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ミステリの祭典

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虚無への供物
1964年の元版および複数の版は「塔晶夫」名義で刊行

作家 中井英夫
出版日1905年05月
平均点7.32点
書評数41人

No.41 10点 isuzulink0
(2024/08/29 19:23登録)
この作品は、文体が非常に美しく、物語の要素が豊かで、現実と虚構を巧みに融合しています。さらに、作中作の手法を用いることにより、物語に独特の美しさがあります。

物語の中では、何度も曖昧な事件が起こり、多重の解釈が提示されています。最後の真実は、推理小説の意義を貫通し、この作品に卓越的な現実の価値を与えています。それは確かに名作と呼ばれるべきものです。

作者の文体は、優美さと洗練された表現力で、読者を魅了します。物語の展開は、読者の感情を引き締めながら、深い思索を促します。作中作の構造は、物語の深さと多様性に寄与しており、読者を没頭させる独自の世界を作り出しています。

この作品は、推理小説の枠組みを超え、文学の美しさと深さを提供しています。最終的な真実に至るまでの過程は、読者を深く感動させるものです。この作品を読んで、推理小説の新たな可能性を発見する喜びを感じることができます。

No.40 8点 みりん
(2023/04/24 11:26登録)
こんなカッコいいタイトル、厨二病にはたまりませんよ。そして自分が100%楽しむには少し読む時期が早すぎた気がする。少なくともガストンルルーの「黄色い部屋の謎」を読んでから挑戦すべきだったと後悔。
三大奇書の中では読みやすいと聞いていたが、読破に12時間半かかった。ドグラマグラと黒死館は読破に何時間かかるのだろう。

No.39 10点 麝香福郎
(2022/07/07 23:49登録)
普通の推理小説から逸脱している。展開される推理ゲームは劇中劇のように複雑に交叉しながら、果てしない空想と妄念のアラベスクを形作っていく。
作中には、アイヌの奇譚、ポーの小説やルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」、あるいはタイトルにもなっているポール・ヴァレリーの詩、色彩学、薔薇と宝石のコレクション、戦後の下町の雑多な空気や様々な事件、風俗談義など、実に多彩な材料が詰め込まれている。
作者はこの大作を十年近い歳月を費やして完成させた。四つの密室殺人の謎に彩られた巨編は、もちろん本格的な推理小説として楽しむことができる。そのディテールのひとつひとつには息もつかせぬ勢いで、物語の革新へと引っ張っていく。しかしまた、作者はこれをアンチミステリとして構成していたことを忘れてはならない。

No.38 9点 ALFA
(2022/05/31 13:14登録)
数十年ぶりに再読

作家の顔と作品との関係はなかなかに面白い。松本清張の総髪とタラコ唇は作品の重苦しい昭和の雰囲気に釣り合っているし、連城三紀彦の端正な風貌は精緻を極めたプロットに似つかわしい。
さて中井英夫だが、ポートレートを見る限り謹厳な大学教授か法律家のようだ。ところがその代表作「虚無への供物」はいきなりゲイバーのショータイムから始まり、美少年たちのチャラいおしゃべりへと続く。文章は会話体も多く、時代特有の文物や風俗を今風に読み替えるとBLノベルのようにスラスラ読める。
一方、随所にちりばめられたペダントリーは作者の風貌にふさわしくとても深い。まずミステリーの古典は押さえていないと楽しめない。品種名や作出者名が出てくるバラや戦前から戦後にかけてのシャンソンも結構大事なキーになる。したがって厭味な言い方をすれば人を選ぶ作品でもある。

ネタバレします



初読のときは作者のアンチミステリという解説を真に受けて、ミステリーの体裁で人間の死の意味を問う哲学的な純文学であると理解した。まあそれでも間違いではないのだろうが、数十年たって再読すると、まずはごくまっとうな読みごたえのあるミステリーという感じがする。
哲学的な動機や社会的な問題提起がミステリーの枠の中に巧みに落とし込んである。安直に「トラウマ」を動機にしたミステリーが横行する今となっては奇書どころか「哲学派ミステリー」の名作と呼べるのではないか。
そのうえで「戦後」という奇怪な時代の全体小説にもなっているのがすごいところ。

