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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1521件

プロフィール| 書評

No.1001 6点 ハリウッド警察特務隊
ジョゼフ・ウォンボー
(2017/12/25 21:58登録)
原題は “Hollywood Crows”。「鴉」って何だと思われそうですが、市警の一部局であるCRO(地域防犯調停局:Community Relation’s Office)所属の警察官を指すことが、作中で説明されています。生活環境に関する苦情等に対処する部門であり、「特務隊」というハードそうな語感とは全然違います。ただしCROメンバーだけの話ではありません。
『ハリウッド警察25時』の続編で、2人のサーファー警察官や、俳優になる夢を持ち続けていてCRO配属になった警察官など、前作の登場人物たちが再度活躍します。巻頭に、「警官話」を提供してくれた50人以上のロサンジェルス、サンディエゴ市警の警察官に対する謝辞があり、それらの人々から聞いたエピソードを多数入れているのだろうなと推測されるモジュラー型です。その中にメインの事件を犯人の視点も含めて配しているのは、前作と同じですが、前作に比べると多少落ちるかなという感じでした。


No.1000 8点 縞模様の霊柩車
ロス・マクドナルド
(2017/12/21 19:27登録)
最初に読んだロス・マクが本作で、本当に久しぶりの再読です。初読当時は、特にラストのリュウと犯人との対話と、その後歩き始める「水の涸れた川床のような道」の情景に圧倒的な感銘を受けたものでした。
今回読み直してみると、事件の構成は意外にシンプルだと思いました。前後の作品のような大胆なアイディアもありません。まあ真相を知っているため、様々な出来事の裏の意味がわかるからというところもあるのでしょうが。それでも自然な形での結末の意外性は充分にあり、ミスディレクションも効いています。最初の方で出て来る縞模様の霊柩車が、ただ象徴的な意味を持つだけでなく、重要な手がかりを提供することになるのも、うまくできています。そしてストレートに突き刺さって来るアメリカの「家庭の悲劇」。
リュウが頭を枝から下がったマンゴーにぶつける場面などユーモラスなところも記憶に残っていました。


No.999 7点 塙侯爵一家
横溝正史
(2017/12/17 23:17登録)
読んだ角川文庫版には、戦前の中編が2編収録されています。
1932年7月から雑誌「新青年」に連載された表題作については、作者自身「何か本当のものを書きたい」という意気込みを予告の中で述べているぐらいで、確かにスケールの大きな気合の入った作品になっています。同年5月に犬養首相暗殺事件が起こった時代背景も取り入れられていて、クーデター的なことを企む組織の幹部の一人である畔沢大佐が、主人公を傀儡として使おうしている中、塙(ばん)侯爵殺人事件が起こる話です。とは言え、そこは横正、組織の政治的立場等については一切触れていません。組織の計画のどんでん返しより、殺人事件の犯人の意外性に驚かされます。論理的な穴はいろいろありますが、楽しめました。
女性雑誌に発表された『孔雀夫人』は、真相はわかりやすいですし、ラストはご都合主義ですが、すっきりまとまったサスペンスものになっていました。


No.998 6点 影と陰
イアン・ランキン
(2017/12/12 23:37登録)
リーバス警部シリーズ第2作―というより、『紐と十字架』の時はまだ部長刑事でしたし個人的な面の強い事件でもあったので、本作こそ後につながる本当の意味での第1作と言ってもいいでしょう。それにしても、そんなシリーズ化開始作から、作者はエジンバラの影の部分、有力者たちの秘密に大鉈をふるってくれます。そして後味のかなり悪い終わり方。国内作家であれば社会派に分類してもいいようなテーマですが、リーバス警部の孤独な個性の故もあり、全体的に粘つくような暗い雰囲気が漂っています。
巻頭と各章頭に『ジーキル博士とハイド氏』からの引用を置き、さらにリーバスが同書を再読中だとか、途中でハイドという名前の人物のことが出てきたり、その上脇役登場人物名を同じにするなど、執拗なまでの関連付けをしています。しかしアイディア、プロットについては『紐と十字架』の方がスティーヴンソンとの共通点がありました。


