空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1530件 |
No.1290 | 7点 | 聖なる酒場の挽歌 ローレンス・ブロック |
(2021/08/19 20:10登録) 1986年に発表された本作は、スカダーがなじみのもぐり酒場にいた時にそこで起こる強盗事件が語られた後、第2章の初めに「これらはすべて何年もまえに起きたことである。」と時代背景を明かしています。そのようにして、1975年当時の思い出であることを読者にはっきり示すような表現が、ところどころに出てくるのです。 強盗事件に続いて、酒飲み仲間の奥さん殺害事件、さらに別の酒場の裏帳簿窃盗犯による恐喝事件と、立て続けに起こる事件すべてについて、スカダーは調査を依頼されることになります。スカダーは自分は私立探偵の免許は持っていないことを力説しながらも、結局は3つすべてを解決することになります。ただし犯人逮捕に貢献するということではありません。 最後10ページを切ってからの「私はこれで終わったと思った。そう思おうとした。が、私はまちがっていた。」の後の部分、なんとも複雑な気分にさせられます。 |
No.1289 | 4点 | 隠匿 リンダ・フェアスタイン |
(2021/08/16 22:38登録) これまで読んだ2作は気に入っていた作家なのですが… 途中までは留保つきですがおもしろかったのです。なぜ留保なのかというと、舞台がニューヨークにある世界有数の美術館であるメトロポリタン美術館と、そのすぐ近くにあるアメリカ自然史博物館という実在のミユージアムの内幕を暴くような内容になっているからです。どの程度そんなことがあり得るのかと思いながら、またこんなこと書いて名誉棄損にならないのかと心配もしながらも楽しんで読み進んでいったのです。 しかし、本来ならサスペンスが盛り上がってくる終盤になって、かえってがっかりしてしまったのでした。まるで迷宮のような巨大な自然史博物館の中で、アレックスがあるものを発見する段取りのあまりの偶然性、またその時の彼女の独り相撲の大騒ぎなど、白けてしまったのです。多数の関係者の中に犯人の個性が埋もれてしまって、意外性が感じられのないのも不満です。 |
No.1288 | 7点 | 仮名手本殺人事件 稲羽白菟 |
(2021/08/10 15:30登録) この作家の名前って、と思っていたのですが、福山ミステリー文学新人賞の準優秀作のデビュー作『合邦の密室』についてのインタビューを聞くと、やはり「因幡の白兎」を意識しているんですね。「菟」も「うさぎ」と読みます。 そんな神話由来の名前を選ぶだけあって、作者は古典芸能に造詣が深いようで、デビュー作は文楽をテーマにしていたそうですが、この第2作は歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』。舞台上で主役の役者が毒殺される派手な事件の割に、その後の展開や文章は、古典芸能好きな作者らしいじっくり落ち着いたものになっています。蝙蝠形の痣が頬にある男が登場したりして、それもただのこけおどしでないことが次第に明らかになって来るあたり、上方歌舞伎の名門吉岡家の過去の複雑な人間関係とともに、横溝正史の世界を連想させます。不可能犯罪等のトリックではなく人間関係の秘密で読ませてくれる作品です。 |
No.1287 | 7点 | NかMか アガサ・クリスティー |
(2021/08/07 08:24登録) 第一章はなんだか粗筋だけみたいで、クリスティーにしてはなんだこれ、という感じだったのですが、第二章以降では《無憂荘》の人々の個性も明確になってきて、おもしろ味が出てきます。1941年発表作で、ナチスのスパイを探し出す話ですから、この作者の他のスパイ小説ほど荒唐無稽ではありません。まあ、こういうタイプの作品はリアリティがあればいいというものでもないのですが。 死んだ諜報部員のダイイング・メッセージであるタイトルの言葉は、男女どちらなのかわからなかったからこそ ”or” ではないのかと思ったのですが、その問題点は結局無視されていました。それ以外にも、あの人物は結局外で何をしていたのかとか、あの人物はどうやって《無憂荘》を見つけたのかとか、細かい点では疑問が解消されないままという不満もあるのですが、全体的にはパズラー系を上回るほど意外性を散りばめた作品で、楽しめました。 |
