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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1145 7点 ラスト・ウェイ・アウト
フェデリコ・アシャット
(2019/12/20 22:20登録)
アルゼンチンの作家の手になる、アメリカを舞台にした作品。
カバーの作品紹介では「南米発の〝奇書″」とされていますが、日本の三大奇書と比較するなら、『ドグラ・マグラ』に近いタイプでしょうか、と言っても、実は『ドグラ・マグラ』は読んでなくて、松本俊夫監督の映画を見ただけなのですが。ただし夢野久作の難解な原作をうまく整理したと言われる映画と比べても、本作は半ばまではわけがわからないものの、最終的に大部分辻褄が合うようにできています。ここまで論理性に重きを置くなら、最後までもっと徹底してもらった方がよかったかなと思えました。大きく4部に分れた第1部から、異様な現れ方をするオポッサム(フクロネズミ)についてのラストのまとめ方が、疑問に思えるのです。
また、普通にハッピー・エンドにした方が自然だったのではないかとも思いますが、幻覚と現実の融合によるサスペンスは楽しめました。


No.1144 6点 死のひそむ家
ルース・レンデル
(2019/12/16 22:45登録)
ウェクスフォード警部シリーズではない作品なので、心理サスペンスかと思っていたのですが。
創元推理文庫で本格派(?帽子男)として出版されているのは、正解でした。まあ「情死」事件の起こった家の隣人スーザンの視点から描かれた部分が特に前半はほとんどですし、真相は見え見えというか、巻半ば、ウルフ警部の視点部分でかなりの部分を明かしてしまっていますから、最後はアイリッシュ等みたいに怖くなるのかとも思ったのですが、全然そうはならないのです。となると、あまりおもしろくなさそうですが、本作はそこが持ち味になっていて、犯人の心情変化が見どころですので、低い点数は付けられません。
予想と違っていたと言えば、ウルフ警部もそうで、上記の半ば部分を除くと、真相解明にはほとんど役に立っていません。探偵役は「情死」した男の友人デイヴィッドで、あちこち飛び回って精力的に調査してくれます。


No.1143 6点 消えた少年
東直己
(2019/12/13 23:19登録)
ススキノ探偵シリーズ第3作。前2作に対する「冗長でふざけた文」(大泉耕作さん)、「調子に乗った、おちゃらけ気味の主人公」(Tetchyさん)といった評に、うんざりさせられることを覚悟して読み始めたのでしたが、本作はそれほどとも思えませんでした。確かに後の畦原探偵ものと比べるとコメディ色が強いところはありますが、これくらいなら個人的には問題ありません。後に消えることになる中学二年の少年と『遊星からの物体X』(小説発表時期から考えると古い映画です)を見た後、映画について語り合ったりするところなど、楽しめます。
しかし本筋の事件はかなり異常で、さらに犯人は驚くほどとんでもない人間でした(正体が意外という意味ではありません)。クライマックスのアクションはほとんど無茶苦茶なハードさです。途中チンピラたちとの追跡劇を入れるための設定など、かなり無理やりなものも感じますが、とりあえず。


No.1142 6点 死者にかかってきた電話
ジョン・ル・カレ
(2019/12/08 17:49登録)
久々の再読ですが、クライマックスの霧の中の対決部分がなんとなく記憶の片隅に残っていたぐらいで、他は全く覚えていませんでした。『寒い国から帰ってきたスパイ』との関連性も、あれ、こんな感じだったっけというぐらいです。それにしても本作ではハードボイルド探偵並みにたっぷり活躍してくれるスマイリー、途中で上司の無理解に怒って退職願を出しているんですね。最後まで願いは撤回しません。でも『寒い国~』につながっていくということは…
その『寒い国~』でも謎解きやからくり要素はかなりあったわけですが、このデビュー作はそれ以上に謎解き要素に重点が置かれています。要するにスパイ小説の中でも、ル・カレは資質的に少なくとも初期には謎解き好きだったということでしょう。本作のからくりはわかりやすいものですが、死んだスパイ容疑者にかかってきた電話の謎の解決は鮮やかでした。


