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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.1130 6点 殺意の日曜日
マーシャ・マラー
(2019/10/20 22:50登録)
初期作品では普通にかわいい感じの女性だったシャロン・マコーンも、元恋人のDJを思い出して感傷的になったり、事件関係者に対して激高しそうになったりすることはあっても、ずいぶん落ちつきが出て来て、ある程度貫録を感じさせるようにもなってきています。前回読んだ次作『カフェ・コメディの悲劇』に比べると、事件自体が最初の殺人は明らかに故殺(一時の激情による殺人)と思われますし、最後も次作のような派手な展開にはならず、地味目なところも、本作のシャロンが特に大人びた感じに思える理由でしょうか。まあパレツキーのヴィクと比べると、運動神経の方はたいしたことはなさそうですが。
巻末解説には、マラーはロス・マクドナルドからの強い影響を自認していることが書かれていますが、本作の人間関係やクライマックスなど、確かにそうだと思わせられます。ただ、ロス・マクに比べると、謎解きを鮮やかに見せる手際には少々欠けます。


No.1129 6点 神の街の殺人
トマス・H・クック
(2019/10/17 22:31登録)
重厚な心理サスペンスが知られるクックの初期作品には捜査側から描かれたものが多いようですが、この第3作は、犯人側の視点をところどころにはさむ警察小説タイプです。
モルモン教の本部があるソルトレイクシティで起こる連続殺人事件を扱っていて、邦題もその意味です。なお原題の “Tabernacle” は礼拝堂の意味で、クライマックスの舞台を意味しています。常軌を逸した思想を持つ犯人視点の部分では犯人の名前は隠されていますが、登場人物表と照らし合わせれば、候補者は絞り込まれてしまいます。まあ、それで犯人の名前だけ見当がついても、中心となる謎は動機ですので、おもしろさが低減してしまうような作品ではありません。
後年の作品に通じるような味わいもありますが、礼拝堂での事件の決着のつけ方が、刑事の過去と密接につながって来ず、また犯人がその動機を持つにいたった経緯が説明されていないのは不満でした。


No.1128 5点 湯殿山麓呪い村
山村正夫
(2019/10/14 09:39登録)
横溝正史を意識した作品ですが、同時期に『悪霊島』を執筆中だった横溝正史本人からも激励を受けていたことが、ハードカバー版作者あとがきには書かれています。ただ、構成的に、6割過ぎあたりから犯人を示す記述が急に露骨になって来るのは、横溝正史とは発想が全く異なるところではないかと思えました。で、最後真犯人が探偵役の滝連太郎によって明かされた後まだ40ページぐらいも残っています。さらなるどんでん返しはあり得ないし、どうするつもりなのだろうと思っていたのですが、明確になっていなかった動機が語られるのと、犯人がどうなるかの決着部分がほとんどでした。
かなり早い段階で犯人の口から暗示的な手がかりが出されるのですが、これが雰囲気の古めかしさにもかかわらず、あとがきで作者の言う「テーマはアクチュアルなもの」というところにもつながっていたんですね。
海外超有名作の完全ネタバレあり。


No.1127 5点 五時の稲妻
ウィリアム・L・デアンドリア
(2019/10/11 22:51登録)
瀬戸川猛資氏の巻末解説によればデアンドリアの「現代史もの」のひとつです。時代設定は発表の約30年前の1953年。著者まえがきには、「大半の登場人物はまったくの虚構である」と書かれていますが、それは実在の人物も少しは登場するということであり、実際にセリフなどもある人物は、ヤンキースのミッキー・マントルです。ただメジャー・リーグについては知識のない自分としては、この選手のことも全然知らなかったのですが。その名選手が命を狙われることになるというのも主筋に一つになっています。その動機というのが、当時のマッカーシズムとも関連するとんでもなく乱暴なもの。
謎解きの意外性を重視する作家らしく、最後には鮮やかにトリックを解明していますし、その後の決着の付け方は作者の敬愛するクイーンの某作品なども連想させます。しかし犯人側の視点も所々に取り入れた作品構成全体はいまひとつでした。