途中出てくるダミーの謎解きがあまりに多いこと、唯一の女性である久生がウザいこと、塚本邦夫が監修した八田の大阪弁があまりにオーセンティックで上方落語のようであることを減点してこの評価。
冒頭、ショータイムの黒いカーテンが開いて物語が始まり、最後は屋敷の辛子色のカーテンが閉じて(完)となる、この様式美も中井英夫の真骨頂。

No.37 9点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2021/12/31 11:17登録)
過去のミステリの名作が次から次へと引用されるので、古典的名作を読んでいないと、面白さは半減するどころか、登場人物が話している内容が理解できないだろう。また、これまでの推理小説の壮大なパロディとも考えられ、その意味でもアンチ・ミステリである。
登場人物の名前からして嘘っぽく、いかにも「虚構のお話です」という体裁だが、実はそこに作者の仕掛けがあり、メタ・ミステリの元祖と呼ばれる所以となっている。「現実と虚構」をテーマにした純文学としても読める。大長編だが、全編のほとんどが会話なので読みやすい。

No.36 7点 じきる
(2020/12/30 21:33登録)
最終章を読むまでは面白味に欠ける展開が続くもので、何度も挫折しそうになりながら読了。しかしその過程すらも、あの結末に至る為には必要不可欠だったのでしょうね。

No.35 3点 まつまつ
(2020/06/22 23:48登録)
これを称賛するには、「自分はミステリ通だ!」という証だと思う。自分はまだその域に達していないし、面白くもなんともなく、ページをめくる手が重かった。それなら評価するなよと言われそうだが、また10年後にも読んで、再評価としたい。

No.34 8点 バード
(2020/06/22 21:32登録)
『ドグラ・マグラ』についで三大奇書二冊目。残る一つは『黒死館』だが・・・、非常に読みにくいと伺っているので今現在読むモチベが低いです(苦笑)。
さて本作は、三大奇書という大層な看板に反し、意外にもミステリのオーソドックスな構成(事件が発生し、ラストで真相が明かされ幕引き)で、『ドグラ・マグラ』に比べ格段に読みやすかった。

本作を語る場合、おそらく例のオチだけがクローズアップされがちだと思う。しかし、本作のオチはそれだけを見ると賛否両論だろうし、下手に真似事をしたら思考放棄と叩かれそうなものである。
つまり、本作が現代でも人気なのは、例のオチに読者が納得するだけの過程をきちんと書いているからだろう。道中、探偵役達が第三者のごとく好き勝手な珍説を披露するのは、一見ギャグっぽいようで実は肝なのよね。

奇怪な要素だけでなく、ラストに向けての丁寧な構成にもぜひ注目して欲しい一作。

No.33 8点 モンケ
(2019/08/11 06:21登録)
吉行淳之介の随筆でこの作者のことを知った。元々は短歌誌の編集者で寺山修司を輩出し、三島由紀夫や澁澤龍彦とも親交があり、高踏的美学的な趣味人だったんだろう。「塔晶夫(凝ったフランス語もじりがあったはず)」名義でこの小説を書いた。この類の知識人の書いたミステリーにしては、いかにも「余技で書いたぞ」みたいな「上から目線的高慢さ」は感じられず、坂口安吾大岡昇平のそれらよりずっと真摯な姿勢が感じられて好感の持てる作品だと思う。ただその分、癖がなさすぎて「奇書」と呼ぶにはいささか物足りない。
本格ミステリーの「アンチ」を作るのならば、あんな中途半端な洋館を舞台にしないで、思いきり貧しい和風の家を場面にして、密室トリックの一大解釈討論会の冗談ミステリーを練り上げてほしかった。
作中作含めて四つの殺人が書かれているが、二つ目のネタの小粒さはまあいいとして、三つ目の和風アパートのネタが少し残念。あれ、もっときちんと独創的な和風密室トリックに仕上げられていたら9点あげてもよかった。

No.32 6点 HORNET
(2019/06/08 11:08登録)
 さまざまなジャンルに細分化されている現代のミステリを多く読んでから、やっと本作を読んだからであろう、正直何をもって「奇書」なのかが分からなかった。
 言い換えれば、それだけ現代のミステリがさまざまな創意工夫や奇手に彩られているということであり、本作品が50年以上前にその先鞭をつけた存在だったということであれば、ミステリ史上において高い評価がされるのもうなずける。

