home

ミステリの祭典

login
方舟

作家 夕木春央
出版日2022年09月
平均点8.34点
書評数32人

No.12 9点 zuso
(2022/11/14 22:47登録)
猛烈な勢いで浸水が始まっており、脱出のタイムリミットはおよそ一週間。それまでに生贄を決めようとしていた矢先、一人が殺される。一体こんな時になぜ?
タイムリミット付きの密室。それだけでミステリ好きの心をくすぐるのに、事件の謎を解いた先に衝撃が待ち受ける、最凶のエピローグ。
フーダニット、ホワイダニットともに楽しめる。本格ミステリとしてとても優秀。方舟というタイトルには何重にも意味があるのではと考えてしまう。

No.11 10点 蟷螂の斧
(2022/11/10 20:14登録)
クローズド・サークルの割にはサスペンスフルでない点が気になりましたが、それを上回る「動機」のどんでん返し。「動機」では既読の中で、ピカ一です。よって10点満点献上します。

No.10 8点 HORNET
(2022/11/06 21:01登録)
 大学時代の友達と山奥の地下建築を訪れた柊一たちは、面白半分に廃墟となった怪しい地下建築に。予定外に時間がかかり、偶然出会った三人家族とともに地下建築で夜を越すことになった。ところが、突然の地震により脱出不可能になったうえ、下からは浸水が。そんな矢先に殺人が起こった。地下建築の仕組みから、だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。その一人には、殺人犯人がなるべきだ――

 令和の時代に、現実離れした設定のド直球クローズドサークル。いいじゃないですか!
 迫りくるタイムリミット、いかにもな「探偵役」、ほの暗い雰囲気の中で進む陰惨な連続殺人、そしてロジカルな推理。ここまでの評者の高評価もうなずける、本格ミステリ好きごのみの秀作。
 なんといっても最後の仕掛けが…秀逸。背筋がぞっとしました。

<ネタバレあり>
 ただ、地震によるアクシデントの後、本当に「一人が犠牲になるしかない」か?とは思った。だって、真犯人が隠していた真実からすると、ボンベを使って出られるわけだし、水没までの猶予が1週間ほどあるんだし。それに、この真犯人はこのあと、どう説明して世間に戻っていくんだ?とも。
 まぁ、そういうこというのは野暮ってもんですかね。

No.9 10点 ぷちレコード
(2022/10/30 22:29登録)
柊一は、大学時代の友達と従兄を加えた七人で、長野県にある謎めいた地下建築を訪れる。そこは天然の空洞を活用した、多くの個室を備えた地下三階まである施設だった。ほどなく一行に、道に迷ったという親子連れが加わり、その夜彼らはそこで一泊することに。だが、深夜に地震に襲われ、地上への扉は岩で塞がれてしまう。それは、巻き上げ機を使ってどかすことが出来るが、操作した者は犠牲にならざるを得ない。また地下三階の水が増えており、いずれ水没することが判明。さらに仲間の一人が殺された。
この序盤の畳みかけ、それに水没までのタイムリミットに動機不明の犯人を捜し出し、その人物を犠牲にすればよいといいう非情のアイデアをプラスしたサスペンスの演出。犯人を暴くロジカルな推理、そしてどんでん返し技を超越した戦慄のラストには身震いした。この結末のつけ方は大変好み。
2023年版、このミス・本ミスなどランキング上位は間違いないと思えた傑作。

No.8 9点 パメル
(2022/10/29 07:46登録)
越野柊一は、従兄の篠田翔太郎と大学時代に所属していた登山サークルの仲間と一緒に、スマホの電波も届かない山奥にある地下建築へ探検しに行く。地下三階まである貨物船を想起させる建築物は、館内図によると「方舟」と称するらしい。「一番嫌いな死に方って何?」などという会話をしているところ、きのこ狩りに来て道に迷った三人連れの親子がやってくる。そして総勢10名で夜明けを待つことに。すると地震が発生し、鉄扉は大岩で塞がれてしまい、閉じ込められてしまった。さらに徐々に水が流れ込み、水没の危機が迫るなか、仲間の一人が他殺体で発見される。
トロッコ問題(多数の命を救うために、一人の命を犠牲にすることは正しいか)を含めたデスゲーム的趣向もあるクローズド・サークルもの。これは前例がないのではないか?殺人犯を捕まえたい一方で、居残る人を決めなければならないというジレンマに陥るタイムリミットサスペンスをはらんだスリラーで緊張感に満ちている。
フーダニットとしての推理展開は精巧で、ある物証を使った推理の積み重ねで、アクロバティックな論理を堪能できる。このような極限状況下で、なぜ殺人を犯さなければならなかったのかという不可解なホワイダニットは、犯人の頭の良さと狂気に戦慄させられる。そしてラストのどんでん返しに凍りつくとともに唖然とさせられる。本格ミステリとしてもサスペンスとしても一級品の作品である。

No.7 9点 文生
(2022/10/24 09:44登録)
個人的には、リーダビリティの高さと衝撃の結末という点から数あるクローズドサークルミステリのなかでも名作『そして誰もいなくなった』に最も近づいた作品だと思います。
まず、クローズドサークルを構築する舞台装置が秀逸でサスペンス感を否応なく盛り上げてくれます。それに、犯人探しのためのロジックも分かりやすくて魅力的。そしてなんといっても、ぞっとする衝撃のラストがたまりません。これに関しては完全に意表を突かれました。ただ、探偵役が超然としていて他とは一味違う感を出していたのに、終盤は十把一からげの扱いになっていた点だけが残念です。そこはもう少し詳しい描写がほしかったところ。

No.6 8点 人並由真
(2022/10/16 15:35登録)
(ネタバレなし)
 予想をはるかに超えたリーダビリティで、あっという間に読了。
 シチュエーションの求心力もあって、作者のこれまでの長編のなかでは最も早く読み終えた。

