鍵のない家 チャーリー・チャン |
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作家 | E・D・ビガーズ |
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出版日 | 1957年01月 |
平均点 | 6.25点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 8点 | 人並由真 | |
(2024/03/18 13:05登録) (ネタバレなし) 1920年代のアメリカ。ボストンの名門ウィンタスリップ一族の御曹司である、29歳の証券会社社員ジョン・クィンシーは、サンフランシスコのおじロジャーのもとを経て、ハワイのホノルルに向かう。ホノルルではウィンタスリップ一族の一員で、先代が没落させかけた捕鯨業を見事に立ち直らせた63歳の富豪ダニエル(ダン)・ウィンタスリップが名士として幅をきかしており、ジョン・クィンシーのおばでもともとはボストン在住の老婦人ミネルバも半年前からダンのもとに逗留していた。そんな道中のさなか、ジョン・クィンシーはサンフランシスコの地でホノルルのダンからロジャー経由で電報を受け、ロジャーおじとともに、ダンからある奇妙な依頼を頼まれた。やがてホノルルに着いたジョン・クィンシーだが、彼はそこで予想外の殺人事件に遭遇することになる。 1925年のアメリカ作品。チャーリー(チャールズ)・張シリーズの第一弾。 いやまあ少年時代から創元の『活躍』も『追跡』も購入はしてあったものの、ものの見事に何十年もツンドク。そのうちに本がどっかいってしまい、二冊とも数年前に古書で買い直したりしている(笑・汗)。 しかし、そんなこんなで21世紀の現在、とにもかくにもビガーズの著作の長編のシリーズ正編は全部完訳で読めるんだから、だったらこの第一作から読もうと今さらながらに一念発起した。 つーわけで、これがビガーズの初読み。チャーリー張との初対面です。 あ、ちなみにこれで藤原宰太郎の名著(メイ著)「世界の名探偵50人」のメンツのうち、自分が登場作品の原典を一作も読んでない探偵は、野村胡堂の銭形平次ただひとりになった。ひかひ、こーゆーことをタスクにしているミステリファンもたぶん珍しかろう。そーいえばアニメ『瀬戸の花嫁』の再放送が楽しいですな。いや、銭形巡(まわり)の大ファンなので(←二重三重に、ぢつにどうでもいい)。 で、内容の感想だけど、いや、非常に面白かった! 犯人に関しては、欧米の某大作家のほとんど手癖パターンをそのまま踏襲してるので、途中で大方の予想がついてズバリ正解だったけど、それはそれとしてお話の転がし具合がとてもうまく、ハードカバー400ページとやや厚めの一冊をひと晩で一気読み。 バランスの良い感じでハワイ観光もののエキゾチシズムも小説の叙述に溶け合ってるが、なにより登場人物の絡み合いの面白さでページをめくらせる。大体、3人のメインヒロインに目移りする気の多い青年主人公ジョン・クィンシーが、そんな不届きさにも関わらず、一件一件の恋愛事情には妙にマジメでキライになれないあたりがすんごくいい。 愉快なキャラといえば、チャーリー張の上司の白人で、一度かけた嫌疑を片っ端から無効化してゆくハレット警部の描写も笑わせられた。 で、情景描写、キャラクター描写のなかに、ミステリとしての伏線も随所にまぎれこませてあり、さらに読者への求心力として<犯行時に? チラリと見えた腕時計の謎>で引っ張る。 いや、まだ、たった一冊読んだだけなんだけど、この張シリーズの評判の良さに、早くも納得しました。 ちょうどほぼ100年前の作品なんだけど、意外に古めかしいところがなく(一部……あるか? 中盤で話が広がるところ)、心地よいテンポで楽しめるエンターテインメント感の豊富な庶民派パズラー。うん、まあ、大御所で誰かに似てるかとあえて言うなら、やっぱりクリスティーの雰囲気に近しい。 とりあえずキチンと読んでおいて、今さらながらに良かった。 クロージングのまとめ方も、良い意味の田舎芝居といった趣でほっこり。 二作目を読むのが楽しみです。 (しかし「奇想天外の本棚」が順調に続いてくれていればな~『シナの鸚鵡』も新訳が出たはずだったらしいんだけどな~もう現状じゃ、望み薄だよな~涙。) |
No.3 | 6点 | 空 | |
(2015/11/16 22:50登録) おっさんと同じく、ずいぶん前に「別冊宝石」の小山内徹訳で読んで以来の、新訳による再読です。かなり印象的なトリックでさえ思い出せないままに読み始めたのですが、早い段階で、確かこんな手を使っていたはずだとあいまいな記憶が甦ってきて、そこから犯人が誰かも必然的にわかってしまったのでした。それでも次々に容疑者が浮かんできては、犯人でなさそうだ(無罪が証明されるのではなく)ということになっていく展開は、読んでいる間は退屈しません。 チャーリー・チャンたちハワイ警察の捜査を手助けしようとするボストン育ちの青年の視点で、話は進んでいきます。人物描写や語りのテンポは、さすがに古めかしい感じですが、ラスト・シーンでは苦笑してしまうほどのロマンスや冒険小説的な味付け、さらに青年も最後には真相に気づく展開など、ほとんど後年のカーを思わせるところもあり、楽しめました。 |