No.1126 6点 帰ってきたミス・メルヴィル
イーヴリン・E・スミス
(2019/10/05 08:41登録)
ミス・メルヴィルは殺し屋だというので、ハードなものではないにしても犯罪小説系スリラーかと思っていたのですが、この第2作は謎解き系のミステリになっていました。
ミス・メルヴィルはオールド・ミスと表現されていますが、ミス・マープルみたいな高齢者ではなく、中年女性といったところ。お嬢様育ちの彼女の上品でおっとりした感じは、作品世界そのものにもなっています。本作では、画家として人気が出てきたため、殺し屋はとりあえず廃業した彼女が、美術界の事件に素人探偵として活躍します。画廊で死んだ芸術家(立体美術の作者)は実は殺されたのではないかという疑いから始まり、さらに画廊の経営者が殺され、また評判の画家の正体に関する疑問など、謎の要素は豊富です。
ただ、事件の真相説明はもっぱら犯人により語られるようになっているところが、本格派と言うにはどうかなとも思えますが。


No.1125 6点 毒の矢
横溝正史
(2019/10/01 20:18登録)
中編に加筆した作品だそうで、サスペンス重視の通俗的なものではなく、200ページ弱でほどよくまとまった純粋なパズラーになっています。殺人トリックそのものは、英国有名作家の映画化もされた作品とそっくりですが、背中に彫られたトランプの刺青という作者らしい趣向をうまく利用して、さらに重要手掛かりにもしているところが評価できます。ただこの手がかりの与え方は、少々不自然かなとは思えますが。町中にばらまかれる匿名の手紙の動機も、一応納得できる形にしていますし、金田一耕助が殺人事件発生の当夜に事件を解決してしまうという名探偵らしさを見せてくれるのも好印象です。
角川文庫版には、同じ世田谷区緑ヶ丘を舞台にした中編『黒い翼』を併録しています。表題作の原型中編と連続して雑誌に発表されたそうで、テーマ的にも「幸運の手紙」系の葉書という表題作と似たものです。


No.1124 6点 ガールハンター
ミッキー・スピレイン
(2019/09/28 07:48登録)
前年に未発表旧作(一応手を加えているんじゃないかとも思えますが)『縄張りをわたすな』で長編を再開したスピレイン、新作マイク・ハマーものは、作者だけでなくハマー自身の復活物語でもありました。スピレイン自身がハマーみたいにアル中になっていたわけではないでしょうけれど。作品設定としては、ハマーは7年間飲んだくれて落ちぶれていたことになっています。いくら悔恨と悲しみに打ちひしがれたとはいえ、そんなにまでなるかなあとか、恨みを持つ輩によくも狙われなかったもんだとかいう疑問は、この際無視することにして。
冒頭で生きているらしいとわかったヴェルダは、作中では一切登場しません。二人の再会は次作でのお楽しみ、とういうことで。昔みたいな体力はないとかくよくよ考えながらも、殺し屋相手に頑張るハマーには、やはり拍手を。ラストシーンは、伏線がわざとらしいですが、いかにもスピレインです。


No.1123 6点 夜の試写会
S・J・ローザン
(2019/09/23 23:23登録)
日本で独自に編集されたローザンの短編集。
収録7編中、最初と最後にリディアとビルが2人とも登場する(いずれもリディア視点)作品を置き、その間にリディア単独事件を2編、ビル単独事件を3編並べています。すべて、何らかの意味で結末の意外性を狙ったものになっていますが、パズラー系作家に比べると謎解き的にはちょっとワン・パターンかなとも思えます。
巻末解説にはビル主役作はハードボイルド的、リディア主役作はコージーっぽいと書かれていますが、本書の中で最もハードボイルドでないのは、ビルの『天の与えしもの』で、困りもの宗教家撃退法を描いたユーモア・ミステリです。一方重いテーマを持ちハードに徹したのはビルの『ただ一度のチャンス』とリディアの『人でなし』。さらにアメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞受賞の軽快な『ペテン師ディランシー』など、作風的には変化に富んでいます。


