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ミステリの祭典

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雪は汚れていた

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1955年02月
平均点8.40点
書評数5人

No.5 7点 take5
(2024/01/22 20:21登録)
連合軍占領下のフランスで、
淫売屋を営む娼婦崩れの母を持つ
若者の無軌道な行動を描く。
彼は結局占領軍の調査部局に捕まる。
ある種強靭な彼は尋問を耐えてゆく。
占領軍は愛国主義者などの政治性を
犯行動機と疑ったが、
そこは本質ではない。
一旦は裏切った若い娘の感情を知る
クライマックス、
彼は従容として死に赴く。

戦争とは
様々な顔をしているものですね。

No.4 8点 斎藤警部
(2024/01/14 19:27登録)
純白の感動を呼ぶ、痛切極まりない "◯◯式" のシーン。 私はそこに、この物語の中心点を置きました。

「世界じゅうでいちばん大きな罪を犯しましたが、これはあなた方には関係のないことです。」

占領下の街。 小さな娼家に母親と暮らす不良青年は、くぐもった未来像を突き抜け何者かになるべく、もがいては行動を起こし、またもがいては無闇に行動し、やがて引き返せない一本道に迷い込み、なにものかに、、、捕らえられる。 一人称ハードボイルドが似合いそうなムードと筋運びを、神になりきらぬ、時にもどかしい作者視点で包み込むように叙述しきった、重量感溢れる惨酷犯罪心理劇。

"フランクは言葉なんかこわくない。彼は無理にその言葉を大声で口にしてみた。" 「きちがい!」

サスペンスフルなクライムノヴェル風前半から可読性と玩読性が激しく拮抗しつつ、 後半、ある場面転換からやにわに直面する混濁と悟りのキャッチボール。 推理、思索とまどろみの取っ組み合い。 以心伝心と疑心暗鬼。 幻想と混乱のコールドロン。 そこに見い出した或る「◯」。。 読み応えは充分。 心に残る最強の脇役陣に突き上げられ、愚かな主人公の行く末を見守らざるは無い、胸中に深く長く染み渡る逸品です。

No.3 8点 ◇・・
(2020/06/14 19:38登録)
純粋さを希求しながらも流されるままに生き、やがて殺人者となり、悪への道へと転落していく青年の物語。だが刑事とのやり取りの中で、生きる「意味」を掴んだ瞬間の描写は衝撃的だった。
青年の不安定で鬱屈した心情、絶望的な状況は現在にも繋がる。その意味では、これは永遠の青春小説である。

No.2 10点
(2019/08/03 10:49登録)
シムノンの膨大な作品中でも一般的に最も高く評価されているのが、ジッドを驚嘆させたという本作でしょう。実際、犯罪小説らしい前半も充分面白いのですが、主人公が逮捕されてからの後半には圧倒されます。
しかし、シムノンらしい代表作とは言えないかもしれません。むしろ異色な要素もあるのです。まず長さですが、文庫本で200ページ前後のものが多い作家なのに、本作は約300ページと、普通の長編といった長さです。もっと長い、いわゆる大作だと、『ドナデュの遺書』、『フェルショー家の兄』、未訳の “Le voyageur de la Toussaint” 等もあるのですが。また、舞台の町がどこかが明記されないのも、珍しいことです。雪の積もった地方で、登場人物たちは主人公フランク・フリードマイヤー、隣人のゲルハルト・ホルストといったドイツ系の名前。
なお、読んだのは早川書房シメノン選集の永戸俊雄訳で、文章は古めかしいですが、作品評価としてはやはりこれで。

No.1 9点 クリスティ再読
(2017/03/05 23:23登録)
あれ、本作まだ書評がないんだね。たぶん本作がシムノンで一番ヘヴィな作品じゃないかな...でもジッドが絶賛したことで有名な、文学的、という面でのシムノンの代表作になる。
ドイツ占領下の地方都市で、19歳のフランクは占領軍黙認の酒場にドクロを巻く不良青年である。母のロッテは占領軍の軍人も贔屓にする売春宿の主人で、フランクも隣人たちに恐れられ卑しめられるようなものを持っていた...ほとんどマトモな理由もなく、占領軍の下士官を殺害してピストルを奪う。その現場を通りかかった隣人の電車の運転手ホルストに、フランクは自分の行為を知らしめたかった...
本作は言ってみれば、「悪のレジスタンス小説」である。映画「抵抗」だとか「影の軍隊」だとか、フランス映画だと対独レジスタンス活動に題材をとった作品がいろいろあって、本作はそういうレジスタンスの活動にヒントを得ている。しかし本作の主人公フランクの「抵抗」は運命に対するそれである。占領当局に捕まって初めて抵抗するわけではなく、そもそも彼の犯罪(下士官殺しのほか、押し込み強盗殺人など結構凶悪)さえも、運命に対する彼の抵抗としての犯罪なのだ。愛さえもフランクは辱めようとして、彼が愛するホルストの娘シシイを、悪事の仲間に凌辱させようとする...その様は「神を試す」かのようでもある。
評者昔本作を読みたくて、図書館で探したところ「キリスト教文学の世界(主婦の友社)」でこれが収録されていて読んだのが、初読だった。占領軍の「主任」に尋問される様は、たとえばドストエフスキーの「大審問官」やオーウェルの「1984年」、カフカの「審判」などキリスト教ベースの西欧文学の伝統につながり、それを「悪の立場」にアレンジしたものだと見ることができるだろう。シムノンで言えば「男の首」のラディックの犯罪とその「捕まりたい」という衝動を、別な舞台で書き直したものだという見方もできるかな。
シムノンは形而下の問題と同じ手つきで魂を扱う懐の深さを持っているから、メグレ物とロマンの違い、というのも実はささいなアプローチの違いに過ぎないのかもしれない。ヘヴィだけどシムノンが好きなら本作は絶対に外せない。

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