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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1265 5点 七年目の殺し
ミッキー・スピレイン
(2021/05/18 19:18登録)
『カストロ・スパイ』と表題作の2編の中編を収録しています。2作ともダブル・クライマックスを用意した作品なのですが、どちらもかえって最後があわただしくなりすぎるという欠点を持っています。『カストロ・スパイ』は邦題からもわかるとおりのキューバ情勢を取り入れたスパイ・アクションで、原書ではこちらの原題 “The Flier” が本のタイトルになっています。しかしこれがごちゃごちゃしすぎて、スピレインにしてはおもしろさがストレートに伝わって来ないのです。まあ、リアルな国際状況を的確に描くことのできる作家でないせいもあるでしょうが。
邦題の表題作の方が、これもやはりかなりごちゃごちゃしているとは言え、おもしろくできています。7年間冤罪で刑務所に入っていた元新聞記者が、何度もボコボコにされながら、最後は目的を達することになる話ですが、ただラスト・シーンで明らかになるある人物設定はどうもねえ。


No.1264 6点 黒岩涙香探偵小説選Ⅰ
黒岩涙香
(2021/05/12 19:41登録)
口語体で書かれた『幽霊塔』より約10年前に書かれた『無惨』および『涙香集』としてまとめられた8編で、これらは文語体だというので、相当な読みにくさを覚悟していたのです。ところが意外にも、凝った緻密な口語体より読みやすいぐらい。論創社版では旧漢字を常用漢字等に直しただけでなく、会話部分で各人のセリフの後に改行を入れてくれているおかげもあります。
それにしても創作小説『無惨』の内容には驚かされました。3部に分れたうち、全体の約4割を占める「中編(忖度)」全体が、真相解明の経緯説明にあてられているのです。この推理・説明がホームズやソーンダイク博士並みの緻密さで、まさに「推理」小説。
『涙香集』の8編中2編は、巻末解説によれば涙香自身の創作のようです。100ページぐらいの『探偵』は後のウォーレスあたりをも思わせるようなスリラー長編の短縮翻案でしょう。


No.1263 6点 サタデー・ゲーム
ブラウン・メッグズ
(2021/05/08 16:18登録)
「本格派の新しい衝撃!」というのが、ポケミスの帯の宣伝文句だったのですが、これは非常に疑問です。
全体の構成と文章は、登場人物たちの意識の流れを、各人の立場から細かく分けて追っていったもので、正直なところ、読んでいて本格派どころかミステリという感じさえあまりしないのです。「四月のある土曜日午前八時前」から始まり、ラストはその日の夜、ほんの半日間の出来事です。その中で登場人物たちが過去を振り返ったりもしていくのですが、それもほとんどは前日の夜から早朝までのことです。
テニスをしていた4人が警察の事情聴取で深夜のパーティの顛末を語った段階で、結末がどうなるかは見当がつきましたが、真相の証拠とその提示は実にあっけないもので、これでは「謎解き」になりません。一応最初の方に伏線は張ってあるのですが。奇妙な雰囲気を楽しむ心理小説だと考えた方がいいでしょう。


No.1262 6点 プレイボーイ・スパイ1
ハドリー・チェイス
(2021/05/05 14:46登録)
邦題から何となく想像していたほど、主役のマーク・ガーランドはプレイボーイではないように感じました。もっといろんな女性に積極的に手を出していくのかと思っていたら、最初に出てくる謎の女と、二重スパイのジャニンの2人だけ、それもむしろ相手の方から思惑があって彼に近づいてくるのです。また普段は小金で仕事を請け負うかなり貧乏くさい男であったところも、予想外。
話はパリから、ガーランドとも知り合いだったソ連を抜け出したスパイが潜んでいるセネガルへと移り、CIA、悪徳大富豪、ソ連スパイが入り乱れてのスリリングな展開になります。チェイスらしく、最初にガーランドを雇った男を手始めに、次々に人が殺されていき、最後の方には、ほとんど無意味と思える無差別殺人まであります。
最後の砂漠地帯での派手なアクションは楽しめますし、決着の付け方も説得力のあるものになっていました。


