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ミステリの祭典

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漱石と倫敦ミイラ殺人事件

作家 島田荘司
出版日1984年09月
平均点7.18点
書評数40人

No.40 6点 バード
(2022/04/23 08:15登録)
一事件を二人(漱石とワトソン)が別個に語るので、そこの間にある齟齬を利用した叙述トリックでもあるのかと期待したが、そうではなく単にホームズ二次創作に漱石視点を組み込んだだけだった。
このように、こちらが勝手な期待をしすぎていたせいでやや肩透かしとも感じたが、一方で読み物としては中々にレベルが高く、本家ホームズの設定と夏目漱石に関する史実を上手く組み合わせて面白みのある物語を紡いでいる。
またページ数も多くないのでサクッと読める点もgoodで、悪い意味での二次創作感もほとんど無かった。

グダグダな要介護のホームズを読者が求めるかっこいい様で書いているワトソンの筆力は個人的に必見の笑い所。

No.39 7点 虫暮部
(2020/11/18 11:11登録)
 洒落のめしつつもなかなか巧みに模倣しており感心した。
 犯人が不可解な状況を演出した動機が明快なのも良し。
 但し、犯行全体の動機には法律上の疑問が残る。あの人とその人の続柄でそういう権利が成立する? 死んでいないのに財産の移動が発生する?
 寧ろ、あっちの彼こそ正当な地位を得る可能性があるのだから、退場させずに関係を維持するほうが得策では。でも正体がばれるリスクもあるか。うーむ。
 
 それはともかく、ミステリとして洗練されたストーリー(或る程度は後発組のアドヴァンテージ)に、強烈なキャラクター(やったもん勝ちなので先人の方が有利)をぶち込めるわけで、シャーロック・ホームズは原典よりパスティーシュのほうが面白いんじゃないの?

No.38 6点 tider-tiger
(2020/07/26 16:11登録)
なぜだかたまに読み返したくなる作品です。
本作は長所もありますが、瑕疵もけっこうあります。おっさん様が犯人側の思惑通りにいくのか疑問とされていましたが、自分も同感です。そんなのうまくいくわけがない。
ですが、遊び心を愉しむ作品のように思いますので、ここは穏便に。むしろ爽やかなラストを評価したいところです。感動というか、爽やかだと自分は感じました。

ホームズと漱石どちらも好きな自分にはかなり美味しい趣向です。両者の齟齬はなかなか笑えます。両者にそれぞれ花を持たせているところも好感します。それだけでも自分は満足です。ただ、漱石パートは文体はまあまあ似ているのですが、言葉の選び方や漱石の人物像に違和感はありました。

他の方が評価されているように、トリックは大味であまり感心しません。ただ、事件の構造というか性質はいかにもホームズものにありそうなもので、ホームズのパロディとしてそんなに悪くないように思います。
ホームズものもトリックは「はあ?」というのがけっこうありますし。

直木賞候補となった作品でもあります。山口瞳が強く推していましたが、他の審査員はほとんど評価せず、むしろ、なぜ山口さんはこれをこんなに推すのだろうと不思議そうにしている審査員もいたくらい。
山口瞳が『格調の高い文章』と評価していましたが、これは自分もちょっとよくわかりません。ただ、ワクワクする作品というのは同意します。
全体として文章が格調高いとは思えなかったのですが、ものすごく好きなシーンがあります。漱石がホームズに別れを告げんとベーカー街に赴く際の描写です。ここは格調が高いといってもよいと思います。
『冷たい風が高い建物にあたって』で始まる二頁ほどの風景描写、文明批評は素晴らしい。なぜだかここだけは覚醒した感があります。本作の個人的なツボです。
ちなみに直木賞の選評での渡辺淳一の酷評は『頭で書かれた小説の最たるものだが、』と始まっていましたが、下半身で書かれた小説よりは頭で書かれた小説の方が好ましいと思います。
※渡辺氏の初期作品には好きなのもあるのですが……。

この作品は漫画にもなっていて(連載中)お試し版だけ読んでみたのですが、島田荘司が五木寛之に見えて仕方なかったのでありました。

No.37 6点 レッドキング
(2020/02/20 19:11登録)
「空中ブランコ」「ジェットコースター」級の大技トリックより、これ位の中技の方が、品格と含蓄があって良い。
夏目漱石に対しても、彼の「異常性」を描きながら、「リスペクト」を失っていないところが素晴らしい。

No.36 5点 ボナンザ
(2019/04/18 21:04登録)
漱石サイドとワトソンサイドが絶妙に違っていて面白い。トリックも島田らしく大掛かりでうれしいところ。

