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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.985 6点 俺のなかの殺し屋
ミッキー・スピレイン
(2017/10/17 22:34登録)
表題作および『孤独の男』の長めの中編2編が収録されています。
表題作の語り手スカンロンは警部補で、自分が生まれ育った地区で起こった連続殺人の捜査をすることになります。しかし主役が警察官でも警察小説っぽい感じはありません。この作者らしく、いやマイク・ハマーもの以上に、街の雰囲気や住人たちの描き方等まさにハードボイルドです。プロローグにクライマックス直前のシーンを持ってきていて、「わたしは自分自身を殺さねばならないのだ」なんて思わせぶりな表現も出てきます。犯人の意外性はマニアックな本格派作家が考えそうなものですが、伏線不足なのが残念なところ。
もう1編『孤独の男』は、罠にかかって殺人罪で裁判にかけられ、それでもなんとか無罪を勝ち取った元刑事の話です。真相は表題作とは逆にすぐに予想のつくものですが、スピレインらしいハードなおもしろさはさすがでした。


No.984 5点 バイリンガル
高林さわ
(2017/10/13 23:31登録)
2012年第5回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
第一章は東京で始まりますが、事件の舞台は約30年前のアメリカです。メインの誘拐事件に殺人も加わる展開で、謎解きの捜査や推理よりもサスペンス中心の作風です。その中に、主に小児に起こる発音間違いの「構音障害」を謎解き要素として取り入れていて、この症例については知らないのですが、なかなか楽しめました。ダイイング・メッセージもありますが、これは不要ですね。
第五章のあるセリフの伏線があまりに露骨なのは気になりましたし、第六章での唐突なネタバレセリフにも唖然とさせられました。ただし後者の方は、巻末の選考評によれば受賞後、島田荘司の勧めにより作品構造自体に手を入れたそうなので、その時の削除忘れと思われます。このどんでん返し狙いの改稿により、最初聡子がニーナを避けたがった理由がほとんどなくなってしまっている点が、かえって不満でした。


No.983 6点 魔のプール
ロス・マクドナルド
(2017/10/08 22:34登録)
リュウ・アーチャー・シリーズ第2作は、ほとんど最後近くまでは前作以上に通俗ハードボイルドっぽい派手なストーリー展開の作品でした。特に閉じ込められた部屋からリュウが脱出するシーンは壮観です。本作は『新・動く標的』のタイトルで映画化されたそうで、未見ですが、確かに映像化すると迫力がありそうです。文章の方では、すでに情景描写には、さすがロス・マクと思わせる表現も多少見受けられますが、ウィットに富んだ会話には欠けます。
ただ最終の第25章だけは、それまでの通俗的はったりとは全く異質なものになっています。次作『人の死に行く道』以降の作品にもつながるような犯人の告白も渋くていいのですが、それよりもその後にある「何の役にも立たない喧嘩」のシーンにけっこう感動してしまいました。この最終章における落差をどう捉えるかは人それぞれでしょうが、個人的には一応評価1点アップ。


No.982 7点 冬そして夜
S・J・ローザン
(2017/10/04 22:45登録)
今回はビル・スミスの一人称形式で書かれたシリーズ第8作で、2003年度エドガー賞受賞作品です。
タイトルは、冒頭に引用されたウィリアム・ブレイクの詩『乳母の歌』の「お前たちの冬と夜は、虚偽のなかで空費される」という部分から採られています。虚偽…巻末解説の中でも触れられているように、マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』でも取り上げられた実際の事件に触発された作品であることは間違いありませんが、ローザンの視点は、いじめを黙認どころか助長するコミュニティに向けられ、高校アメフト部員をかばうための町ぐるみと言ってもよい虚偽が大事件の根幹にあることを指摘します。事件の一部は解決されないままで、今後に不安を残す幕切れとなっているのも、全面的解決の困難さを示しているのでしょう。
ビルの両親や妹の家族のことが初めて語られる(リディアに対してさえ)作品でもあります。


