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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1325 7点 匿名原稿
スティーヴン・グリーンリーフ
(2022/01/03 23:58登録)
タイトルどおり『ハムラビ法典を讃えて』と題された小説の匿名原稿の作者探しを、マーシュ・タナーが旧知の出版社社長に依頼されて調査を開始したところ、問題が次々に起こり最後には殺人までも、という事件です。原題はシンプルに、"Book Case"。
そんな内容ですから、様々な作家の名前が出てきます。ハメット、チャンドラー、ロス・マク、またタナーが、名前を「ハマーでしたかしら?」と間違われるシーンもあります。そんなハードボイルド系だけでなく、事件の説明を集めた関係者の前で開始する部分では、自分が「立派にポアロの役をつとめることができるだろうかと、ちょっと不安になった」りもします。ただしパズラー的な読者への伏線提示は最初から無視しています。
そのシーンの後、最後に内輪で原稿の作者を指摘する部分があるのですが、この真相は見当を付けやすいものの、推理には説得力があります。


No.1324 5点 画狂人ラプソディ
森雅裕
(2021/12/30 23:45登録)
1985年度横溝正史ミステリ大賞で佳作になった作品です。
タイトルの「画狂人」というのはもちろん葛飾北斎のことで、東京藝術大学美術学部卒業という経歴の作家らしい題材ですが、真相が明らかになってみると、その扱いはどうなんだろうと疑問に思えてしまいました。探偵役の二人組は美術学部の学生で、最初美術史の教授が殺されるものの、その後の展開はむしろ音楽学部の不祥事が中心になってきます。乱歩賞を受賞した『モーツァルトは子守唄を歌わない』など、この作者は音楽系の方が書きやすいのでしょうか。主要登場人物たちの多くがバイク(それもドゥカティやハーレー)、ジープを乗り回すという、独特な車両への偏愛も示されます。まあ、作者の好みによる設定というだけではなく、四輪駆動であることが伏線になっているところも、あります。
犯人の計画がごちゃごちゃしすぎで、解決がすっきりしないのが一番の不満でしょうか。


No.1323 6点 コンバット・ゾーンの娘
リンダ・バーンズ
(2021/12/28 16:32登録)
赤毛のカーロッタ・シリーズ第2作。前作は未読ですが、それがバーンズのデビュー作なわけではありません。それ以前、1981年からマイケル・スプラッグ・シリーズ4作を発表していたそうです。カーロッタはバレーボールをやっているという設定ですが、これはバスケットボールは高校の臨時コーチまで引き受ける、パレツキーのヴィクを明らかに意識していると思われます。
原題は “The Snake Tattoo” で、邦題とは全然違いますが、これはカーロッタが依頼される2つの事件のうち、どちらをタイトルに採るかということです。邦題は高校生に依頼される少女失踪事件の方と考えていいでしょう。原題はカーロッタが警察官だった頃の上司ムーニー警部補から依頼された件の目撃者娼婦のことです。
2つの無関係な事件が並行して描かれますが、どちらも意外性の求め方がちょっと中途半端に思えました。


No.1322 6点 煙草屋の密室
ピーター・ラヴゼイ
(2021/12/21 23:50登録)
表題作等全16編を収録、全体で400ページ弱なので、だいたい短めの作品ばかりです。
ラヴゼイというと謎解き系の作家のイメージが強いかと思われますが、この短編集はいわゆるパズラー系の物は全くありません。最終的にパズラー的なオチのあるものは、多少ありますが。
その1つ、原題ではこの作品が表題作に採用されている『肉屋』は、奇妙な味と見せかけて、最後に納得のいく(フェアプレーについては弱いですけど)真相を明かしてみせる作品です。ストーリー展開はともかく真相だけなら本当にパズラー系と言えるのが、『パパに話したの?』。『アラベラの回答』はあいまいすぎて意味がよくわかりませんでした。最後の邦訳表題作は、なるほどと感心していたら最後に連続どんでん返しで、巻末解説では「皮肉がこめられている」と書かれていましたが、むしろ悲しさ、むなしさの漂う結末だと思えました。