No.35 7点 風桜青紫
(2016/03/01 00:45登録)
ビビりまくる漱石wwwwwww。「徳の高い人物」と「モリアーティをだますだの変装」のくだりに爆笑させてもらいました。シニカルな漱石の語りと、大袈裟なワトスンくんの語りのギャップがとにかく笑える。ユーモアを書かせても面白いあたりが、作者の技量の高さを示しているといえるでしょう。終盤が駆け足ぎみで、トリックが軽い感じに収まってしまったのが少し残念だが、まあ、作風的にあまり派手なトリックにはできないだろうからな……。

No.34 5点 斎藤警部
(2015/11/13 20:36登録)
表題にホームズのホの字も出て来ないでやんの。おまけにミイラって。でも漱石の時代のロンドンで島田荘司と来たらそこにホームズが浮かび上がらないわけがありませんね、いいタイトル付けです。
(つくづく、アガサ・クリスティ晩年とロンドンパンクムーヴメント勃興が絶妙なくらいあと一歩の所で重なっていない事実が悔やまれてなりません。)

さ~て題名は良いとして中身のほうは。。漱石とワトソン、二人の叙述が交互に登場という形式は新鮮でなかなか面白いですが、最後まで読むとちょっとぬるかったですね~、謎解きが。ロンドンを舞台とした物語興味もさほど濃いものでなく、結果あまり心に残ってません。
もっと、ビシッと決めて欲しかった。

No.33 5点 TON2
(2012/11/05 21:54登録)
英国に留学中の孤独な漱石とこわれているホームズのやりとりが面白い。東洋の呪いとかが出てくるが、謎解きはミエミエ。

No.32 4点 いいちこ
(2012/05/03 19:42登録)
ミステリとしては小粒なうえに大味な内容で評価に値しない。
ただ本作はジュヴェナイル向け本格ミステリとして総ルビ版で出版された点でも明らかなように、若き日の作者の稚気を楽しむべき作品だろう。
ホームズを愛する人なら一読の価値がある。

No.31 7点 おっさん
(2012/03/07 19:05登録)
十九世紀が去り、新世紀を迎えたばかりのイギリス。
首都ロンドン滞在中の、日本人留学生・夏目金之助(のちの漱石)は、下宿先で夜な夜な聞こえる、亡者のような声に悩まされていた。
その相談にベイカー街のシャーロック・ホームズを訪れたことから、夏目は、やがてホームズが手がける奇妙な事件(中国人の呪いを受けたという男が、たった一晩でかさかさのミイラと化し、密室状態の自室で発見された)に巻き込まれていく・・・

デビュー以来、年1作ペースで長編を上梓してきた新進気鋭の島田荘司にとって、プロ作家元年ともいうべき1984年(昭和59年)。
単行本だけでも4冊を世に問いましたが(他に、雑誌に一挙掲載した長編が2作、日刊紙に連載した長編が1作)、なかでも直木賞候補になるなどして、いちばん話題を呼んだのが本書です。
当時、あんまりポコポコいろんなものを書かないで、御手洗ものに専念してくれよ~、とボヤきつつも、それなりに楽しく読んだ記憶はあります。
近年、光文社から完全改訂総ルビ(!)の文庫版が出たりもしたようですが、とりあえず、集英社の親本のハードカバーで再読しました(以下のレヴューに関して、もし“現行版”との齟齬があるようでしたら、掲示板でお知らせ願えれば幸いです)。

“年代”に注目してホームズと漱石を共演させるというアイデア自体にオリジナリティはありませんし、ただそれだけであれば、長編ホームズ・パロディのパターンを確立した、ニコラス・メイヤーの『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』(1974)の後続作品としては、ワンオブゼムにとどまります。
しかし、漱石の覚書とワトスンの手記を、章ごとに交互に配列することで、ホームズ譚をカリカチュアしたパロディ(前者)と正統的なパスティーシュ(後者)を、一冊の中で同時に実現するという試みはユニーク。
漱石パートはまた、当然、夏目漱石の文章パロディにもなっているはずで、そのへんの巧拙を云々する資格は筆者にはありませんが(ワトスン・パートはきわめて自然と云えます)、読んでいて違和感はありませんでした。
非常にリーダビリティの高い小説に仕上がっていますが、軽く読める小説=軽く書ける小説ではないわけで、“量産期”にこれだけ手の込んだ遊びを実現させた、作者の余裕と作家的力量には感服します。

で、肝心のミステリとしての出来は?
密室の解明は、大胆すぎる前提といいトリックの手順といい、いかにも島田荘司。本来なら、突っ込みどころ満載の大味さですが、このパロディ的世界観のなかでは、あまり目くじらを立てる気にもなりません(それでも、初読時の学生時代には、アレコレ気にしていたようなw)。
しかし、今回、強く感じたのは――
密室のミイラ事件を“手段”とする、犯人側の“目的”。その論理構成がルーズなのは、大きなキズでしょう。
すべての狙いは、財産○○のため、ある人物を××させることだった――って言いますけど、一発勝負で、そう簡単に××させられますかねえ。単にショックを与えるだけで、思惑通り××してくれなかったら、それまでのすべての労力はパーですよ。

