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ミステリの祭典

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ペトロフ事件
鬼貫警部シリーズ

作家 鮎川哲也
出版日1960年01月
平均点6.00点
書評数16人

No.16 7点 クリスティ再読
(2020/11/08 11:47登録)
評者の父は満州からの引揚者でね、祖父の一家は大連に住んでいた。父が買った「アカシヤの大連」も家にあるので、いい機会だから本作と連続して読んで、かつての自由港で国際都市だった大連を立体的に楽しもうと思う。

大連からの引揚者にとって「ペトロフ事件」と清岡卓行の芥川賞受賞作「アカシヤの大連」は二大「懐かしの大連の小説」で昔から有名だった。同じ大連という都市が舞台で共通の地名が登場するから、「アカシヤ」を読んでは「ペトロフ」の地図を見て位置を確認し...と、こういう楽しみ方もあるものだな。アカシヤの花が甘い香りを漂わせ、放射状の街路が走るレンガの街、大連。日本の租借地で中国人(父は「満人」と呼んでた)も、あるいは「ペトロフ」の中心家族のような白系ロシア人も..といろいろな人種が混住する都市でもある。
鬼貫もロシア語に堪能なことを買われて、この白系ロシア人財産家の殺人事件の捜査に当たる。事件の現場は大連から旅順に向かう途中にある海水浴場の夏家河子。「アカシヤ」にもこの海水浴場の記憶が描かれている。この財産家の老人の三人の甥たちのそれぞれのアリバイを、鬼貫は崩していく。中には文化的な違いがコミュニケーション・ギャップになって成立するアリバイもあれば、鮎哲らしいガチの時刻表アリバイもあり....最後の結末は満鉄が誇る超特急「あじあ」に乗って、ソ連が目と鼻の先の哈爾浜へ。

五分の停車で "あじあ" はふたたび走り出した。むかし海に近かった名残を駅名にとどめる海城をあとにして、製鉄所がある鞍山を発車するころから、時速は百二十キロになって、煙硝のにおいの濃い首山、遼陽を通過すると、渾河を渡って奉天に着くのが14時17分。大連を出て五時間、四百キロの行程であった。

こういう描写が、日本古典の「海道下り」のように旅心を誘う。清岡卓行も土木技師の父が、哈爾浜に単身赴任していたこともあって、夏休みにやはり「あじあ」で満州の大草原を駆け抜けた感動を書いているのが、この読み比べの醍醐味だ。

アリバイ崩しも、アリバイが崩れればそれで終わり、では味気ない。それをまたさらに駆け引きに使った結末の付け方がナイス。時刻表アリバイって、ある意味「誰にでも客観的に解ける」トリックのわけだから、単に「こう乗り換えれば、できる」じゃ、意味がない。このトリックを更に使って...と、処女作でもさらに踏み込んでいるのが、さすがに感じる。
処女作らしい覇気と新鮮さを備えた作品なのだけど、やはりそれを支えたのは大連という街に対する鮎川の愛着と追憶であることは間違いなかろう。「アカシヤの大連」ではこの街をこのように哀惜する。

五月の半ばを過ぎた頃、南山麓の歩道のあちこちに植えられている並木のアカシヤは、一斉に花を開いた。すると、町全体に、あの悩ましく甘美な匂い、あの純潔のうちに疼く欲望のような、あるいは、逸楽のうちに回想される清らかな夢のような、どこかしら寂しげな匂いが、いっぱいに溢れたのであった。

評者の父も育った大連をどのように追憶したのだろうか。

No.15 7点
(2017/07/11 11:26登録)
鮎川の処女長編です。

時刻表の小さい数字を追いながらの読書はスローテンポになります。
いまなら、時刻表アリバイトリックなんて古めかしすぎるし、面倒くさいしで、嫌がられそうですが、この精緻さは芸術品クラスです。
現代の隙がなく完璧な?推理作家でも、鮎川を読めば脱帽するはずです。