No.997 7点 消しゴム
アラン・ロブ=グリエ
(2017/12/08 22:58登録)
「難解」「散文詩的」等と評されがちなロブ=グリエですが、後の『覗くひと』や『迷路のなかで』に比べると、確かに新訳だからということも多少あるでしょうが、このデビュー作は非常に読みやすく、そのことに驚かされました。複雑緻密な文章による執拗な反復の中に閉じ込められたような気がするのを覚悟していたのですが、様々な人物の視点を次々切り替えながらどんどん話が進んでいき、とりあえずは普通におもしろいのです。反復性は、捜査官ヴァラスが特別な消しゴムを買おうとすることぐらい。この程度の難解さならカフカや安部公房並みで、普通のミステリ・ファンにも一応お勧めできます。
偶然を重ねたシニカルな結末にしても、巻末解説に安部公房の『燃えつきた地図』を引き合いに出して述べられている「謎解きを宙づりにする謎解きミステリー」パターンではなく、驚くほどまともです。まあ全然解決のついていない細部はいろいろありますけれど。


No.996 5点 山陰殺人事件
津村秀介
(2017/12/03 15:36登録)
ルポライター浦上伸介シリーズ第1作だそうで、確かに彼はジャーナリストとしての腕はあっても、探偵役としてはまだ不慣れでもたついた感じがします。
タイトルの山陰が話に出てくるのは6割を過ぎてからです。最初に事件が起こるのは横浜で、2件の強姦未遂に続いて強姦殺人が2件、簡潔に紹介されます。その容疑者と見られる男が鳥取で殺されることになるという展開で、さらに浦上伸介がその記事を書きたがっている岡山の暴力団事件と、強姦殺人が関連してくることになります(このことは、早い段階で読者にだけは明かされるのですが、この事前説明はない方がいいでしょう)。そのようなプロットが本作の読みどころになっています。アリバイ崩し中心のものが多い作家ですが、本作ではアリバイは添え物です。『点と線』の時代じゃないんだから、すぐわかるでしょうというレベルで、時刻表に隠された列車や飛行機の意外な使い方もありません。


No.995 6点 ニューオーリンズの葬送
ジュリー・スミス
(2017/11/29 23:57登録)
1991年度エドガー賞を受賞した大作です。最初の方の「幕間」の章では、舞台となる都市名の発音についていろいろ書かれていて、そんな「街」を描いた小説としても高く評価されたのかもしれません。
基本的には交通巡査のスキップ・ラングドンが被害者家族の知り合いだったため殺人事件の捜査に抜擢されて活躍する警察小説です。しかしそんな特殊状況のせいもあり、警察組織の中でも孤立したこのヒロインは、むしろハードボイルド系のヴィクやキンジーに近いものを感じさせます。ただスキップの新人らしい戸惑い、感情の起伏が激しくひがみっぽい性格の強調には少々うんざりさせられました。
事件の真相も、ロス・マクに通じるような悲劇なのですが、事件関係者たちの内面をネタバレにならないように制御しながらもじっくり描いた展開になっています。その描き方が本当に効果的だったか、疑問ではありますが。


No.994 8点 コンチネンタル・オプの事件簿
ダシール・ハメット
(2017/11/25 13:34登録)
創元推理文庫のコンチネンタル・オプ・シリーズを集めた『フェアウェルの殺人』と共通するのは、『放火罪および…』だけ。で創元の方が謎解き要素の高いものが多かったのに対して、こちらは中心となるのが2種類の2編の連作で、どちらもまさにハードボイルドって感じです。いや、『血の報酬第一部 でぶの大女』のとんでもなく派手な銀行強盗は、ここまでくるとハードボイルドの範疇から逸脱してしまっているかもしれません。しかしやはり文句なしにおもしろい。第二部の『小柄な老人』の最後に、コンチネンタル・オプが「おれはパパドパロス(作中の協力者を次々に始末する悪役)と同類さ」と言うのには納得。
異色短編とされる『ジェフリー・メインの死』も、こんな粋な解決をつけるタイプがあってもちっともおかしくないと思えます。シリーズ最終作『死の会社』は事件の基本的な部分は明らかですが、うまくまとめてくれていて、これも悪くありません。


