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ミステリの祭典

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聖なる酒場の挽歌
マット・スカダー

作家 ローレンス・ブロック
出版日1986年11月
平均点7.25点
書評数4人

No.4 7点
(2021/08/19 20:10登録)
1986年に発表された本作は、スカダーがなじみのもぐり酒場にいた時にそこで起こる強盗事件が語られた後、第2章の初めに「これらはすべて何年もまえに起きたことである。」と時代背景を明かしています。そのようにして、1975年当時の思い出であることを読者にはっきり示すような表現が、ところどころに出てくるのです。
強盗事件に続いて、酒飲み仲間の奥さん殺害事件、さらに別の酒場の裏帳簿窃盗犯による恐喝事件と、立て続けに起こる事件すべてについて、スカダーは調査を依頼されることになります。スカダーは自分は私立探偵の免許は持っていないことを力説しながらも、結局は3つすべてを解決することになります。ただし犯人逮捕に貢献するということではありません。
最後10ページを切ってからの「私はこれで終わったと思った。そう思おうとした。が、私はまちがっていた。」の後の部分、なんとも複雑な気分にさせられます。

No.3 6点 E-BANKER
(2017/08/01 22:50登録)
マット・スカダーシリーズの第六作目。
シリーズ中1,2を争う名作「八百万の死にざま」のつぎに書かれたのが本作。
1982年発表。原題は“When the Sacred Ginmill Closes”

~十年前の夏・・・この当時を思い出すたび、スカダーの脳裏にはふたりの飲み友達のことが蘇ってくる。裏帳簿を盗まれた酒場の店主と、女房殺害の嫌疑をかけられたセールスマン。彼らを窮地から救うべくスカダーは調査に乗り出した。しかし、事件は予想外に奥深かった! 異彩を放つアル中探偵の回想をとおして、大都会NYの孤独と感傷を鮮烈に描き出す現代ハードボイルドの最高峰~

とにかく酒、酒、酒、ちょっと休憩を挟んで酒・・・というお話である。
バーボンをこよなく愛する男・スカダー。
やっぱりNYでもバーボンといえば、ジャックダニエルだったりワイルドターキーだったりするんだなぁと変なところで安心したりして・・・
(本筋とは全然関係ありませんが・・・)
本作は紹介文でも触れているとおり、遡ること十年前が舞台となっていて、前作「八百万の死にざま」を読了した方なら感じるであろう違和感は、恐らくそこからきている。

事件そのものはシリーズ他作品と比べても、正直大したことはない。
最後にアリバイトリックやら、ちょっとしたドンデン返しやらが出てくるけど、それは付録程度にしか感じない。
それは「回想の事件」ということに起因しているのか、はたまた、前作で最高潮の盛り上がりを見せた直後の作品ということで熱が入らなかったのか・・・
途中はやや冗長な感じすら覚えるほどだったのだ。

それが・・・物語も終わりのページに差し掛かった、まさにその時!
『私はもう飲んでいないのだ。一滴も。だから酒場にはもう用がなくなったのだ・・・』という独白。
そう、本作はまさにスカダーの酒、そして酒場に対する挽歌(エレジー)だったのだ!
なぜ人は、そして男は酒を飲むのでしょう?
河島英五ではないけれど(古いな!)、NYの片隅の酒場でバーボンを飲むスカダーの姿を想像すると、どうしてもそんなことが頭に浮かんでしまった。
とにかく、やっぱり、スゴいシリーズだなと再認識した次第。
(本シリーズは読む順番が滅茶苦茶になっているのがいいのか悪いのか? 不明)

No.2 9点 Tetchy
(2014/10/11 00:43登録)
前作『八百万の死にざま』でとうとう自身が重度のアルコール中毒であることを認めたスカダー。彼のその後が非常に気になって仕方のない読者の前に発表された本書はなんと時間を遡った数年前にスカダーが遭遇した事件の話だ。

これは古き良きむくつけき酒飲みたちの物語。酒飲みたちは酒を飲んでいる間、詩人になり、語り合う。だから彼らは酒場を去り難く思い、いつまでも盃を重ねるのだ。そんな本書にこの邦題はぴったりだ。まさにこれしか、ない。
しかしそんな夜に紡がれる友情は実に陳腐な張り子の物であったことが白日の下に曝される。もう彼らが笑いあって盃を酌み交わす美しい夜は訪れないのだ。
本書の原題は“When The Sacred Ginmill Closes”、『聖なる酒場が閉まる時』。先にも書いたようにこれは遡る事1975年の頃の話である。つまりかつてはマットが通っていた酒場への鎮魂歌の物語だ。この題名は冒頭に引用されたデイヴ・ヴァン・ロンクの歌詞の一節に由来しているが、その詩が語るように酔いどれたちが名残惜しむ酒場への愛着と哀惜、そして酒を酌み交わすことで生まれる友情を謳っているかのような物語だ。

シリーズがこの後も続いていることを知っている今ではこれがいわゆるマット・スカダーシリーズ前期を締めくくる一作である位置づけは解るが、訳者あとがきにも書かれているように、当時としては恐らく本書はローレンス・ブロックがシリーズを終わらせるために書かれた、酔いどれ探偵マット・スカダーへの餞の物語だったことだろう。それくらい本書の結末は喪失感に満ちている。
しかしここからこのシリーズの真骨頂とも云うべき物語が紡がれるのだから、本当にブロックの才には畏れ入る。まずは静かにアル中探偵マット・スカダーのアルコールへの訣別となるこの物語の余韻に浸ることにしよう。

No.1 7点 kanamori
(2010/11/06 20:46登録)
無免許の私立探偵マット・スカダーシリーズの6作目。
酒場で常連たちとバーボンを飲んでいるスカダー。前作の結末からすれば、アレ?という発端ですが、本書は10年前の事件をスカダーが回想するという構成です。
酒場店主に対する脅迫事件と、飲み仲間の妻が殺害された事件を同時に依頼されます。従来作と比べてプロットが重視されていて、真相にミステリ趣向が工夫されていました。
全編を覆うノスタルジーと、最終章で語られる其々の登場人物たちの10年後の行く末、そしてスカダーの「今は一滴も飲んでいない」のひと言で余韻の残る作品でした。

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