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ミステリの祭典

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孔雀の羽根
HM卿シリーズ

作家 カーター・ディクスン
出版日1980年12月
平均点6.29点
書評数14人

No.14 7点 文生
(2024/03/09 01:43登録)
警察の捜査メインの作品のため、物語の起伏に乏しく盛り上がりに欠けるのは残念ですが、不可能犯罪ものとしてかなりの良作です。銃を用いたトリックが秀逸で、32の手がかりも過剰演出気味ではあるものの、カーらしいサービス精神ぶりを堪能することができました。

No.13 8点 ことは
(2023/07/09 01:42登録)
解決編で手がかり索引(xxページ参照)があることからもわかるように、謎解きに注力した作品。
実際、ストーリー展開も、冒頭の殺人以降、関係者の事件までの動向を少しずつ手繰っていくことに費やされて、ドタバタや怪奇趣味やラブコメ要素などのカー好みの展開は、極めて抑えられている。(カー・ファンと思われる評者にとりあげられることが少ない気がするのは、この辺が要因かも)
しかし、退屈なのかというと、そんなことはなく、カーにしては珍しく、捜査の道行きを楽しめる。その中で、「被害者が急に予定を変更したのは、何があったのか?」という点が強調されていたのは、最後に実に効果的に使われる。
(この辺は、好みが分かれるところなのだろう。本サイトでも、「事件の全容が明らかになる展開はサスペンスに満ちている」、「事件に発展性がなく、ひたすら登場人物の供述を聞くだけ」といった真逆の評があって、おもしろい。私は好評価するほうですね)
手がかり索引にある手がかりだが、クイーン的な「推理を紡ぐ元とする手がかり」ではなく、カーらしい「ほら、ここに書いてあったでしょ」といった手がかりだ。真相を知ってから読み返すと、「それがあったから事件が成立したんだ」と思わせる重要な状況説明で、「なるほど」と思わされた。
ネットで評をみてみると、メインのトリックがあまり評判が良くないようなのだが、わたしは、これ、完全に盲点で、解明シーンで「そうか!」と、驚き、かつ、腑に落ちた。ここが驚けないと高い評価はできないだろうが、そんなわけで私は高評価。

No.12 5点 斎藤警部
(2022/05/17 23:38登録)
緩いながらも不意を突く逆説があったり、犯人誘き寄せのスリリングなシーンがあったり、某人物「偽証理由」の機微とか、ラストセンテンスの斬れ(中身はイマイチ)とか、そこそこカラフルなユーモアとか、美点を数え上げても、とても三十二まで行かない、どうにもピリっとしない長篇。密室殺人のための●●トリックに確かに意外性はあるんだが、監視下の部屋で不可能犯罪と煽られても、この緊迫しない演出じゃ「はあ、何か頑張ってやったんじゃないスか」ってくらいでさっぱり惹き付けられないし、オカルトのオの字も空から降って来ませんでした。「三十二の手掛かり」と気張ってくれたのは嬉しいけれど、どれを取ってもなーんだかシケってんのばっかでページを見返す気にもならん。真犯人に纏わる人間関係の意外性?もトリックと言える程じゃないし、全く驚けない。悪女?の造形も中途半端。だいたい「二年前と同じ云々」って、もうその出オチで噴き出しちゃうじゃないですか。でもまあ、人間関係意外性の件でも、◯◯案件の絡むもう一つのアレはちょっとびっくりしたし、その爽快なまでの残酷性も印象強かった。最初に羅列した美点たちも実はそれぞれに結構心を掴むものではあり、物語全体の締まりの悪さを、なんとか底から持ち上げてぎりぎり体裁は保っている(かな)。要は私の好みに嵌らないってだけで、決して悪い作品ではない(はず)。

「正直にいって、わたしはあれが存在しないのが残念なんです。ちぇっ、あれは存在すべきですよ! しかし、あれが存在しないとなると、いろんな飾り物を結びつけている目的なり動機なりの糸はどこにあるのです」