No.981 6点 サイバーテロ 漂流少女
一田和樹
(2017/09/29 21:46登録)
実際にサイバーセキュリティ情報サービス事業をやっていた作者による、サイバーセキュリティ・コンサルタント君島悟のシリーズ第2作です。
冒頭の出来事については、いくらなんでも2011年の段階で現実にはそれはないでしょう。たとえ外部から操作すべてをコントロールできるとしても、君島がその条件を挙げているとおり、状況的に無理があるのですが、その作中での疑問はうやむやなままになってしまっています。それにしても、このシーンをプロローグ的に使う意味は、あまり感じられませんでした。
それでも、SFに片足突っ込んだミステリとしては、なかなかおもしろいと思います。全国的な金融等の混乱を引き起こすサイバーテロ計画の全貌がだんだん明らかになってきて、その対策を考えるあたり、タイムリミット・サスペンスが効いています。そのテロ事件が一応解決した後の全体的な真相解明もかなり鮮やかでした。


No.980 6点 パーフェクト・アリバイ
A・A・ミルン
(2017/09/25 22:45登録)
A・A・ミルンが1929年に発表した戯曲の表題作に、短編小説2編を加えた形になっています。
巻末解説によると、最初ロンドンで “The Fourth Wall” のタイトルで上演されたのが、ニューヨークでの上演時に “The Perfect Alibi” に改題されたのだとか。「第4の壁」って、3幕同じ室内セットで通すこの劇の観客席側の壁のことでしょうか、それにしても、タイトルの意味はよくわかりません。アリバイの方は、演劇ですから凝ったことをするはずもなく、とても完全とは言えません。しかしちょっとした工夫によって、自然なものになっています。なお本作は倒叙ものですが、殺人の起こる前段階に犯人の意外性があります。最初のうちわずらわしい感じも多少ありますが、プーさんの作者らしい楽しい作品に仕上がっています。
叙述トリックを仕込んだ『十一時の殺人』、皮肉な結末のごく短い倒叙『ほぼ完璧』もなかなかの出来栄えでした。


No.979 7点 事件当夜は雨
ヒラリー・ウォー
(2017/09/20 23:26登録)
久々の再読ですが、内容はほとんど覚えていませんでした。かなり印象に残るはずだと思われる最後のひねりさえも記憶から抜け落ちてしまっていて。
本格派の立場から言えば、極めて大胆な伏線が張られている作品です。その伏線は犯人が逮捕された後、上述のひねりの部分で生きて来るという趣向です。そんな伏線や様々な可能性についての緻密な検討の他、クイーンの『ギリシャ柩』や『十日間の不思議』にも通じる発想がフェローズ署長により語られるなど、この作家を知っている人には当然でしょうが、本作も本格派ファンが楽しめる作品です。ただ本格派と言ってもクロフツの地味な捜査小説がダメな人にはお勧めできません。なにしろ捜査の試行錯誤はクロフツ以上です。そう言えば、犯人の弄したトリックは、クロフツの某有名作のアイディアを単純化した感じです。
kanamoriさんも書かれていますが、犯人像にも感心させられた作品でした。


No.978 6点 待っていた女・渇き
東直己
(2017/09/16 13:41登録)
札幌の私立探偵畝原浩一初登場の短編『待っていた女』と、同シリーズ長編第1作『渇き』が収録されています。かなり仕事は多くて忙しい畝原は離婚していて、小学生の娘冴香を育てているという子連れ探偵で、2作ともラストは、冴香を抱きしめるシーンで締めくくられることになります。一方幕開きがユーモラスなシーンであることも2作の共通点です。
『待っていた女』は異常な事件ではあるのですが、それを語るストーリーはあまりにあっけない感じがします。その事件の依頼人であるデザイナーの姉川明美は『渇き』にも登場しますが、畝原が事件に関わることになるきっかけを作る役割です。『渇き』は事件そのものは比較的シンプルですが、構成はハードボイルドらしい展開で、なかなかおもしろくできています。ただ最後に全ての要素を強引に結び付けすぎて、自然さがなくなってしまったかなとは思います。


