home

ミステリの祭典

login
toukoさんの登録情報
平均点:6.16点 書評数:241件

プロフィール| 書評

No.161 6点 笑う警官
佐々木譲
(2010/04/05 21:19登録)
映画化されたそうですが、なるほど、いかにも映像向きな作品。スピーディでサスペンスフルで、キャラが立っていて、ある意味、お約束の展開。意外性はないけれど、安心して楽しめます。
「笑う警官」の方は図書館では予約が多くてなかなか借りれそうになかったので、内容は同じで、タイトルだけが違う、うたう警官の方を借りました。
映画化と同時に笑う~に改題したそうですが、オマージュで売ろうとする以外に笑う~に変える要素が浮かばない、意味不明な改題ですよねえ(その映画もVシネママ以下の出来だったそうですが;)


No.160 6点 弥勒の掌
我孫子武丸
(2010/04/05 20:54登録)
主人公たちは気の毒な境遇ではあるんですが、あえて読者に好感や共感を抱かせないような描写をしていると感じていたので、こんな結末でも、そこまで読後感は悪くなかったです。
ただ、長さが中途半端なので、もっと短ければブラックな小話としてしまった感じになったろうし、あるいはもっと宗教団体を胡散臭げに長々と描写しても、オチの落差が際立ったかも。


No.159 9点 夏の災厄
篠田節子
(2010/04/05 20:46登録)
篠田節子の作品はほとんど読んでいますが、その中ではこれが一番、癖がなくて読みやすく、万人が楽しめる優等生的エンタメです(なので、コアなファンの間では賛否両論あるんですが)。
典型的なウィルス・パニックもので、海外作品には類似のものが多いですが、個人的にはそれらの中でも一番これが面白かったくらいのお気に入りの作品。
作者の前職(地方公務員)の知識を総動員しているので、ディティールがとにかくリアルで臨場感があります。
海外作品に比べるとダイナミックさや奇想天外さには欠けるかもしれませんが、日本人ならあるある~とついつい頷いてしまう、縦割り行政の弊害、なんだかんだ言って頑張っている市井の真面目な職業人たち、不法投棄等の問題等をうまく絡めながら、謎が謎を呼ぶサスペンスを盛り上げています。
また、どのキャラも現実に似た人を思い浮かべられるくらいリアルかつ好感が持てます。
個人的に保健所のおばさんが、看護士→保健所勤めだった母に似ているので、とにかく親近感が……そのあたりで+1点はしているかも ^^;


No.158 8点 不思議島
多島斗志之
(2010/03/20 00:23登録)
なんといっても、ちょっと意固地なところのあるアラサー女性の心理描写が非常に巧みで感心しました。
この作品が書かれた当時よりむしろ今の方がこのタイプの不器用な女性は、都会にも多いかもしれません。
ミステリとしては小粒ですがそつなくまとまっているし、古臭い島での閉じた人間関係間の話なのにも関わらず、古さを感じさせない普遍性のようなものすら感じました。


No.157 6点 幽霊刑事
有栖川有栖
(2010/03/20 00:16登録)
なんとなく初期の赤川次郎を思い出しました。
こんなキャッチャーな作品も書ける作家だったとは意外でした。

軽いタッチのミステリ風味の娯楽作品としてよく出来ていると思うし、このレベルの作品を年に何作も出せれば、儲かりそうだけど、そこまで器用ではないんだろうなあ。


No.156 7点 安達ヶ原の鬼密室
歌野晶午
(2010/03/14 01:30登録)
一粒で4度(もっぱら作者が)おいしい作品(集)。
とはいえ、読者としても楽しめました。

子供の落し物のエピソードや湯煙殺人事件は、前菜やデザートや箸休め的に楽しめましたが、留学生の話が長すぎるので、表題作であるメインの話にもっと分量をさいて欲しかったなあ。


No.155 6点 美濃牛
殊能将之
(2010/03/10 22:07登録)
脈絡のない脱線が多すぎで、まるで作者の趣味のブログでも読んでいるみたいでした。
登場人物の人となりを描写するためとか、作品を盛り上げるためとかじゃなく、思いついたままに、作者が好きなものを書いているって感じなので、趣味の記事の合間に、ミステリー小説の連載がのろのろ進むという印象。
脱線部分は読まなくても、小説としてもミステリとしても影響はないので、はったりでもいいから、せめてもっとうまく、有機的に関連づけて欲しかったなあ。
もしくは、半分の長さだったら、もっと緊迫感があって楽しめただろうに、間延びしすぎでもったいない。

追記)ミレニアムに20代の青年が80年代のバンドについて詳しかったり、中年男性がトランステクノに詳しかったり、30代が懐古趣味だったりする不自然さは、ある重要事項のミスリードだったのかな?
でも、それだけが例外的に伏線なんだよってことだとしたら、アンフェアな気もするので、やっぱり適当?