No.993 5点 二万パーセントのアリバイ
越谷友華
(2017/11/21 23:03登録)
第12回(2013年)「このミス」大賞応募時には『生き霊』のタイトルで、その段階では刑務所に服役中でアリバイを持つ男の生霊が殺人を起こしたように見せる演出がされていたそうです。その後大幅に改稿された上で出版されているので、印象はかなり変わっているのでしょう。
その印象ですが、ジャンル分けの難しい作品になっています。小児殺人事件の現場付近にあったティッシュに付いていた精液のDNAが、16年前に起こった全く同じ手口の殺人事件犯人として服役中の男のもので、その時も同じように精液が決め手になっていたという、提出された謎はおもしろいのです。しかしなぜ全く同じ手口で不可能犯罪を演出したのかという、パズラーなら非常に重要な部分が、犯人の殺人動機に一応結びついてはいるものの説得力がありません。またアリバイトリックも、どうということはないものです。
一方、服役中の男たちを描いた部分は実に楽しく読ませてくれる作品でした。


No.992 6点 そして殺人の幕が上がる
ジェーン・デンティンガー
(2017/11/17 22:20登録)
本作でデビューしたデンティンガーは女優でもあるそうです。
被害者の女優は「演劇界の鼻つまみ」と紹介されていますが、実際に読んでみるとそれほどとも思えませんでした。もっとわがままな性格なのかと思っていたのですが、むしろ知名度ほどの実力がない女優として描かれています。
謎解き的には完全にフーダニット・タイプですが、段ボール箱の配達人の話が出た瞬間に、だったら最も怪しいのはこの人物だと予想できてしまいました。また最重要手がかりについては、なぜそれがそこにあったのか殺人が起こる前から疑問に思っていたのですが、説明が全くできていません。それでもこの評価なのは、さすがに舞台となる演劇界の状況の描き方に説得力があり、おもしろくできているからです。
なお主人公は登場人物表では「ジョスリン(ジョシュ)・オルーク……わたし。女優」となっていますが、三人称形式で書かれた小説です。


No.991 6点 マイケル・シェーン登場
ブレット・ハリデイ
(2017/11/12 10:25登録)
まるでシリーズ第1作みたいなタイトルですが、たぶん第18作です。原題は "This is it, Michael Shayne" で、「まさにこれだ」ということですが、何のことだかわかりません。
巻末解説ではハリデイとガードナーと売上を比較したりもしていますが、タイプ的にも、かなり謎解き要素が高く、また文学性ではなくエンタテインメントに徹していること等、なんとなくペリー・メイスン・シリーズと近い感じもします。さらにシェーンがハードボイルドでは珍しく全国的に有名な私立探偵という設定も、メイスンと共通するものです。
真相については、第2の殺人が起こる少し前に、これはどうしてもこうならざるを得ないなとは思ったのですが、予想以上に細かいところまでうまく辻褄を合わせてまとめてくれていました。結末の意外性はガードナーほどではありませんが、論理的整合性では、むしろ上かもしれません。


No.990 5点 分離の時間
松本清張
(2017/11/08 18:27登録)
「黒の図説」シリーズ第1・2作として週刊誌に発表された作品を収録していますが、本では順番を逆にしています。ただし『黒の画集』みたいな短編集ではないので、シリーズとする必要もないと思うのですが。
表題作は量的に『点と線』と大して変わらない短い長編。松本清張らしい、民間人が偶然に遭遇したことから疑惑を感じて、殺人事件の調査をすることになる、という展開です。友人の雑誌記者の方が結局名探偵役を果たすことになるのも、作者らしいところ。政治家と企業トップとの癒着糾弾よりもむしろ同性愛をテーマにしているのは清張としては珍しいでしょうが、全体的にはまあ無難にまとめたという感じでした。
中編『速力の告発』は速力に対する告発の意味で、自動車産業の無責任さに対する、斎藤警部さんも書かれているようにまさにストレートな批判ですが、最後に突然ミステリになるところは落差がありすぎと思えました。


