空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1521件 |
No.841 | 6点 | 風の岬 高城高 |
(2015/12/19 22:56登録) 創元推理文庫の高城高全集第4巻に収録されている作品14編は、すべて北海道が舞台であることが作中で明示されています。ごく短い『ホクロの女』など場所はどこでもいいような話ですが、やはり作者のこだわりでしょう。もちろん大部分はいかにも地方色を感じさせる作品です。 当時のソ連と近い地理関係を使ったスパイ小説系とも言える『北の罠』にしても、やはりハードボイルドな雰囲気はあります。もう1作、『風への墓碑銘』の方がスパイ小説らしさはありますが、これが何ともあいまいな幕切れで、そこがリアルなスパイ小説らしいとも言えるかもしれません。あいまいな幕切れと言えば、『上品な老人』もそうですが、こちらの結末は成功していると思えません。『気の毒な死体』は作者としては珍しい推理パズル。 表題作、『札幌に来た二人』、『穴無し熊』など、ストーリーのタイプは異なるものの、枯れた味わいが心地よい作品です。 |
No.840 | 6点 | そそっかしい小猫 E・S・ガードナー |
(2015/12/14 23:56登録) 事件の発端となる電話とほぼ同時刻にタイトルの猫が毒を盛られる(死にはしない)という、なかなか魅力的な謎で開幕する作品です。その後殺人は起こるのですが、クライマックスでの裁判は、なんとこの殺人事件についてのものではないというのが、本作の工夫です。途中で殺人の容疑者が逮捕されることもありません。 実はメイスンが事件に関わることになる部分には重大な疑問点が残ったままなのですが、ガードナーには有名作にもどこか論理的な穴がぽっかりあいていたりします。本作では考え方が不自然だという程度でしょうか。 全体の裏については、明らかにその可能性もあると最初からわかっているようなものですが、それでも展開の面白さで巧みに引っ張ってくれます。法廷でメイスンが指摘する手がかりは、猫の行動の理由を考えてみろということで、猫好きの陪審員もその指摘ですぐ気付くような、わかりやすい伏線でした。 |
No.839 | 6点 | 紺碧の嘆き ジョン・D・マクドナルド |
(2015/12/08 22:08登録) 邦題では「紺碧」となっていますが、原題は “The Turquoise Lament”、トルコ石色ですから、むしろ明るめの青、青緑という感じで、シムノンの『紺碧海岸のメグレ』の方が、本当の紺碧色(英語ならazure)です。まあどっちにしても、海の色には違いありませんが。こちらは冒頭のハワイからクライマックスのサモアの海です。トラヴィス・マッギーは船を住居としている人物ですから、海や島を主要舞台とした本作は彼にふさわしい話と言えるでしょう。 最初の依頼人はマッギーもよく知っている女で、さらにその亡き父親とは沈没船の宝探しを一緒にやったこともあるのですが、その沈没船の調査資料も絡んでくる、個人的な事件です。太平洋を航海している船が現在どこにいるのかなんて調べようがないという、ちょっと珍しいサスペンスもあります。 ただ、様々な事柄に対する講釈がやたらに長いのだけは少々うんざりでした。 |
No.838 | 6点 | 枯草の根 陳舜臣 |
(2015/12/04 23:06登録) これもずいぶん以前に読んで、内容をすっかり忘れていた作品です。 作者のデビュー作ですから陶展文ものとしても第1作なわけで、この名探偵についても丁寧に紹介されています。とりあえず本業の中華料理店には、事件関係者を招待していますし、漢方医としては最初の被害者などを診察していますが、お得意の拳法は、少なくとも本作では発揮されません。 鈍い読者でも真相の見当がつくようになってから陶展文の説明が始まるまでが少し長すぎるように思いますが、最初から登場する関係なさそうな2人の旅行者は、最後にうまく事件にかかわるようになっていました。 なお講談社文庫の巻末解説では、ノックスの十戒中の第五「中国人を登場させてはならない」戒めが根拠のないことを証明したと論評していますが、ビガーズによる中国人名探偵チャーリー・チャン初登場は、十戒発表の4年前です。1970年台にもなって持ち出す議論ではありません。 |