No.1261 4点 不連続線
石川真介
(2021/04/30 23:05登録)
第2回鮎川哲也賞受賞作です。事件担当の上島警部が、上島鬼貫という俳人(1661~1738)の句を思い出すシーンがあるのですが、これは当然、この俳人の名前から逆にこの警部の名字を作者は思いついたのでしょうね。それはいいのですが、容疑者が書いた3冊のミステリの題名感覚は、どうもいただけません。
内容的には、確かにアリバイトリックはなかなかよくできています。巻末の選評で、紀田順一郎は「発覚の機会が増えるわけで、感心しない」としていますが、個人的にはその出来事を利用するという着眼点は評価できると思います。むしろ、犯人がそれを利用できたという点が少々ご都合主義な気もしますが。
しかしそれより、本作に対して不満なのは、小説としての統一感のなさです。登場人物の心理描写もグルメ礼賛も文章が鬱陶しく、フィクションの枠内にすっきり収まっていない感じです。


No.1260 6点 暗夜に過去がよみがえる
メアリ・H・クラーク
(2021/04/27 20:46登録)
ニュースキャスターの幼いころ両親が死んだ事件の真相究明と、現在における女性上院議員の取材番組にまつわる脅迫、殺人とを絡めたサスペンス小説で、クラークらしくはらはらさせてはくれても非常に安定感のある筆致で話は進んでいきます。最後はすべて収まるところに収まり、特に意外性に富んでいるわけではありませんが、納得のいく結末。ただ、最初の脅迫電話で、「あの家に住んではならない」と言っている点については、論理的疑問があります。
脅迫者の正体が最後には明らかになるという構成かと思っていたら、意外にも1/3ちょっとぐらいのところで早々と脅迫犯の視点から書かれた部分が出てきます。それでもなぜこの人物が脅迫をするのかは、もっと後にならないとわかりません。
原題 "Stillwatch"(人知れぬ監視)という言葉はキャスターの隣人が言うのですが、そのわりにクライマックスでのこの人の活躍が不十分です。


No.1259 7点 ドルの向こう側
ロス・マクドナルド
(2021/04/24 12:52登録)
犯人が意外だという人も多いようですが、個人的にはかなり早い段階で、この展開なら犯人はどちらかでないとロス・マク最盛期にならないなと予測してしまったので、意外性を感じませんでした。と言っても、それはその真相に感銘を受けたかどうかとは全く別問題です。ただ最終章、ずっしりとは来たのですが、最後の数行だけ、少し甘いかなという気がしてしまいました。後、リュウが以前に付き合っていた女性が偶然事件の重要関係者として登場するのですが、この人がリュウの元カノだった必要があるのかにも疑問を感じました。まあ、その設定のため珍しく激したリュウを見ることもできることも確かなのですが。以上が、直前の2作に比べて点数が落ちる所以です。リュウにしては珍しいと言えば、捜査の手数料や経費のことで困ったりしているのもそうですが、このタイトル、その点も踏まえているのでしょうか。


No.1258 7点 オレンジの陽の向こうに
ほしおさなえ
(2021/04/19 13:55登録)
鳥沢真(とりさわしん)と森泉棗(もりいずみなつめ)の2人の視点から一人称形式で交互に書かれた作品です。2人が夢の中でしか会えなくなった理由は、真が死んだからで、現世と死後の世界をつなぐのはイワフネという地衣類(菌類と藻類が共生したもの)らしいということがわかるあたりは、棗のとぼけた性格の故もあってファンタジー系の雰囲気です。ところがその2人と関係のある様々な人物がからみあい、あまりにも現世とそっくりな死後の世界の秘密が明らかになっていく過程は、完全に謎解き的興味を中心に据えたハードSFの構造になっています。
死後の世界にもイワフネが現れる部分は安易な感じがしますが、以前に読んだタイムスリップ・テーマの『天の前庭』よりもSF的基本設定がしっかりしていて、しかもロマンティックなファンタジーとしても良く出ているという、なかなか楽しめる作品になっていました。