No.977 6点 赤の女
ポーラ・ゴズリング
(2017/09/11 23:26登録)
1983年に「現代スペイン絵画なんてものが存在するとは知らなかったわ―すべてゴヤで終わったのかと思ってた」とアメリカの刺繍芸術家に本気で言わせるなんて、ゴズリングは美術のことをそんなに知らないのでしょうか。ピカソもダリも知らない、少なくともこの20世紀を代表する巨匠たちがスペイン人であることを知らない? 「それがスペインさ」と決めつける画一的な見方もなんだかなあ…
といった、ミステリ以外の要素には不満もあるのですが、巻末解説にも「ヒッチコック映画そのままのサスペンスフルな」と書かれている展開はなかなかおもしろく読ませてくれます。犯人の意外性は、まあどうでもいいというか、クリスティーなら当然こんなひねりがあるだろうが、ゴズリングはどうかな、なんて思いながら読んでしまいました。


No.976 7点 チムニーズ館の秘密
アガサ・クリスティー
(2017/09/07 23:31登録)
久々に読んだクリスティーは、バトル警視初登場の冒険スリラーです。まあバトル警視はほとんどの作品で脇役なんですが、特に本作では口数も少なく、いつの間にか主人公たちのそばに立っているなんて、影みたいな存在です。で、最後にはある人物についての調査も既に済ませてしまっていることがわかったりして。
本作では、あるパターンの技巧が何重にも仕掛けられています。同じ手をこれほど繰り返し使っている作品は、クリスティーに限らず珍しいのではないでしょうか。最後の一つには、明かされる直前には気づいたのですが、よくもまあここまでと呆れてしまいます。また、ミカエル王子殺害犯人の設定は、アンフェアと非難されないようにした構成が巧みです。クライマックス、主人公危機一髪のシーンは、考えてみれば無理があるのですが、驚かされました。
というわけで、個人的にはかなり気に入った作品でした。


No.975 6点 奇譚を売る店
芦辺拓
(2017/09/03 18:28登録)
6編からなる連作短編集です。すべて「―また買ってしまった。」の1文から始まる一人称形式作品で、古本屋で買った本や資料綴をめぐって異常な出来事が起こるという内容です。ミステリ的な謎解き要素もありますが、どの作も幻想ないしホラーな結末となります。また最初の『帝都脳病院入院案内』からして、メタっぽいところがありますが、最後の表題作は、それまでの収録作について「妙に既視感があった」とか「とりとめがない」とか作中の「私」を通して自己批評までしてくれて、このあたりはさすがに苦笑もの。
 既視感と言うより懐かしいレトロ感のある文章や全体的雰囲気は、けっこう気に入りましたが、後半はちょっと無理筋も目立ちます。
 なお、『青髭城殺人事件 映画化関係綴』では、この作中ミステリ、『堂廻目眩』と並ぶ戦前二大奇書の片割れと説明されているのですから、『黒死館殺人事件』を念頭に置いたものでしょう。


No.974 5点 虹の彼方の殺人
スチュアート・カミンスキー
(2017/08/29 22:46登録)
カミンスキーを読むのはこれが2冊目ですが、最初に読んだリーバーマン刑事もの『裏切りの銃弾』の渋めのハードな警察小説とは全く違う、ハードボイルドのパロディと言ってもよさそうな作品でした。
原題直訳は「黄色い煉瓦道の殺人」、日本では意味がわからない人が多いだろうから、この邦題になったのでしょうか。”Over the Rainbow” だったら、映画『オズの魔法使』の中でジュディ・ガーランドが歌う曲であることは知っている人も多いでしょう。本作は1977年発表ですが、時代設定は1940年で、ジュディや、ヴィクター・フレミング監督、さらにクラーク・ゲイブル等が証人として登場するという作品です。もう1人、ミステリ・ファンにとっては当時のスター俳優以上におなじみの実在有名人は、ピータース探偵の捜査を手伝うことまでします。オチはありきたりなのにちょっと唐突感がありますが、全体的にはそこそこ楽しめました。