 よって私の感想は、普通に「重厚なミステリ作品」として面白かった、というもの。多くのペダントリーと、そこから引き出される突飛な推理の数々にはなかなかついていけなかったが、それでも上下巻に渡る重厚なストーリーを飽くことなく読み続けることができた。読みにくさは全く感じない。
 非常に多くの伏線が張られ、しかも展開の中でそれが二転三転していくので、回収されていないままのものがいくつかありそうだが、情報量の多さにそれを見返す気にはなれなかった。そう思うと、なんだが雰囲気で騙されてしまっているところもある気がした。

No.31 10点 クリスティ再読
(2019/04/14 22:52登録)
本作は「三大奇書の一角」ということにはなっているのだが、純粋なミステリ系以外だと、「黒死館とドグマグが奇書すぎて...」と本作を奇書から外す向きがあることはご存知だろうか? 評者に言わせれば、本作が(唯一無二な)奇書であるか、それとも(模倣可能な)アンチ・ミステリなのか、は読者の本作の読み方・受け止め方に依存するのだ。なので、本作があくまでも「人間の犯罪であること」に固執したのと同じように、「あくまでも本作を奇書として」読む「反世界の物語」としての読み方を、心がけて読まなくては本書の「人間の尊厳」を傷つけることになる。
そこで補助線を提案したい。氷沼家は日本の「大量死」に呪われた家系という設定なのだが、不思議なことに「戦災」は広島の原爆以外はまったく扱われないのだ。そして見え隠れする三島由紀夫の影(本作の中盤に「藤間百合夫」という仮名で登場している)。「人間の尊厳」のために「非現実の鞭」を本作の「犯人」は望んで引き受けるわけだが、この構図は「などてすめろぎはひととなりたまいき」と嘆く自らの生命を戦争に捧げた「英霊の聲」の根拠喪失と奇妙に符合するのではないのだろうか?天皇が人間になってしまえば、現人神のために死んだ兵士たちはその死の根拠を失ってさまよい続けなければならない..このような「神話的」思考を「家の歴史」として引き受けたのが、氷沼家なのだ。
評者はどうしても大島哲以の「薔薇刑」が表紙になった旧講談社文庫版で欲しくて入手したのだが、「薔薇刑」はまた三島を被写体とした有名な写真集の名でもあるし、本作が出た後に熱っぽく作者に感想を語った...という「三一版の作者ノート」のエピソードもあるわけだ。ある解釈として、三島は本作の犯人が無意味で愚劣な死の「罪」を我が身に引き受けたのと同様に、三島事件という無謀なクーデターによって顕現する「反世界」の中で自死を選んだ....これが三島の「戦後」を引き受けて担った「非現実の鞭」になるだろう。だから、本作に対する本当にアンサーは「第4・第5を名乗りたがるたかがアンチ・ミステリでしかない作品たち」ではなくて、「豊穣の海」のラストで「歴史」のすべてが無意味へと反転する虚脱感なのであろう。奇書とは、こういう無意味の過剰な重さを我が身に引き受ける謂いなのだ。だからこそ、本書は歯を食いしばっても「奇書」として読み、「奇書」にしなければならないのだ。

(ネタバレ注意!)
だからこそ評者は積極的に「非現実の鞭」を引き受けて、本作の「推理ゲーム」の無意味さにさらに屋上屋を重ねんがために、敢えて犯人を指摘しよう。犯人は三島由紀夫である。薔薇は開くか?

(ちなみに、評者はエーヴェルスの「吸血鬼」が本作の先駆的な作品だと思っているんだよ。もし手に入ることがあるのならば、ぜひぜひ読み比べて頂きたい。擬人化された薔薇がリュートを持つ大島哲以の講談社文庫1冊本の表紙の絵は豊橋美術博物館に収蔵されているそうだ。一度実物を見てみたい)

後記:豊橋美術博物館、行ってきましたが「薔薇刑」の公開はなし。そのかわりに絵葉書ゲット。本のカバーより緑がずっと強くて、薔薇の色は緑でした(カバーでは渋い青緑。だから全体に赤っぽい製版)。緑司じゃまずいから、ひょっとして蒼司にわざわざ色を合わせたのだろうか?まあ緑だってもう一つの「不可能の薔薇の色」には違いない。

