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ミステリの祭典

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ニコラス街の鍵

作家 スタンリイ・エリン
出版日1957年01月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 6点 クリスティ再読
(2024/07/17 15:02登録)
たとえばクリスティの「無実はさいなむ」とか「ねじれた家」と共通する、ミステリの形式で家族の崩壊を描く作品である。評者ここらへんが大好きだから、かなり面白く読んだ。この家族(+メイド)のそれぞれの視点から、隣人が殺された事件が叙述されていくという「狙った」叙述形式だったりする。そこらへんがエリンの「技巧派」の本領発揮と言えるだろう。「死の接吻」とかと同じ時代なんだよね。レヴィンと同様の編集的なセンスの良さが発揮されている。

ニューヨークから少し離れた平穏な地方都市。夫婦とすでに成人した娘(新米教師)、息子(学生?クラオタ)の家族と、ハリウッドに憧れるメイド。隣家にはニューヨークから奔放な女流画家が住み着き両家は平和な交際を続けていた。そこに画家を追いかけてNYから移住した無遠慮な青年が登場し、この青年は隣家の娘と恋をする...この青年がなかなかのクセ者で、だけど女性から見たらワイルドさがカッコいいタイプ。だから母親は猛反対...こんな状況でこの隣人の女流画家が事故死する。しかし、その死に警察署長は疑惑を抱く。どうやらこの状況に至った経緯から、両家の「鍵」が微妙な役割を?

パズラー風の話だが、それ以上に「家族の物語」の色合いが強い。パズラー的な真相は大したものではないが、人間の出入りに関して綿密に書かれていたりして、落ち着いた、リアルなミステリという面では納得はいく。それでも小粒な話で、技巧派エリンが自分の腕を示すために、あえて地味な話を選んだのかの印象。もちろんキャラの描写のリアルさや心理のツッコミ具合など、十分堪能できる内容だ。

No.2 6点 人並由真
(2024/03/01 15:10登録)
(ネタバレなし)
 1951年のアメリカ。NYから離れた位置にあるサットン市の住宅地ニコラス街。そこに暮らす「アイレス家庭用品店」経営の実業家ハリー・アイレス(46歳)の一家4人と妙齢のメイドは2年前、隣家の新たな転居者に、独身で赤毛の美人イラストレーター、29歳のキャサリン(ケイト)・バルウを迎えた。陽性な性格のケイトと親しい近所づきあいを始めるアイレス家だが、やがてその親交の輪はケイトの仕事先のひとつである雑誌社の青年マシュー(マット)・チェイヴズにも広がる。そして現在、ケイトやマットを加えたアイレス家の状況は、2年前とかなり変化していた。そんななか、ひとりの人物が命を落とす。

 1952年のアメリカ作品。エリンの長編第二弾。
 処女長編『断崖』(や『第八の地獄』そのほかの長編)に心惹かれる身としては、少年時代から読もう読もうと思いながら今日まで来てしまった一作で、ポケミスも古書で二冊も買ってしまっている。
 
 紙幅は短いし(邦訳はポケミスで、本文190ページほど)、登場人物も主要キャラクターはひとけたと少ないが、ミステリの奥にあるヒューマンドラマ的な決着まで相応の密度感を抱かせながらぐいぐい引っ張っていく筆力は、確かに長編版エリン。結局、事件の構造はかなりシンプルなんだけど、登場人物たち個々の顔がくっきり見えるせいで、最後の手ごたえは少なくない。
 こう書いていくと、シムノンのノンシリーズ編の秀作に似通うものもある。 

 あと、これは書いてもいいと思うけど、謎解き・狭義のミステリ要素とは別の文芸の部分で、エリンののちの長編のプロトタイプ的な一面も感じさせた。詳しくは実作を読んで認めてください。

 あー、しかしこれで(評者が)半世紀かけて、邦訳されたエリンの長短編は全部読んじゃったコトになるのか? 実はまだ未訳の作品が数作残っているという日本の翻訳ミステリ界の現実と関係者の対応が、実に腹立たしい。出せばそれなり以上の反響が見込めるだろうに?

 評点は、7点に近いこの点数というところで。数字以上の満足度は高いよ。

No.1 6点
(2020/03/21 16:23登録)
エリンの長編第2作は、ジャンル分けに困る作品でした。
殺人が起こって、その事件の犯人が誰かという謎があり、最後にはその謎がそれなりに論理的に解かれるという点では、本格派的と言えなくないかもしれません。しかし作者の狙いは全く別で、隣人の女流画家が殺された事件を中心にして、ニコラス街に住むアイレス家の人間関係を語っていくところにあります。全体は5部に分れ、家族の家で働く家政婦の視点で書かれる第1部から始まり、残りは家族それぞれの視点から、すべて一人称形式で語られます。そして5人の語り手以外の事件関係者は、被害者と、もともと被害者の知り合いで、アイレス家の人々ともつき合うようになった男、この男が相当癖の強い人間です。
作品紹介文を読み、登場人物表を確認した段階で、なんとなく犯人が誰かは見当がついてしまいましたが、それでも全く問題ない作品です。

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