No.1286 | 7点 | 脅える暗殺者 ジョー・ゴアズ |
(2021/08/04 19:42登録) ゴアズはDKAシリーズだけでなく様々な作品を書いていますが、その中でも特に異色作と言っていいでしょう。サンフランシスコ警察組織犯罪捜査班のダンテ・スタグナロ警部補が一応主役であり、〈ラプター〉と名乗る謎の暗殺者の正体を追う話なので、とりあえずジャンルは警察小説としてみました。 しかしこの小説の異色作たるゆえんは、それ以外の点にあります。古人類学者の講演が所々に挿入され、章題もそれに合わせて「白亜紀末期」等地質年代を表す言葉になっているのです。この講演が、宇宙創成から始まり人類誕生まで、旧約聖書と対比しながらかなりのページにわたって語られていきます。そこが本作の哲学的なテーマにもなってくるわけで、力作感はあるものの、ちょっと大げさすぎるようにも感じました。 ところで〈ラプター〉と言えば、本書発表の前年に映画で有名になった恐竜ヴェロキラプトルを連想させます。 |
No.1285 | 6点 | ブラッドライン 知念実希人 |
(2021/07/29 19:31登録) 知念実希人の第2作は、医者でもある作者らしい、大学病院に関係した医学ミステリになっていました。 主人公医師冴木裕也の父親が手術中「事故死」したトリックとか、構想の要となる過去の秘密は、医学に詳しくないとわかるはずのないもので、その意味ではフェアではないのですが、このタイプのミステリの場合、これでいいでしょう。読者への説明は、わかりやすく行ってくれています。 『楢山節考』等も想起させ、いつの話だという感じのプロローグ、実は意外に最近の時代だということは、最後近くに明らかにされます。裕也が調査に訪れるこの村の描写は、戦後間もなくの横溝正史でもここまで迷信に囚われた住人は書かないだろうと思われるほどでした。そこはさすがに疑問に思ったのですが、全体的には少々感情表現が大げさすぎるものの、迫力がありますし、特に父親の子どもたちに対する態度の理由には納得でした。 |
No.1284 | 7点 | 下宿人が死んでいく シャーロット・マクラウド |
(2021/07/26 22:48登録) 今回読んだマクラウド作品は、シャンディ教授ではなく、セーラ・ケリング・シリーズの第2作です。発表は『蹄鉄ころんだ』の翌年1980年。自宅を下宿に改造し、下宿人を募る広告を出し、というところから始まるわけですが、そのセーラの奮闘記、また最初は文句をつけていた親戚も、彼女を応援するようになり、といったあたりから、小説としてはなかなか快調に話が進んでいきます。 で、殺される下宿人はというと、登場してすぐにオーソドックスにいけばこの人かなと思っていたとおりでした。ただしこの最初の殺人は事故に思えたのですが、目撃者が現れ、さらに邦題からも予想できるとおり、次の殺人が起こることになります。 巻末解説には、マクラウドは「気合をいれて伏線を探したり、メモをとるのは野暮というものです。」と書かれていますが、フーダニットとしてもしっかりできていて、ミステリらしいトリックが使われています。 |
No.1283 | 6点 | 血とハニー G・G・フィックリング |
(2021/07/22 23:07登録) ヴィクやキンジーの先輩格としての意味のハニー・ウェストの存在は気にはなっていたのですが、今回初めて読みました。夫婦合作で、ペンネームをただG・G・としているのは性別を明示しないためだとか。女性視点も入ったシリーズなわけです。1965~6年のテレビドラマ『ハニーにおまかせ』映像もちょっと見てみたのですが、この役でゴールデン・グローブ賞を獲った主演のアン・フランシスは意外にクールな感じで、ドラマ当時35歳ぐらい、原作より年上です。裸になったりする原作小説よりむしろドラマの方が、後の女私立探偵小説に影響を与えたのではないかという気もします。 本作は第8作ですが、舞台は地元ロサンジェルスを遠く離れたニュー・ヨーク、真冬の吹雪の中を、ネグリジェ姿のハニーが逃げまわるシーンから始まります。事件は様々な登場人物の思惑が絡みあった複雑なもので、最後の方はどんでん返し連続技です。 |