No.30 10点 mediocrity
(2019/03/20 18:14登録)
『黒死館殺人事件』と並んで色々な作品の中(特に学生アリスシリーズ)でしばしば言及されるので気になって購入。
三大奇書とかアンチミステリとか書かれてるので、ミステリとして破綻してるのかと思っていたが全く違った。

推理小説を読み込んでない時点でこの作品を読んだのは良かったのかもしれない。低評価の方々が感じているような疑問を感じることなく最初から最後までひたすら楽しかった。
一番すごいと思ったのは「この時点で終結しても作品として成立している」と思うポイントが複数箇所あったこと。
終わることをあえて否定して話を継ぎ足し別の結論を用意する。継ぎ足すたびにほぼ全ての事件の背景、犯人が変化する。
そして最終的にあの高尚すぎる?結末まで持って行き、まさに大伽藍というような作品に仕立て上げた筆力はすさまじいと思った。

追記
下手糞な文章とか気分の悪い作品を読まされた後は、この本の最後数十ページを読みたくなります。

No.29 8点 斎藤警部
(2017/08/04 08:17登録)
“歩くとオルガンめいて鳴る階段”!!!

こりゃゆぅっくぅり味わって読みたくなるね、冒頭の猥雑シーンからしてまァ。。

亂步さんは第二章までの応募原稿を読み、そこで完結と勘違いした上で本作を絶賛したそうだが、むかし私も映画「キルビル」を観た時、二部完結の第一部と知らず、何て凄い、独特過ぎる、感動の嵐を残すバッサリした終り方なんだ。。!! と誠に感じ入ったものでした。 亂步さんもオイラと同じような事してたんだなァ。。 ってが

「犯行時、犯人がドアだったもの。」 ← 何なんですか、これ

本作、再設計の途上で気がふれた「毒チョコ」のようでもありますが。。 言われるほど奇書とも見えんが、奇想は感じましたよ。 ラストシーンの味わい深さと言ったら。。
そして、いい題名だよね。。。。。

オリジナル装丁が武満徹(世界的作曲家)というのも何だか流石の逸話力です。

第三章滑り出しのミステリ興味刷新スプラッシュ浴びせっぷりはなかなか!!

表の謎はナンだカ地味ダナ。奥に在るのかもしれない方の謎だか何だかは、思わせぶりだが。。
後半より露骨になる叙述の揺らぎ。 ”第一条”の機微に絡め取られる叙述操作の妙かよアハハ 。。。
この、後半の後半の後半を追い詰めるに連れまるで等比級数トルネードの様に抉り締め付ける叙述力の加速度見せ付けの、それも何故か何処かゆぅったりとした。。 そうです、バン、ババンバンババンバババン、と擬似銃声の音が鳴り出したものです、終結近くの或る部分に進んだその瞬間!

終章「57」の表題は、日本の某歴史的ミステリ名作に何らかのインスピレーションを与えているのかも知れません。。?

最後のほう、「人間との約束」。。 これに匹敵するもう一つのキーワード、何だっけナ忘れた。。。 その後も王冠から零れ落ちる宝石たちのように素晴らしく印象深いワード、フレーズ群をあちこちで散見しました。 じっとり汗ばみましたよ。。。。 まず満足。天晴の一作ですね。

ソウルファンとしては、アリ・オリ・ウッドソンを思い綴らずにはいない名の重要登場人物に逢えたのも嬉しい誤算。

そういや昔のHMMで「初めて読んだミステリは悪友に借りた『虚無への供物』、一晩で読破」って大学生がインタビューに応えてたのを思い出しました。色んな意味で初めてには不適の一冊と思いますが。

No.28 7点 名探偵ジャパン
(2017/03/30 22:08登録)
「三大奇書」の一角を占めているという世評が、良くも悪くもフィルターになっている気がしました。良く言えば、「奇書というほど変ではない」ですし、悪く言うなら「奇書というには普通のミステリ」
とはいえ、本書の初出が1964年であるという歴史的価値を考えれば、現在感じる「普通」は、当時の読者の目には衝撃的に映ったことも想像できます。
三大奇書という看板、仰々しいタイトル、講談社文庫で上下巻というボリューム。それらから勝手に身構えてしまい、いったいどんな話が始まるんだ? とおっかなびっくりページを捲っていったのですが、読み進めるうちにごく普通のミステリということがわかり、拍子抜けとともに安心もしてしまった私は、やっぱり「普通」のミステリファンなんだなと思い直しました。

