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ミステリの祭典

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魔術師を探せ!
ダーシー卿

作家 ランドル・ギャレット
出版日1978年01月
平均点5.75点
書評数8人

No.8 6点 クリスティ再読
(2023/01/08 14:41登録)
SF設定を含んだミステリの代表格として挙げられるシリーズの短編集。でもね、SF作家のA.C.クラークの言うところによると、

十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない

だそうだ。本作での「魔法」は「科学」の代理みたいなもので、名探偵なダーシー卿の相棒のマスター・ショーンが、鑑識に魔法を大活用! 本作の魔法というのも「世界観設定」の一つみたいなものであって、ダーシー卿の推理と真相は普通の物理学的合理性の範囲に収まるから、あまりSF設定が本質的でもないように感じるのだ。

それよりも中世社会がそのまま現代に続いていたら、どんな社会なんだろう?というS(cience)F(iction)ではないS(peculative)F(iction)なSFとしての面白さの方が目立つようにも感じる。中世騎士の精華である獅子心王リチャードがそのまま王位を継続し、大陸領土を喪失しマグナカルタに署名したジョン王が即位せずに「英仏帝国」として貴族政治が続き、(おそらく)宗教改革もなしにカトリックの権威が続く。それに対抗して「藍色の死体」で描かれたような汎神論的な宗教秘密結社が暗躍し、東方の大国がポーランド(中世末~近世初頭には大国だった)であり、アメリカ植民地を握る英仏帝国とポーランドの間でのスパイ戦が描かれる...
ウィリアム・モリスが夢想した中世社会の華麗さのままに、独自に発達した社会が丁寧に描かれていて、これを評者は楽しんでいた。
こういうのも、アリだよね...

No.7 6点
(2021/09/27 21:25登録)
 第四作となる長篇『魔術師が多すぎる』に先行して発表された中篇三作を、独自編集して纏めたダーシー卿シリーズ日本版短篇集。いずれも1961年1月から1965年にかけアメリカのSF雑誌「アナログ」に掲載されたもので、発表順も配列も作中年代もほぼ同じ。トリの「藍色の死体」のみこの世界独自の魔術がトリックに用いられるものの、インチキめいた未知のテクノロジーの乱用は無く基本オーソドックスなミステリばかりで、中世ヨーロッパ風の古風な世界設定と国家間の対立に起因する諜報要素が独自のエキゾシズムを醸し出している。
 「その目は見た」は古い城の内部で起きたプレイボーイの城主射殺事件の謎を解く第一作。事件そのものは大したものではないが、魔術師マスター・ショーンが試みる〈アイ・テスト〉(死者が最後に見たものを、映像としてスクリーンに映し出す技術)の扱いが味わい深い。
 「シェルブールの呪い」は『魔術師が多すぎる』の評でも少し述べたが、ダーシー卿が国王ジョン四世のエイジェントと協力してポーランド王国の陰謀に立ち向かうエスピオナージ物。プロットの本筋と魔術の絡みは薄いが、チャンバラほか色々あって面白い。裏切者の正体に迫る手掛かりもなおざりにされておらず、トータルではこれが一番。〈本質的な殺人者〉とされるフェンシングの達人・シーガー卿の肖像は、主人公の活躍以上に印象に残る。
 「藍色の死体」は「シェルブール~」で恐るべき陰謀を阻止したダーシーが、国王の特別捜査官に任命され本土イングランドのカンタベリーに赴き、急死したケント公爵のために用意されていた棺に、染料で藍色といってもいいような濃い青にぬられた死体が納まっていた謎に挑むもの。全裸で発見された死体は休暇のためスコットランドに向かうはずだった公の主任捜査官、カンバート卿だった。死体の異様さから生贄を教義に掲げる異教集団〈古代アルビオン聖協会〉との関連も取り沙汰され、事件の裏にはポーランドの暗躍も想定される。
 複数の要素を絡めながら合理的な結論を導き出す作品で、ミステリとしては最も練られており構造もなかなか複雑。真相を見抜くにはやや手掛かりが不足気味だが、作中提示される〈藍色の死体〉の解決は秀逸で、ラストのアクション含め良く出来ている。
 以上全三篇。面白さでは『魔術師が~』に一歩譲るが、世界観も内容もよりディープな作品集で採点は6.5点。

No.6 5点 虫暮部
(2021/03/30 12:25登録)
 宗教を始めとして、馴染みのない考え方に触れるのは楽しい。けれど本書の“魔術”はキリスト教のパロディのようで、もともと素養があまり無いネタの更に捻ったヴァージョンには流石に歯が立たない。
 と言うことだろうか、もっと楽しめそうな設定なんだけど今一つ相性が良くなかった感じ。かしこまった会話文は結構好き。