No.1122 6点 時の審廷
芦辺拓
(2019/09/18 23:15登録)
戦前のハルビンから現代の日本へと、実際の有名犯罪事件をモデルに壮大なスケールで描く「権力者」の悪徳の限り…
2010年4月に序篇が雑誌に掲載されたことが、前書きに記されていますが、巻末の「+書き下ろし」という記載からすると、序篇執筆の3年後にそれ以降は書かれたということでしょうか。前書きではその間に「…東日本大震災が発生、物語の根底をくつがえす結果となりました」とも書かれていて、意味はわかりますが、フィクションにとっては現実との相違はどうでもいいことでしょう。昭和23年の「大都銀行事件」なんてモデルは明らかですが、だからといって現実の事件の真相も本作の結末に近いものだというわけではありません。
ハルビンで「警尉補」として登場し、戦後の東京では警部になっている人は、日本語での名前は明確にされませんが、ロシア語発音の呼びかけ等から、あのアリバイ崩し名手であることは明らか。


No.1121 6点 犯罪王カ~ムジン
ジェラルド・カーシュ
(2019/09/14 19:06登録)
2003年にアメリカで編集された17編のカームジン・シリーズには、直訳すれば「最も偉大な犯罪者あるいは最も突飛な嘘つき」という副題が付いています。
英首相チャーチル等愛読者が多いということで、とんでもない作品を期待していたのですが、第1作『カームジンの銀行泥棒』から始まり、全体的に意外にまとも? という感じでした。直前に読んだクレイグ・ライスが予想ほどお笑い要素がなかったのにはむしろ好感を持ったのですが、本作の場合は少々期待外れでした。いや、トリックとしてはなかなかのものなのですが。巨額の金を動かした犯罪者だと言いながら、語り手にコーヒーや煙草をおごらせたりする現在の状況とのギャップも、個人的にはそれほどおもしろいとは思えません。でもまあ『カームジンとあの世を信じない男』とかその続編とも言うべき『カームジンと透明人間』という珍品もあります。
シリーズ外の2編も収録。


No.1120 6点 幸運な死体
クレイグ・ライス
(2019/09/10 20:20登録)
ライスは初読みですが、予想とは違う印象を持った作品でした。
まずはさほどコメディしていなかったのがひとつ。特に笑わせてやろうという感じがしないのです。大げさな比喩表現もありますが、うまくはまる場合にしか使っていないと思いますし、いくらでも派手にできそうな「幽霊」騒ぎも人々のリアクションはむしろ控えめなくらいです。またマローンは酔いどれ弁護士と紹介されることが多いですが、ジェイムズ・クラムリーのミロやシュグルーみたいなことはありません。まあ最後には、酒場で乱闘の挙句留置場に一時ぶちこまれもしますが、これは事情を考えれば当然でしょう。事件がどう決着しようが、マローンにとって「幸運な死体」ことアンナ・マリーとの関係がめでたしめでたしになるわけがありません。
謎解き的には、アクション・シーンの後、これで終わるわけがないしと思っていたら、やはりそう来ましたか。


No.1119 5点 断層
高木彬光
(2019/09/06 22:55登録)
タフな私立探偵大前田英策を主役としたシリーズは、神津恭介との共演のため本領が発揮されていない久々登場の『狐の密室』だけしか読んでいなかったのですが、本作はその第3作、1959年発表という時代性からして、事件の裏に隠された秘密など、多少社会派的な要素も入ってきています。一方謎解き的にはシンプルで、ハウダニットの要素はありません。それは神津恭介とは違うものを期待して読んでいるからいいのですが、最後に犯人が仕掛けた罠を大前田英策が見破る決め手について、後から説明されるだけでフェアプレイが全く守られていないのだけはちょっとどうかと思います。
立風書房版には、同じ大前田英策ものの4短編が併録されていますが、中ではSF的な謎と人情噺を融合した『二十三歳の赤ん坊』が気に入りました。『飛びたてぬ鳥』は、同じ効果を出すには死体発見を遅らせる方がよっぽど簡単だろうと思えてしまいます。