No.1321 6点 女騎手
蓮見恭子
(2021/12/18 09:33登録)
2010年度横溝正史ミステリ大賞で、大賞に次ぐ優秀賞を受賞した作品です。応募当時のタイトルは『薔薇という名の馬』、作中問題となる馬はホナミローゼスで、基本的にこの馬をめぐる謎がストーリーの中心にあります。
巻末の選評を読むと、選考委員4人中3人がディック・フランシスとの関連について述べていますが、実際一人称の主人公紺野夏海の家には、フランシスの小説がずらっと並んでいる設定です。ただ、イギリスの競馬について知識がなくてもすんなり入っていけるフランシスに比べると、日本の競馬(特に専門用語)についての説明はうるさい感じがしますし、登場人物も最初に多数そろえすぎて、覚えにくいところはあります。謎解き的には、なんとなく『興奮』を思わせるようなアイディアを基にしています。ただ、ラストで語られる夏海の父親の信念は、彼自身の実際の行動とは無関係じゃないかと思えてしまいました。


No.1320 7点 俺の拳銃は素早い
ミッキー・スピレイン
(2021/12/13 00:02登録)
古代ローマのコロッセオと現代の都会とを比較したりして、素早くて巧みじゃなきゃおまえは死んじまうぜ、なんていう講釈から始まる本作。しかし実際には、ハマーの拳銃さばきはちっとも素早くないと思える内容でした。
だからと言って作品自体がもたついて退屈なわけではありません。銃をまだ抜いていなかったからこそ命が助かる件にはなるほどと思わせられましたし、後半、銃は要らない、素手で倒してやると殺し屋に飛びかかっていくところも楽しめます。さらにハマーが先に発砲しなかったから成り立つ、犯人の悲鳴をハマーの哄笑が覆い隠してしまう狂気じみたラスト・シーンには異様な迫力があります。
ローラの扱いについては、後の作品のことを考えると、こうならざるを得なかったのだろうなと思えました。
ちなみに読んだのは原書なので、人並由真さんが書かれている一人称「僕」の違和感は感じずに済みました。


No.1319 8点 悪魔の死
アンネ・ホルト
(2021/12/08 21:00登録)
ノルウェーの女性作家によるシリーズ第3作。
主役のハンネ・ウィリヘルムセン(綴りはWilhelmsenなのでヴィルヘルムセン表記の方が、正しいのでしょうが)は、前作の事件後警部に昇進していて、まだデスク・ワークに慣れず、自分で外をとび回って上司から小言を言われたりもしています。
児童保護施設の所長(女性)が刺殺される事件で、多少厳格すぎるにしても悪魔とは程遠い人物設定です。それがこのタイトル(原題”Demonens Død”ですから、ノルウェー語を知らなくても邦題が直訳なのは明か)というのには、意味があるわけです。
ある意味、このラストには『火刑法廷』を連想してしまいました。「悪魔」と言ってももちろんリアリズム系の作品なので、ホラーとは無関係ですが、それほどの衝撃的反転性を持っているということなのです。その結末に至る後半のストーリー展開も見事で、なんともやるせない気持ちにさせられました。


No.1318 4点 白虹
大倉崇裕
(2021/12/05 17:26登録)
主人公五木の罪悪感とか警察組織の硬直性とか、誇張されすぎてはいるものの、山岳ミステリとしての雰囲気や、殺人事件に至る流れなど、大げさだからこその迫力も感じられ、登場人物たちも魅力的でなかなかおもしろいと思っていたのです。
ところが、帯に書かれている「驚愕の真相」に至り、なんだこれということになってしまいました。意外性と言ってもあまりに唐突で、五木が命を狙われるところなど論理的にも無理が出て来てしまっているのです。もっとストレートなアクションを中心にした方がよかったかもしれません。細かい点ですが、「故人」(第10章末)は漢字を読めば意味は明らかですが、聞いただけではわかりません。
なお、タイトル(「はっこう」)については、「日暈とも言う。太陽や月の周りに、巨大な光の輪が見える」現象で、「凶事の兆しとも言われている」と説明されていて、五木の閃きのことを指しています。


