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ミステリの祭典

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コンチネンタル・オプの事件簿
コンチネンタル・オプ

作家 ダシール・ハメット
出版日1994年05月
平均点7.17点
書評数6人

No.6 7点 クリスティ再読
(2020/11/11 08:23登録)
ハメットの短編集は系統的なものがないので、評者の現状況だと残りの短編集は既読作はパスして未読だけを読んでいくことになりそうだ。本書だとメインディッシュの「血の報酬」と一応名作だと思う「ジェフリー・メインの死」は既読でパス。「放火罪および..」は既読だけど、本書の狙いが最初の事件「放火罪および..」と最後の事件「死の会社」を収録することにあるから、再読しましょう。

とすると残りは「ターク通りの家」と「銀色の目の女」の連作。「ターク通り」はオプも想定外のいきなりの急展開。ジェットコースター的で面白い。「銀色の目の女」の前日譚みたいなもので、「銀色」は浮世離れした金持ち詩人の恋人が失踪して...で始まるハードボイルド定型みたいな話。ロスマクみたい(苦笑)この作品、「臆病者で有名な」ジャンキーでオプの情報屋のポーキー(日本語化したら「トン公」かね)が、意外な役回りをつとめてそれが面白い。
で「放火罪および...」はリアルにこんなことあるだろうね、という実話っぽい話で大した内容ではない。逆に「死の会社」はギャング物の定型の虚実みたいな話で、「こーゆーこと考えるバカな犯罪者いるだろうね」と思わせるような、犯人が仕掛けてしかもその底の浅さを、オプお見通しといった「でこぼこ」した感覚が面白い。いや「放火罪」と構図が同じといえばそうなんだけど、ハメットの語り口の進化でその「差」の方が目立つ。「死の会社」ってオプが犯人の仕掛は承知の上で、苦笑いしながらその足を引っ張ってるように思えるんだ。
ハードボイルド、だね。

No.5 8点 弾十六
(2019/06/09 08:51登録)
日本オリジナル編集(1994)。ハメットはボツボツと読んでいましたが、まとめて読むのは初めて。長編は今まで一作も読んでません。もちろん『マルタの鷹』や『影なき男』の映画は見ています。
Fatimaタバコ(当時20本で15セント?)をくゆらすチビで小太り(80キロ)の中年(1924年当時35歳?)、格闘は意外と得意、というコンチネンタル オプの設定が良いですね。
職業上、レポートを書く必要があった男の紡ぐ(かなり盛った)実話系の物語、という感じ。(ここで気になるのは、当時のTrue Story雑誌群。ハードボイルドの作品群よりはるかに売れていたはず) センスが良く、ほど良いユーモアが隠し味です。派手な銃撃戦やピンチの連続など、随分カラフルで「本格ミステリは絵空事、ハードボイルドはリアリティ重視」ってのは雑なくくり方ですね。こちらも充分フィクショナルです。(今どき、そんなこと言う奴はいないですかね)
以下、一作ずつの短評&トリヴィア。書誌は小鷹さんなので完璧。初出は全てBlack Mask。

⑴Arson Plus 1923-10-1 オプ第1作: 評価6点
この作品はレポートに近い感じ。あまり盛っていません。マックが四人などのくすぐりを入れています。
1軒家(2階建て、ガレージ、物置小屋、1エーカーの芝生に畑付き)で14500ドル。消費者物価指数基準1923/2019で14.89倍、現在価値2377万円。(2020-4-12追記: ブラック・マスク掲載時には4500ドルだった!ならば736万円が正解。直しの入った1951年の基準なら9.95倍なので$14500=1585万円。1951年の$4500なら492万円なので流石に安すぎる、という判断で数字をいじったのだろう)
銃は年代もののくたびれたリヴォルヴァー(ancient and battered revolver)が登場。無理矢理候補をあげるとコルトならNew Service(1898)、S&Wならミリタリー&ポリス(1899)あたり。

⑵The House in Turk Street 1924-4-15 オプ第10作: 評価7点
展開は結構盛っている感じ。でも登場するキャラが強烈。p53「色は関係ない」の前振りが無く意味不明になってるのは、多分ルビ漏れ。(びくつくことない、の原文には「色」が出てくる) ある「習慣(p68)」が話題になってますが本当かなあ。

⑶The Girl with the Silver Eyes 1924-6 オプ第11作: 評価7点
ブラックマスク誌は5月から月刊誌に。(値段は据え置き20セント。以前は月2回発行) この作品もかなり盛っています。ポーキーが素晴らしい。出てくる「モンスターな外車」はイスパノスイザあたりか。情報料5ドルは消費者物価指数基準1924/2019で14.55倍、現在価値8008円。