No.989 5点 知りすぎた男
G・K・チェスタトン
(2017/11/04 19:03登録)
『ブラウン神父の知恵』の後1926年に『不信』で「ブラウン神父の復活」を果たす前、1922年に発表された短編集。タイトルについては、名探偵役のホーン・フィッシャーが第1作『標的の顔』の中で「いろいろ知りすぎていてね。そこがわたしの問題点なんですよ。」と言っています。
作者が作者ですから、文章が難解なのは当然とも言えますが、本短編集はブラウン神父シリーズ以上にわかりにくいものになっています。ブラウン神父がキリスト教という普遍的哲学を基本にしているのに対して、フィッシャーはイギリスの首相や閣僚たちとも親戚関係にあるような人物で、当時の政治的な主題が背景にあるのも一因でしょう。また、全般的に登場人物が無駄に多いように感じました。シリーズ最終作『像の復讐』については、チェスタトンもこの手は使っていたんですね。
シリーズ外の最後の2編の方が、シンプルにまとまった読みやすい作品になっていました。


No.988 6点 コパーヘッド
ウィリアム・カッツ
(2017/10/30 23:37登録)
『恐怖の誕生パーティ』等のサイコ・サスペンスが知られるカッツの作品だからでしょうか、創元推理文庫では猫マークに分類されていますが、これはSF的設定を取り入れたポリティカル・アクション(戦争)・スリラーです。1982年作品で、BRAVOと名付けられている放射能無力化兵器の開発最終段階にあるアメリカに脅威を感じたソ連が、ボストンにあるその新兵器開発所を核爆弾で破壊しようという計画のド派手ストーリーなのですから。そもそも物理的に無理なこの「新兵器」、存在すればむしろ平和的利用にこそ有効なはずです。
コパーヘッドとは、その計画実行飛行機が搭載する、世界一の性能を誇るソ連製ミサイルのことです。最後にアメリカ側が講じた手段も無茶ですが、ソ連機がなぜそれに気づかなかったのかも不明。
そんなわけで穴だらけの荒唐無稽プロットではありますが、途中の展開は迫力があり楽しめました。


No.987 6点 伯林-一八八八年
海渡英祐
(2017/10/26 19:54登録)
森鴎外は軍医でもあっただけに、ミステリには合いますね。というか本作の時代設定ではまだ医学のための留学中で、自分自身作家になるなどとは思っていなかったはずです。『舞姫』のモデルになったエリスも、殺人事件にこそ関与しませんが登場します。ミステリからは離れますが、彼女に対する林太郎の感情がなかなかおもしろいと思いました。
事件全体の構造から考えると、こんな複雑なことをする必要があるとは思えませんでした。また細かいことを言えば、鍵穴に布を詰めた理由は死体発見に至る流れから見て、やはり弱いと思います。それと関連しますが、19世紀末とは言え、医者が発見直後の死体を一応検めているのですから、トリックの重要部分にはその時点で気づくのではないでしょうか。
なお、読んだ講談社文庫版の巻末解説で中島河太郎氏、さりげなく真犯人について完全ネタばらしをやってくれています。ここはもっとあいまいな書き方ができたでしょう。


No.986 7点 目覚めない女
フランセス・ファイフィールド
(2017/10/21 11:22登録)
公訴官弁護士ヘレン・ウェスト・シリーズ第3作は1991年度シルバー・ダガー賞受賞作です。
訳者あとがきではハウダニットに重点が置かれていると書かれていますが、毒殺トリックとしてはどうということもありません。実際、半分にも達しない段階で、殺害方法は解明されてしまいます。ただ麻酔医が、クロロフォルムの特性から考えて事故ではありえないことを証明するところだけは、なるほどと思わせられました。体内から検出されたのが致死量に達していない点の説明はあまり明確ではありませんが。
しかしそんな謎解きより、この作者らしい細かな視点の切り替えによるサスペンスの盛り上げが見どころです。犯人の側から描いた部分もかなりありますが、事件そのものに関する内面描写はプロローグと最後の方だけにしているのも効果的です。それにしても本作の事件関係者たち、まともじゃないなあ。