No.973 6点 安楽死病棟殺人事件
マーシャ・マラー
(2017/08/25 21:57登録)
マーシャ・マラー(たぶん本当の発音はミュラー)のシャロン・マコーン・シリーズ第4作。この作家、作を追うごとに手慣れてきているように思います。手慣れるという言葉は妥協的な悪い意味にもなりかねませんが、彼女の持ち味にはうまく適合していい感じになってきていて、本作ではミスディレクションや結末の意外性がなかなか冴えています。重要な手がかりについては、読者に隠しているものもありますが。
今回シャロンの鳥恐怖症のことが出てくるのは、自分にもそんなことがあるから、他人も不合理な恐怖症を持っているかもしれないと考えるところだけです。またどこかでストーリーに絡めてもらいたい気もするのですが。
第1作を読んだ時に心配した通り、シャロンとグレッグ・マーカス警部補の間は結局うまくいかなくなって、本作では別れていますが、DJをやっている男と仲よくなり、さて、二人の関係はいかがなりますやら。


No.972 6点 変若水
吉田恭教
(2017/08/21 18:54登録)
タイトルの読みは「をちみづ」、島根県の村の名前で、まあ八つ墓村みたいなものだと思えばいいでしょう。昭和22年の出来事を描くプロローグが、平成23年の事件とどう絡んでくるのかは、早い段階で明かされます。
現代的な医療ミステリと古めかしい小村の旧家の秘密を組み合わせた作品で、ミステリ的には、フーダニット系の意外性もなくはないのですが、それより医療技術を駆使した、脳梗塞や心室細動に見せかける殺人方法のハウダニットが中心です。医学知識がないと解けない方法で、説明されても本当にそれでうまくいくのかどうかさえわからないのですが、こういったタイプはそれでいいでしょう。ただ、心室細動に見せかけるトリックは、手順をややこしくし過ぎていると思います。
文章もなかなか読ませてくれるのですが、メールやセリフの中に、地の文並みの情景描写が出てくるのだけは不自然さを感じました。


No.971 5点 トラブルはわが影法師
ロス・マクドナルド
(2017/08/17 10:42登録)
ケネス・ミラー名義で発表された第2作は、デビュー作と同じくスパイ小説で、一人称形式という点も同じです。1945年2月、ハワイで起こった事件は自殺として処理されますが、今回の語り手ドレイク少尉はスパイ活動絡みの殺人ではないかと疑います。さらにデトロイトでも自殺とみなされる事件が起こり、という展開で、大陸横断鉄道でのサスペンスなどは、アンブラーの『恐怖への旅』等とも通じるところがあります。
タイトルについては、途中で「トラブルのほうが、ぼくを摑まえて放さないんだ」「まるで、トラブルはきみの影法師だ」というセリフが出てきます。しかしドレイク、かなり自分の方から事件に首を突っ込んでいってます。
全体的にはおもしろいのですが、クライマックスに向かう部分が偶然に頼りすぎている点、最後のどんでん返し部分が何となく安っぽくなっている点等、不満もあり、これくらいの評価です。


No.970 7点 唾棄すべき男
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2017/08/13 23:14登録)
タイトルの唾棄すべき男とは、冒頭銃剣でめった切りにされて殺された被害者のスティーグ・ニーマン主任警部のことです。スウェーデン語は全く分かりませんが、高見洽訳に載っている英題では “the abominable man”、 普通「いやな」とか「不愉快な」と訳される言葉です。ただ、ニーマンは賄賂を要求するようないわゆる悪徳警官ではありません。日本でも戦前には多かったと思われる、拷問等も法的にはともかく当然必要で有効な手段だと考えるような、悪い意味での軍隊式考え方の持ち主です。
警察小説というと、何週間も、時には1年以上もの期間の捜査を描く作品が多いですが、本作はたった1日の出来事です。深夜に起こった事件で、マルティン・ベックとルンは全然眠らないまま、特にルンは前日の仕事の疲労が溜まっている状態で、事件解決までなだれ込みます。また大いに楽しめるクライマックスのやたらな派手さも、警察小説には珍しいでしょう。


