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ミステリの祭典

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分解された男
別題『破壊された男』

作家 アルフレッド・ベスター
出版日1965年01月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 7点 クリスティ再読
(2024/02/09 19:08登録)
本作って犯人と探偵が直接渡り合う「倒叙ミステリ」の良さがある。
評者コロンボ見ていても、犯人を応援するタイプなんだ。しかも心を読むエスパーが監視カメラのようにそこら中にいて、計画殺人が79年間も成功しなくなった未来の設定である。この困難な状況で計画殺人に挑んだ男のSFミステリだ。応援しなくて、どうする?

エスパーによる監視をかいくぐる秘策やら、凶器の謎やらアイデア十分なトリックがあり、さらにはホワイダニットも最後の方まで引っ張ったりする。しっかりした倒叙ミステリだと思うよ。でさらに、この犯人が妙にかっこいい。「虎よ、虎よ!」の主人公ガリヴァー・フォイルの精神的な血族と言っていいくらいに「熱い」んだね。しかしこの「熱」を覆い隠すハードな自我の殻「自分だけの面目と道徳」があり、まさにハードボイルド・ヒーローという感覚。主人公で犯人は巨大星間コンツェルンの主ベン・ライク、ガリヴァー的な精神的巨人でもある。

でもね「虎よ、虎よ!」ほどの評価ではないのは、最終盤にこの「ガリヴァー的な巨人さ」が、誇大妄想的な安さを覗かせるあたりで、「虎よ、虎よ!」が破綻しながらもうまく回避できているのと比べると、贔屓した分だけガッカリ感も出る。妙なフロイディズムも評者は興ざめだな。

うんだけど、本当にアイデアの宝箱みたいな作品だと思う。ミステリ読者が読むべきSFの一つなのは間違いない。

No.2 7点 虫暮部
(2020/08/27 14:04登録)
 完成度とか整合性とかに固執しなければ、大味ながらSFとミステリがそれなりに上手く融合しているのでは。テレパシーで情報を送る場面は、今読むとそのままデジタル技術みたい。弾丸のトリックは苦笑しつつも好み。ラスト前に垣間見る孤独な世界は本気で怖い。

No.1 7点
(2016/07/05 00:01登録)
現代ハードSFの父とも呼ばれるヒューゴー・ガーンズバックにちなんで名づけられたヒューゴー賞の、第1回(1953)受賞作です。かなり以前にそんな評判になったSFとして読んだことのある本作ですが、今回再読してみると、むしろミステリ要素の方が強い作品だと感じました。確かにSFだからこそ効果的な文章スタイルは当時としては斬新だったでしょうが、SFとしての内容はさほど革新的とも思えません。テーマ的にはむしろ古典中の古典と言えます。
ではミステリとしてはというと、本作はアシモフやホーガンのような謎解き系ではありません。テーマに関わる謎はありますが、すぐ見当がつくようなものです。それよりもテレパシーを持つエスパーたちが犯罪を防止・捜査する未来社会で、ライバル会社社長の殺人を企てた人物の視点を中心に描かれた犯罪心理サスペンスとして、その斬新な文章があればこその迫力を出しているのが魅力です。

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