No.1282 | 7点 | 怪奇探偵小説傑作選〈4〉城昌幸集-みすてりぃ 城昌幸 |
(2021/07/19 15:29登録) 1963年に桃源社から出版された28編から成る『みすてりい』を第一部とし、第二部には初収録作も含む26編を加えた掌編(というには若干長めの作品もありますが)集です。ただし、『根の無い話』『幻想唐艸』『不可知論』『実在』は3つのエピソードから成るので、実際にはさらに8編が加わります。 第1部の終りに桃源社版に添えられた乱歩の解説(「跋」)も載っていて、乱歩は本作収録作品を「怪奇掌編」としていますが、明確に幻想的設定の作品は多くありません。肉食植物の『人花』や空中遊行術の『ヂャマイカ氏の実験』等もありますが、『その家』では不気味な出来事にむりやり常識的な解釈もできると主人公が自分を納得させたりして、大部分は一応現実的な作品です。『都会の神秘』(ミステリらしいオチの作品)の最初にオー・ヘンリーの言葉が置かれていますが、実際『道化役』等オー・ヘンリー風の作品もあります。 |
No.1281 | 7点 | 長く冷たい秋 サム・リーヴズ |
(2021/07/16 23:12登録) クーパー・マクリーシュ・シリーズの第1作。本作は原題直訳タイトルですが、その後の3作は原題とは全く異なる邦題になっています。このシリーズは翻訳もある4作だけですが、他にも警察小説やノンフィクションの著作もあるようです。 クーパーはシカゴのタクシー・ドライバー。途中にスコセッシのあの映画についての言及も出てきます。学生時代、片想いだった女が自殺したという新聞記事を読んだ彼が、その事件の真相を追っていく話です。ロバート・B・パーカーの「ハメットの初期の作品のように鮮烈で力強く」という本作に寄せた賛辞を元にした宣伝文句がついていましたが、どうなんでしょう。確かに二人組の雇われ悪党との戦いなど、ハードではありますが、全体的なテーマ性や抒情的雰囲気は、むしろロス・マクにも近いように思われます。 本作は非常に個人的な事件だったわけですが、続編はどうなっているのでしょう。 |
No.1280 | 6点 | Les sept minutes ジョルジュ・シムノン |
(2021/07/12 23:31登録) 収録された『十三の謎』のG.7刑事もの中編3編は、雑誌「探偵俱楽部」にそれぞれ『消失三人女』『将軍暁に死す』『マリー・ガラント号の謎』の邦題で掲載されたことがあるそうです。この中編集タイトルは2編目 "La nuit de sept minutes"(7分間の夜)から採られています。なお、この作品で元将軍が死んだのは実際には午前2時ごろですけど。 このシリーズですから、当然本格派を期待していて、実際、島で次々に失踪する女たち、警察に監視された密室状況、放置された老朽船の不可解な出航と船から発見された身元不明死体、というようになかなか魅力的な謎を提示してくれてはいるのですが、実はそれ以外の点に驚かされました。2編目は、G.7が警察を退職するきっかけとなった事件であり、3編目は私立探偵としての最初の事件という大きな流れを持っているのです。 2編目のトリックは、初期メグレものにも似た発想の作品がありましたねえ。 |
No.1279 | 5点 | 最長不倒距離 都筑道夫 |
(2021/07/08 18:29登録) シリーズ前作『七十五羽の烏』のラスト・シーンで予告された事件を引き受けることになり、スキー&温泉宿にやってきた物部太郎と助手の片岡直次郎。炬燵にもぐりこんだ太郎が「最長不倒距離」(ものぐさの)と呟くのに代表されるユーモアが楽しめる一品です。 つかみの「口絵がわりの抜粋シーン」は最初の2つだけでよかったんじゃないかとも思えますが、その後説明される最近出なくなった幽霊がまた出るようにしてほしいなんて依頼自体、通常のゴーストハンターものとは逆転の発想で、この作者らしいところです。 エピローグ部分を除くと、12月15日午後3時20分に始まり、12月18日午後1時36分に終わる(章題がわりに時刻が示されています)という、短い期間内で完結する「孤立した山荘」テーマ。 部分的には直次郎が犯人だったなんてところもあって、事件を複雑にし過ぎてごちゃごちゃした印象が残ります。 |