No.11 7点 レッドキング
(2020/02/22 00:23登録)
秘教結社オカルトを匂わせた不可能殺人が二つ。一つ目の死体には、至近距離からでしかあり得ない銃痕が二つ。だが部屋は完全な監視下にあり、被害者以外の出入りは不可能だった。二人目は背中にナイフを突き立てられて殺されたが、やはり犯人出入りは不可能で、その上、死体が消失していた。ナイフトリックの方は、後年、ポール・アルテが、同じアイデアをもっと切れあじよく再現した。嬉しいことに「人間椅子」サービスも付いてる。

No.10 8点 shimizu31
(2020/02/02 21:11登録)
究極の不可能性に脱帽だが解決には無理があるか

若い頃読んだ時は途中までは非常に面白かったが最後が今一つという印象だった。急いで読んだためか内容的にもよく理解できなかった。今回はじっくりと再読してみたのだが評価はやはり前回と同様であった。

冒頭に提示される密室殺人は、マスターズ首席警部を含めて3人の警察官が外から監視する部屋の中で銃殺されるというもので、凶器の拳銃も残されており如何にして犯人はその場から消失したかという謎は数々の密室事件の経験を持つマスターズ首席警部でも「今度が初めて」(p51)と驚くほどの究極の不可能性がある。HM卿も終盤で以前の作品(白い僧院の殺人)の中で総括した密室状況に関する自説に不足があったと誤りを認め、今回の事件のトリックが「もっとも手際がよく、もっとも賢明な方法だ」(p295)と述べている点でも作者の本作に対する自信のほどが伺われる。確かに仕掛けは奇想天外でその独創性には脱帽するしかないがその解決はやはりかなり無理がある。カー作品は現実性の枝葉末節は目をつぶってでもトリックの意外性を楽しむという面はあるが本作はそのあたりを割り引いても強引すぎるという感がある。

事件発生後前半3分の2までは関係者の証言とHM卿達の議論で物語が進んでいくが前夜に行われたパーティ等を含め次第に事件の全容が明らかになる展開はサスペンスに満ちている。他のカー作品では終盤まで実質的な進展がなく退屈させられる場合が多いが本作は意表を突く展開が続きグイグイと引き込まれた。関係者の証言も人によって意味合いが変わっていくという展開もカーらしいドタバタで読者を楽しませてくれる。第14章の見出し「この章には、重要な記録が読者の前に提供される」も刺激的で内容的にも簡潔でわかりやすく読み終わってから振り返って見ると納得できるものがある。終盤の第15章「暗き窓」からは新たな展開となるがここから解決までは緊迫感にあふれ関係者の一問一答に手に汗を握るものがあり見事な出来栄えとなっている。

登場人物も個性的な面々がそろっている。被害者は冒険好きの大金持ちの青年ヴァンス・キーティング、ヴァンスの婚約者であるフランシス・ゲールは女性プロ・ゴルファーで新聞から一番立派な若いスポーツ・レディの一人と評されている。ヴァンスの従兄弟で小心な株式仲買人フィリップ・キーティング、ヴァンスの法律顧問を務める老弁護士で不気味な雰囲気のあるジェレミー・ダーウェント、ダーウェントの妻ジャネット・ダーウェントはHM卿から「ケンジントンの魔女」と呼ばれる美女で小悪魔的な魅力で男性を翻弄しマスターズも餌食にされそうになる。ヴァンスの親友であるロナルド・ガードナーは旅行記等を書く作家でクリケットの名手、6か月前に亡くなった老美術商の息子で家業を引き継いだ沈着冷静なベンジャミン・ソアの7人である。男性陣はなかなか迫力があるが女性陣はやはり類型的であまり現実感がないのは仕方ないところであろうか。

全体的には喜劇調のドタバタの中で深刻さはなく軽く楽しく読める内容となっている。本格推理としてはトリックは巧妙だが犯人側の心理面、犯行動機、犯行計画という点ではやはり今一つという感じがあり途中までの完成度が高い分惜しい気がする。