No.5 6点 ボナンザ
(2020/08/30 22:49登録)
復刊されたので読了。
古きよき時代のヨーロッパにミステリーの都合をつけるために魔術を導入した感じで、中々うまくいっている。

No.4 6点 猫サーカス
(2017/09/21 21:33登録)
独特の設定を持つシリーズから、中編3編が収録されている。私たちの世界とは異なる歴史をたどり、「科学的な魔術」が発達した世界。「英仏帝国」の捜査官ダーシー卿は、魔術師の助けを借りて難事件に挑む。魔術という異質な論理を取り入れて、特異なスタイルの謎解きを見せてくれる。英仏帝国とポーランド王国との間で繰り広げられる、異世界の国際謀略も楽しめる。

No.3 5点 E-BANKER
(2016/06/10 22:15登録)
~英仏帝国による統治が長く続き、科学的魔術が発達した世界。たぐいまれな推理力を持つ捜査官ダーシー卿と上級魔術師ショーンは彼らでないと解決できない特殊な事件の捜査に当たっていた。架空の欧州を舞台にした名作本格ミステリー~
というわけで、1964~65年にかけ、長編「魔術師が多すぎる」に先んじて書かれた連作短篇。

①「その眼は見た」=このなかで一番本格ミステリーっぽい作品がコレだろう。ラストは意外な真犯人が指摘されるというプロットなのだが、捜査過程にショーンの「魔術」が使われるというのが本シリーズの特徴。
②「シェルブールの呪い」=他の方も書かれているとおり、謎解きミステリーというよりは“スパイ謀略もの”に近い作品になっている。帝国VSポーランド王国という図式が本シリーズを貫く背景ということで、特に終盤はサスペンス感のある展開。
③「青い死体」=亡くなった侯爵を収めるはずだった棺を開けてみると、すでに死体が入っていた。しかも、その体は全身青く染まっていた・・・という幕開けが印象的な三作目。途中まではダーシーとショーンコンビの捜査がテンポよく進んでいくのだが、途中からちょっとややこしくなってきて、分かりにくい展開になったような・・・

以上3編。
冒頭の紹介文のとおり、本作は『魔術が使われる世界』という特殊な舞台設定が特徴。
時代設定としては、てっきり中世なのだろうと思っていたけど、文中には1960年代という表記があるため何か違和感を覚えてしまう。
で、問題の「魔術」なのだが、確かに捜査過程や犯罪の一要素として出てくることは出てくるのだが・・・
あまり関係ないかな?
それがトリックやロジックに有機的に関わっているということではないし、極論すれば“単なる舞台設定or世界観”ということになる。

個人的に好みかと問われると、「かなり微妙・・・」という感じ。
(続編としての長編を読めば、また評価も違ってくるかもしれないが・・・)
たまには毛色の変わった作品を読みたいという向きにはいいのかもしれない。
(「折れた竜骨」とは確かに世界観が似ている・・・かな?)

No.2 6点
(2016/01/28 20:36登録)
『魔術師が多すぎる』以前に書かれたダーシー卿シリーズのこの3中編を続けて読むと、作者の描いた魔法の国がかなりはっきりイメージできます。そして感じたのは、これはハードSFと言う場合と同じ意味で、ハード・ファンタジーなのだなということでした。つまりハードSFでは、たとえばもしタイム・トラベルが可能だとしたら、という前提の下に整合性あるプロットを組み立てるわけですが、このシリーズではその前提が魔法なのです。だからこそ、パズラーにもなり得るのでしょう。
2作目『シェルブールの呪い』は、むしろスパイ小説の要素が強い作品です。現実には他国からの侵略に苦しんだポーランドが英仏帝国に敵対する大国になっているという設定がおもしろいのですが、東欧の人が読んだらどう感じるだろうかと心配したりもして。この作品でのダーシー卿の犯人指摘の推理は、ちょっと説明不足だと思えます。

No.1 6点 kanamori
(2011/06/07 19:46登録)
科学の代わりに魔術が発達したパラレル・ヨーロッパを舞台背景にした本格パズラー、主任捜査官ダーシー卿&魔術マスター・ショーンの活躍を描く連作中短編集。米澤穂信「折れた竜骨」の流れで再読してみました。

「その眼は見た」は、城館内の殺人の犯人は?というオーソドックスなフーダニット。被害者の網膜に残った犯人の映像という手掛かりにヒネリを加えていて扱いが非常にユニーク。
「シュルブールの呪い」は、英仏帝国VSポーランド王国というシリーズを通した構図を背景にしたスパイ謀略戦が楽しめる作品。船上の活劇などのテイストは「折れた竜骨」を髣髴させます。
「藍色の死体」は、死体全体を染色した理由の謎が魅力的なホワイダニットの力作中編で、完成度では編中のベストでしょう。

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