No.154 4点 疑心
今野敏
(2010/03/06 20:48登録)
これは男性と女性では評価がわかれそうですねえ。
前回、奥さんが倒れているだけに、なんだかなあ、とどうしても感じてしまうのにくわえて、主人公の片思い心理、どうしてここまでエキセントリックな書き方をするんだろう? と首をひねってしまいました。

不倫や年齢差は置いておくにしても、好意が即、無差別嫉妬や異常な独占欲に結びつくのが、何より不気味でたまらなかったんですが、真面目すぎる男性の成就の可能性のない老いらくの恋ってこんなものなのかなあ……主人公のネガティブな面が悪い方に出すぎ。
最初に主人公がバカにしていた巷に溢れる通俗恋愛ソングには、たとえ成就の可能性はない片思いでも、相手の幸せを願い、影ながら君を見守り続ける……みたいな口当たりのいい美化されたパターンが多いというのに、引き合いに出されるのが恋愛絡みの犯罪者ばかりでは、いつものひっくり返しにもならないだろうし。
実際、相手をもっと知りたい等の好奇心や対象への賛美や理想化も性的な妄想の描写もまったくないのに、ひたすら病的な嫉妬と独占欲の描写が延々と続くので、どうも恋ではなく、性愛ですらなく、ナルチシズムの延長のストーカー的な異常心理に思えるので、サイコサスペンス的なハラハラ感までありました。
家族に支えられ、十分愛されているだけに、失楽園的な心情では説得力ないなあと思っていたら落としどころも禅の結論だと、実際の行為は何もなくても、心情的には能天気な「不倫は文化」と変わらないような!?
これじゃ実際、不倫してしまって、背徳感に悩むという方がまだ人間らしいかも。
あまりにも能天気なので、いっそ「アメリカンビューティ」のように、若い女の子に悶々と片思いをしていた、仕事にも家庭にも人生そのものにも煮詰まっている中年男性が、自らのあずかり知らぬところで隠れゲイの男性に熱烈な片思いされていて、八つ当たりで殺されてしまう……系のブラックな結末だったら面白いのに、なーんて思っちゃったくらいですよ。

ミステリというかサスペンスとしては先が読めすぎで、人物描写も、シリーズが進むにつれて、簡略化というか戯画化されすぎで、ノリがあえばいいんだろうけど、ちょっとしらけてしまいました。


No.153 6点 私の男
桜庭一樹
(2010/03/02 21:47登録)
(ネタバレありですが、ミステリ作品ではないし、ミステリだと思って読むと無駄に混乱するので、読む前に見てしまってもおそらく大丈夫だと思います)。



直木賞受賞作。
殺人事件があるので、ついミステリとして読みたくなりますが、「赤朽葉家の伝説」ほどではないけれど、マジックリアリズムの世界だと思った方がいいです。

それでも、中途半端にリアルなので、死人が喋ったり歩いたり、押入れの中に入れていた死体が腐らなかったり、刑事が証拠を放擲するのも同然なことをしているような世界にも関わらず、第一章で初めて暴力をふるったと言っていた主人公が、回想で暴力殺人事件を犯しているのがわかった時は、叙述ミステリ? 等と深読みしてしまいました;

ミステリではなくても、矛盾点が多い小説なんですが、トラウマ持ちで愛に飢えた不良青年→チョイ悪オヤジと化す「おとうさん」の造形、いわばイケメンのだめんずのフェロモン描写にはなんだか圧倒されました。
9歳の娘に手を出すこのキャラがもし不器用で小太りのオタクっぽい男とかだったら、この話はこういう形では成立しないと思うので(笑)。

話題になった性愛描写は、あたかもマルグリット・デュラスに中上健次を混ぜて、ラノベテイストにしたような趣で、読みやすいけれど、時に通俗に流れすぎるきらいもあり、「ラ・マン」ではなく「ナインハーフ」とかレディースコミックみたいだと感じてしまった部分も……。
(そう言えばおとうさんのニヤニヤ笑いも昔のミッキー・ロークぽい!?)