No.9 5点 弾十六
(2018/11/05 20:50登録)
JDC/CDファン評価★★★☆☆
H.M.第6作。1937年出版。創元文庫(1980年)で読みました。
マスターズが再び不可能犯罪に出会う!という冒頭は素晴らしいのです。中盤の小ネタも効いています。珍しくキャラ立ちしてる登場人物もいます。でも解決篇は残念な出来でした。手抜かりや見落としを期待する不可能犯罪では面白くありません。いつものように2回目の犯行はやっつけ仕事。(ただし二度目の予告からの展開は素晴らしい) p304の解説は「そんなの知らねーよ!」と全員がツッコみを入れる内容ですね。
銃はレミントン六連発拳銃1894年製が登場。Remington Model 1890 New Model Army(弾は.44-40 Winchester)でしょうか。
p173 旧式のレミントン用弾薬で<ダック>: 不明。
p36「トールボットの二人乗り自動車」はTalbot(タルボ)のことだと思います。
p203 フリート街裏手の聖ブライズ教会(St. Bride’s Church): この近くにH.M.お気に入りの酒場<グリーン マン>があります。

<追記: 2018-11-29>
チェスタトン「奇商クラブ」の最初の方に、
…「十個の茶碗」(Ten Teacups)については、むろん一言の解説もあえてするつもりはない。(語り手のクラブ遍歴について回想する部分。「十個の茶碗」とは社交クラブの名前)
これが原題の由来ですね。さっき再読していて気づきました。

No.8 6点
(2018/01/30 22:28登録)
久々の再読ですが、メインの密室トリックだけはかなり細部まで覚えていました。それほど印象的な基本アイディアなのですが、今回気づいた不備もあります。物理的可能性を問題視する人が多いようですが、そうではなく、不可能犯罪を演出するには犯人が警察にその監視方法を強制できなければならないはずだという点が引っ掛かったのです。また、HM卿が第19章で言う「四番目の方法」には説得力がありません。
なお、この「方法」(手段)という言葉は変で(たぶん翻訳が)、実際には「理由、動機」です。H・M卿は『白い僧院の殺人』の時「殺人者が密室状況を作り出す手段は三つしかない」と言ったというふうに本書では訳しています(p.295)が、その『白い僧院』(同じ厚木氏訳!)では「不可能な状況を作り出した動機だ」(p.201)となっています。
トリックに疑問はあるものの、再度の謎の手紙以降一気に盛り上がる構成は気に入っています。

No.7 6点 ボナンザ
(2017/08/05 12:05登録)
カーらしからぬ膨大な伏線と、相変わらずカーらしい馬鹿なトリックを併せ持つ佳作。

No.6 7点 青い車
(2016/02/13 18:10登録)
本作のメイントリックは物理的な面で疑問を呈する人もいるそうです。確かにアレがうまいこと部屋に入って〇〇する、というのは出来すぎではあります(ネタバレしないようにぼやけた言い方になっています)。しかし、カーの作品を読んでそんな細かな瑕疵をあげつらうのは野暮でしょう。リアリティを愚にもつかないものと断じている作家なのですから。実行可能性の問題に目をつむれば、伏線の妙を堪能できる良作に仕上がっていますし、本作は密室トリックの新たなヴァリエーションを素直に喜んで読むべきではないでしょうか。

No.5 5点 nukkam
(2012/08/16 10:43登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のH・M卿シリーズ第6作の本格派推理小説で、警察監視状況下での密室殺人の謎が強烈です。非常に複雑なトリックで解決前にこれを読者が見破るのは難しいと思いますが。細かいところまで考え抜かれているのはさすがですが、(警察が)あるものを見落とす(気づかない)ことを前提としてあったりと結構綱渡り的だと思います(見落とす伏線も用意してはあります)。対照的に大胆な死体隠しトリックの方がシンプルゆえに印象に残りました。H・M卿へ挑戦状が送られたり手掛かり脚注を使っての謎解き説明があったりとトリック以外にも色々と趣向のある力作です。

