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ミステリの祭典

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証人たち

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日2008年04月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 クリスティ再読
(2024/11/22 11:18登録)
シムノンのロマンの中でも、上位に位置する傑作じゃないかな。

ガチンコの裁判劇なのだが、まずは裁判長が主人公、という面でも異色中の異色だと思うよ。弁護士が主役の裁判劇なら描きやすいのもあって世の中に氾濫しているし、検事でもいろいろある。裁判では受動的な役割である裁判官をメインに据えて、「人間を本当に理解できるのか?」「理解したとしても、誤解ばっかりで他人をこういう人と決めつけていないか?」といったテーマを深掘りしている。
その中には主人公の裁判長の妻との関係も含まれている。主人公自身の過去の軽い浮気の話も、その裁判を傍聴する黒衣の女性によって、たびたび主人公の意識に登る。また、ベッドに寝たきりとなっている妻が「意図的に自分を困らせるためにそうしているのでは?」という疑惑もあれば、またこの裁判の被告が、妻のご乱行に怒って殺したのでは、という裁判の行方を自分の妻の引きこもりのきっかけとなった妻の浮気話と、主人公は重ね合わせずにはいられない。

こんな2日間の裁判が、妻の求めによって深夜薬局に妻の薬を買いに行かされ、その結果風邪をひいた主人公の前夜の話から始まっていく。裁判も行方も気になるが、妻との関係にも懊悩するさまが、熱に浮かされた主観の中で丁寧に描かれる。シムノンって一時的な病気・体調不良をちょっとした「きっかけ」につかうのが実に上手だと思うよ...メグレが酷い風邪を引いたのが印象的な短編もあれば、「ビセートルの環」のように入院生活をテーマにしたロマンもあるしね。

(バレかな?)
まあそういう小説だから、この事件の真相について、ちゃんと解明されるわけではない。アメリカを舞台にしてアメリカで書かれた「ベルの死」に続いて、同様のテーマをアメリカ時代最後に書かれたと目される本作が扱っている、ということにもなるだろう。

No.1 7点
(2016/02/01 23:41登録)
殺人事件の裁判長になった判事を主役にした、裁判前夜から裁判終結日の夜までの話です。ただしシムノンらしく、途中に主人公の過去の思い出や日常生活などをふんだんに取り入れて、そんな様々な記憶が法廷での彼の態度に影響を及ぼす様が描かれます。裁判劇中心ということで一応本サイトに登録しましたが、ミステリ度はかなり低い作品で、妙な期待を持って読むと、本格派ファンならずともこの結末にはがっかりするかもしれません。小説としてなら納得のいく判決ではあるのですが。さらに裁判終結の後に主人公を待ち受けていた衝撃には、感銘を受けます。
文学的テーマを別にすると、興味深いのがフランスの裁判制度でした。シムノンがどの程度現実の裁判に忠実に書いているのかはわかりませんが、本作を読む限り、ペリー・メイスンでおなじみのアメリカや、それに近い日本の制度とは全く違うところがあるのです。

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