No.1118 6点 追跡
ビル・プロンジーニ
(2019/09/01 15:38登録)
原題の "Bindlestiff" は、訳者あとがきでは「渡り鳥」としゃれた言葉を使っていますが、要するに浮浪者、ホームレスのこと。
前々作『迷路』で私立探偵ライセンスを失うことになった名無しのオプに、無事ライセンスが再交付されるところから話は始まります。そのことがマスコミにとりあげられるのですが、アメリカでは本当にそんなこともニュースになるんでしょうか。まあそれで祝福の電話をかけてきた人の中に、会ったことのある女私立探偵シャロン・マッコーンがいたというのにはにやりとさせられます。プロンジーニ夫人のマーシャ・マラーの探偵役で、本作の翌年には夫婦合作『ダブル』も発表されます。
内容的には、二つの部分に分かれています。前半は浮浪者になっている父親を捜してほしいという娘の依頼で、その問題に一応決着が付いた後、さらにそのことが元で新たな事件が起こるという展開で、この構成は『迷路』よりは気に入りました。


No.1117 5点 殺したくないのに
バリ・ウッド
(2019/08/28 20:41登録)
本作に興味を持ったのは、デイヴィッド・クローネンバーグ監督の映画『戦慄の絆』の原作者(の一人)の小説だからということでした。そして読み始めてみると、なんとクローネンバーグ監督を有名にした『スキャナーズ』―頭が爆発する衝撃映像が話題になった超能力SF映画と同じ題材ではないですか。本作が発表されたのは『スキャナーズ』公開の5年前、1975年です。
しかし、SFと言うには科学的側面が弱いのです。超能力者ジェニファーの周辺と、彼女が正当防衛で殺した(と思われる)強盗の不可解な死因を異様な執念で突き止めようとする警部の視点を組み合わせた構成で、その意味ではミステリ的要素の方が強いと言えます。法律的にはばかばかしい警部の執念の理由は、最後の対決部分で明確になります。筆力がある作家なのは間違いないのですが、警察官がこんなことを考えては、という思いが先に立ってしまいました。


No.1116 7点 めぐり会い
岸田るり子
(2019/08/24 23:02登録)
絵が得意な主婦華美と、バンドのボーカル祐の二人の視点を章ごとに切り替えていくカットバック手法で、最後にその二つの話がどう結びつくかという点に興味の焦点を置いた作品です。岸田るり子はこのように小説構成で読者を惹きつけるのが得意な作家ですが、本作は中でもかなり成功した例でしょう。
今回その手法で提示される謎はSF的な時間のずれで、真相解明直前には「タイムスリップ」という章まであります。トリックはごく簡単ですが、その章まで時間的な謎は読者にだけ示して、登場人物たちは全く知らないように話を組み立てているのが、なかなかうまいと思います。
華美と祐のどちらも家族、特に「愛」の問題に悩んでいて、そこがじっくり描き込まれた作品でもあります。最後にタイトルどおりの結末になるのは当然ですが、どのように「会う」ことになるのか、そこは読んでのお楽しみ。ただ、連続放火事件の真相だけはちょっとなあ…


No.1115 6点 魔人
金来成
(2019/08/19 22:49登録)
韓国ミステリの祖と言われる金来成(キム・ネソン)が1939年に新聞に連載し、すぐ単行本で出版されてベスト・セラーになった作品。執筆時期にもかかわらず、内容的には日本の影は全く感じられません。
論創社邦訳の帯には「江戸川乱歩の世界を彷彿とさせる怪奇と浪漫」とされていて、確かに展開には乱歩並みに通俗的に派手なところはあるものの、『蜘蛛男』等に比べると、全体的な事件構図ははるかに論理的にできています。ただトリックの独創性はなく、最初の仮面舞踏会での事件については、アメリカの某有名作を連想する人は多いでしょう。まあ作者自身それは承知の上で、探偵役にその作家名だけは言わせています。そのシーンで真相の大部分は解明されたかに思えるのですが、さらにひねりを加えて盛りだくさんな作品に仕上げています。
ところで名探偵の劉不亂(ユブラン)、1か所(第26章)、ルビを「ルブラン」と誤植したところがあります。


