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ミステリの祭典

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現金に手を出すな

作家 アルベール・シモナン
出版日1973年04月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点
(2021/06/07 23:42登録)
原作発表の翌年に製作された、ジャン・ギャバンの代表作の一つとも言われる映画はかなり以前に見たことがあります。その時は前半の食事や歯磨きシーンが不必要で、評判ほどいいとは思えず、記憶からほとんど消えてしまっていたのです。
で、今回その原作を読んでみると、覚えていないにしても、こんな複雑で意外な展開だったっけという感じでした。そこでDVDを再度見てみたところ、ギャング同士の金塊争奪戦という枠組みは同じでも、ストーリーはかなり変更していました。クライマックスは、映画らしい派手な銃撃戦にしてくれていますが、それだけでなく、原作では主役のマックスはリトンとなかなか連絡がとれない設定なのに、映画では最初からずっと一緒です。またマルコの立場も全く違います。なお、脚本化にはシモナン自身もかかわっています。
それにしても、シモナンって長編の邦訳は本作だけなのが残念です。

No.1 6点 クリスティ再読
(2017/04/25 21:02登録)
邦題は「ゲンナマ」と読む。これを知らない奴はトウシロウだ...とでも言いたくなるくらいに、本作というとガチの暗黒街出身者が書き、アメリカのハードボイルドの模倣から始まったフランスの「ロマン・ノワール」の流れを変えた、エポック・メーキングな作品である。ジャン・ギャバンが主演した映画も作られ、フランスのギャング映画を確立したことでも影響力絶大だった作品である。現金=grisbi というヤクザの隠語が本作で一般に知られるようになったのだが、本作はそういうヤクザの隠語だらけの作品で、原著には巻末にシモナンの手による簡単な隠語辞典が付いていることでも有名(でないと一般フランス人でさえ読めない)。
なんてアオると、皆さん妙な期待をし過ぎるかな?内容的にはそろそろアラフィフで引退を考えているヤクザ・嘘つきマックスが、相棒が巻き込まれた事件から身辺を狙われるようになった。実は隠し持っている莫大な現ナマの情報が漏れたことが原因のようだ...身に降りかかる火の粉は払わにゃならぬ。という話である。なので基本「守り」な話である。襲撃されたり反撃したり、友人の行方を探したり身を隠したり、をマックスの日常の中で淡々と描く。客観的にみれば、非日常の大事件が起き、エゲツないヴァイオレンスが連続しているはずなんだが...あまりに淡々としていて低血圧な描写が続く。なので本作、ジェットコースター的なエンタメを望んだら絶対失望する。
じゃあどこがいいか?と言えば、仲間の死を悼んで思い出話をするところとか、料理のおいしい妻のいる仲間のもとで仕事の話は一言もせずに味わうとか、昔話をするところとか、しっとりした情感とともに懐旧のまなざしで語られる場面がイイのである。そういうリアリティから、主人公のマックスさえあまりヒーローという感じではなく、小動物的な警戒心の強さと、無意味に意地を張らない達観したところなどが、リアルな人物像として浮かび上がる。ハードボイルド探偵ではないので頻繁に女性とベッドインするのだが、好かれる理由もどっちか言えばマックスがマメなあたりのように感じるよ...
というわけで、本作は有名で歴史上の重要作なんだけど、まったりした味わいをのんびり楽しむような読み方で読まないと、良さが伝わらない。ゆっくりと「懐旧」のまなざしをワインでも味わうように読みたまえ。

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