 なんも言わない方がいい作品だと思うが、あえてそれでもネタバレにならないように書かせてもらうなら、この閉鎖空間・危機的状況のなかでこの大設定を成立させる細かい文芸そのものも、よく考えてあつらえたものだと、まっこと感服した。
 
 あと、某登場人物の(中略)には、唖然として呆然。

 みなさんおっしゃる帯のネタバレ? に関しては回避。読了してから、ああ……と思う。
(これも120%ネタバレにはならないと思うが、インパクトの方向性では、某・海外ミステリの長編を想起した。)
 ちなみにかの当該人物の心情吐露には、とても共感。(中略)を考えず、首肯したい。

 存分に練られた優秀作で、先にちょっと書いた部分で、こんな(中略)と思わないでもないが、そこはまあとんがったエンターテインメント&フィクションということで了解。

 あちこちの今年の新作ベストで上位に入るのは確実であろうが、最上位ベスト3くらいの範疇になるか、4~10位あたりのどこら辺に落ち着くか、その辺の世間の評価が、今からなかなか気になる。

No.5 9点 suzuka
(2022/10/10 21:42登録)
評判を聞いて最近読んだのですが、小説でここまで度肝を抜かれたのは数年ぶりです。
未読の方はネット等で評判を調べる前に、とりあえず読んでみることをお勧めしたいです。

No.4 8点 雪の日
(2022/10/07 15:27登録)
「何も考えずに読むのをお勧めします」
ネット上で話題になっていたので文庫化する前に買ってしまいました。
非常に面白かったです、クローズドサークルはいいですね。

〈以下ネタバレ気味〉
本の帯を見ていたのでどんでん返しの予想がついてしまったのが、残念です。
まぁそのトリックまではわからなかったのですが。

最後に、タイトルのつけ方が秀逸すぎる

No.3 9点 メルカトル
(2022/09/30 22:55登録)
【警告】 これから本書を読む予定の方は、出来ればスルーして下さい。勿論ネタバレはしませんが、なるべく予備知識なしで読むべき作品だと思いますので。
編集します。雪の日さんのご書評を拝読して確かにそうだと思いましたので一つだけ注意喚起しますが、読む前に帯の惹句を見てはいけません。かなりの確率でネタバレになっている可能性があります。


9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。

タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
Amazon内容紹介より。

これはヤバいやつですよ、無論良い意味でです。
誰もが読む前に予想するよりも遥かにロジックに特化した作品だと思います。有無を言わさぬ迫力ある論理展開には圧倒される事必至。解決編ではフーダニット+ホワイダニットで、グイグイ探偵が推理を披露していきます。でも・・・。

地下施設である方舟と呼ばれる建築物が物語全体の、伏線や手掛かりの装置として存分に機能しています。ある意味主役とも言えるでしょう。ですから敢えてタイトルを『方舟の殺人』にしなかったのは、そういった事柄を鑑みての事ではないかと邪推したりしています。
現在Amazonではプレミア価格で販売されていますので、入手し難い状況にありますが、いずれそれも解消すると思いますので、そうなったら是非とも読んで頂きたい傑作と信じます。

No.2 9点 sophia
(2022/09/28 00:04登録)
ネタバレあり

クローズドサークルの出来方も凝っていますし、死地からの脱出と殺人事件の真相究明に相関関係があって、「紅蓮館の殺人」のパワーアップ版という印象を受けました。探偵役の解決も至って論理的で、その時点で7点あげられました。しかしながら各所で絶賛されるほどの作品ではないかなあなどと考えておりましたが、エピローグで脳に雷が落ちました。「全てが反転」というのはまさにこの作品のためにある言葉かと思います。そしてこの作品のなお優れているのは全ては解説しなかったことです。読み返すと犯人の随所の言動が違う意味を持って浮かび上がり一層怖さを感じます。10点があげられないのはたった一点。浸水ペースが結構遅いので、救助を呼んでくる時間があったのではないかという点です。ですがそれを差し引いても論理とどんでん返しの融合した傑作であることは間違いがなく、2022年にもなってまだこのような斬新で鳥肌の立つようなクローズドサークルものが読めることを幸せに思います。

No.1 9点 フェノーメノ
(2022/09/15 07:28登録)
絞首商會の読みにくさは何だったんだってくらい読みやすい。
絞首商會、好きな作品だけども、あれが合わないという人がいるのも理解できる。というか私も途中退屈すぎて投げそうになった。ただ真相は好き。
ただこの作品とサーカスから来た執達吏は、絞首商會が合わなかった人でもミステリ好きなら読んで損はないと思う。

というわけで、方舟である。今年読んだミステリ新刊の中でぶっちぎり面白かった。今後話題作が色々控えているが、ここは越えてこないと思う。
サーカスから来た執達吏はハッピーな作品で読後感も良かったが、本作は一転して超ダーク。この作風の振り幅は大きな武器。

設定の面白さもさることながら、犯人特定に至るロジックの手つきやエピローグでの衝撃など、ミステリを堂々たるエンタテインメントに昇華させている。非本格派読者にも訴求するタイプの本格ミステリではないかと思う。

サーカスから来た執達吏は惜しくも本格ミステリベスト10で10位以内に入れなかったが、本作は間違いなく入ってくるはず。

方舟やサーカスから来た執達吏を読んでから絞首商會を読んだら、クソ面白くねえな、って思う可能性があるのでその点注意。
ちなみにだけど、早坂吝が絞首商會退屈論に反論していた。普段しょうもないことしか呟かない早坂吝が作品について熱く論じてたから印象に残ってる。ただやっぱり絞首商會は退屈だと思う。

32中の書評を表示しています 21 - 32