No.27 8点 tider-tiger
(2015/09/04 00:27登録)
氷沼家につきまとう業、素人探偵たちが殺人事件の発生を予感していたら本当に氷沼家の人間が密室で死亡。連続殺人?が幕を開ける。ケレン味たっぷりで思わせぶりな始まり。だが、どこか不謹慎な探偵役の連中にどうも違和感があった。人が次々と死んでいくも連中はどこか軽い。有能とも思えない。
いくら読んでも事件解決の方向性すら見えない(探偵連中の意見がまるで一致しない)。はてさて解決手段は論理に傾くのか、あるいは怪奇趣味、耽美趣味に傾くのか、さらには衒学的でこれらは事件の解決にどう役立つのか? とにかくいろいろぶちこんで読者をヤキモキさせておいて、作者は現実世界に関心のなさそうな御仁なのに実は時事問題にも目を配っているようで社会派の顔も見え隠れする。私は混乱し、そして、解決、なんかすっきりせず。しかも罪悪感を抱かされる。 

人物造型は意外と現代的なところもあり、ライトノベルやBLの読者に受けるかも。BLもラノベもそれほど読んでおりませんが。男ばっかりの小説なのにどこか艶めかしい雰囲気がある。
特筆したいのはときおり顔を覗かせる美しい文章。
書き出しからして素晴らしい。情景が自然に、鮮やかに頭に浮かぶ。意識の流れならぬ視線の流れを順序良く丁寧に追っている。渾身の書き出しだと思う。
さらにこの書き出しが結びと対になっている(書き出しで浮かんで、結びで消える)のもまたいい。

初読時の感想↓
読者に古典ミステリの知識を求めるなど明らかに推理小説ファンに向けて書かれているわりには推理合戦や密室の作り方など、ミステリ部分がお粗末に感じられた。そこがもっとよくできていたら、とんでもない傑作だったかも。
再読時の感想↓
ミステリとしてお粗末、探偵役の連中がどうも不謹慎に感じられる、久生がウザイなどの瑕疵は瑕疵ではなく作者の計算だったのでは。

結論 ミステリを書いているとみせかけて、ミステリを破壊する。そのことにより文学的なテーマが浮かび上がる。ミステリの可能性も広がる。カラマーゾフの兄弟でドストエフスキーは神を破壊し、その後、再構築しようとした(再構築する前に作者は死んでしまった。ドストエフスキーは彼のアリョーシャになにをさせようとしていたのか……)。その試みに通ずるものを感じた。志の非常に高い作品ではあるが、ミステリとして凄いのかどうかには疑問もある。

※ミステリではありませんが、幻想博物館などの幻想短編小説もオススメです。

No.26 6点 いいちこ
(2015/06/24 17:13登録)
ペダンティズムによる重武装を解除して見るなら、本格ミステリとしての骨格は脆弱。
提示されている謎の不可解性とは裏腹に、その真相やトリックの衝撃度、謎解きの論理性は至って弱い。
アンチミステリたるラストは、現代に繋がる先鞭を付けた点も含め評価。
読了後に改めて俯瞰するなら、作品全体がラストのための壮大な伏線であったと解するべきかもしれない。
以上を総合すると、発表当時はともかく、現時点では「三大奇書」との触れ込みによる評判先行と言わざるを得ず、世評に相応しい得点を献上する訳にはいかない。
ただ本作を読破することで、ミステリ界の確かな前進を実感できた点で、逆説的ではあるが価値ある読書であった。
各作品の歴史的な価値を考慮せず、同時代的に見る立場からは、この評価

No.25 8点 E-BANKER
(2014/04/14 21:56登録)
ついに到達した1,000冊目の書評。(ここまで長かったような短かったような・・・)
この記念すべき書評作品(あくまで個人的な意味ですが)としてセレクトしたのが本作。
改めて言うまでもありませんが、夢野久作「ドグラ・マグラ」、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」と並び、日本三大奇書のひとつとされる作品。
今回は講談社文庫で刊行された新装版(上下分冊)にて読了。