本格ミステリーとしては、少人数の容疑者たちを挙げ、そこから犯人を導き出す方式で、どちらかといえば短編ミステリーの設定です。でも、そんなシンプルさがかえってアリバイ崩しの楽しさを際立たせているようにも思います。
事件も、トリックも、容疑者もすべて小ぶりですが、測量ボーイさんが書かれているように、本書は推理過程を楽しむためのミステリーなのですね。
そして、極めつけはどんでん返しです。
時刻表を使った精緻なトリックはたしかにすばらしいが、作者の自己満足ともとられかねません。でも、それだけじゃあないぞ、と最後にビシっと決めてくれる。これぞ上級ミステリーです。

No.14 5点 あびびび
(2016/10/15 23:40登録)
終戦後、大連から日本に帰ったーという話はよく聞いた。悲惨な戦争後であり、しかも何十年前の中国だから、街も生活も悲惨だったのでは?と言う上から目線は間違いだった。挿入された地図や、街並みを見ると、パラダイスのように見えるし、魅力的だったから、思わずグーグルの地図を見た。今でも、素晴らしい海岸線が広がっているようである。

それはともかく、その中国でロシア人の殺人事件…。最初は凄く混乱した。容疑者はペトロフばかりで、区別もつきにくかった。読むうちに、なぜロシア人がたくさん住んでいたのかは歴史的背景で分かり、事件の内容もだんだん把握できた。

しかし、やはりデキとしてはイマイチのような感じを受ける。どんでん返しの犯人も、容疑者の少なさから、驚きはなかった。

No.13 7点 青い車
(2016/08/02 23:59登録)
 鬼貫警部はホームズ、金田一などと比べエキセントリックさに欠け、堅実な捜査と思考が強みの紳士型刑事。そのため読者によってはアクがなくつまらないキャラクターと取られることもあるようです。けど、言葉の節々から見られる人間性の温かみには親しみが持て、僕は星影龍三よりずっと好んでいます。この『ペトロフ事件』は満州にいた少し若い頃の彼が見られる貴重な作品です。
 内容に関して触れると、プロットはこの時代にしてはかなりよくできています。容疑者となる三人の甥のアリバイ調べから始まり、一人のアリバイを崩したかと思えばそれは別の一人をかばうためで、その人物の犯行も否定され、残る一人はもっとも強固なアリバイに守られていて……。ストーリー構成がすばらしく、かつ複雑すぎず適度に利いたひねりで楽しませてくれます。
 ごく普通の鉄道トリックかと思いきや、意外と単純なところに真相があり、最後の展開にも気が抜けません。書かれた当時の満州の雰囲気も楽しめるし、短くサクッと読めるのもいいです。

No.12 7点
(2016/07/09 15:50登録)
作者が子ども時代を過ごした戦前の満州を舞台としたこの長編第1作は、最初本名の中川透名義だったそうですが、現在読めるのはその後かなり改稿したもののようです。3人の容疑者全員にアリバイがあり、それらを次々に崩していく趣向は、参考にしたというクロフツの『ポンスン事件』との共通点を確かに感じさせます。
3人目の時刻表利用は作者の得意とするところです(というより本作がその第1弾)が、1人目と2人目のアリバイの絡み合い具合もなかなかうまくできていると思いました。角川文庫版で230ページ程度という短さの中に、それだけのトリックをつめこんでいるのもたいしたものですが、さらに満州の雰囲気もよく出ていますし、戦争批判を鬼貫と容疑者の一人とが語り合う(日露戦争を話題にしているのですが、)ところが書かれた時代の重みを感じさせるなど、小説としてもかなり充実した内容になっています。

No.11 7点 人並由真
(2016/05/25 20:34登録)
(ネタバレなし)
 少し前の、今年のゴールデンウイーク中に読んだ作品のひとつ。大昔に購入してそのままにしておいた角川文庫版を手に取り、一念発起して読了。