No.4 7点 E-BANKER
(2011/01/28 22:05登録)
H.M卿の探偵譚第6作。
「孔雀の羽根」とは、殺人現場に残された肩掛け(?)の柄のこと・・・
~2年前と同じ予告状を受け、警察はその空き家を厳重に監視していた。銃声を聞いて踏み込んだ刑事が見たものは、若い男の死体、孔雀模様のテーブル掛けと10客のティーカップ。何もかもが2年前の事件とよく似ていた。そのうえ、現場に出入りした者は被害者以外にはいないのだ。この怪事件をH.Mは32の手掛かりを指摘して推理する~

やはり本作のメインは第1の殺人での「準密室」。
警官や関係者など複数の目が光るなかで、被害者が2発の銃弾を浴びて死亡する。しかしながら、犯人の姿はなかった・・・何て魅力的な謎でしょうか!
ただ、トリック自体はちょっと微妙・・・拳銃の仕組みはまぁいいとして、2発目はああいうことでいいんでしょうか? かなり乱暴なやり方のような気はしました。
その代わり「至近距離からの発射」については、「さすがカー」と言うべきで、HMのロジックに唸らされる結果に・・・
最終章、HMが32もの手掛かりを明示して、事件の推理を懇切丁寧に行ってくれてます。これだけでも本作を読む価値はありでしょう。
確かに中盤はややダレますし、動機や関係者の動きに疑問符が付く部分もありますが、そこを考慮に入れても佳作という評価でいいと思います。
(「秘密結社」なんていう本筋に無関係の話を削ってれば、スッキリしたのにね。でもそれがカーということなんでしょう)

No.3 6点 kanamori
(2010/06/27 17:00登録)
H・M卿の探偵譚第6作は、一転して怪奇趣向もドタバタもない、ストレートな不可能殺人ものに回帰しました。
警察が環視する空家の2階での射殺事件を描いていますが、マスターズ警部などによる事情聴取が延々と続くなど、中盤の物語に起伏がないので、ちょっと冗長なところがあります。
解決編は、32個の手掛かり索引を提示したり、密室構成の動機を分類するなど読み応えがありますが、トリックが拍子抜けの感は否めません。

No.2 6点 ミステリー三昧
(2009/12/25 13:18登録)
<創元推理文庫>H・M卿シリーズの6作目(長編)です。
この作品は<最終章で32個の手掛かりを指摘して、不可能犯罪の真相を解明する>とあるようにロジック重視型の本格ミステリになっています。
普段見受けられる(アンフェアぎりぎりの大技やプロットの妙などの)派手さは一切なく、良い意味ではフェアを徹した堅実なミステリとなっているのですが、私的には逆に小ぢんまりとし過ぎて、味気ない普通なミステリというのが第一印象です。
「衆人環視による準密室」状況下での殺人と「犯人消失」という魅力的な謎が提供されているにも拘らず、焦点は別の方向へ・・・
事件に発展性がなく、ひたすら登場人物の供述を聞くだけで300ページ突破・・・
これは萎えます。正直、どうでもよくなってしまった。しかも「魅力たっぷりのあらすじ」に反して、最終章の大演説は決してクオリティが高いものではないので評価に困る。
フェアを貫くなら、拳銃の仕組みをもう少し詳しく描くべきです。誤発砲によって〇〇することの可能性を察するのは難しいと思います。結局、肝心な部分は伏せている点を考えると微妙。まぁ、その部分を明かしてしまったらトリックが簡単に分かってしまうので仕様がないか。。。

No.1 5点 Tetchy
(2008/08/31 19:38登録)
カーには珍しく「この章には、重要な記録が読者の前に提供される」なんて付いており、しかも最終章に至っては32もの手掛かりについてそれぞれが文中で表現されているページ数まで記載されている。
つまりこれはカー版読者への挑戦状だったわけだ。
でもこれは解けんぜよ(←どこの方言?)

本作も事件の発端に無理を感じ、まさにトリックのために作られた設定という不自然さがある(独身の若い男性が遺言状なんて書くだろうか?)。

あとサプライズで乱歩の某有名短編と同様の趣向があるのには笑った。やっぱあの2人は似た者同士だったのか。

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