No.1317 4点 日曜哲学クラブ
アレグザンダー・マコール・スミス
(2021/11/29 23:28登録)
「寄り道だらけの知的な冒険」と作品紹介には書かれている女性哲学者イザベルのシリーズ第1作です。
そんな主役設定だけに、上品ではあるのですが、読んでいて、人間に対する見方が極端な紋切り型に感じました。作中の実例を挙げると、政治家はガンジーやマンデラなど「ほんの数人」を除けば「どうしようもなく大きくふくれあがったエゴ」の塊ばかりだという考え。人間の意外な一面を見せてくれ、だからこその意外性を演出する作家に親しんでいる者にとっては、不快感がどうしても拭えませんでした。
ところが、全体の8割近くなってあまりに突然、鼻や唇にピアスをしたチョイ役若者の登場を皮切りに、人は見かけによらないこともあり、第一印象に固執するのは危険だという主張が出て来て、以降はその考え方に基づいた真相解明になっていました。手がかりは明確なので、一応「本格派」と言えるのかなあ。


No.1316 6点 黄色の間
M・R・ラインハート
(2021/11/26 23:10登録)
ラインハートは1958年に死去していますが、晩年には執筆量は急減して、1945年の本作の後発表された長編は2作だけのようです。
途中までは、これは傑作ではないかと思いながら読み進んでいたのです。別荘での身元不明の女の死体発見に続き、山火事、ある人物のショック死、容疑者逮捕など様々な出来事が起こり、ともかく飽きさせません。主役の二人、キャロルとデイン少佐との視点の描き分けも堂に入ったもので、どうまとめて来るのかと期待していたのですが。
確かに事件全体の流れは相当複雑ではあるものの、納得できるようにできています。しかし、そのまとめ方がちょっと釈然としないのです。なんといっても、探偵役が入手した手がかりはすべて読者に開示することという意味でのフェアプレイが守られていません。完全にサスペンス調であれば問題ないのですが、構成がパズラー風なだけに、どうしても多少不満が出てきます。


No.1315 6点 黒岩涙香探偵小説選Ⅱ
黒岩涙香
(2021/11/23 09:29登録)
ガボリオの中編『バティニョールの爺さん』の翻案『血の文字』等10編と短いエッセイ2編。
ミステリ的にはやはりこの中編が最もよくできています。解題で小森健太朗はクイーンの某作との共通点を指摘しているほどです。まあクイーンほどのひねりはありませんが。
他に『幽霊』『紳士の行ゑ』『秘密の手帳』が長めの作品。『幽霊』は乱歩はあまりおもしろくなかったそうですが、悪くないと思いました。これもガボリオの『紳士の行ゑ』は、原作データ・アーカイブで確認したところ、探偵役は捜査官マグロワール先生(maître Magloire)です。
残りは短い作品ばかりです。小森健太朗がガボリオ原作としている『帽子の痕』の一人称主役刑事は『バティニョール…』のメシネ(目科)刑事をうらやんでいるので、メシネではあり得ません。中短編集『バティニョール…』収録6編の中に本作は入っておらず、原作がガボリオかどうかも疑問です。


No.1314 8点 カルメン
プロスペル・メリメ
(2021/11/17 23:40登録)
ビゼーのオペラは、通して見たことはないものの、代表的な曲は聴いています。また、オペラの映画化はF・ロージ監督版を見ています(ほとんど覚えていませんが)。というわけで、要するに奔放な浮気女カルメンをめぐる三角いや四角関係の話、という認識を持っていたのでした。しかしこの原作小説を読んでみると、まるで違うことに驚かされたのでした。主人公ドン・ホセには婚約者などいませんし、闘牛士が出てくるのは終盤になってからです。
4部に分れ、第1部は考古学者の「私」とドン・ホセの出会い、第2部は「私」とカルメンとの出会いと、その数か月後の逮捕されたホセとの再会、全体の6割ぐらいある第3部がホセの告白、駄4部はジプシーについての覚書です。全体的には、ジェイムズ・ケインをも思わせる(ケインが本作に影響を受けているのでしょうが)、女に魅せられたため悪の道に踏み込んでいく男を描いた犯罪小説です。