No.1278 | 6点 | 災いの小道 キャロリン・G・ハート |
(2021/07/03 07:45登録) マニアック・トリビア満載のデス・オン・デマンド・シリーズのハートが、6年遅れて1993年に開始したヘンリー・O・シリーズの第3作。こっちはずいぶん地味な本格派になっているのが意外でした。さらに意外だったのが一人称主人公で、本名ヘンリエッタ・オドワイヤー・コリンズ、つまり女性です。現代版ミス・マープルなんて宣伝文句に書かれていますが、元新聞記者で、本作の段階では大学助教授になって4年目ということですから、年齢は近くてものんびり編み物をしている村の老婦人とは全然違います。 原題 "Death in Lovers' Lane"、教え子の死体が発見されるのが「恋人たちの小道」と一般に呼ばれている道路ですが、その通称がちょっとした伏線になっていたことが最後にはわかるところなど、なるほどと思わせられます。教え子があまりに簡単に過去の迷宮入り事件の真相を突き止めていたのには、疑問も感じましたが。 |
No.1277 | 7点 | マイアミ・ポリス/あぶない部長刑事 チャールズ・ウィルフォード |
(2021/06/30 19:43登録) マイアミ警察のホウク・モウズリー部長刑事シリーズ第3作は、初っ端からとんでもない話になっています。なにしろホウクがある朝「バーンアウト(燃え尽き症候群)」になって、出勤拒否、娘や同居している彼の部下エリタが話しかけても、ほとんど口も利かないという状態に陥ってしまうのですから。もちろんミステリとは縁遠い展開です。ホウクの視点と、犯罪に巻き込まれることになる穏やかな老人の視点とを章ごとに交互に配した構成ですが、6割ぐらいまではちっともミステリらしくありません。 その後老人の方は、留置場で知り合った男からある犯罪の計画を打ち明けられることになり、ホウクの方も父親の住むリヴィエラ・ビーチ市で静養していたところ地元の警察から協力依頼があったりして、やっとミステリっぽくなってきます。 最後はもちろん2つの流れがつながることになりますが、何とも救いのない結末が心に残ります。 |
No.1276 | 5点 | 悪魔の百唇譜 横溝正史 |
(2021/06/27 00:13登録) これも久々の再読ですが、タイトルの意味と自動車が停められていた場所からの推理以外は、全く記憶に残っていませんでした。最初の被害者の夫として中国人の実業家が登場しますが、むろんフー・マンチュー的なところは全くなく、性格的に若干問題点はあっても、温厚な紳士です。 以前読んだ時はあまり感心せず、本サイトでも評判の良くない作品ですが、再読してみると、事件の全体構造は意外に複雑でしっかりできていると思いました。ただ後半、収束の仕方が雑で、最後の金田一耕助の推理も、全然盛り上がらないのです。ある人物の証言の中に出てくる伏線も、推理の中では言及されません。「いまわしい」とか「まがまがしさ」とかいった言葉も、確かに事件の裏にある百唇譜(実際には36枚)は不快なものなのですが、実感を伴いません。そのあたりはもっとさらりと書いて、真相解明部分を工夫すれば、いい作品になったのではないかと思えました。 |
No.1275 | 5点 | 怪人フー・マンチュー サックス・ローマー |
(2021/06/22 20:26登録) 人気のあった純粋悪役キャラで何度も映画化されたということでは、ドラキュラとも共通するフー・マンチューですが、映画版も見たことがなく、名前だけは何となく憶えていたという程度でした。むろんドラキュラとは違い、普通の人間ではありますが、天才的な科学者だったんですね。原題には Dr. が付いています。風貌は背が高く、目が緑色に光るというのですから、全然中国人らしくありませんが、原作がこうだからこそ、映画では東洋人でなくボリス・カーロフやクリストファー・リーが演じたのでしょう。 科学者らしく、生化学的なアイディアを使って悪事を働いてくれるのですが、成分不明の毒薬や得体のしれない生物など、普通はミステリでは使ってはならないとされるものだらけです。徹頭徹尾荒唐無稽な展開で、二十面相なら一応納得させてくれるようなラストも、論理的説明は全く無視。クリスティーの『ビッグ4』も当然本作を意識してたんでしょうね。 |