No.2 | 6点 | おっさん | |
(2014/11/11 11:25登録) ボストンの名門ウィンタスリップ家の御曹司ジョンは、旅行先のハワイに長期滞在を続ける、ミネルバおばさんを連れ戻すため、一族の総意を受けて、サンフランシスコ港から船でホノルルへ向かう。しかし、上陸前夜、そのハワイでは、ミネルバが身を寄せていた、ウィンタスリップ家のはみ出し者の資産家が自邸で殺されていた。暗闇の中、おばさんが目撃した殺人者の正体は? 「こんなことをやった人物が当然の裁きを受けるのを見るまで、ここを動くつもりはないわ」と宣言する彼女に閉口しながらも、ジョンは、地元ホノルル警察の巡査部長チャーリー・チャンとともに、事件解決へ踏み出していくことになる。 被害者の暗い過去が、事件の遠因なのか、それとも・・・? 昨年、驚いたことに電子書籍(ハウリオブックス)でも新訳が出ましたが、kindle を持たない筆者にとっては、やはり紙の本が有難く、今年、新たに論創海外ミステリで出たものを求め、一読しました。1925年に発表された、チャーリー・チャンものの第一作で、まだチャンが警部になる前のお話です。 その昔、『別冊宝石 「世界探偵小説全集」』のE・D・ビガーズ篇で、併録の『黒い駱駝』と一緒に読んでいますが、面白かったという漠然とした印象と、作中トリック以外は綺麗さっぱり忘れており、再読のしがいがありましたw トリックを覚えていたのは、その大胆さにいたく感心したからですね。ハワイという舞台に見事にマッチしていますし、タイトルがそれを象徴しているのも好印象。読み返してみても、その部分の評価は動きませんでした。 ただ真相を知ってしまうと、本格ミステリとしては、途中の展開がまったく無駄に思えるのが、難ではあります。あのトリックを生かすためには、レッドヘリング操作が不可欠なので、多くの容疑者を右往左往させるのは仕方が無いとしても、どれもが捨て駒で、読者の仮想犯人たりえない。結局、最後のほうで主人公のもとに、重要なデータがバタバタ集まってきて(事前に、照応する最低限の伏線は張られていますが)、事件はそれまでの捜査とは関係なく、一気に解決に向かうわけです。 アメリカの長編本格“黄金時代”の幕開けを、一年後のヴァン・ダイン(デビュー作は1926年の『ベンスン殺人事件』)に譲ることになったのも、そのへんの弱さを考えれば頷けます。 頷けますが―― さきほど、「本格ミステリとしては、途中の展開がまったく無駄に思える」と書きました。しかし、小説として、途中が冗漫かというと、必ずしもそうではない。 それは本書が、ハワイのまったりした雰囲気のなかで、堅物の主人公が変化していく、その過程(その援助者としても、チャンは存在する)を描くドラマでもあるからです。小説の最初と最後では、ジョンは別人です。その変化のためには、やはり時間と、さまざまなエピソードの積み重ねが必要なわけで、けっして事件がすぐ解決してしまってはイケナイw そして、これはレヴュー済の『黒い駱駝』の感想とも共通しますが―― 魅力的なハワイを“人生の楽園”として描くのではなく、成長儀礼のための“仮の宿”として描いている点に、筆者は惹かれます。ジョンは、ここで人生の伴侶を得、ここから新たな一歩を踏み出すことになります。ハワイに骨をうずめるのではなく、といって、もとのボストンの型に嵌まった生活に戻るのでもなく。その分岐点としてのハワイ。背景描写は完璧です。 ジャンル投票は「トラベル・ミステリ」にしようかと本気で考えたのですが、嗚呼、海外部門には無かったwww |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2014/09/26 11:42登録) (ネタバレなしです) 書かれたチャーリー・チャンシリーズ作品はわずか6作なのに、シリーズ映画が40本近く制作され、ラジオドラマや漫画版も作られたほどの人気でした。1925年発表の本書がシリーズ第1作となりますが、本書のチャンはハレット警部の優秀な部下という立場で後年の作品と比べるとまだ名探偵としての個性を確立していません。最後に犯人と対峙しているのも別の人物で、チャンはサポート役に徹しています。後年デビューとなるヴァン・ダインやエラリー・クイーンと比べると謎解きパスルとしては粗いのですが、舞台となるハワイ描写に力が入っています。作中人物に色彩豊かで天真爛漫な場所だったハワイが本土の機械文明の真似だらけになったことを嘆かせていますが、それでもなおボストン出身の主人公には十分なカルチャーショックを与え、そこから少しずつ馴染んでいく経過を丁寧に描くなど物語性をおざなりにしていない点では上回っています。 |