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ミステリの祭典

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影の護衛
マクシム少佐

作家 ギャビン・ライアル
出版日1981年06月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 クリスティ再読
(2019/03/03 22:14登録)
本というのは値段が高いから面白い、なんてことは絶対にないのが良いところなのだが、そう考えてみたら、古本屋の百均棚に並ぶ本で面白いのを掘るのは、ちょいとしたレア・グルーヴ掘りみたいなもので、当サイト的にみてホントは意義があるのでは....なんてことも考えるのだ。そうしてみたときに、70年台~80年台ポケミスって、いいものだ。訳文もそう古臭くないし、洒落たものも多く、翻訳だから最低レベルの確保はあるし....で、しかも当時よく売れた本が多くて、タマ数が豊富なせいで古本屋価格は値崩れしている。いいじゃないか。ミステリのレア・グルーヴだと思って掘っていこうか。
で、ライアルの本書。マクシム少佐シリーズの第1作。妻をなくしたばかりの現役の軍人だが、ホワイトホールの保安職員として出向したマクシム少佐が主人公。出世街道からは外れぎみだが、特殊空挺部隊のSASにいた経歴の肉体派である。男臭さがムンムンする。お目付け役の首相補佐官ハービンガーと、MI5との連絡係のアグネスと連携して動く、首相直属の私立探偵みたいなポジションである。まあだから、あまり表立っての派手な事件で動くわけじゃなくて、差し障りが多く微妙な案件を内密に....というあたりの担当になる。
今回の中心人物は核戦略の大家である軍事学者タイラー教授。この教授が提唱する方針をNATO諸国の核戦略会議での、英国の切り札にしようとしている大事な時期に、教授の周辺で奇妙な爆弾騒ぎがあり、教授の秘密を巡る駆け引きがあるらしい...マクシム少佐は教授の護衛を申し付けられる。
というあたりが発端。チェコの女スパイの亡命騒ぎにもこの教授の名前が出るし、自殺した国防次官補の妻が教授の秘密を暴露した手紙をもっているらしい...となると、KGBも絡んで途端にキナ臭い話になってくる。マクシム少佐が体を張る場面はあるが、あっさりしていてそう引きずらない。それよりも雰囲気が陰鬱で、どうもすっきりしない。
でしかも、この教授の戦争中の行動にはばかられることがあるんだけども、

われわれがもっている中で、あなたが最高の武器だということだ、教授。あなたを守ることがわたしの仕事だ。わたしがやるのはそれだけだ

とマクシム少佐は軍人らしく割り切るのだが....けどこの割り切りもどうもすっきりしないし、結末もすっきりしない。ううん、困った。どうもモヤモヤとし過ぎる作品だ。

No.1 6点
(2016/07/19 22:50登録)
原題は “The Secret Servant”。明らかに secret service を思わせる言葉ですが、servant は公務員の意味。1980年に発表されたライアル8作目の本作は、前作『裏切りの国』以来5年ぶりに書かれた作品です。かなり寡作な作家であることは間違いありませんが、これほど間をおいたのはこれが初めてです。
それまで毎回主人公を変えていた作者が、マクシム少佐のシリーズを開始したということでも、注目すべき作品と言えるでしょう。作者初のスパイ小説とも言われ、確かにスパイも登場しますが、読み終えてみるとちょっとどうかなという気もしました。さらにこれまた作者として初めてなのが、三人称形式で書いた小説だということだそうです。実際のところ本作は一人称形式では無理なところがあります。 その無理な代表的部分が、第二次大戦中のアフリカでの戦争小説的部分です。この部分の迫力が最も印象的でした。

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