じつはこれ、本書の小説的興趣にもつながる問題なんです。
事件解決後も、そのアフター・ケアに、作者は筆を費やします。
夏目の尽力のかいあって、くだんの人物は立ち直ります。
お笑いとご趣向本位の戯作が、いつしか胸に迫る小説となり、静かな感動が読者の心に広がる・・・はずなんですが。
でも。
作者の都合で、キャラクターが無理矢理××させられ、感動的な場面のために、今度は一方的に回復させられる、そのあざとさが透けて見えるように思うのは、筆者がひねくれ者というだけでしょうか。

ま、そんな小難しいことを考えなければ、一級のエンタテインメントではありますw
“感動”には留保をつけましたが、小道具を生かして、サゲは綺麗に決まっています。

No.30 6点 まさむね
(2011/04/29 17:03登録)
ワトソンと漱石の両視点での進行は確かに楽しかった。てっきり叙述系かと思ったほど。
ちなみに,漱石視点でのホームズ評はシャーロキアンにとってはどうだったのでしょう?むしろ歓迎なのかな?

No.29 6点 E-BANKER
(2010/08/22 21:39登録)
ロンドン留学中の夏目漱石が名探偵S.ホームズと出会ったら・・・というありそうで絶対にありえない設定で書かれた初期作品。
久々に総ルビ版で再読。
解決場面で真犯人を一網打尽にするシーンなどは、ホームズ物の”香り”をよく出していて「ニヤリ」とさせられます。
密室やミイラに関するトリックそのものは大したことはないですが、全体的はよくできている作品でしょう。
ワトスン視点の部分は全く問題ないのですが、漱石視点の部分はシャーロキアンにとっては許せないんじゃないかと思わず心配になりますが・・・
あと、ラストの島田氏の年表(出生から出版年までの)はファンにとっては非常に興味深くてよかった。(若い頃、様々な経験をしてるんですねぇ・・・)

No.28 8点 seiryuu
(2010/07/16 17:52登録)
読みやすくて、ストーリーもトリックも面白いユーモアミステリー。
思わずくすっと笑ってしまいました。

No.27 6点 touko
(2010/02/15 20:25登録)
留学中、西洋コンプレックスからノイローゼ気味になっている前半の漱石が笑えました。

名誉白人と化した最近の御手洗の超人ぶりの背景には、こんな怨念があったのかしら……なんてつい邪推したくなる!?

No.26 7点 STAR
(2010/02/10 23:22登録)
夏目漱石・ホームズが出てきておもしろいうえに、ちゃんとミステリーにもなっていると思います。
夏目漱石はロンドン留学中にナーバスになっていたと文学の本で読んだことがあります。そういう漱石の心境も事件とあわせてうまく書いていると思いました。
漱石の周りで起こる怪奇現象も最後は合理的な説明が成り立っています。

No.25 5点 bage
(2009/12/14 13:32登録)
同じ場面に対する2人の視点・捉え方があまりにも違うので、叙述トリックがあるものかと思ってしまった。

No.24 8点 E
(2009/07/26 13:51登録)
夏目漱石とホームズのコラボ!!
テンポ良くて面白かったです。記述の仕方も変わっていましたね。ホームズについては何も知らなかったので、このホームズが定着しそうですが;
最後にやはり一言言いたいのは『吾輩は、猫である』(爆)

No.23 7点 測量ボ-イ
(2009/05/29 19:37登録)
ユ-モア・ミステリと割り切って読めば、なかなかの作品。

No.22 6点 simo10
(2009/05/27 22:51登録)
ホームズは子供の頃に少し読んで覚えていただけに、夏目漱石の語るホームズが爆笑でした。
電車で笑いをこらえるのに必死でした。
ただ、本題(?)のミイラトリックに関しては「ふ~ん」という印象なので得点は抑えました。
夏目漱石は著書を読んだことがなかったので、知っていればきっともっと楽しく読めたのでしょう。
ぜひ学校の図書館に置きたい一冊。

No.21 8点 ElderMizuho
(2008/12/13 13:49登録)
個人的に島田氏の作品は確かに光る部分はあるのだが、興味のない薀蓄や無駄な箇所の多さに辟易しており高い評価をしていなかった。
しかしこの作品はその「無駄な箇所」がユーモアあふれる文体でちゃんと読ませる内容になっており、島田氏の持ち味が最大限に生きる作品となっていると思う。ラストは陳腐な表現だが思わず感動させられてしまった。つね61もいいね!
島田氏の最高傑作でしょう

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