整合性を欠いているにも関わらず、一気に読ませる力はありますので、連載後、いくらで改稿できただろうに、あからさまな矛盾点をあえて直さなかったのは、勢いを大事にしたかったのかな? などと首をひねりました。


No.152 4点 新世界
柳広司
(2010/02/28 15:49登録)
原爆開発の主導者であったオッペンハイマーをメインに据えた、ロスアラモスでの同じく原爆開発に関わった科学者が狙われることによって起こった誤認殺人事件をめぐるミステリ。

紋切り型の反戦平和のメッセージが強すぎ、科学者たちが戯画化されすぎ、原爆の描写にしても、いるかの童話にしても、これまで散々書かれてきたものの縮小再生産に過ぎず、オリジナリティやインパクトを感じませんでした。
つるりとした○○、やれやれ、損なわれた、等の村上春樹の影響を受けた文体も鼻につきます。
作者の主張に賛同できないわけでは決してないけれど、こんなステレオタイプの平和論は、むしろ思考停止の始まりだと感じてしまうほど薄っぺらで奥行きがないんです。
オッペンハイマーなんてその多面性は有名だし、資料が豊富なんだから、その気になればいくらでも重層的に書ける人物でしょうに、落としどころがそことは、作者のメッセージ性が先行したんだろうなあ。

肝心のミステリとしても超常現象もありの世界で、かなりしょぼかったです……。


No.151 5点 シートン(探偵)動物記
柳広司
(2010/02/25 23:07登録)
シートンのキャラや、なつかしい狼王ロボのエピソードなんかはよかったし、児童文学的な品も感じるのですが、大人のミステリファンが読むには、全体的にぬるすぎ。
とはいえ、シートン動物記を読んですぐの子供時代に読んだら、すごく楽しめそうだし、親が子供に読ませても安心な内容なので、完全に子供向けに書いた方がよかったんじゃないかなあ。


No.150 7点 最悪
奥田英朗
(2010/02/25 22:53登録)
書きようによっては、陰惨なプロレタリア文学もどきやフェミニズム系の告発ものやノアールものになったりしそうな題材を、リアリズムに基づいているのに、テンポよく、時にユーモアさえ感じさせる筆致で、ジェットコースタームービー的なハラハラ感を楽しく味わせてくれるエンタメとしてまとめています(荒唐無稽なのに社会が悪いと告発調の「レディ・ジョーカー」と好対照?)。

群像劇の主人公達3人が出会ってからは、もう少し弾けてしまった方が、耐えて耐えて最後に爆発という日本の娯楽映画の王道パターンになった気もしますが、作中で言及されていた「俺たちに明日はない」のようなラストも覚悟して読んでいたので、「中くらいなりおらが春」って感じのラストは、いい意味で予想を裏切られ、読後感も悪くなかったです。


No.149 6点 武家屋敷の殺人
小島正樹
(2010/02/21 00:31登録)
島田荘司との共著でデビューしただけあって、幻覚や妄想にしか思えない手記がすべて真実だったり、アクロバティックな死体移動があったり、あったはずの部屋が消えたりと、初期の島田作品の数々を思わせるけれんみたっぷりのなんともなつかしい作風です。
ジェットコースターミステリというのが売り物で、これでもかとネタを詰め込んでいるわりには、どれもイマイチ大味な印象なんですが、島田のファンなら読んでみてもいいんじゃないでしょうか。

ただし小説家としての筆力はイマイチ。作者の趣味らしいカヤックの薀蓄も、事件そのものと何ら関連性がないので、自己満足にしか思えませんでした。まだ小説を、読者の反応を想定して書くということが出来てないって感じ。
ホームズ役の友人が、ひねた性格で終始冷淡なのは、挿入されているエピソードで明らかになる生育歴ゆえにかとまだ納得できないことはないものの、ワトソン役の弁護士である主人公の背景はほとんど描かれていないのに、「わしは○○っす」なんて体育会の学生のような口調なのには、最後まで馴染めませんでした。
カヤックの薀蓄に頁数を割くくらいなら、読者の違和感を払底し、主人公への思いいれや愛着を持たせるためにも、まずそれを書くべきでしょうに……。