No.837 | 7点 | 殺人者の街角 マージェリー・アリンガム |
(2015/12/01 22:32登録) カバーの作品紹介や訳者あとがきでは、この1958年発表作はシルヴァー・ダガー賞受賞とされていますが、巻頭の「読書の栞」では、「現在でいえばシルヴァー・ダガー賞受賞に相当する」と正確な情報が記載されています。ちなみにシルヴァー・ダガー賞は1969~2005年に次点作品に授与されていました。 訳者あとがきでは、「追いつめられていく殺人鬼」を描いた作品としていますが、本作の悪役が殺人を犯すのは、あくまでもそれが目的達成のベスト手段と考えるからであり、決してシリアル・キラーではありません。彼が冷酷なのは、殺人という重罪でも他の手段と何らの区別をしない点です。したがって彼の最後の行動も、その状況では当然と言え、説得力があります。 キャンピオンは、あとがきでも比較されている共通点のある『霧の中の虎』以上に影が薄くなり、最後の活躍も単なる偶然にすぎません。 |
No.836 | 7点 | シュガータウン ローレン・D・エスルマン |
(2015/11/25 22:25登録) 1985年のシェイマス賞を受賞した作品です。 以前に読んだコメディ・タッチの『私立探偵』とは全然違い、この私立探偵エイモス・ウォーカーが活躍するシリーズは正統派ハードボイルドらしさにこだわっているようです。ウォーカーは、2日分の報酬をとりあえず受け取ったものの、調査が1日で終わったため、半額+必要経費を差し引いた金額を依頼人に返却する真面目ぶり。無関係に見える2つの事件の絡ませ方には、なかなか感心させられましたし、さらに意外な殺人犯も用意してあるという、謎解きにも趣向を凝らした作品になっていました。ただ、最後が駆け足になってしまった感じなのが、多少不満と言えるでしょうか。 舞台となるデトロイトの雰囲気もじっくり描かれていますが、長い文が多く、関係代名詞を使った英語の語順ではすんなり読めるのではないかとも思うのですが、この翻訳は意味が取りづらいです。 |
No.835 | 6点 | オランダ水牛の謎 松尾由美 |
(2015/11/22 23:14登録) 「安楽椅子探偵」アーチ―というアイディアは、やはり意味の曲解だけから思いつかれたのでしょうか。探偵役設定だけなら気楽なファンタジーで、したがってこの設定には当然必要なワトソン役も子どもにして、雰囲気を統一したということでしょう。 そのシリーズ2冊目は、「国名シリーズ」になっていて、5編が収められていますが、本家と違い、推理の厳密さにこだわったとかいうことは全くなさそうです。特に表題作は推理合戦までやっていますが、どれも単なる想像に過ぎず、それらの想像とは全く異なる真相は、関係者本人の口から語られます。また『アメリカ珈琲の謎』は、作者があとがきで「ハードボイルド風にしようと思った」と書いている、やくざがらみの失踪事件で、他の日常の謎系作品とは趣が異なります。アーチーも探偵ではなく、衛の相談役として登場するだけ。一方『イギリス雨傘の謎』は、ひねり過ぎと思えるくらいでした。 |
No.834 | 6点 | 鍵のない家 E・D・ビガーズ |
(2015/11/16 22:50登録) おっさんと同じく、ずいぶん前に「別冊宝石」の小山内徹訳で読んで以来の、新訳による再読です。かなり印象的なトリックでさえ思い出せないままに読み始めたのですが、早い段階で、確かこんな手を使っていたはずだとあいまいな記憶が甦ってきて、そこから犯人が誰かも必然的にわかってしまったのでした。それでも次々に容疑者が浮かんできては、犯人でなさそうだ(無罪が証明されるのではなく)ということになっていく展開は、読んでいる間は退屈しません。 チャーリー・チャンたちハワイ警察の捜査を手助けしようとするボストン育ちの青年の視点で、話は進んでいきます。人物描写や語りのテンポは、さすがに古めかしい感じですが、ラスト・シーンでは苦笑してしまうほどのロマンスや冒険小説的な味付け、さらに青年も最後には真相に気づく展開など、ほとんど後年のカーを思わせるところもあり、楽しめました。 |