⑷The Big Knockover 1927-2 オプ第22作: 評価7点
⑸$106000 Blood Money 1927-5 オプ第23作: 評価6点
前後篇だと思ったら、3号離れての掲載。確かに⑷は単独でも楽しめます。⑷の冒頭からの流れはアメコミの世界。(キャラもディック トレーシー風味) 緊張感溢れる酒場のシーンは最高。沢山の歌が出てきますが1曲を除き調べつかず。
p148 ≪なにをしたいか教えてくれたら、なにをあげられるか教えてあげる≫ Tell Me What You Want and I’ll Tell You What You Get: 不明
p149 ≪浮浪者になりたい≫ I Want to Be a Bum: 不明
p153 ≪恋に破れたスー≫(Broken-hearted Sue): Breen、De Rose、Paskman作。1926年10月The Whispering Pianist (Art Gillham)の録音あり。
p165 ≪浮気しないで≫ Don’t You Cheat:不明
銃関係ではマシンガン(当時の短機関銃ならトンプソン一択か)、30-30ライフル(a .30-30 rifle、30-30ウィンチェスター弾を使うライフルはレバーアクションが多く、リコイルも軽めなので、こーゆー使い方はピッタリ)、44口径の弾丸(まだマグナム弾は開発されてません)が登場。通常は38スペシャル弾で充分なんですが、一発必殺の威力重視派は44口径(銃はS&Wリヴォルヴァ)を使う、という感じ。
10ドルのネタ、75ドルのコート、パジャマの洗濯代だけで26セントは消費者物価指数基準1927/2019の14.22倍。現在価値はそれぞれ15653円、11万7千円、407円。
登場する1ドル銀貨(p152 a silver dollar)は1921年から流通しているPeace dollarだと思われます。
なお「ホームズさん」(p307, my dear Sherlock)は原文どおり「シャーロック」が良いのでは?

⑹The Main Death 1927-6 オプ第24作: 評価6点
短い作品ですがキャラが印象的。
p321 デジール デュクール(Désir du Coeur): Ybryの香水。1925年発売。ボトルデザインはBaccarat。
p339 夫人はそこで『陽はまた昇る』を読んでいた: 1926年10月出版。ヘミングウェイへの直接的な言及があったのですね。残念ながら本の感想は書かれていません。センスの良い女、という描写なのか。

⑺Death and Company 1930-11 評価6点
ひねくれたユーモアセンスが良い。
p360 百ドル紙幣: 1914年以来、ベンジャミン フランクリンの肖像でお馴染み。消費者物価指数基準1930/2019で14.63倍、現在価値16万1千円。
p362 チャーリー ロス事件: Charles Brewster "Charley" Ross (1870年5月4日 - 1874年7月1日失踪)は、アメリカ合衆国史上、最初の身代金誘拐事件。(wiki)

一冊読んだだけですが、キャラ重視の作家だと思いました。いろんな人に会う職業だと、結構面白いキャラネタを持ってるはず。プロットにはあまり興味がなさそう。文章はわかりやすさを心がけてる感じ。次はThe Red Harvest(もちろん小鷹訳で)を読んでみるつもりです。

No.4 8点
(2017/11/25 13:34登録)
創元推理文庫のコンチネンタル・オプ・シリーズを集めた『フェアウェルの殺人』と共通するのは、『放火罪および…』だけ。で創元の方が謎解き要素の高いものが多かったのに対して、こちらは中心となるのが2種類の2編の連作で、どちらもまさにハードボイルドって感じです。いや、『血の報酬第一部 でぶの大女』のとんでもなく派手な銀行強盗は、ここまでくるとハードボイルドの範疇から逸脱してしまっているかもしれません。しかしやはり文句なしにおもしろい。第二部の『小柄な老人』の最後に、コンチネンタル・オプが「おれはパパドパロス(作中の協力者を次々に始末する悪役)と同類さ」と言うのには納得。
異色短編とされる『ジェフリー・メインの死』も、こんな粋な解決をつけるタイプがあってもちっともおかしくないと思えます。シリーズ最終作『死の会社』は事件の基本的な部分は明らかですが、うまくまとめてくれていて、これも悪くありません。

