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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.875 7点 フリーク
マイクル・コリンズ
(2016/05/22 09:30登録)
片腕私立探偵ダン・フォーチューン・シリーズ第11作。
3ページ目から登場する悪役J・Jのフォーチューンに対する態度には、最後の方になってなるほどと思わせられました。この悪役のキャラクタが本作の魅力の大きな部分を占めていて、彼はクラシック音楽、それも管弦楽曲が好きで聴きまくっています。それにしてもフォーチューンも、かかっている曲がシベリウスの第7番だとかマーラーの未完成第10番だとか、そうとうのクラシック・ファンでない限り、そんなかなりマイナーな曲、聞き分けられませんよ。
ロス・マクドナルドの某作と原理的には似たことをやっていますが、ロス・マクがフェアプレイに徹した書き方をしていたのに対して、本作はフェアでないとも言えます。まあ一人称形式なのですから、こだわらなくてもいいとは思うのですが。
気になったところが1ヶ所、警備部長ノリスのご都合主義的なある行動がなければ、事件はごく早期に片付いていたはずです。


No.874 6点 指宿・桜島殺人ライン
深谷忠記
(2016/05/18 23:51登録)
旅行気分を味わわせてくれる殺人ライン・シリーズですが、今回の旅先は鹿児島県です。指宿についても並みのトラベル・ミステリ程度の紹介はしてくれますが、むしろ霧島の方について、じっくり描かれています。何しろ今回壮と美緒が鹿児島県を訪れるのは、流行作家のための取材(ビデオ撮影)旅行なのですから、この設定だといくらでも名所および穴場案内ができます。
ただし、最初に起こる殺人は奥多摩で、被害者の経歴や事件前の行動から、動機は鹿児島にあるのではないかとの推測から、警察の捜査は霧島で起こった過去の殺人事件に目を付けることになります。過去と現在の殺人事件、さらに壮と美緒が東京で目撃した出来事が全体としてどうつながってくるのかというところが、ミステリとしては見どころということになります。アリバイの扱いもHowではなくWhyが中心で、意外性はあまりありませんが、それなりに楽しめました。


No.873 6点 青い玉の秘密
ドロシイ・B・ヒューズ
(2016/05/15 18:13登録)
ジュヴナイル(本格派系)じゃないかとさえ思えるような邦題なので今まで敬遠していたのですが、乱歩が文学的スパイ小説とも相通ずるものがないでもないと書いた作品というので、グレアム・グリーンやアンブラーほどシリアスだとは最初から思っていませんでしたが、ちょっと期待して読んでみました。
結局、もちろんジュヴナイルではないにしても、20歳代の女性の視点から書かれた荒唐無稽スリラーといった感じでした。悪役の兄弟につきまとわれ、脅迫される恐怖が中心で、謎解き要素は全くないと言っていいでしょう。巻末解説では、本作のSo Blue Marble(とても青いビー玉)を『マルタの鷹』の彫像と比較していましたが、確かに歴史的な品で、それの争奪戦ということでは共通点があります。
悪役兄弟は上品ぶっても犯行は杜撰ですし、ヒロインがトビン警部を信用しないのも不自然ですが、まあリアリティを云々する話ではないなので…


No.872 6点 赤い風
レイモンド・チャンドラー
(2016/05/11 22:37登録)
デビュー作である『脅迫者は射たない』は複雑と言うより、とにかくいろんな出来事が次々に起こっていく作品で、関係者のほとんどが死んでしまうというかなり強引な展開でした。
『金魚』でも死者は多いですが、最後の撃ち合いになる原因は、ご都合主義だなと思えました。この作品の探偵役はこの翻訳ではポケット・ブック版に合わせてマーロウにしていますが、訳者あとがきによれば、最初に発表された時はカーマディという名前だったそうです。この名前の探偵は第3巻の『犬が好きだった男』にも登場していますが、マーロウに置き換えても違和感はありません。
一方表題作の初出時探偵名はダルマスだったそうで、こっちは多少マーロウっぽくないところがあるかなという気もします。
『山には犯罪なし』では特に真相を隠そうともしない展開ですが、ラストは、確かに理解できないというか、あっけにとられました。