No.833 | 5点 | タフガイなんて柄じゃない ジョン・ラッツ |
(2015/11/13 23:38登録) すでに10冊以上書かれているものの、邦訳はたぶん3冊だけのアロー・ナジャー・シリーズの第1作です。邦題は、ハードボイルド史上おそらく最も臆病な探偵であるナジャーにちなんで勝手に付けられたもので、原題は全く異なり、"Buyer Beware"。これについては、巻頭に「何をつかまされるかわからないから買い手は御用心」というラテン語が引用されています。また、作中にも「“買手は損しないように気をつけろ”という格言は、時代遅れだ」(p.63)という記述があります。この言葉と事件解決後のラストを考え合わせると、なるほどという感じです。 事件そのものは、ナジャーが得意としている親権のある親から依頼されての子どもの「合法的誘拐」のはずが、殺人事件に発展していく、いかにも私立探偵小説的な展開で、最後はかなり大がかりな捕り物になります。しかし。最初の依頼の件は、結局どうなるんだろうと、ちょっと疑問も感じました。 |
No.832 | 6点 | 第四の闇 香納諒一 |
(2015/11/10 23:15登録) 香納諒一は『心に雹の降りしきる』しか読んでいませんし、『幻の女』も似たタイプらしいので、本作もハードボイルドだろうと思っていたのですが…それらしい暴力シーンで幕を開けるものの、その後はサイコ・サスペンスっぽい展開で、驚かされました。何しろ、第1章タイトルどおり胴のない死体が発見され、さらに同じような殺人が以前に2件起こっていることがわかる、というのです。 胴のない理由は、『刺青殺人事件』的なアイディアとは全く違いますが、それなりに感心しました。また、事件の本筋とは無関係なある登場人物の異常な行動が明かされた時には唖然としてしまいました。その直後の派手な殺人アクション・シーンまでは、かなりおもしろく読めたのですが。 「私」と行動を共にするジローの最終的な扱いには、そんな必要があったのか少々疑問でしたし、ラスト・シーンはさすがに言い訳に過ぎないんじゃないかと思ってしまいました。 |
No.831 | 6点 | タロットは死の匂い マーシャ・マラー |
(2015/11/04 22:25登録) ビル・プロンジーニ夫人で、夫婦合作もあるこの作者の名前(Muller)は、マラーともミュラーとも表記されますが、どっちが正しいんでしょう。Wikipediaを参照してもミュラーらしいとは思われるのですが、明確には書かれていません。 そんな作者のこの第2作が出版されたのは、第1作の5年後の1982年です。女私立探偵が活躍する小説は、80年台にならないと評価されなかったということなのかどうか、ともかく、シャロン・マコーン・シリーズは本作の後はコンスタントに発表されていきます。シャロンはチョコレート好きなのはともかく、鳥恐怖症というのは妙な設定だなあと思ったのですが、本作でも烏におびえて殺人をくいとめられないというシーンがありました。 誰が殺人犯人でもかまわないように思えてくる事件なのは、少々不満とも言えますが、最後はハードボイルドらしい手堅いまとめ方をしてくれていました。 |
No.830 | 6点 | 闇からの声 イーデン・フィルポッツ |
(2015/11/01 12:48登録) 再読ですが、そんなに凡作でも複雑すぎるわけでもないのに、ほとんど記憶に残っていませんでした。 冒頭の闇からの声については、探偵役のリングローズが、第4章で幽霊について詳細に分析しているので、予測は簡単につくでしょう。作者も、読者に悟らせるためにあえて丁寧に説明しているのではないかと思えます。 全体の1/3ぐらいまでは、子ども殺害の実行犯を追いつめる話ですが、リングローズの採った手段は、冒頭の幽霊の声を継承するホラーっぽいものです。しかしいくら醜悪な悪魔の首でも、雰囲気のない最初の2回の状況では、うまくいくとは思えません。 その後は黒幕の男爵をいかにして逮捕にまでこぎつけるかで、舞台となるスイス、イタリアの国境あたりの風景描写はさすがです。ほぼリングローズの視点で語られる中に、時たま男爵の視点を入れているのは、当然こうなるだろうなと納得しながらの読書でした。 |