~昭和二十九年の洞爺丸沈没事故で両親を喪った蒼司・紅司兄弟、従兄弟の藍司らのいる氷沼家に更なる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎もガスで絶命・・・。殺人?事故? 駆け出しの歌手・奈々村久生らの推理合戦が始まった。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など蘊蓄も満載。巧みに仕掛けた罠と見事に構成された「ワンダランド」に作者の“反推理小説”の真髄を見る究極のミステリー~

いやぁー・・・これは書評できません。
というより書評する意味がないと思うし、ましてや評点を付けるなんて××××・・・
ミステリー好きにとっては避けて通れない作品として、以前に一度手に取り「読もう」としたのだが、一頁に埋め尽くされた文字と長大な分量、そして冒頭から始まる迷路のような展開に恐れをなして、途中で放り出した経験があるのだ。

さすがに今回は放り出さなかったのだが、作者の仕掛けた迷路(ラビリンス)に嵌り込み、前の方に微かに灯された光に向かって進むだけという読書になってしまった。
そう、本作はまるで“蜃気楼”のような作品なのだ。
何度も続く推理合戦、真相究明と思いきや次の瞬間には肩透かしのように全てが否定される展開。
捕まえようと思って手を伸ばしても、決して届くことのない存在・・・という表現がピッタリだと感じた。

いつもは飛ばし読みする巻末解説も今回は割と真剣に読んだのだが、やっぱりよく分からない。
結局、作者は読者に或いは世間に、社会に何を問いたかったのか? 何を言いたかったのか?
単に、ミステリーに対するアイロニーなのか?

まぁこんなことを真剣に考えさせる作品というだけでもスゴイことなのだろう。
読み手はトリックだのロジックだのにとらわれず、ただひたすら作品世界に没入するだけ。
そして、数多くの?(疑問符)があればあるほど、作者の「ニヤリ」という表情が作品の奥から見えてくる(筈だ)。
評点は参考程度。
(今回は1冊のみの書評。1,001冊目からもマイペースで書評していきたい・・・できれば週3冊程度で・・・)

No.24 6点 sophia
(2014/04/12 22:58登録)
話の筋は至ってシンプルなのに、枝葉が異様に付いて、見た目だけ荘重になっている作品。まさに奇書。オールタイムベストとかやると必ず1,2位を争う位置にランクインしますが、こういう難解なものを通好みとする風潮があるんですかねえ。評判が評判を呼んでいる気がします。洗濯機のトリックがよく分かりませんでした。しかもあれは推理合戦の段階で否定されたような気がしますが、結局あれだったのですかね。結局誰の推理が当たっていたのだろう。あと、前触れなく作中作に突入するのはやめて頂きたい(笑)

No.23 9点 ボナンザ
(2014/04/08 01:17登録)
どうみても傑作本格なのに、それをぶちこわしにするかのような作者の演出。これをもって本書は伝説となった。
三大奇書のなかではもっとも読みやすい。

No.22 9点 アイス・コーヒー
(2013/09/12 18:54登録)
氷沼家は代々一族のものが変死するという、呪われた家系。主人公の亜利夫や久生はそこで起こるであろう、未来の殺人の調査を始めるがその甲斐もなく次々と人が死んでいく。アンチ・ミステリの代表作と言われる国内推理小説の金字塔。
「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」に並ぶ「三大奇書」の一つだが、文章は圧倒的にわかりやすく、アンチ・ミステリと言ってもそこまで推理小説を否定した小説、とは感じない。この本には論理的な推察や、冒険あふれる探究は存在せず、作中の奇妙な符号や因縁から生まれる数々の推理に焦点が置かれる。そして、謎多きままに迎えるラストは、文学的な動機と納得のいく真相だった。ただし、密室がやたら出てくる割にその解説が雑だったりわかりづらかったりする点は否めない。
この本の凄い点は、まずブラックホール的な破壊力を持つ原案だ。色彩や植物、目黒・目白不動などに密接にかかわる氷沼家の謎。さらには数々の密室トリックは、そのアイデアだけで何冊の本が書けるだろうか。そして、新本格にもつながっていく内容。虚無にささげられた薔薇である本書は、当時の推理小説界の最高傑作であったことは間違いない。

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