No.1313 6点 ハリウッドで二度吊せ!
リチャード・S・プラザー
(2021/11/14 16:29登録)
シリーズ初期作品はもっとシリアスだったそうですが、本作はコメディー・タッチが持ち味のなかなかよくできた軽ハードボイルドだと思いました。
ある夜依頼の電話があり、その夜のうちに殺人が起こって依頼者が逮捕されてしまうという、ガードナーよりはるかにスピーディーな展開です。冒頭部分はその事件の調査に行った映画撮影現場のシーンで、後から事件の経緯は説明されるのですが。
事件の黒幕だけは早い段階から明らかですが、実際の殺人犯は誰かという部分には、伏線をしっかり張って、説得力があります。ただ真相の明かし方には、意外性演出が不足しています。ある人物の自白を引き出すための方法が、ハリウッドならではのばかばかしさで、楽しませてくれるのが、一番の見どころでしょう。
原題は "Kill Him Twice"、邦題は「吊せ」となっていますが、1回はガス室、もう1回は電気椅子での処刑だと説明されています。


No.1312 8点 支倉事件
甲賀三郎
(2021/11/10 19:57登録)
甲賀三郎の長編の中では現在最も有名かつ評価の高い作品ですが、作者の代表作とは言えない超例外作です。
現実の事件に材を採ったドキュメンタリー・タッチの作品であることは知られていますが、特に後半、支倉喜平が送検されてからのことはほとんど事実に基づいているのでしょう。普通の意味でのミステリ的興味は、後半ほぼなくなってしまいます。それを戦前の「本格派」推進者であった甲賀三郎がごく初期、1927年に発表したというのには驚かされます。だからといって、本作が異常心理等を主題とした「変格派」であるはずもありませんし、変格派の得意な作家には絶対書けないタイプです。戦後の作家だったら、間違いなく完全なドキュメンタリーとして書いたであろうと思われるような題材を、一応フィクションの中に収めた本作も、作者の考えでは「本格派」に分類されるものだったのでしょうか。


No.1311 6点 死ぬためのエチケット
シーリア・フレムリン
(2021/11/07 19:50登録)
ドメスティック・サスペンスの作家として知られているようですが、そんなに他のサスペンス系作家と違うかなという気もしているフレムリンの、13編からなる短編集です。1編平均20ページ程度と短め。
巻頭の『死ぬにはもってこいの日』は、原作では本全体のタイトルにもなっている作品で、作品紹介には「皮肉な運命」としていますが、むしろなんとも哀しい感じがしました。あまりミステリ的とは言えません。それこそ皮肉な結末の3番目『高飛び込み』は全然ミステリでないので、こんな割合で続いていくのかなと思っていたら、後は最後の『奇跡』を除きすべてオチのある犯罪絡み話になっていました。まあ『夏休み』は殺人に見えるというだけですが、そうなってしまう過程が楽しい作品です。
全体的に楽しめましたが、ただ翻訳版表題作だけは、たぶんわざとあいまいさにしたオチが、かえって不満でした。


No.1310 6点 ブラック・マネー
ロス・マクドナルド
(2021/11/04 20:07登録)
文庫版の作品紹介ではロス・マクの異色作としているのも、なるほどと思える作品でした。依頼内容自体がある男の身元調査というのは、本来なら私立探偵の仕事らしいのですが、ハードボイルド系ミステリではあまりないでしょう。調査対象の男は最初からうさんくさく、何かあるという感じがします。リュウが他の作品と同じく、ていねいで自然な流れに沿った調査をしていくと、事件はその男の正体とは直接関係ない方向に進んでいきます。半分近くになってから殺される人物がまた意外です。その人物が何かを隠しているらしいことは少し前から明らかなのですが。
早い段階からある人物の態度には不自然さを感じていたのですが、最後には、その態度の意味が納得できます。タイトルの黒い金(隠し所得)の動機との関係など、さすがにきっちりできていますが、真相解明部分がこの作家にしてはあまり鮮やかでないのが不満でした。