No.829 | 5点 | 天の前庭 ほしおさなえ |
(2015/10/26 21:53登録) 半分ぐらい読んだところで、これはカーの有名作のSF版的なものを狙っているのかなと思いました。 ただし、カーが最後の数ページで愕然とさせてくれるのに対し、こっちはクライマックス突入部分あたりで狙いが明らかに見えてしまいます。それでもかまわないとは思うのですが、どう解釈しても辻褄が合わなくなってしまっているのは問題です。タイムスリップをミステリ的に使った小説は、矛盾をいかに解消するかがポイントのはずですが、結局何が何だかわかりません。そのタイムスリップが作中で初めて言及される部分は、人物認識の問題として、クリスティーの某オリエント舞台作品以上にあり得ないでしょう。最後の爆発事件も、どういう経緯で起こったのか全く説明されていませんし、論理的な詰めが甘すぎると言わざるを得ません。 それでも全体の雰囲気、文章の感じはかなり好きなので、この点数にしました。 |
No.828 | 7点 | フェアウェルの殺人 ハメット短編全集1 ダシール・ハメット |
(2015/10/23 21:47登録) 表題作、『黒づくめの女』、『うろつくシャム人』、『放火罪および…』『夜の銃声』と、謎解き要素がしっかりできている作品が多いのは、ハメットなら当然でしょうね。特に『デイン家の呪い』なんてプロットだけ見れば現代の新本格派に近いような作品まで書いている人です。 『新任保安官』は、最初に登場人物が一気に紹介され過ぎて頭の整理がつかなくなるのはともかく、なかなか楽しい西部劇ハードボイルドでした。本作でも最初の殺人の手がかりは明快。『赤い収穫』の原型と言っても、主人公の戦術が同じというだけで、ストーリーは違います。ただし、30ページちょっと読んだところで、これはこの巻には入れてもらいたくなかったかなと思った作品でした。 最も長い『王様稼業』には、ハメットってこんなバルカン半島の架空の小国を舞台にした冒険小説までコンチネンタル・オプを主役にして書いているのかとびっくりさせられました。 |
No.827 | 6点 | 人形とキャレラ エド・マクベイン |
(2015/10/20 00:01登録) 87分署シリーズなのでモジュラー型かと思いきや、今回はマンションで起こったファッション・モデルの殺害事件1本のみで押し通してくれます。 原題はただ “Doll” といたってシンプルで、さらに邦題でも使われているので、何らかの意味があることは間違いないと当然推察できるのですが、最後にいたって納得できるようになっています。ただしフェアプレイというわけではありませんし、あまりにご都合主義という気もしますが。 それにしても、意表外な展開を引き起こすことになるキャレラ刑事の行動は、いくら何でもあまりに無茶と思えました。重要な証拠品を、ほとんど放り出したままにして、何をやらかすんだか。その証拠品が無事だったのも奇跡的とさえ言えます。また被害者の宣伝用写真を4枚も挿入していながら、それに意味がないなど、いろいろ不満もありますが、全体的にはかなり楽しめました。 |
No.826 | 5点 | 海の碑 斎藤栄 |
(2015/10/14 22:13登録) 随分前に読んだ時、かなりおもしろいと思った作品です。講談社文庫版解説で、権田萬治氏も、「この系列の氏の作品の中では…最も優れたものの一つ」と書いていますが、確かに再読してみると、2/3ぐらいまでは謎の提出の仕方、公害問題との絡め方など、なかなか感心させられる構成になっていることを確認できました。しかしその後にある「誘拐」の章はどう見ても不要に思われます。犯人側からしても全く無意味で、かえって馬脚をあらわす危険性があるだけです。また犯人側がどうやってその人物の行動を知ったのか、誘拐手順をどう計画したのかも疑問です。 環境破壊テーマの追及も、社会派作家に比べると最終的には今ひとつ手ぬるい感じでしたし、中心となるアリバイ・トリックの中で死体移動の方法が(十分可能ではあるとは言え)明確に示されていないので、誘拐部分は切り捨て、そのあたりを書き込んでもらいたかった作品でした。 |