No.871 5点 延原謙探偵小説選
延原謙
(2016/05/06 23:22登録)
新潮文庫版ホームズ・シリーズの翻訳者が書いたオリジナル短編20編にホームズ贋作1編の翻訳、それに評論・随筆を40編ほど加えた選集です。なお、ホームズ贋作の『求むる男』は巻末解説によれば、最初ドイルの未発表作として発表されたものの後に贋作と判明したもので、延原謙は真作と信じて訳したそうです。この作品、ミステリとしては悪くないのですが、ドイルらしさはそれほどでもないと思いました。
20編目の『秘められた暗号』は1948年に書かれたジュヴナイルですが、暗号のアイディアは小酒井不木の某短編そのまんまじゃないですか。他は1925~1937年に書かれていて、約半分が、ホームズ翻訳者らしいと思えるような、年代の割に古めかしい謎解きタイプです。中には本格派黄金期らしい『N崎の殺人』もありますが。それ以外のタイプでは、犯罪小説の『腐屍』が殺人者の思い込みにうまくオチを付けて気に入りました。


No.870 5点 メグレと死体刑事
ジョルジュ・シムノン
(2016/05/03 15:18登録)
通常3期に分割されるメグレ警視シリーズの中で、本作は第2期に属するものです。1933年『メグレ再出馬』発表後、シムノンは一度メグレ打ち切り宣言をし、『ロンドンから来た男』など主に犯罪を扱った純文学寄りの作品(河出書房の表現では「本格小説」)を発表していきます。そして再びメグレもの長編に手を染めたのが1939~41年で、長編6冊発表後、また1945年までメグレ長編は休止するのです。その6冊中、2016年5月現在、日本語訳が単行本で出版されたのは本作だけで、他の5冊は雑誌掲載のみ。
メグレ第2期作品は今まで読んだ3冊に関する限り、他の時期に比べてちょっとひねったところがあるように思えます。本作でも中心事件の他に「死体刑事」の役割、事件の終結のさせ方、さらに複雑な気分にさせられる後日談など、事件の裏は多少複雑なことがあっても基本的にはストレートな小説構造が多い第1期、第3期とは若干異なる味わいです。


No.869 7点 死の接吻
アイラ・レヴィン
(2016/04/28 00:05登録)
久々の再読で、第1・2部は多少覚えていたのですが、第3部は全く記憶に残っていませんでした。
殺人者の側から描かれた犯罪小説である第1部は使われた工夫を考えると、読者に意味を悟られにくいよう、ここだけ一人称形式にしてもよかったかもしれません。それにしても、第1部の緻密な殺人者の心理描写は、作者が23歳の新人だとは信じられないくらいうまい。
第2部で、被害者の人物像を覆すような展開になっているのには驚かされました。エレンのユーモア・ミステリにでもなりそうな間抜け探偵ぶりは、気恥ずかしくなるほどですが、それでサスペンスが生まれていることも確かです。
で、最後が記憶から脱落していた第3部ですが、ここでの捜査も随分乱暴粗雑です。しかし齋藤警部さんも書かれているように、クライマックスは実に映画的で、迫力がありました。さらにその後の幕切れの微妙な味わいがいいのです。


No.868 5点 悪魔の嘲笑
高木彬光
(2016/04/24 21:56登録)
神津恭介シリーズの中でも知名度の低い作品のひとつでしょう。それであまり期待していなかったせいかもしれませんが、意外に楽しめました。巻末解説には犯人は途中で予想できるだろうなどと書いてありますが、う~ん、これはどうなんでしょうね。犯人の名前だけこいつじゃないかと直感したところで、動機やら最高裁判決を待つ被告人の態度やらの謎の見当がつかないままでは、何も推理できていないのと同じです。実際、嘲笑が響き渡るという印象に残る皮肉なラスト・シーンを生み出す真相は、かなり意外性があります。
ただ、毒を飲まされた被害者が犯人の名前を言う直前に、新聞記者真鍋の目の前で死んでしまうというのは、冒頭の1回だけなら問題ありませんが、2回連続となるとさすがにご都合主義が過ぎますし、クライマックス部分はもう少し効果的に見せられなかったかなという気もします。