No.1141 7点 密室の王
カーラ・ノートン
(2019/12/04 19:39登録)
密室と言っても、ディクスン・カーみたいな意味ではありません。少女誘拐監禁事件をテーマにした作品で、少女を閉じ込めておく部屋の意味です。
もともとノートンは犯罪ノンフィクションの作家だそうで、小説としては本作がデビュー作になります。しかしこれは読みやすくおもしろくできていました。原文はどうかわかりませんが、翻訳文は現在形で統一されているのが珍しいでしょう。
過去に誘拐監禁された経験を持つリーヴが、カウンセリングを受けている医師から頼まれて、新たに発生した監禁事件の被害者少女の家族の話し相手になるのですが、今回発覚した監禁事件の裏には、他にも2件の少女誘拐を指揮した黒幕「公爵」がいて、対決することになるというストーリーです。「公爵」の側から描かれる部分では、彼の犯罪計画の異常なまでの徹底ぶりが見ものです。ただ、最後の方ダミー犯人に関する部分が、不明瞭になってしまっているのは残念です。


No.1140 6点 無貌伝 ~夢境ホテルの午睡~
望月守宮
(2019/11/30 14:25登録)
精霊的存在であるヒトデナシが存在するパラレルワールドを舞台にしたシリーズの第2作。前回読んだ第3作ではタイトルのヒトデナシ無貌がたいして活躍しませんでしたが、本作では捕まった無貌が、登場シーンはさほど多くないものの、クライマックスでは派手に暴れて秋津探偵と対決し、楽しませてくれます。
ミステリ的な内容については、本作でも意外性は確かにあります。特に最後の最後に明かされる殺し屋の依頼者の秘密には、不自然さは感じながらも驚かされました。しかし、今回は登場人物が多すぎて、ごちゃついてしまった気がします。「信用できます」と言われる御堂八雲探偵は、何やってんだかという感じですし。舞台となる夢境ホテルの1週間の設定は、ハードSFではおなじみの似た効果の現象と比べると、整合性がどうなんだろうと思えるところもありました。まあ夢だからいいのかなぁ…


No.1139 6点 わが名はアーチャー
ロス・マクドナルド
(2019/11/27 20:34登録)
『逃げた女』から『女を探せ』まで、邦題にはすべて「女」をつけた7編ですが、原題では女を表す言葉のあるのは Girl、Woman、Lady、それにBlonde も入れるとしても4編だけです。
邦訳ではそんなふうにタイトルはあえて統一されていて、作品自体も1954年、長編では『犠牲者は誰だ』発表年までの初期作品だけなのですが、中田耕治の翻訳には統一がとれていないところがあります。全体的にはこの翻訳者の粗野な感じは、殴り合いや銃の撃ちあいも多い初期ロス・マクにかなり合っていると思うのですが、リュウの一人称代名詞は『逃げた女』だけが「俺」で他は「私」です。その『逃げた女』の一節「ぼくの車に乗った。…(中略)…俺はノックした。」と同じ段落の中で代名詞が変わるのは、どう言い訳してもだめでしょう。
全体的にはやはり特に短い作品は解決が忙しく、もう少し長くした方がよかったかなとも思いましたが。


No.1138 6点 古狐が死ぬまで
ジャネット・ドーソン
(2019/11/21 22:54登録)
私立探偵ジェリ・ハワードの第2作
巻末解説は法月綸太郎で、女性PI(Private Eye、つまり私立探偵。この省略形の発想は、最近再読した米国某古典短編のネタを思い出させます)小説は有名どころさえ読んだことがないと言いながら、池上冬樹が女性版ロス・マクドナルドと評していたので、解説を書くことになったそうです。しかし、本作はロス・マクとはかなり違います。真相にはたいして意外性はありませんし、フィリピン系のコミュニティーを描いた、社会派的な視点を持っているのです。最後にはパレツキー並みのアクション・シーンもあり、なかなか楽しめました。ただし、パズラー系でないとはいえ、証拠品が見つかったことをある人物がどうやって知ったのかとか、別の人物がどうやってマンションに入ったのかという疑問への答がいずれも安易です。
文章はその場の情景を非常に細かく描写しているところが、少々わずらわしいでしょうか。


