エステルハージ博士の事件簿 |
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作家 | アヴラム・デイヴィッドスン |
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出版日 | 2010年11月 |
平均点 | 7.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | 八二一 | |
(2020/02/03 22:02登録) 強靭なユーモア精神に裏打ちされた、幻想味濃い探偵小説集。奇想天外とは、まさに本書のこと。とぼけた味わい、精巧なホラを堪能できる。 |
No.2 | 8点 | 雪 | |
(2018/10/09 02:34登録) 面長のおじさんの顔が表紙の怪しげな短編集。内容も表紙に恥じないうさんくささ。河出書房新社のこれも怪しげなジャンルオーバーのセレクション、ストレンジ・フィクションの一冊です。 スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国という架空国家を舞台に起こる怪事件の数々を描く連作で、エンゲルベルト・エステルハージ博士なる人物が主役を務めます。 8篇の短編が収録されていますが、いずれも地の文には博士の住むタークリング街三三番地を始めとした三重帝国の帝都ベラの各名所や地方が紹介され、故事来歴・逸話などが麗々しく述べられるなど、ストーリー以上に架空世界の構築が優先される勢い。単行本表紙の裏面にはそれぞれ帝都の街路図と三重帝国の細密な地図が描かれています。 エステルハージ博士周辺の人物や生活様式もシャーロック・ホームズばりの設定ですが(ガス灯や馬車、蒸気機関車の存在など時代設定もその頃)、彼は快刀乱麻の名探偵という訳ではありません。五つ以上の学位を取得し、皇帝イグナッツ・ルイやロバッツ警視総監の絶大な信頼を得ていますが、実態はよろずなんでも屋と言うところ。途方に暮れるような事件が起きれば、すかさず彼の元に話が持ち込まれます。 皇室の至宝が盗まれた、熊男が現れた、人魚伝説が実現した、等、等、等・・・。魔術師や邪教団、錬金術なども登場し、百花繚乱のありさまでしかも綺麗に片付くとは限りません。むしろ傍観者で終わる事の方が多いです。 こういう作品集はハマる人はハマるでしょうね。自分もその類。ミステリ味は薄いですが。 強いて選ぶなら1話と2話、『眠れる童女、ポリー・チャームズ』および 『エルサレムの宝冠または、告げ口頭』ですかね。後者で水戸黄門ばりにエステルハージが詔勅(プロヴォ)をかざすシーンには笑いました。あとは人魚が出てくるちょっといい話『真珠の擬母』。他の収録作も胃もたれする程描写が濃ゆくて退屈しません。その癖どこかすっとぼけた感じのお話ばかりです。 追記:史実のエステルハージ家はハンガリーの大貴族で、17世紀から代々ハプスブルグ家に仕えました。主君を凌ぐ程の帝国一の大地主で実業家でしたが、決して思い上がらず、たびたび帝国の危機を救い忠節を尽くしたそうです。こういう元ネタが山ほどある小説です。 |
No.1 | 7点 | 空 | |
(2015/05/22 22:26登録) 20世紀初頭、バルカン半島にある架空の帝国を舞台とした連作短編集で、1976年度世界幻想文学大賞(アンソロジー短編集部門)を受賞した作品です。 タイトルが「事件簿」となっているからといって、アシモフみたいなSF系の謎解きミステリを期待してはいけません。最初の『眠れる童女、ポリー・チャームズ』では、架空帝国の首都ベラが紹介された後、警視総監がエステルハージ博士を訪ねてくるシーンから始まります。レストレード警部がホームズに難事件について知恵を借りに来たようなものかと思いきや、何のことはない、眠れる童女の見世物見物の誘いに来ただけという、おとぼけぶりです。 結局収録8編のうち、ミステリ(本格派ではない)と断言できるのは、『エルサレムの宝冠 または、告げ口頭』のみ、他に『真珠の擬母』もそう言えるかなあという程度です。エステルハージ博士を案内人とした不思議な架空帝国巡りを楽しむ作品です。 |