No.867 5点 ロック・ビート・マンチェスター
ヴァル・マクダーミド
(2016/04/21 22:46登録)
ジャンル分類に困った作品でした。それも、いろんな要素が詰まっているとか境界線狙いとかいうのではありません。大きく2部に分かれ、第1部は失踪人探しのハードボイルド、第2部は館における殺人事件のフーダニットと、完全に真っ二つに分かれているのです。探偵役のケイト・ブラナガンは、作者自身がパレツキー等を意識したということで、第1部では役にはまっていますが、第2部では今ひとつといったところ。彼女がクリスティーの『牧師館の殺人』を読んでいたり、そのミス・マープルの他、サム・スペード、ジェシカおばさん等の名前も言及される、軽いノリの作品です。ページ数割合は4:6ぐらいなので、一応本格派としました。
ところで、殺人が起こった後早い段階で、状況的に犯人以外こんな質問しないんじゃないかと思ったところがあったのですが、結局その人が犯人だったにもかかわらず、推理にはその伏線は出てきませんでした。


No.866 6点 稲妻に乗れ
ジョン・ラッツ
(2016/04/15 22:45登録)
アロー・ナジャー・シリーズの第4作ですが、読み始めてすぐ、はてなと思いました。三人称形式で書かれているのですが、第1作ではコンチネンタル・オプ由来の一人称形式だったはず…それに依頼される事件のタイプも全然違うし…
で、訳者あとがきを見てみると、そこにもナジャーの人物像が変わったことは書いてありました。だいぶハードボイルドの主役らしくなってきたともされていますが、個人的にはむしろ初期のハードボイルド史上最も臆病な探偵という設定の方が、個性的でいいとも思えるのですが。
しかし、ストーリー展開はかなり意外なところがありました。同じハードボイルド系ならラティマーの『処刑6日前』と似た設定、つまり刑が確定した死刑囚を救おうとする話で、タイトルも電気椅子にかけられることを意味しているのですが、最後は相当ひねっています。まあ人間性からはちょっと無理な気もしますが。


No.865 7点 女王蜂
横溝正史
(2016/04/12 22:03登録)
久々の再読ですが、なかなかよかったという印象は残っていたものの、実際に覚えていたのは中心人物が絶世の美女(女王蜂)であることと、本作最大の謎である「蝙蝠」の意味だけでした。
チェスタトンの某短編のヴァリエーション・トリックはあるものの、他の2つのアイディア、時計の問題と19年前の密室については、犯人が特に意図したところではなかったにもかかわらず、特異な状況が起こってしまったというものです。こういう偶然を利用したタイプの解決を嫌う人もいるかと思いますが、個人的には犯人がややこしい計画をひねくりまわすのよりも好みです。ただ時計の方は途中であっさり明かしてしまっています。
月琴島、伊豆半島、東京と広範囲を舞台とした読みごたえのある作品に仕上がっていますが、途中で気づいたいくつかの伏線が、金田一耕助の推理の中に出てこないのは不満でした。


No.864 5点 青いジャングル
ロス・マクドナルド
(2016/04/06 22:58登録)
ロス・マクの初期長編2作はスパイ小説系でしたが、この第3作は、ギャングに牛耳られる悪徳の町を舞台としたいかにもハードボイルドらしい話であり、その意味では自らのジャンルを確立した記念すべき作品と言えるでしょうか。ただし後のリュウ・アーチャー・シリーズとは違い、第1作の『暗いトンネル』と較べてもどこか安っぽい感じのするタッチです。田中小実昌の訳が最初のページから「あまくやさしくおもえる」「おもったよりもはやく」のように、普通漢字で書くところをひらがな表記にしているのも、その一因ではあるでしょうが。
1947年発表と言えば、スピレインが『裁くのは俺だ』で華々しくデビューした年ですが、正統派よりもそういった通俗ハードボイルドに近い感覚があるように思われます。ただし、思想的には登場人物を通してマルクス主義にむしろ親近感を示しているあたり、スピレインとは正反対です。