No.1257 6点 死にゆく者への祈り
ジャック・ヒギンズ
(2021/04/16 23:22登録)
ヒョーツバーグの『堕ちる天使』に続きミッキー・ローク主演映画の原作2作目、というより映画版は未見で、主演がこれもロークだったことは全く知りませんでした。あらすじを読んだ限りでは原作にほぼ忠実なようですが、YouTubeで確認できるマイク・ホッジズ監督の腕はアラン・パーカーよりかなり落ちる感じです。
元IRAの銃の達人マーチン・ファロンが本作の主人公ですが、この名前、tider-tigerさんが『虎の潜む嶺』評でも書かれているようにヒギンズの別ペンネームです。ファロン名義での最初の作品は1962年発表ですから、本作の11年前、あえてその名前の人物を主人公にしたところに、ヒギンズの本作への思い入れがうかがわれます。ファロンだけでなくダコスタ司祭の人物設定も魅力的です。
ただ、そもそも司祭が目撃した事実と告解で聞いたこととは別問題だろうと思うのですが、カトリックに詳しいわけではないので、そこはなんとも。


No.1256 7点 堕ちる天使
ウィリアム・ヒョーツバーグ
(2021/04/12 17:53登録)
映画『エンゼル・ハート』を先に見た人も多いでしょうが、かく言う自分もまたそうです。ミッキー・ロークとデ・ニーロの演技、そしてアラン・パーカー監督の鮮烈な映像は記憶に残っているのですが、ストーリーの方はごく早い段階で予想できたオチを除くと、ほとんど覚えていませんでした。
そんな曖昧な記憶でも映画ではあまり感じなかったと思うのですが、原作は確かにハードボイルドです。それもチャンドラーよりもかなり荒っぽい感じ。カバーの粗筋など、本作の紹介では必ず載っているのでハードボイルドとオカルトとの融合であることは書いてしまいますが、前半にヴードゥー教の儀式場面はあるものの、本当にホラー的要素がちらつきはじめるのは半分を過ぎてからです。前知識なしで読めば、結末が見えるのはその段階になってからでしょう。
結末の意外性と細部の論理性に拘らなければ、迫力は充分でおもしろくできています。


No.1255 6点 桜さがし
柴田よしき
(2021/04/08 20:03登録)
表題作等8編を収めた連作青春ミステリ。
たまにはこの作者でも、と手に取ったのですが、意外にもかなり前に読んだ『風精の棲む場所』で探偵役だった浅間寺(せんげんじ)竜之介がやはり登場する短編集でした。他にも様々なシリーズを書いている作家なんですけどね。最終話の『金色の花びら』の中に、世の出来事は神が決めることで、それを偶然と呼ぶという意味のことが書かれていますが、本書を選んだのも、やはり神が決めたこと…
ただし主役はむしろ、浅間寺が中学校教師だった頃の教え子たち4人です。20代半ばになったこの4人の人生・関係を描いた中に、ミステリ要素を加えた感じになっています。浅間寺が探偵役を務めるとは限っていません。まあ『思い出の時効』だけはミステリとして成り立っていないとは思うのですが。
全体的に各話の締め方がクサ過ぎる気もしますが、京都の雰囲気も良く、楽しめました。


No.1254 6点 蹄鉄ころんだ
シャーロット・マクラウド
(2021/03/28 18:50登録)
マクラウド初読印象は、気持ちのいいミステリというところでしょうか。
バラクラヴァ農業大学のシャンティ教授シリーズはこれが第2作ですが、馬房に掛けてある蹄鉄がすべてひっくり返されていたという奇妙な事件から始まり、貴金属工芸店の強盗事件、大学で飼育している豚ベリンダの誘拐事件、そして装蹄師殺人事件と、早い段階で次から次へと立て続けに事件が起こります。
コージー系らしいほのぼの感はもちろん楽しめ、事件解決後のジャーナル情報を使ったまとめ方などうまいものですが、謎解き要素についても、犯人の正体こそ大して意外ではないものの、ベリンダの隠し場所とか殺人の動機とか、いろいろと工夫されています。ただ、そもそもベリンダを誘拐する必要があったのか、疑問です。警察の捜査攪乱のためということかもしれませんが、やはり無駄な労力という気はします。