No.969 7点 花嫁は二度眠る
泡坂妻夫
(2017/08/10 00:14登録)
Kanamoriさんも書かれているように、泡坂妻夫の場合、このようなオーソドックスなフーダニットはむしろ異色作かもしれません。今回の趣向は真相にも直接関係する「迷信」と言えそうですが、地味な印象です。
しかし、再読してみると4か月前の殺人事件と現在10月の出来事をうまく組み合わせていく手際はさすがだと思いました。この第2の殺人が起こる現在の方は、2日間のみ、それで一気に4か月前の事件も解決してしまいます。この第2の殺人については、早朝幹夫にかかってきた電話の意味を除き、ほとんど記憶に残っていませんでした。
最終的な真相説明の根拠は必ずしもすべて「見る」ことのできない読者にも明確にあらかじめ提示されているわけではありません。たとえばダミー解決(明らかに説明不足で、ダミーだとすぐわかります)を否定する根拠もそうです。しかし多少はそんなところがあってもいいでしょう。そのダミー解決の犯人も相当意外です。


No.968 5点 死の演出者
マイクル・Z・リューイン
(2017/08/06 19:14登録)
アルバート・サムスン・シリーズの第2作は、原題 “The Way We Die Now”。ローレンス・ブロックの『八百万の死にざま』もそうでしたが、ロス・マクの『人の死に行く道』を踏まえているんでしょうね。それ以前にもこのような言い回しの作品はあったのかもしれませんが。
ただ、複雑なプロットを最後にうまくまとめてみせたロス・マクとは違い、本作は最初から事件の裏が見えている話で、証拠のない仮説はあるものの、どう決着をつけるかが問題になります。このシリーズを読むのは4冊目ですが、こういうタイプは初めてでした。もちろんそこが作者の今回の狙いでしょうが、単純な話の割には長すぎると思います。まあ最後にちょっとした意外性を加えてくれてはいますが、それも予想範囲内のもの。
むしろ本来むしろ臆病なサムスンが、最後近くには命がけのアクションを見せてくれるのが、楽しめました。


No.967 7点 森の死神
ブリジット・オベール
(2017/07/26 23:14登録)
全身麻痺で、目も見えず、話すことを含めほとんど動けないエリーズの一人称で語られるサイコ・サスペンスです。この主人公設定を見て、なんだか重苦しそうと思われる人もいるでしょうが、全然そんなことはなく、軽快でユーモラスな語り口が楽しめる作品です。そんなエリーズのキャラが、本作の最大の魅力と言ってもいいでしょう。ゾンビ・ホラー『ジャクソンヴィルの闇』も書いている(未読ですが)作者だけに、サイコな事件の方はかなりグロいところがあります。
サイコ・キラーの正体については、可能性の一つとしてごく早い段階で思いついてしまいましたが、その解決に至るクライマックスの逆転劇連続は、なかなかのものでした。その解決、最初の部分でエリーズに森の死神について語る少女の態度やその内容に隠された伏線について、説明不足なのは気になりますが、まあ明かされた真相から逆に考えていけば納得はできます。


No.966 6点 サナキの森
彩藤アザミ
(2017/07/22 09:15登録)
第1回新潮ミステリー大賞受賞作で、選考委員たちは作者の文章を褒めています。確かに現代を描く軽い文体と、作中作の旧字体を使った古風な文章の使い分けという、なかなか凝ったことをやっています。途中でこの作中作、在庭冷奴(あらばれいど)著『サナキの森』が50ページぐらいだと書いてありますが、本当にその長さのこの話はそれ自体完結した恐怖小説になっています。
事件そのものは、その作中作と人物設定で共通点の多い、80年前に田舎で起こった密室殺人です。トリックは意外に複雑なことをやっているものの、原理的には、密室に慣れた人ならたぶんすぐ見当がつくものですが、話の骨格のシンプルさは悪くないと思います。ただ実際の事件と共通点が多いと言っても、作中作との繋げ方は今一つといったところでしょうか。
主役の「私」の不器用な恋愛も、事件とは全く無関係ながら、ここまで書き込まれれば良しとしましょう。

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