No.863 6点 凍える街
アンネ・ホルト
(2016/04/03 22:43登録)
ハンネ・ヴィルヘルムセン警部シリーズの第7作と言っても、翻訳されたのは本作までで4冊だけです。
最後ハンネがどうなったかは、あいまいなままにしてありますが、それは作者自身この後シリーズをどうするか、決めかねていたからではないかと思われます。それにしても、彼女は作中で他の者から批判されるほど一匹狼という感じはしませんでした。自分の考えを述べないのも、自分自身の中でも言葉にできるほど固まっていないからと思えます。メグレ警視が「私は何も考えない」と言うのに近いかもしれません。
読者に伏線を提示しておくタイプの作品ではないにもかかわらず、犯人の人物像はなんとなく予想はできてしまいました。しかしそれより、ところどころに挿入される弁護士未亡人とその息子のエピソードが、事件解決にそれほど決定的な役割を果たしていないところが気になりました。


No.862 7点 ホテル・モーリス
森晶麿
(2016/03/29 21:12登録)
第1回アガサ・クリスティー賞受賞作家による、2013年に発表された本作は、いろいろ意外性に工夫をこらして楽しませてくれるものの、本格派系とは言えません。プロローグとエピローグの間に、第一話から第五話まで並んでいて、それぞれ一応独立した短編になっているのですが、どれも〈鳥獣会〉というギャングがらみの事件なのです。そしてその第五話ではそのギャングの宴会が描かれ、全体を長編的にまとめる形になっています。で、その5編の舞台となっているのが、タイトルのホテル・モーリス。ホテルの支配人に叔父から突然任命された青年である「俺」の一人称形式部分と、三人称形式の部分とをうまく組み合わせていて、なかなか効果を出しています。
「モーリス」というのは有名な『ボレロ』の作曲家ラヴェルのファースト・ネームということで、以前のホテル・オーナーの名前が星野ボレロ。このネーミング、意味があるとは思えませんが。


No.861 6点 白魔
ロジャー・スカーレット
(2016/03/26 15:59登録)
論創社はシムノンの『自由酒場』“Liberty Bar” の新訳版を『紺碧海岸のメグレ』という妙な邦題にしていましたが、一方で、原題 ”Back Bay Murders” の本作に、昔の翻訳と同じほとんど意味不明な邦題を付けるなんて、タイトルに対する感性がよくわかりません。
謎解きはよくできているのですが、他の評者も書かれているように、小説的には稚拙さを感じさせます。巻末解説では、昔の森下雨村のダイジェスト訳を、第5章の終り方を例に挙げて褒めていますが、雨村的な章区切りはカーなどが得意とする手法で、そういった小説技巧や登場人物の描き分けが不足しているのです。
なお、p.58~59に「九時五分に」「九時五分だった」の記述がありますが、これはその後の、それを言った人物の再度の証言からしても、明らかに原文の誤植あるいは誤訳で、「九時五分前」です。矛盾に何か意味があるのかと頭を悩ます必要はありません。


No.860 7点 夜の記憶
トマス・H・クック
(2016/03/21 23:24登録)
今まで読んだクックの日本語タイトルでは「記憶」が付いた3作(死・夜・沼地)の中では、その構成が最も率直にいいと思えた作品です。技巧派好きな人なら『沼地の記憶』を挙げるかもしれませんが。
主役は時代物ミステリ作家で、登場人物表の中にはなんと彼が書いた作中登場人物の名前まで出てきます。50年前に起こった事件の再調査を彼が依頼され、さらに彼自身の子どもの頃の残酷な事件の記憶とからまりながら話が進んでいき、それに漠然とした形ではありますが作中作まで混ざり合ってくる構成は、「記憶」というかひたすら暗い「過去」への徹底的なこだわりを感じさせます。
少しずつ明かされていく彼自身の過去の事件の隠匿部分はすぐ想像がつきますし、依頼される事件も特に驚くような結末ではないのですが、説得力はあります。重々しいじっくり型作品にもかかわらず、意外に読みやすいのも評価できます。