No.825 | 6点 | 死角 ビル・プロンジーニ |
(2015/10/11 11:55登録) 原題は”Labyrinth”ですが、プロンジーニにはこの言葉の直訳である「迷路」と邦題を付けた別作品(そちらの原題は”Scattershot”)もあるというのが、ややこしい話です。本作では「まるで迷宮の中にさまよいこんだようなものだった」というように、事件をラビリンスに例えています。 名無しのオプは、このシリーズ第6作(合作含む)では、すでに禁煙してかなりになるようです。一方のパルプ・マガジン・コレクションはさらに注文して、総額は1980年当時の値段で3万ドル以上の価値があるとか。本作では探偵事務所が徹底的に荒らされたため、自宅にあるコレクションが心配になり、隣人に時々自宅をチェックしてもらえるよう、依頼しているのですが、これが結末部分にうまく結びついています。その他にも名前に関する手がかりなど、謎解きの伏線が非常にきっちりできていて、一方ハードボイルドらしいアクションも充分にあり、楽しめました。 |
No.824 | 5点 | 兇悪の浜 ロス・マクドナルド |
(2015/10/05 21:41登録) ロス・マクの中でも、発表当時から一般的にあまり評判のよくなかった作品のようです。 確かに、『運命』以後の作品だけでなく、以前の『人の死に行く道』等と比べてみても、全体的な構成にこの作家らしさがあまり感じられないとは言えるでしょう。基本的には明快な犯罪計画に、悪党たちが余計な手を加えることによって事件をわけのわからないものにしているという構成になっています。その悪党たちの行動がリュウ・アーチャーの捜査と交錯することによって、アクションはいつもより豊富になります。発砲となると1発だけですが。 かなり以前に読んだ時には、かなりおもしろく感じたのですが、ロス・マクをまだあまり読んでいなくて、期待するものが固まっていなかったからかもしれません。再読でもかなり派手な展開は悪くないと思いましたが、この作者にしては論理的整合性に疑問があるのに気づきました。 |
No.823 | 4点 | 金糸雀が啼く夜 高里椎奈 |
(2015/10/02 21:42登録) 薬屋探偵妖綺談シリーズ第4作。この作家は初めて読んだのですが、本作に関する限り、予想とは違うタイプでした。深山木 秋、座木(くらき)、リベザルの3人が妖怪だか妖精だかではあるにしても、謎解きミステリの構造だと思っていたのです。しかし今回中心となる事件は、リベザルと座木が由緒あるサファイアを盗み出す計画に加担することになるといいうものです。つまり犯罪小説なわけで、さらにその後に、サファイアにまつわる何十年も前の出来事が語られます。 その中心物語はまあよかったのですが、途中に強引に挿入したシャンデリア墜落による3人の人間の死亡というやたらに派手な事件が、入手した手がかりを示していないという意味でフェアでもなく、たいした真相でもなく、減点対象でしかありません。 なお、ラノベらしいキャラは、「はにゃ?」とか「ほえー」とか言う御(おき)葉山刑事がほとんど一人で引き受けている感じでした。 |
No.822 | 5点 | 誘拐 ロバート・B・パーカー |
(2015/09/28 22:23登録) このパーカーの第2作の原題は “God Save The Child” であり、「誘拐」にあたる言葉は使われていません。実際のところ、同じ邦題のプロンジーニや高木彬光作品と比べると、「誘拐」ものらしさに欠けるところがあります。まずスペンサーが依頼を受けるのは、失踪した息子の捜索です。で、いくらか情報を得て2回目に依頼人を訪問すると、脅迫状が届いているのですが、その脅迫状の奇妙さについては、スペンサーや警察もその場で議論しているのです。この時点で、誰でもある仮説を思いつくでしょう。さらに事件は変な方向に捩れていき、中盤では予想外の人物が殺されますが、その殺人も妙にあっさりした扱いです。 結局、作者が描きたかったのはある崩壊しかけた家庭の再構築の物語だったのだなと、誘拐事件解決シーンでは納得できるようになっています。その後の別犯罪の真相解明は、どうでもいいかなという気もしますが。 |