No.1253 6点 欺き
ローレン・D・エスルマン
(2021/03/22 22:37登録)
巻末解説では、エイモス・ウォーカーのシリーズ翻訳は1991年に早川から出版された『ダウンリヴァー』以来9年ぶりで、「″懐かしい″感情が生まれてくる」と書かれています。どうやらこの感情の裏は、エイモスがネオ・ハードボイルドの市井派私立探偵たちに比べて、マーロウ・タイプの「孤高の騎士」的だということも、あるようです。
依頼人は知人のアイリスですが、以前の作品に登場していたのでしょうか。既読の『シュガータウン』も細かいことは覚えていないのですが、未訳の作品もかなりあることですし。実の父親を捜してほしいけれど、すぐには料金を払えないという彼女のために、一肌脱ぐことになるのが、エイモスの「騎士」らしいところ。その調査の途中で、ギャングが絡んできて、殺人も起こりますが、このモーテルでの殺人事件の真相は、まあこんなものかなという感じです。それよりアイリスの父親探しの顛末が以外で心に残りました。


No.1252 6点 夜明け遠き街よ
高城高
(2021/03/16 23:15登録)
2012年に出版された本作は、1980年代後半のいわゆるバブル期の札幌ススキノを舞台とした7編を集めた連作短編集です。共通する主役はキャバレーの「サブマネ」(副支配人)黒頭(くろず)裕輔、キャバレー等のスタッフを意味する「黒服」という言葉が使われています。
読む前から予測はしていたのですが、当時の華やかな夜の世界、ヤクザや政治家への賄賂なども出てくる話が集められていて、黒頭が問題解決にあたることが多いとは言え、明確にミステリと呼べる作品は多くありません。『フィリピン・パブの女』、『夜明け遠き街』の2編が、まあ一応謎や捜査が中心になっているかなというぐらいです。他に、『赤ヘネと札束の日々』にも犯罪は絡んできますが、それが中心でもありません。そのラストの電話、「笑い声が途中で切れた。」の1文で終わるところ等、やはりハードボイルドらしい感覚ですが。


No.1251 6点 あたしにしかできない職業
ジャネット・イヴァノヴィッチ
(2021/03/13 09:18登録)
ステファニー・プラム・シリーズの第1作邦題は『私が愛したリボルバー』でしたが、第2作の本作ではタイトルの一人称が「あたし」に変わっていて、本文でもやはり「あたし」です。なるほど、ヴィクやキンジーなら間違いなく「私」あるいは「わたし」でなければなりませんが、このシリーズは「あたし」の方が似合います。
裁判所に出頭せず行方をくらました保釈中のケニーが相当の悪であり、警察からも今回の逮捕事由とは別件で容疑をかけられていることは、ほとんど最初からモレリ刑事の話でわかります。このモレリ刑事とステファニーとの関係が、ステファニーの家族状況とからまって、なかなか楽しめます。ただこの作者のユーモアは、本作では特に文章よりも映像化した方が笑えるのではないかと思えました。
24個の棺桶盗難事件とケニー事件との関係は、悪くはありませんが、まあそんなところでしょう。


No.1250 5点 歪められた男
ビル・S・バリンジャー
(2021/02/28 11:12登録)
バリンジャーと言えば『歯と爪』『消された時間』の全編カットバックを駆使した2作しか読んでいない人がかなり多いと思われますが、自分もそうでした。本作は作者最後期のスパイ小説で、上述2作のようなアクロバティックな構成を期待すべきではありません。冒頭の「読書の栞」にも北村薫の、バリンジャーの特質は意外性より「哀しみ」にあるとする意見を引用したりして、本作を読む人にそのことを警告しています。
しかし、実際に読み始めてみると、事故で都合よい期間だけの記憶喪失になり、さらに整形手術で顔が変わって(歪んで)しまった男の一人称で語られるプロットやケイツ少佐の正体は、なんとなく上記2作を思わせる感じもあります。しかし、次から次へと関係者たちが死んでいく展開は、おもしろいとは言えるのですがやはり相当なご都合主義ですし、あいまいな終わり方も今一つぴんと来ませんでした。


