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ミステリの祭典

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麻薬密売人
87分署

作家 エド・マクベイン
出版日1960年01月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 6点 クリスティ再読
(2023/07/23 09:39登録)
87分署3作目。シリーズとして続けていく上ではとっても大事な回だったんじゃないかな。本作のラストが悲劇だったら、シリーズ終わってたかも。「冬はまるで爆弾をかかえたアナーキストのように襲い掛かってきた」で予告されるシビアな「冷たさ」が、時節柄のクリスマス・ストーリーに雪崩れ込んでいくことで、この人気シリーズのロングランが決まったんだろう。

それまでが警察制度への挑戦・通り魔事件と激ハデ事件だったのとは一転した「日常回」。ジャンキー少年の自殺事件?から、ストリートで地味に起きていく事件。今回の「主役」は珍しくバーンズ警部で、子供の問題に頭が痛い。まあだから裏表紙にあるような「麻薬と人種問題」を扱った社会派作品、という感覚はそんなに強くない。
なにげに「二度殺された被害者」ネタだし、そのWHYに秘められた罠とか、地味ななりには考えられた作品だとは思う。「ウェルメイド」を維持し続けることができたのって、作者の力量なんだよね、と改めて実感する。イベント回じゃないから埋没しがちな作品だけど、こういう回こそがシリーズの生命線なんだと思うよ。

で中田耕治氏の訳。スラングを日本語の隠語に置き換えて訳すスタイルだから、評者とかとってもレトロで懐かしい。嫌いな人は多いだろうけどもねえ。

No.2 6点
(2019/08/16 15:46登録)
 クリスマスも間近な年の瀬の夜、耳がちぎれそうな寒さに震えるパトロール警官は、通りの奥にあかりを見た。くろぐろとした闇のなか、警官は導かれるように一軒のアパートに近づく。地階の階段の開いた口から、あかりは溢れていた。リヴォルヴァーをひきぬき用心しながら地下室に足を踏み入れると、部屋のずっと奥の寝棚に少年が腰かけている。紫色の顔をして、ひどく不安定な恰好で前のめりになって。
 頸のまわりは紐で縛りつけてあり、紐の端は格子窓に結びつけられている。そいつが彼のからだを支えているのだ。両手は熟睡しきっている人間のように両脇にだらりとさげ、掌を上に向けている。片方の手から数インチ離れた場所に空の注射器がころがっていた・・・
 被害者はプエルト・リコ系の十八歳の少年アニーバル・エルナンデス。死因はヘロインの射ち過ぎ。事件担当のスティーヴ・キャレラ刑事はあからさまな自殺の偽装にキナくささを感じますが、犯人の狙いは掴めません。注射器をはじめ現場からは鮮明な指紋が検出されますが、前科はないらしく身元の照合も出来ません。
 朦朧状態の被害者が紐を結べる筈がないと分かっていながら、わざわざ自殺に見せかけたのはなぜなのか・・・
 キャレラは三歳上の姉マリアに聞き込みをしますが、彼女からは何も聞き出せません。マリアはアニーバルを麻薬中毒に引きずり込み、自身も薬の代金を稼ぐために娼婦にいそしんでいました。引き続き分署管内の麻薬取引をあたるうち、やがて「ゴンソ」という売人の名前が浮かび上がってきます。そいつがアニーバルの死後、彼の顧客たちに麻薬を売りつけているらしい。
 その頃、捜査班を一手に仕切るピーター・バーンズ警部の下に、身元不明の人物からの電話が掛かってきた・・・
 1956年発表のシリーズ第三作。「冬はまるで爆弾をかかえたアナーキストのように襲いかかってきた」という、有名な書き出しで始まる作品。どちらかと言えばレギュラー刑事たちのドラマが主体。訳者は作家の中田耕治氏ですが、癖の強い訳なので読者の好き嫌いは分かれるでしょう。
 被害者となるプエルト・リコ人姉弟とその母親、及び犯人像、謎の男からの脅迫に揺れ動くバーンズ警部一家など、ドラマ部分はかなりよく出来ていますがミステリ要素はほとんどないですね。そういうのを期待して読むとつまらないかも。刑事物のキャラクター回みたいな作品です。個人的には瀕死のキャレラを見舞う密告者(はと)、ダニー・ギムプのエピソードが好き。
 作者は本書でスティーヴ・キャレラを殺すつもりだったそうですが、辛気臭くても一応クリスマス・ストーリーではあるので、この結末で正解でしょう。87分署シリーズが成功した一番の理由はキャレラではなく、聾唖の妻テディの存在にあると思いますので。本編を最後にキャレラ夫妻が退場していれば、ここまで長くは続かなかったかも。

No.1 5点
(2018/01/04 00:11登録)
この87分署シリーズ第3作では、前作『通り魔』で功績をあげたクリング巡査が刑事になって、キャレラと一緒に死体発見現場に駆け付けるところから始まります。最初首吊り自殺と思われた少年はヘロインの過剰摂取により死んだことが判明し、タイトルの麻薬密売人による殺人と推測されます。検死で簡単にばれることは明らかなのに、なぜ縊死を装うことまでしたのか、というところが中心の謎になっています。本作は余計なものを入れずこの事件一本に絞った構成で、またキャレラが大変な目に会う事件でもあります。
しかし今回の主役は、一応ピーター・バーンズ警部と言っていいでしょう。彼の家族が事件に巻き込まれ、職務と家庭の問題の間で悩むのです。最後は彼が一人で犯人逮捕に赴き、「いっしょにきてもらおうか」と犯人に優しく言う結末になります。
ただ途中までの展開に比べて、この最後がスケール的に尻すぼみになってしまった印象は拭えません。

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