No.985 6点 俺のなかの殺し屋
ミッキー・スピレイン
(2017/10/17 22:34登録)
表題作および『孤独の男』の長めの中編2編が収録されています。
表題作の語り手スカンロンは警部補で、自分が生まれ育った地区で起こった連続殺人の捜査をすることになります。しかし主役が警察官でも警察小説っぽい感じはありません。この作者らしく、いやマイク・ハマーもの以上に、街の雰囲気や住人たちの描き方等まさにハードボイルドです。プロローグにクライマックス直前のシーンを持ってきていて、「わたしは自分自身を殺さねばならないのだ」なんて思わせぶりな表現も出てきます。犯人の意外性はマニアックな本格派作家が考えそうなものですが、伏線不足なのが残念なところ。
もう1編『孤独の男』は、罠にかかって殺人罪で裁判にかけられ、それでもなんとか無罪を勝ち取った元刑事の話です。真相は表題作とは逆にすぐに予想のつくものですが、スピレインらしいハードなおもしろさはさすがでした。


No.984 5点 バイリンガル
高林さわ
(2017/10/13 23:31登録)
2012年第5回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
第一章は東京で始まりますが、事件の舞台は約30年前のアメリカです。メインの誘拐事件に殺人も加わる展開で、謎解きの捜査や推理よりもサスペンス中心の作風です。その中に、主に小児に起こる発音間違いの「構音障害」を謎解き要素として取り入れていて、この症例については知らないのですが、なかなか楽しめました。ダイイング・メッセージもありますが、これは不要ですね。
第五章のあるセリフの伏線があまりに露骨なのは気になりましたし、第六章での唐突なネタバレセリフにも唖然とさせられました。ただし後者の方は、巻末の選考評によれば受賞後、島田荘司の勧めにより作品構造自体に手を入れたそうなので、その時の削除忘れと思われます。このどんでん返し狙いの改稿により、最初聡子がニーナを避けたがった理由がほとんどなくなってしまっている点が、かえって不満でした。


No.983 6点 魔のプール
ロス・マクドナルド
(2017/10/08 22:34登録)
リュウ・アーチャー・シリーズ第2作は、ほとんど最後近くまでは前作以上に通俗ハードボイルドっぽい派手なストーリー展開の作品でした。特に閉じ込められた部屋からリュウが脱出するシーンは壮観です。本作は『新・動く標的』のタイトルで映画化されたそうで、未見ですが、確かに映像化すると迫力がありそうです。文章の方では、すでに情景描写には、さすがロス・マクと思わせる表現も多少見受けられますが、ウィットに富んだ会話には欠けます。
ただ最終の第25章だけは、それまでの通俗的はったりとは全く異質なものになっています。次作『人の死に行く道』以降の作品にもつながるような犯人の告白も渋くていいのですが、それよりもその後にある「何の役にも立たない喧嘩」のシーンにけっこう感動してしまいました。この最終章における落差をどう捉えるかは人それぞれでしょうが、個人的には一応評価1点アップ。


No.982 7点 冬そして夜
S・J・ローザン
(2017/10/04 22:45登録)
今回はビル・スミスの一人称形式で書かれたシリーズ第8作で、2003年度エドガー賞受賞作品です。
タイトルは、冒頭に引用されたウィリアム・ブレイクの詩『乳母の歌』の「お前たちの冬と夜は、虚偽のなかで空費される」という部分から採られています。虚偽…巻末解説の中でも触れられているように、マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』でも取り上げられた実際の事件に触発された作品であることは間違いありませんが、ローザンの視点は、いじめを黙認どころか助長するコミュニティに向けられ、高校アメフト部員をかばうための町ぐるみと言ってもよい虚偽が大事件の根幹にあることを指摘します。事件の一部は解決されないままで、今後に不安を残す幕切れとなっているのも、全面的解決の困難さを示しているのでしょう。
ビルの両親や妹の家族のことが初めて語られる(リディアに対してさえ)作品でもあります。

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