No.1274 | 6点 | 愛しのわが家 ナンシー・ピカード |
(2021/06/19 09:06登録) ジェニー・ケインのシリーズ第5作は、彼女が所長を務める市民財団の人事についての問題も出てきます。彼女の補佐役デレクが遅刻常習犯で、残念ながらクビにせざるを得なくなるのです。2人、さらに秘書のフェイにとってもつらい決断なのですが、クビが決まってからのデレクの態度が、中心となる事件に密接に関わってきます。 精神を病んだ人たちのリクリエーション・ホール建設計画を持ち込まれたものの、改装予定の建物で、その近所に住む男が殺されるという事件です。死体はばらばらにされていたとあっさり書かれているのですが、具体的にどうなっていたのかは明確にされていません。そんな残虐なことをした理由は、精神病者の仕業に見せかけたとも考えられますが、作中では一切触れられていません。また第2の殺人では、殺人方法が明確に示されないままです。 その他にも論理的には不満もいくつかありますが、全体的には楽しめました。 |
No.1273 | 6点 | ひねくれアイテム 江坂遊 |
(2021/06/16 20:59登録) 高井信による巻末解説は「〝何でもあり〟の魅力」と題し、江坂游の作品はバラエティ豊富だとしていますが、ジャンル的にはその説には疑問を感じます。少なくとも本書の全48作のうち大部分がファンタジーです。 作者の師である星新一だと『殺し屋ですのよ』等、純粋ミステリも多いですし、『ボッコちゃん』は科学的なロボットSFですが、本書収録作品のほとんどは超常現象、それもテレパシー等の正統派ではなく、その場限りの妙な設定を前提としたもので、つまり作品世界に論理的普遍性・リアリティの必要性を認めない作風なのです。すっとぼけた味わいが楽しめますが、安部公房みたいな不条理というほどではありません。 これも巻末解説に作者がダジャレ好きだと書かれていましたが、確かにそんな落とし方をしたものがかなりあります。なるほどと納得できる結末ではない点で、ミステリ的でない作品が大部分です。 |
No.1272 | 6点 | 死者に捧げるジャズ ジュリー・スミス |
(2021/06/13 09:49登録) ニューオーリンズ市警のスキップ・ラングドンが活躍する警察小説シリーズ第3作。第1作では交通巡査だった彼女も、第2作(未読ですが)の段階で既に刑事になっていたようです。 スキップ視点の他に、主に被害者の義妹メロディの視点からの部分を大幅に取り入れた構成です。死体が発見された前夜、殺人が行われた日からメロディが行方不明になっているというので、警察では彼女が犯人なのか、誘拐あるいは殺害されたのか、疑問を抱くわけですが、実際には自ら行方をくらましていることが、読者にはメロディの視点であっさり明かされます。 16歳の少女視点とは言え、「メロディは孤独だった。完全にひとりぼっちだった。絶対的にひとりだった。」とか、「彼女の瞼がはじけて金銀の星、天の川になり、頭のどこかの太陽から噴き出してきた。」なんて大げさな表現には、うんさりさせられもしますが、事件の全体構造は悪くありません。 |
No.1271 | 7点 | 現金に手を出すな アルベール・シモナン |
(2021/06/07 23:42登録) 原作発表の翌年に製作された、ジャン・ギャバンの代表作の一つとも言われる映画はかなり以前に見たことがあります。その時は前半の食事や歯磨きシーンが不必要で、評判ほどいいとは思えず、記憶からほとんど消えてしまっていたのです。 で、今回その原作を読んでみると、覚えていないにしても、こんな複雑で意外な展開だったっけという感じでした。そこでDVDを再度見てみたところ、ギャング同士の金塊争奪戦という枠組みは同じでも、ストーリーはかなり変更していました。クライマックスは、映画らしい派手な銃撃戦にしてくれていますが、それだけでなく、原作では主役のマックスはリトンとなかなか連絡がとれない設定なのに、映画では最初からずっと一緒です。またマルコの立場も全く違います。なお、脚本化にはシモナン自身もかかわっています。 それにしても、シモナンって長編の邦訳は本作だけなのが残念です。 |