No.1137 6点 真実の絆
北川歩実
(2019/11/18 23:04登録)
幻冬舎の月刊誌PONTOONの1998年12月号からほぼ3か月に1回の割合で掲載された、ある死期の迫った大富豪の子孫をめぐる様々な欲望と企みをテーマとした連作短編7編に、書き下ろしの2編、というか最後の「うつろな縁」は全体をまとめる「章」と言うべきものを加えた作品です。最終章を除けば、他の部分を知らなくても一応独立した短編ミステリとして読める作りになっています。第2、3番目以外は、大富豪から依頼を受けて子孫の行方を追う児玉弁護士が一応名探偵役として登場します。さらにそれぞれのエピソードの後に、「依頼人との対話」という断章が挿入されています。
人工授精など、この作家らしい医学的なアイディアが使われていますが、特に3番目の『誕生日のない母』は複雑なことを考え出しています。このエピソードがむしろ全体構成の中では不要で、しかもその計画が実現されていないのには、不満を感じました。


No.1136 6点 深夜のベルボーイ
ジム・トンプスン
(2019/11/14 23:34登録)
巻末の著作リストを見ると、ずいぶん映画化された作品の多い作家なんですね。言わずと知れた『ゲッタウェイ』だけでなく、他にも見たことのある、あるいは見たいと思っていた映画が、これもトンプスン原作だったのかとびっくりさせられました。
本作も1996年に映画化されていますが、これは未見-というか映画の存在を知りませんでした。タイトルの夜勤ベルボーイであるダスティの視点から、彼の私生活・内面がたっぷり描かれていますが、かなり映画化しやすいとは思えます。原題 “A Swell-Looking Babe” の方は、ホテルに泊まりに来た、ダスティに言わせれば「すべての女を一身に集めた存在」であるマーシャを指しているわけですが、彼女の正体はなかなか意外です。ただその彼女がいくら美人であるにせよ、ダスティが一目惚れしてしまうのは偶然ではあります。
元ギャングで、昔はカポネさえ一目置いていたというタグがちょっとなさけなさすぎるのはどうかと思いますが。


No.1135 8点 アンクル・アブナーの叡智
M・D・ポースト
(2019/11/11 23:09登録)
久々の再読。文庫本で平均18ページ程度のパズラー系18編というと、小説としてのおもしろ味のない推理パズル系のものが多いと思われますが、本作は別格。いずれも重厚な小説に仕上がっているところが驚きです。
謎解き的には、最も長い(と言っても22ページですが)『神の使者』はアブナー伯父の推理の時間的経緯が今一つはっきりしないとか、『魔女と使い魔』が密室的興味をかきたてながら、それに対する解答が明確にできていないとかいった不満のある作品もありますが、まあいいでしょう。また犯人像がかなりワン・パターンで(『黄金の十字架』などの例外もありますが)、最後に置かれた代表作『ナボテの葡萄園』なんか、それまでの作品を読んできていればすぐ真犯人の見当がついてしまいますが、これも狙いが犯人の意外性ではないので、それで結構。『神のみわざ』は推理部分だけでも実際の単語を取り上げてもらいたかった気もしますが。


No.1134 6点 岩窟姫
近藤史恵
(2019/11/05 19:58登録)
タイトルはもちろんアレクサンドル・デュマから採っているわけで、巻頭にもごく簡単な粗筋が置かれていますし、第1章終りにも「モンテ・クリスト伯」のことが触れられます。ただし黒岩涙香の翻案により日本で広く親しまれるようになった邦題が『巌窟王』なのに対して、本作では1字目に「岩」の字を使っています。
モデルの蓮美(れみ)は、同じ事務所に所属する友人沙霧(さぎり)の自殺が彼女のいじめによるものだとする疑いをかけられるのですが、デュマと違って誰がなんのためにそのようなデマを流したのかが、最大の謎になります。したがって、復讐の前に、蓮美は既にモデルをやめているもう一人の友人チホの手を借りて、その謎を探っていかなければなりません。
最後には意外な事実が明らかにされますが、デマの理由を含め、ちょっと無理があります。タイトルが示す「復讐」については、そういうことかと納得しましたが。