No.1309 5点 死神の矢
横溝正史
(2021/10/29 22:55登録)
犯人設定と事件の構造自体は、おもしろいアイディアだと思います。さらに事件を難解化する原因となったある偶然も、ご都合主義というほどでもありません。
ただ、その設定にはかなり無理やりなところがあります。連続殺人の動機として、被害者の人物設定だけでなく殺意を抱く側の人格も考えると、これは無茶でしょう。また、上記偶然がなかった場合を考えると、最初の犯行は無謀としか言いようがありません。そもそも事件の発端となった古舘博士による婿選び自体、なんでそんなことをしたかという疑問への答は明確に示されていないのです。この犯人設定なら、殺人は1件だけにした方がよかったのではと思えました。元の短編がどうなっていたのかは知らないのですが。
角川文庫版に併録されている『蝙蝠と蛞蝓』は一人称の語り口がなんともユーモラス。「蝙蝠は益鳥である」って、蝙蝠は哺乳類なんですけど。


No.1308 6点 ウィンディ・ストリート
サラ・パレツキー
(2021/10/26 20:49登録)
文庫本で700ページを超え、タイムリーな社会派テーマ性を持った『ブラック・リスト』に次ぐ、ヴィク・シリーズの第12作は、その前作より100ページほど短い(それでも約630ページ)、またハードボイルド系ではありふれた事件背景の作品でした。その分パレツキーには珍しく、構成的に多少工夫を加え、プロローグに派手な放火事件を置いて、その後いったん過去に戻るといった手法を使っています。
しかしこの作品の魅力は、ヴィクが事件に関わるきっかけになった出来事、彼女が母校で、バスケット部の臨時コーチをすることになる点でしょう。女子高校生が何人も登場し、特にそのうちの1人は事件に直接関係することになります。さらに敵役企業社長の孫であるビリーが加わり、小説に若々しさを与えています。
邦題は前作と違い、原題("Fire Sale")とは全く異なるもの。「ウィンディ」って何のことだか。


No.1307 5点 図書館の美女
ジェフ・アボット
(2021/10/23 13:01登録)
小さな田舎町ミラボーの図書館長ジョーディ・ポティートのシリーズ第2作は、悪戯めいた連続爆弾事件の上に、コンドミニアム建設計画をめぐる2重殺人事件が起こり、というなかなか盛沢山な作品です。殺人事件の真相については、たぶんそうじゃないかなとは思っていましたが、見当が付きやすいことより、その真相をどう明かすかという部分と、爆弾事件との関わり合いについて、どうも釈然としないものもありました。ジョーディの素人探偵ぶりも、行き当たりばったりな感じです。彼の、元恋人と現恋人との間でなんとなく揺れ動く心情はおもしろいとも言えますが、まだるっこしいのも確かです。
なお、訳者あとがきには、ミラボーと言えばアポリネールの詩『ミラボー橋』を真っ先に連想する向きも多いのではないかと書かれていて、でも綴りはどうなんだろうと気になり調べてみたら、同じ綴り(Mirabeau)でした。


No.1306 5点 粘土の犬
仁木悦子
(2021/10/20 23:23登録)
5編中3編が、仁木兄妹もののパズラーです。クリーニング屋から兄雄太郎が持って帰った悦子のコートが別人のものだったというところから始まる『灰色の手袋』は長編『林の中の家』とも共通する、様々な偶然が重なりあう構造で、手袋のアイディアは悪くないのですが、煩雑すぎます。『黄色い花』は雄太郎のように植物に詳しくないとわからない真相。『弾丸は跳び出した』は特に不可能興味の強いもので、それはいいのですが、これにも偶然がずいぶん重なっているだけでなく、第2、第3の事件はかなり無理やりな解決です。
『かあちゃんは犯人じゃない』は子どもの視点から一人称形式で書かれた作品で、すっきり仕上がった(見当がつきやすいとも言えますが)中に伏線もしっかり組み込まれています。表題作は倒叙型で、子どもが粘土で作った犬の上に乗ったものの意味はわかりますが、直接的な手がかりはアンフェア。

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