No.1114 8点 センチュリアン
ジョゼフ・ウォンボー
(2019/08/15 22:22登録)
原題は "The New Centurions"。"Century" には古語で「百人隊」の意味もあり、その隊長のことだそうです。本書は文庫化された時にミステリ文庫ではなく「NV」つまりノベルズの方で出版されています。実際、警察小説ではあるものの、ミステリとは呼びにくいところがあります。この作家は21世紀に入ってからのハリウッド警察シリーズしか読んでいないのですが、このデビュー作は警察官の日常を描いているものの、そもそも全体を通してのメインとなる犯罪事件がありません。主人公は同時期に警察官になった3人。1960年初夏のプロローグ(研修期間)から始まって、毎年8月、最後は1965年8月まで続きます。まあこの最後の年には現実に取材した大事件が起こり、そこで3人が久しぶりに出会うことにもなるのですが。
ともかくドキュメンタリーを読んでいるような気にさせられる臨場感がすごい作品です。


No.1113 4点 夜行列車
森村誠一
(2019/08/11 22:38登録)
220ページほどという、森村誠一にしては短めの長編です。講談社文庫の帯には、「ドラマティックミステリー 本格長編推理傑作」と書かれていますが、「本格」ねえ、という感じはします。謎解き的な部分としておもしろいのは、ひき逃げと殺人の犯人が逮捕されても、まだ謎は残っているという構成と、最後の決め手となる証拠だけでしょう。全体的な流れを読後に振り返ってみると、あまりに偶然が多いですし、後段の犯人設定に何の工夫もないことにがっかりさせられます。容疑者が浮かんできた段階で、もう一ひねりあるのではないかなと、この段階に入った部分を思い返して予想したのですが、違っていました。
細かく言えばナンバープレートに指紋がその時期まで残っているかといった疑問もありますが、それより容疑者を逮捕する時、隠し玉の証拠があるから逮捕に踏み切ったことだけは読者にも説明しておくべきでしょう。


No.1112 4点 見えない敵
F・W・クロフツ
(2019/08/07 23:41登録)
1945年に発表された、第二次大戦中の殺人事件を扱った作品です。軍の倉庫から盗まれた手榴弾で行われた爆殺ということで、時にはスリラーっぽい作品も書いているクロフツですし、スパイ小説をも思わせるタイトルでもありますが、純粋な謎解き捜査小説です。
地方で起こった事件にスコットランド・ヤードから応援に出張するのはご存知フレンチ警視-いや、これは井上勇氏の階級名称翻訳の問題で、まだ警部のはずでしょう。これもお馴染みカーター部長を連れていますが、この人ヴァン・ダイン(作中の)並みに影の薄いことがあります。
これも以前に盗まれていた電線を使っての遠隔殺人であることは、フレンチが捜査を始めた直後に明らかになるのですが犯人の特定はなかなかできません。トリックが解明されてみると、そんな複雑なことをしなくてもいい方法があったのではないかと思えてしまう点が不満でした。


No.1111 10点 雪は汚れていた
ジョルジュ・シムノン
(2019/08/03 10:49登録)
シムノンの膨大な作品中でも一般的に最も高く評価されているのが、ジッドを驚嘆させたという本作でしょう。実際、犯罪小説らしい前半も充分面白いのですが、主人公が逮捕されてからの後半には圧倒されます。
しかし、シムノンらしい代表作とは言えないかもしれません。むしろ異色な要素もあるのです。まず長さですが、文庫本で200ページ前後のものが多い作家なのに、本作は約300ページと、普通の長編といった長さです。もっと長い、いわゆる大作だと、『ドナデュの遺書』、『フェルショー家の兄』、未訳の “Le voyageur de la Toussaint” 等もあるのですが。また、舞台の町がどこかが明記されないのも、珍しいことです。雪の積もった地方で、登場人物たちは主人公フランク・フリードマイヤー、隣人のゲルハルト・ホルストといったドイツ系の名前。
なお、読んだのは早川書房シメノン選集の永戸俊雄訳で、文章は古めかしいですが、作品評価としてはやはりこれで。

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