No.859 6点 童話の時代
結城昌治
(2016/03/18 22:42登録)
5編を収録した角川文庫短編集ですが、最後の2編、表題作とその続編『凍った時間』は「優秀な探知能力を内蔵した宇宙衛星が地球を四六時中まわっている」時代(発表された1968年と言えば、アポロ11号が月着陸を果たす前年です)の現実的なスパイ小説です。タイトルの意味は、いわゆる「外套と短剣」的なスパイ時代のことを指しているのですが、皮肉な使われ方がしています。『凍った時間』は、表題作のラスト1段落を受けた作品で、その意味では話が始まる前から結末をネタばらししているとも言えます。
最初の『小指のサリー』は人探しの物語ではあるのですが、ストーリー展開はミステリらしくない、なんとも哀しい結末の作品です。この短編集は実は再読なのですが、最も記憶に残っていたのが『沈む夕日に』の後味の悪いラストでした。逆に『紺の彼方』は全く記憶に残ってなかったのですが、悪くはありません。


No.858 6点 緊急深夜版
ウィリアム・P・マッギヴァーン
(2016/03/12 16:02登録)
マッギヴァーンが若手の新聞記者を主人公にして描いた本作は、海外のジャンルにも社会派があれば、それに投票したい作品でした。まあハードボイルドと言っていいとは思いますが、ハメット等正統派だけでなくスピレイン等にも共通する雰囲気は、それほど感じられません。
市長選挙戦の最中、理想主義の改革派候補が殺人容疑で逮捕される事件で、担当した警部がその容疑を否定する証拠を握りつぶそうとしている状況ですから、黒幕は最初から明らかです。それでもひねりはあって、実は第2の殺人(最初は自殺として処理されますが、ミステリ初心者でも殺人だとすぐ気付くでしょう)が起こった時点で、それならば当然こうなるだろうなと思ったことがあったのですが、やはりそうでした。そしてラストはその点を利用してうまく盛り上げてまとめています。前作『ファイル7』に比べると人物造形が平板という不満もあるのですが。


No.857 7点 ママは何でも知っている
ジェームズ・ヤッフェ
(2016/03/09 23:07登録)
全8編が収録されていますが、そのうち最後の『ママは憶えている』だけは70ページほどの中編です。初出は5編が1952~55年、3編が1966~68年と、間に10年以上の開きがある2つの時期に分かれています。それでもスタイルは変わっていません。法月氏の巻末解説では同じアームチェア・ディテクティヴの例として『隅の老人』や『黒後家蜘蛛の会』、『退職刑事』等を挙げていますが、ボナンザさんも指摘するように、クリスティーの『火曜クラブ』がまず連想されます(nukkamさんが念頭に置いたのもやはりこれじゃないでしょうか)。なんといってもママの推理方法が、身近な人たちとの比較という、ミス・マープル流なのですから。
『ママは賭ける』『ママが泣いた』はどちらも短編らしい意外性では文句がないのですが、犯人の側から殺人計画を考えてみると、疑われる危険度が高いという問題点があるように思いました。


No.856 6点 無垢と罪
岸田るり子
(2016/03/04 22:47登録)
2010年5月から2013年3月までという、長い期間にわたって、しかも掲載誌を途中から代えて発表された作品です。一応連作短編集というか、6編全体でまとまる形のものになっていますが、それぞれ独立した短編として読むと弱いところがあります。最初の『愛と死』(武者小路実篤の同題小説を作中に使っています)は、ありきたりな結末ですし、次の『謎の転校生』は説明不足で最後も今ひとつ釈然としません。次の『嘘と罪』は単体で完結した小説とは言えませんが、『謎の転校生』の説明不足な部分を示していて…
ということで、これは発表形式にもかかわらず、むしろ長編として評価すべきものでしょう。ただ、そうすると『愛と死』と5番目の『幽霊のいる部屋』は本筋とは基本的に別の話であり、他の部分との関連性が薄いと思います。最後に向かってゆるやかに溢れてくる静かな哀しみは、この作者らしい味わいでいいのですが。

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