No.3 8点 おっさん
(2013/02/18 12:03登録)
いきなり私事で恐縮ですが・・・
先日あるパーティで小鷹信光氏にお目にかかり、お話させていただく機会がありました。
筆者にとって同氏は、まず何より海外ミステリの研究者・紹介者として大恩人なので、その感謝の思いを伝えたわけですが、「じつは私はハードボイルド・ミステリの良い読者ではなくて」と余計な一言を言ってしまったときの、小鷹氏の「おいおい」という目が忘れられませんw
心を入れ替えて、ハードボイルド再入門してみます。
となれば、まずは「始祖」ハメットからでしょう。

アメリカ探偵小説の揺籃期、1920年代の初頭に『ブラック・マスク』誌でスタートした、ハメットの原点・コンチネンタル・オプものの短編群は、我国ではいまだに本の形で体系的にまとめられていません。
そんななか、現時点で筆者がハメットへの入り口としてベストだと考えるのは――けっしてヨイショではなく――、ハメット生誕百年の1994年にハヤカワ・ミステリ文庫から出た、小鷹信光編訳の本書です。
出た当時、一読して、ああ、『赤い収穫(血の収穫)』や『マルタの鷹』を読む前にこれに目を通しておけたら、どれだけ作品理解が深まったろう、と嘆息したものでした。

収録作は―― ①放火罪および・・・ ②ターク通りの家 ③銀色の目の女 ④血の報酬/第一部 でぶの大女 ⑤血の報酬/第二部 小柄な老人 ⑥ジェフリー・メインの死 ⑦死の会社

冴えない――チビでデブの――サラリーマンが、基本的に“業務”で事件を解決していくさまを、一人称でキビキビ語っていく、いま読んでもなかなかにユニークな、後年に流布した紋切り型のハードボイルドのイメージにはおさまらないシリーズです。
以前、筆者はドイルのシャーロック・ホームズものに関して、その本質は「「名探偵」というヒーローの活躍を描く冒険譚」だと記しました(本サイトの『回想』のレヴューをご参照ください)。探偵活動をなりわいとするヒーローの冒険行が、作者の狙いによって「謎解き型」に特化することもあれば、「サスペンス型」に姿を変えることもある、という意味合いです。
そして、いまあらためてオプものを読み返すと――なんだ、いっしょじゃないか(苦笑)。

①は、1923年に発表されたオプ登場の第一作。彼がおりおりに「――ジグソーパズルの断片を寄せ集めて一枚の絵に完成させてみようとした」「――頭の中でジグソーパズルの絵が完成しかけていた」と考えることからもわかりますが、これは「謎解き型」以外の何物でもない。しかし犯人のトリックの、肝心の部分にポッカリ穴があいているので、その出来はお世辞にもよくありません。
初期の「謎解き型」なら、同じ23年の「黒づくめの女」(創元推理文庫『フェアウェルの殺人』所収)のほうがずっと良い内容なのですが(ただしこれは誘拐テーマということで、オプ最後の事件である⑦とかぶるため、作品集の彩りを考えると押し込めないか・・・)まあ「放火罪および・・・」の歴史的価値は動かせない。

②と③の連作が本書のベスト。
ことに、偶然のことから悪党どもの巣窟に捕らわれることになったオプが、知略で状況を改変し――クローズド・サークルwからの――脱出をはかろうとする前者は、ハメットが「サスペンス型」に開眼してシリーズの枠組みを広げたという意味で重要。
そこで取り逃がした悪女との決着を描く後者のエンディングは、これぞハードボイルドですね。やせ我慢と言わば言え、それが男のプライドなのさ。でも、据え膳食わぬオプは、サム・スペード(『マルタの鷹』)に比べればまだまだ甘いw

合わせて本書の約四割を占める中編連作の④⑤はさすがに読みごたえ充分で、ことに、全米の悪党どものドリーム・チームwが銀行を襲撃! 追跡するオプたちを嘲笑うかのように、しかし実行犯は次々に粛清されていく・・・という前者のインパクトは凄い。広げた風呂敷が大きすぎるので、その畳みかたや続編の帰結がいささか竜頭蛇尾に感じられるのは、仕方ないところでしょう。
「謎解き型」の名探偵が、ときに独自の裁きで事件を終結させるように、オプも後者の終盤では“業務”から一歩踏み出して、かなり危ういラインに足を突っ込んでおり――本人は、あくまで「たまたまああなっただけのことです」と言っていますが――ここから『赤い収穫(血の収穫)』まではあと半歩です。