No.1133 9点 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
フィリップ・K・ディック
(2019/11/01 23:13登録)
2019年11月ロサンジェルス、昼なお暗い街の上空をスピナーが飛び交い…
リドリー・スコット監督のSF映画古典『ブレードランナー』の設定です。というわけで、その原作を手に取ってみました。ディックは『トータルリコール』原作も収録した短編集を1冊読んだことがあるだけ。
読み終えてみると、『ブレードランナー』を認めないディック・ファンが意外に多いらしいというのもわかる気がしました。アンドロイド(レプリカント)の人数とかデッカードが既婚だとか、原作舞台が1992年のサンフランシスコとかいった細部はどうでもいいのです。映画公開は原作発表の14年後ですが、アンドロイド・テーマ的には原作よりも考え方が古典的すぎる(その表現が優れていても)のです。
ミステリ的には映画に比べ捜査的興味に欠けるとか、最後の対決があっけないとか、不満もあるでしょうが、やはり傑作。
ところでデッカードの「三人で充分ですよ」のセリフには笑ってしまいました。


No.1132 5点 見習い女探偵
リザ・コディ
(2019/10/29 23:15登録)
ジャンルは思い切って警察小説としてみました。もちろん、主役のアンナは警察官ではなく、私立探偵です。しかしホームズやポアロだって私立探偵ですから、主役の職業をもって、ハードボイルドあるいは私立探偵小説と呼ぶ根拠とすることはできません。逆にフレンチ警部等の登場作品も警察小説とは呼べないでしょう。
結局のところ、あくまで捜査組織の一員という三人称探偵役の位置づけが明確なことにしても、粘り強い聞き込み捜査の末唐突に証拠が転がり込んでくる小説構成にしても、印象は警察小説と呼ばれるものに近いと思えるからです。さらに英国作家ですしね。ストーリーはマクベインよりはるかに地味です。アクション・シーンがないわけではありませんが、ハードボイルドや本格派のラストで感じるカタルシスが全くないのです。それが悪いというのではなく、作者の書きたかったところだろうと思えるから、この点数なのですが。


No.1131 5点 動物園の鳥
坂木司
(2019/10/26 10:12登録)
ひきこもり探偵シリーズの3冊目完結編にして初の長編。日常の謎系らしいこの作者のものでもひとつ、と気まぐれに選んでみたのですが、最初に読むべき作品ではなかったようです。
でも、とりあえず人間関係のねじれを暖かい筆致で解きほぐしていく話はおもしろかったですし、以前の同シリーズ作を読んでいることが必須という作りにはなっていません。まあレギュラー登場人物たちの関係が多少わかりにくいとは言えますが、長編なだけに、人物紹介にも筆を費やしています。
それにしても、日常の謎とは言え、また巻末解説では「警察や探偵などが介入してくる種類の騒ぎではない」と書かれていますけれど、本作で起こる動物虐待は、事件解決部分でも法律的扱いに触れられているように、れっきとした犯罪です。悪質な場合には警察が乗り出してくることもあり得ます。しかし本作の読みどころは、その虐待犯人が明らかにされた後の部分にあります。


No.1130 6点 殺意の日曜日
マーシャ・マラー
(2019/10/20 22:50登録)
初期作品では普通にかわいい感じの女性だったシャロン・マコーンも、元恋人のDJを思い出して感傷的になったり、事件関係者に対して激高しそうになったりすることはあっても、ずいぶん落ちつきが出て来て、ある程度貫録を感じさせるようにもなってきています。前回読んだ次作『カフェ・コメディの悲劇』に比べると、事件自体が最初の殺人は明らかに故殺(一時の激情による殺人)と思われますし、最後も次作のような派手な展開にはならず、地味目なところも、本作のシャロンが特に大人びた感じに思える理由でしょうか。まあパレツキーのヴィクと比べると、運動神経の方はたいしたことはなさそうですが。
巻末解説には、マラーはロス・マクドナルドからの強い影響を自認していることが書かれていますが、本作の人間関係やクライマックスなど、確かにそうだと思わせられます。ただ、ロス・マクに比べると、謎解きを鮮やかに見せる手際には少々欠けます。