No.148 4点 赫眼
三津田信三
(2010/02/17 00:33登録)
ホラーと思わせておいてミステリ的決着がつく作品も多い作家ですが(その逆のもありますが)、これは純然たるホラーの短編集でした。ミステリを期待して読まないように注意。
ホラーとしてはそこそこ怖いんですが、すでに使ったことのあるネタの使い回しが多いのがちょっと気になる……。


No.147 5点 ジェネラル・ルージュの凱旋
海堂尊
(2010/02/17 00:11登録)
ミステリ色はいつにも増して薄いです。
速水の最大の見せ場、タイトルの元になった場面で、どうしても噴出してしまう……。


No.146 5点 螺鈿迷宮
海堂尊
(2010/02/17 00:08登録)
姫宮、男性読者には人気あるんですね。巨乳ドジっ子だからかな。
ドジっ子ナースって患者からしたら死神並みに怖い存在だと思うんですが、主人公が妙に暢気なのは、「ももいろ」な気分だからなんでしょうか(笑)。
姫宮の行動に限らず、なんだかすべてがあぶなかっしくて、読んでる方はハラハラしっぱなしだったんですが、それも作者の計算のうちだったらまだいいんだけど、適当に書いている感じがどうしてもしてしまって~。


No.145 5点 ナイチンゲールの沈黙
海堂尊
(2010/02/17 00:02登録)
文章が読みづらく、ギャグが寒いのは毎回だから、まあいいか……。
これを最初に読んだ時は、もっと落ち着いてわかりやすく書いてよ~なんて思ったけど、今思えば、粗製乱造気味の後発作品に比べれば、はるかに落ち着いていたのでした。
それでも、キャラだとか医療現場からの告発だとか、この作家にしかないという売り物になるものが沢山あるから強いんでしょうねえ。


No.144 6点 山妣
坂東眞砂子
(2010/02/16 23:48登録)
坂東真砂子は好きで全作読んでいます。
これはずいぶん前に読んだのですが、いさがなぜ失踪しなければならなかったのか、古代人のような山妣と化したのかというのがミステリと言えばミステリ?

この作家は、近年のこなれた感じのちょっとエロティックな短編とかの方が個人的には好きなんですが、直木賞受賞作だけあって、この作家特有の思想性を前面に押し出しながらも理屈っぽくはなく(フェミニズム臭が気になる方は気になるかも?)、民俗学の絡め方も業の部分の昇華の仕方もうまく、エンタメとしてよく出来ている、万人向けの大作です。

ネットでは毀誉褒貶の激しい作家ですが、その歪みや怨みや業を、作品に昇華させる力はたいしたもので、アマゾンの評などでは、猫殺しは許せないけど作品はいいね、などと10代の女の子たちにも言われているくらいです。


No.143 6点 エデンの命題
島田荘司
(2010/02/15 22:12登録)
島田荘司の作品中の薀蓄というのは、あくまでミステリを盛り上げるために利用しているだけなので、一部分だけをことさらに拡大解釈したり、曲解していたりすることが多いんですが、何でもミステリのためのアイディアにしてしまう姿勢は好きです。
一時期、島田が凝っていた冤罪事件についてのように、バイアスが思想的な偏向からくるものではなく、ミステリのトリックやエンタメに利用できるかによるものなので、この本もトンデモ本チックなところがあっても、楽しく読めました。


No.142 7点 りら荘事件
鮎川哲也
(2010/02/15 21:49登録)
設定や人物が古臭いのは古い作品なので当たり前、薄っぺらなのは、本格での人物その他はむしろ記号の方がいいという考え方もあるから譲歩するにしたって、この動機、戦前の文学でもここまでのは読んだことないですよ……いっそ日本じゃなくて、イスラム圏の話にでもすればよかったのに、強引すぎないですか?
でも、この動機じゃなくて犯人は単なる快楽殺人犯だったというのでも、この名作パズル小説の価値は変わらないんでしょうねえ。
そこが素晴らしいところでもあるんですが、もっとマトモな人物、動機等だったら、少なくとも私がこのサイトでもうちょっと点数は上げてるかも(笑)。

241中の書評を表示しています 81 - 100