訳文、編集、書誌データ――プロの仕事とはこういうものだ、という一冊に仕上がっており、広く推薦できるわけですが・・・
個人的に(小さくない)不満がひとつだけ。筆者の考えるオプもののベスト(中)短編が入っていない (>_<)
目次で“異色短篇”と謳われた⑥の、独特の余韻も悪くありませんが、オプの“探偵”としての物語に鮮やかに謎解きが組み込まれた「カウフィグナル島の略奪」(ハヤカワ・ミステリ『名探偵登場③』所収)を落としてしまっては――④とケイパー(襲撃)ものの趣向かぶりを気にされたのかもしれませんが――傑作選として画竜点睛を欠きますよ、小鷹さん。

ちなみに。
「カウフィグナル島の略奪」は、「クッフィニャル島の夜襲」として、嶋中文庫の『血の収穫』(グレート・ミステリーズ9)にも収録されていましたから、興味をお持ちの向きは、是非古本を捜してみて下さい。
(後記)2020年になって、創元推理文庫から刊行された『短編ミステリの二百年2』(小森収 編)に、門野集による新訳で「クッフィニャル島の略奪」が収録されました。(2020.3.29)

No.2 7点 mini
(2011/06/24 09:56登録)
明日25日発売予定の早川ミステリマガジン8月号の特集は”没後50周年 なぜハメットが今も愛されるのか”
生誕100周年とかならともかく没後50周年って中途半端だなぁ、これだったら他の作家にも色々理由付けられそうだけどな、まぁいいか

ハメットには長編が5作しかなく、パルプマガジンに載った中短編群を無視する事は出来ない
E・クイーンがハメットの短篇集を何冊も編纂しており、短篇作家としての側面も強いのだ
スペードものの短編は数少ないが非シリーズ短編はかなり数が多く、日本で刊行のハメット短篇集の多くは非シリーズなども適当に混ぜてバランスを取っている
しかしこの早川版の短篇集はオプものだけで纏めた中短篇集で、ノンシリーズなどは1篇も入っていない、早川書房はこうしたコンパクトに収めた入門用短篇集を編むのが上手い
その点、創元編集部は大掛かりに全集組むか、入門用アンソロジーとか編んでも収録作をバランス取ろうとして考え過ぎて失敗しているケースが多い、調査能力は凄いんだが
この短篇集は早川版ハメットの長編の翻訳を一手に引き受けている小鷹信光氏編集だ
全分量の内半分を中篇「血の報酬」が占めていて一見すると分量的にバランスが悪いのだが、しかしこの「血の報酬」がなかなか良いんだよねえ
何しろ150人もの悪漢たちによる大掛かりな犯罪計画、何十人もの死者数は一般的連続殺人ものの比ではない
軽快なテンポは”触れれば血が噴出すよう”と形容されたハメットらしさが前面に出ていて、さながら第6の長編って感じで、ハメットの本質は結局こういう作品なんじゃないかなぁと思ってしまった

ところで巻末解説の書誌で初めて知ったんだが、オプものの短編第1号は雑誌『ブラックマスク』に1923年初出の「放火罪および・・・」、このオプのデビュー作は本格色が強く、後にEQMMに再録されたのも肯ける
オプ短編の最終作の初出が1930年
一方で長編第1作「赤い収穫」の雑誌連載が1928年、オプものじゃないが「マルタの鷹」の刊行にいたっては1930年
つまりですねえ、ハメットは長編と短編を同時進行で書いていったわけじゃなくて、1930年を境に長編が売れ出したらオプ短編は止めちゃったって事ですよ(スペードものの短編は別)
そう言えばガードナーにもメイスン以前に夥しい数の雑誌向け短編群が有るし
驚くのはデビュー短編が1923年ってすごくね?
まだヴァン・ダインも登場しておらず本格黄金時代が幕開けしたばかりだったんだぜ
ハードボイルドは本格に対するアンチテーゼに由来するという説は間違いなんじゃねえの?
本格以前にアメリカらしいミステリーの創生が始まっていたんじゃないだろうか

No.1 5点 Tetchy
(2009/04/10 22:06登録)
結局の所、ハードボイルドについて云えば、そのストーリーもしくはプロットの妙もさる事ながら、その纏う雰囲気、文体にのれるかのれないかによる所が大きい。
心情の判らないサム・スペード物に比べれば今回のコンチネンタル・オプ物は主人公の内面に当たる所があり、今までのハメット作品の中ではのれた部類に入るのだが、正直云ってやはり物足りない。
コンチネンタル探偵社がオプを中心にチームワークで事件に当たるのは(私の中で)今までになくフレッシュな感覚があるのだが、その分登場人物が多過ぎて訳判んなくなってしまった。
う~ん。

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