No.1129 6点 神の街の殺人
トマス・H・クック
(2019/10/17 22:31登録)
重厚な心理サスペンスが知られるクックの初期作品には捜査側から描かれたものが多いようですが、この第3作は、犯人側の視点をところどころにはさむ警察小説タイプです。
モルモン教の本部があるソルトレイクシティで起こる連続殺人事件を扱っていて、邦題もその意味です。なお原題の “Tabernacle” は礼拝堂の意味で、クライマックスの舞台を意味しています。常軌を逸した思想を持つ犯人視点の部分では犯人の名前は隠されていますが、登場人物表と照らし合わせれば、候補者は絞り込まれてしまいます。まあ、それで犯人の名前だけ見当がついても、中心となる謎は動機ですので、おもしろさが低減してしまうような作品ではありません。
後年の作品に通じるような味わいもありますが、礼拝堂での事件の決着のつけ方が、刑事の過去と密接につながって来ず、また犯人がその動機を持つにいたった経緯が説明されていないのは不満でした。


No.1128 5点 湯殿山麓呪い村
山村正夫
(2019/10/14 09:39登録)
横溝正史を意識した作品ですが、同時期に『悪霊島』を執筆中だった横溝正史本人からも激励を受けていたことが、ハードカバー版作者あとがきには書かれています。ただ、構成的に、6割過ぎあたりから犯人を示す記述が急に露骨になって来るのは、横溝正史とは発想が全く異なるところではないかと思えました。で、最後真犯人が探偵役の滝連太郎によって明かされた後まだ40ページぐらいも残っています。さらなるどんでん返しはあり得ないし、どうするつもりなのだろうと思っていたのですが、明確になっていなかった動機が語られるのと、犯人がどうなるかの決着部分がほとんどでした。
かなり早い段階で犯人の口から暗示的な手がかりが出されるのですが、これが雰囲気の古めかしさにもかかわらず、あとがきで作者の言う「テーマはアクチュアルなもの」というところにもつながっていたんですね。
海外超有名作の完全ネタバレあり。


No.1127 5点 五時の稲妻
ウィリアム・L・デアンドリア
(2019/10/11 22:51登録)
瀬戸川猛資氏の巻末解説によればデアンドリアの「現代史もの」のひとつです。時代設定は発表の約30年前の1953年。著者まえがきには、「大半の登場人物はまったくの虚構である」と書かれていますが、それは実在の人物も少しは登場するということであり、実際にセリフなどもある人物は、ヤンキースのミッキー・マントルです。ただメジャー・リーグについては知識のない自分としては、この選手のことも全然知らなかったのですが。その名選手が命を狙われることになるというのも主筋に一つになっています。その動機というのが、当時のマッカーシズムとも関連するとんでもなく乱暴なもの。
謎解きの意外性を重視する作家らしく、最後には鮮やかにトリックを解明していますし、その後の決着の付け方は作者の敬愛するクイーンの某作品なども連想させます。しかし犯人側の視点も所々に取り入れた作品構成全体はいまひとつでした。


No.1126 6点 帰ってきたミス・メルヴィル
イーヴリン・E・スミス
(2019/10/05 08:41登録)
ミス・メルヴィルは殺し屋だというので、ハードなものではないにしても犯罪小説系スリラーかと思っていたのですが、この第2作は謎解き系のミステリになっていました。
ミス・メルヴィルはオールド・ミスと表現されていますが、ミス・マープルみたいな高齢者ではなく、中年女性といったところ。お嬢様育ちの彼女の上品でおっとりした感じは、作品世界そのものにもなっています。本作では、画家として人気が出てきたため、殺し屋はとりあえず廃業した彼女が、美術界の事件に素人探偵として活躍します。画廊で死んだ芸術家(立体美術の作者)は実は殺されたのではないかという疑いから始まり、さらに画廊の経営者が殺され、また評判の画家の正体に関する疑問など、謎の要素は豊富です。
ただ、事件の真相説明はもっぱら犯人により語られるようになっているところが、本格派と言うにはどうかなとも思えますが。

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