賞受賞作。

作中、市井の事件がマットが毎朝読む新聞の記事から挙げられる。それはどれもが奇妙な諍いの記事。どこかで誰かが誰かを傷つけ、また争っており、そこに死が刻まれている。キムの事件を担当する刑事ジョー・ダーキンと酒場でお互いが見聞きしたそれらの事件を挙げ合う。そして最後にジョーは昔あったTV番組を挙げる。“裸の町には八百万の物語があります。これはそのひとつにすぎないのです”それは警官たちにとっては八百万の死にざまがあるだけなのだという言葉で締め括られる。
その後マットはその言葉を意識し出す。新聞を読むたびに出くわす不条理とも云える死にざま。単なる比喩としか思えない八百万もの死にざまは、マットの中で本当にそれだけの死にざまがあるのではないかと思えてくる。そんな八百万の死にざまのうち、マットが扱うのはキムの死は1つにしか過ぎない。八百万のうちの1つにしか過ぎないのだが、その1つは自分にとって途轍もなく大きな意味を持っているのだ。

また本書では今までのシリーズと違うことが2つある。
1つは今までの事件は過去に起きた事件を掘り起こすことがマットの依頼だったのに対し、今回の事件は進行形で起きることだ。依頼人だったキムの死から始まり、彼女のヒモ、チャンスが抱える街娼の1人サニー・ヘンドリックスの死、そしてクッキーと云う名のオカマの街娼の死と続く。連続殺人鬼を扱いながら過去の事件を題材にしたのが前作『暗闇にひと突き』なら、本書では連続殺人事件そのものをマットが扱う。前作が静ならば本作は動の物語であると云えよう。
もう1つは上にも書いたが本書では前作『暗闇にひと突き』で登場したジャン・キーンが登場することだ。今までのシリーズでは警官のエディ・コーラーを除く全ての登場人物がスカダーにとって行きずりの人々だったが、このジャンは初めてスカダーの心に巣食う忘れえぬ人物として刻まれている。そしてスカダーは本書で初めて禁酒を行うが、ある時暴漢に襲われ、過剰な暴力で撃退し、酒にまた救いを求めようとする。しかし以前酒に飲まれた彼はそれを心の底から怖れるのだ。そして彼が見出した唯一の救いの光がジャンになる。
このシリーズに広がりが生まれた瞬間だ。

自分の依頼人だったコールガールの死から始まった一連の殺人事件の物語は最後の一行に至り、これは実はマットの自分との闘いの物語だというのが解る。
今までこのシリーズ1冊に費やされたページ数は270ページほどだったが、本書は480ページ以上にもなる。つまりマットが自分の弱さに向き合うのにそれだけの物語が必要だったのだ。
正直私はこの最後の一行がなければ評価は他の作品同様7点のままだった。しかしこの最後の一行で物語の真の姿とマットが抱えた苦悩の深さが全て腑に落ちてきたことで一つ上のランクに上がってしまった。

自分の弱さを認めたマットは無関心都市ニューヨークの片隅で起きる事件に今後どのように関わっていくのか。今まで人生の諦観で自分を頼る人たちに便宜を図っていた彼が自分の弱さと向き合いながら事件とどのように向き合うのか。さらに評価が高まっていくこのシリーズを読むのが楽しみで仕方がない。

No.2 8点 mini
(2012/12/27 09:56登録)
発売中の早川ミステリマガジン2月号の特集は、”あの探偵を追いかけて”
特定はしていないが特集の主旨から見て、今年久々に刊行された私立探偵マット・スカダーを想定しているんだろう
”このミス”でもローレンス・ブロックの来日記念インタヴュー記事が設けられており、ミスマガも特集組んだというところだろうね

私は体質的にアルコールが駄目なので当然ながらアル中の話が苦手だから、ブロックの他のシリーズは試しに1冊づつ読んでみたが、スカダーものだけは手を出さずにいた
しかし読んでみると禁酒治療中との事で酒を飲むシーンは少ない、なんだ、これだったらもっと早く読んでおくんだった
飲酒シーンならジェイムズ・クラムリーなどの方が断然多い、クラムリーだけはどうも肌に合わない
しかし「八百万の死にざま」ではブロック特有の軽さも手伝ってすらすらと読めた
一方で逆に軽さに対しては読む前は危惧も有った
何たって天才肌小説職人ローレンス・ブロック、器用に何でも書けちゃうだけにハードボイルドを書いても小手先の職人的上手さだけで書いたんじゃないかという不安が有ったのだ
ところが不安は払拭された、ちゃんと魂を込めたハードボイルドになっているではないか、これは評価出来る
そりゃさ、4~50年代のハードボイルドと比べれば、70年代ネオ・ハードボイルド旋風の後の80年代になって書かれただけに空気感が軽いのは否めない、でも決して小手先芸では無いと思う
あるガイド本では、ただ楽しんで読むだけならスカダーものより泥棒バーニイ・ローデンバーの方が良いという意見が有ったが、いやそうでもないなぁ
泥棒バーニイシリーズはいかにもブロックの作風そのまま過ぎる、根っからのハードボイルド作家とは言えないブロックが意識してハードボイルドを書いたみたいな感じが逆に成功していると思う
ちなみに八百万とはニューヨーク市の人口の意味である

No.1 9点 kanamori
(2010/10/25 18:21登録)
30年間書き継がれているNYの私立探偵マット・スカダーシリーズの第5作。
実はシリーズ順に読んでいなくて、本書からスカダーを読み始めたのだけど、それは正解でもあり失敗でもあったと思っています。
第1作以降の初期数作は、主人公が魅力的なものの、他のネオ・ハードボイルド小説と比べてプロットにとりわけ面白味があるように思えなかった。おそらく1作目から読んでいたら本書まで辿りつかなかった。それが「正解」の理由。
本書は娼婦殺害事件というミステリの体裁はあるものの、アルコール依存症に対するスカダーの葛藤と彷徨を中心に描いている。ある意味、傍観者リュー・アーチャーとは対極的な私立探偵自身の物語で、アル中である事を認めなかった主人公が最後の最後に叫ぶ、そのシーンに感銘を受けます。しかし、第1作から読んでいたなら、感動はより深いものになっていただろうと思わずにはいられない。それが「失敗」の理由。

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