 横溝(というか金田一もの)の『本陣』に相応するポジションの、鬼貫青年編。後続の代表作群とは微妙にキャラクターの違う若やいだ名探偵像がほほえましい。
 肝心のアリバイトリックは3人の容疑者の行動の軌跡、証言などのメモを取り、本文中の時刻表を睨みながら対応。とはいえ結局は最後には、ややこしくなってきた××××部分は、作者の叙述のままに読み進めてしまった(笑)。
 これはこれで当時としては考えられた鉄道トリックだったんだろうな…と思いながら終盤の展開に向かうと、あのどんでん返し! いや、作者が本当に初期の黎明期から、何をもってミステリのサプライズとするか、喜びとするか、それを十二分に心得ていたことがよくわかり、胸を打たれた。まさに栴檀は双葉より芳し、である。
 じっくりとロジックとトリック、伏線を組み上げながら、それだけで終わらせないミステリ作家としての心を持っていたことに重ねて感銘する。
 
 なお本作は、旅順や満州などの異国描写も短い紙幅のなかで詩情豊かに綴られ、その点も素晴らしい。一度読んだほかの鮎川作品もまた読んでみたくなった。

No.10 8点 斎藤警部
(2015/06/01 15:05登録)
(ネタバレ的なもの含む) 著者は本作をポンスン事件(クロフツ)を下敷きに書いたと公言していますが、題名付けはともかく、登場人物の家族関係、容疑者を絞り込む過程など、本家とは似てまた異なる趣向で勝負しています。その最たるものが、結末の、アリバイ興味で引っ張っておきながらのどんでん返し。クロフツがそう来るなら鮎川(中川?)はこう行くぜという負けん気が浮かび上がる。

No.9 7点 ボナンザ
(2014/04/07 02:01登録)
鬼貫警部の大陸時代の事件簿。習作とよぶにはあまりにも完成度の高い佳作です。

No.8 6点 りゅう
(2010/02/28 15:56登録)
 犯人とおぼしき人物が3人登場するが、ストーリーの中頃ではほぼ1人に絞られる。その人物のタイムテーブルを作って、時刻表と突合わせることにより、鬼貫警部が途中で披露した推理と同じ結果に容易にたどりついた。しかし、この作品には最後に一ひねりがあった。この一ひねりがあったので評価が上がった。

No.7 5点 E
(2009/05/24 15:34登録)
自分が時刻表トリック苦手なので殆どサッパリでした。
自分がしっかり整理しながら読めばきっと面白かった・・思います。

No.6 5点 江守森江
(2009/05/23 23:09登録)
黒いトランク等の著者の代表作を読む前に読まないと物足りなさを感じる。
時刻表トリックは現代なら乗換サイトで検索したら一発で出てきそうなレベルで残念。

No.5 8点 測量ボ-イ
(2009/05/23 09:29登録)
時刻表トリック自体は平凡ながらも、それを考える(推理
する)過程が楽しめる作品。例のごとく、時刻表嫌いの方
には勧められませんが。
内容自体は7点レベルも、舞台となる大連(ロシア風町並
みである中国の都市)の異国情緒が鮮やかに書かれている
ので+1点とします。

No.4 4点 ウィン
(2008/01/12 21:04登録)
アリバイトリックものは苦手であり時刻表まで絡むとついていけない。
ただラストを知ると、ただのアリバイトリックものではなかったことに気づき、さすが鮎川氏!と恐れ入る。
しかしラストに至るまでのアリバイ崩しに疲れた。

No.3 6点 ギザじゅう
(2003/02/28 12:41登録)
普通の時刻表トリック。
どちらかというとサブトリックのほうが面白かったかな。
舞台が満州というのは変わってるなぁ。

No.2 2点 jyungin
(2001/09/21 21:53登録)
本格の系譜にある表現の稚拙さはこのころからあるんだ。今から読むとメインのトリックはすぐばれるし、小説としてのおもしろさにも欠ける。

No.1 5点 tenkyu
(2001/07/20 01:49登録)
最後のちょっと前迄はとても面白かった。
あの結末は、アリバイトリックものとして、どうなんだろうか?

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