No.1249 6点 おかしな死体(ホトケ)ども
海渡英祐
(2021/02/25 20:10登録)
「礼儀作法の点では、彼は警視庁内で最低クラス」という吉田茂警部補のユーモア・ミステリ短編集シリーズ第1弾で、どれも「~死体」というタイトルの8編を収録しています。吉田警部補は自分のところにはひねくれた事件ばかりが回ってくると、やはり歴代総理大臣をもじった名前の部下たちに当たり散らしながらも、明快な推理で事件を解決していきます。『浮気する死体』はさすがにちょっと無理じゃないのという気もしましたが、だいたいにおいてクイーンや都筑道夫など論理派が好きな人にはお勧めの短編集です。ユーモアの方では、最後のひとつだけ長い『怪獣の好きな死体』が最も笑えました。
吉田警部補は最後犯人に自白させるため、罠をかけることが多いのですが、佐藤部長刑事がそれをやめさせようとするところ、そんな捜査は違法であることは承知の上で書いているんですよと言い訳している感じです。


No.1248 6点 憎しみの絆
ジャネット・ドーソン
(2021/02/23 00:29登録)
登場人物表にはなんと38人もの人物が挙げられていますし、読み終えるのにずいぶん日数がかかってしまったのですが、それでも混乱することもなく、内容はすっきりと頭に入ってきました。さすがに、名前を覚えきれないところはありましたが、登場人物表を見れば、ああそうかとすぐ納得できます。その意味では、人物の描き分けがしっかりできた作品です。
「早送り」「巻き戻し」「再生」と3つの章に分けられていますが、別に音楽やビデオと関係のある内容ではありません。普通に時間の流れに沿った書き方でもよかったとも思えますが、殺された男を冒頭で印象づけるという点では、一応効果はあるでしょうか。
かなり長い作品で、多数の容疑者が浮かんできますが、事件の状況から考えると最も怪しいのはこの人ではないかと早くから思っていたのです。実際真相はやはりそうでした。しかしそれが特に不満というタイプの作品でもありません。


No.1247 6点 判事とペテン師
ヘンリー・セシル
(2021/02/08 22:47登録)
『メルトン先生の犯罪学演習』の作者として前から名前だけは知っていた作家ですが、読んだのは初めてです。『メルトン』作品紹介によると軽いユーモア・ミステリらしいので、シムノンやロス・マクにはまっていた当時は読む気も起こらなかったというのが、正直なところだったのです。
で、そのメルトン教授も最後の方で主役の旧友ということでチョイ役で登場する本書が初読のセシルですが、なるほど、こういう感じかというところでした。長編ではありますが、枝葉は合っても一つの事件を中心として構成していくというミステリの一般的な構造にはなっていません。相互には特に関係がない(同じ人物が事件関係者になることはあっても)様々なエピソードの寄せ集めです。判事でもある作者らしく、裁判が中心で、その他に競馬も重要な要素になっています。
原題の "The Painwick Line" は、ペインズウィック家系の意味です。


No.1246 5点 焼け跡のユディトへ
川辺純可
(2021/02/02 22:46登録)
第6回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞で、受賞ではなかったものの優秀作とされた作品です。
時代背景は昭和26年で、舞台は瀬戸内の町。ということは横溝正史の岡山もの作品が次々生まれていた時期で、しかも広島の話なども出てきて事件とつながってきます。
巻末の選評で島田荘司は、投稿時、つまり改稿前の本作について「表現は達者の部類に入る」としていますが、それほどかな、という気がします。確かに小説の文章としては悪くありません。しかし出版された改稿版でも、やはり謎を魅力的に表現できていないと思うのです。これは大げさな表現を使うかどうかとは無関係でしょう。探偵役のディックが会話の中で時々入れる英語(日本語にカタカナルビがふられている)も、本当にその日本語を思いつかなかったから英語で言った、という感じはあまりしません。
事件全体の構造も、まあ悪くないというレベルでしょうか。

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