海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2813件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.31 5点 船から消えた男- F・W・クロフツ 2024/06/20 00:00
(ネタバレなしです) 1936年発表のフレンチシリーズ第15作の本格派推理小説です。北アイルランドのベルファストからリバプールへ向かう船から船客が行方不明になります。事件の背景に巨万の富を期待させる発明を巡っての商談が絡む可能性があるところはクロフツならではです。まあそういうビジネス系ネタがミステリーファンの関心を引くかについては微妙なところではありますけど。ロンドンの事件でないためフレンチの活動が目立たないうちにある容疑者が逮捕され、何と裁判にまでもつれ込みます。そこから終盤の大逆転劇が用意されているのですが、レッドキングさんのご講評で指摘されているように裁判で示された証拠や証言では有罪判決には不十分で、鮮やかな逆転とは感じませんでした。あと真相を知ると殺人にまで至らなくてもよかったのではという気もします。余談ですがフレンチが「マギル卿最後の旅」(1930年)で一緒に捜査したマクラング部長刑事と再会して昔を回想するのはいいのですが、第21章で犯人の名前をネタバレしてしまっているのはやり過ぎでしょう。まだ「マギル卿最後の旅」を未読の読者には本書を後回しにすることを勧めます。

No.30 4点 見えない敵- F・W・クロフツ 2022/02/11 20:07
(ネタバレなしです) 1945年発表のフレンチシリーズ第25作の本格派推理小説で、創元推理文庫版(1960年初版)では肩書が警視と表記されていますが空さんのご講評で指摘されている通り本書の時点ではまだ警視に昇進していないはずです。第二次世界大戦中の作品であることを強く感じさせるのが殺害方法で、何と爆殺です。ドイツ軍の機雷か演習用の機雷かはたまた盗まれた手榴弾か、どの凶器がどのように使われたのかを巡って推理が重ねられますがなかなか明らかにならない上に理系要素が強いので私には難解な作品です。動機と機会についても丹念に捜査されますがこちらも大苦戦で、容疑が濃くなるどころか誰もが犯人らしくなくなる非常にじりじりした展開です。細かく考え抜かれてはいますが、細か過ぎて爆殺以外がまるで記憶に残りません。現場見取り図も欲しかったです。

No.29 5点 クロイドン発12時30分- F・W・クロフツ 2019/04/16 22:14
(ネタバレなしです) 1934年発表のフレンチシリーズ第11作で、犯人の正体を最初から明かしている倒叙本格派推理小説です。倒叙本格派の創始者であるオースティン・フリーマンのスタイルに最も忠実な作品と評価されているようですが、少し違うようなところもあります。倒叙本格派と言うと犯人と名探偵の推理バトルが読みどころの1つだと思いますが、本書はフレンチの捜査描写や犯人との対決場面が意外と少ないのです。それにはちゃんと理由があり、代わりに予期せぬ展開を用意したり犯人の逮捕で終わらせず法廷場面に突入するなどプロットの工夫をしていますが本書が典型的な倒叙本格派かと言うと微妙な気もします。地味過ぎて退屈になりかねないクロフツですが、本書は主人公(犯人)の心理描写を増やすことでそこからの脱却を図っています。それでも地味な作品ではあるのですが。謎解きとは関係ありませんが過去のシリーズ作品で昇進を期待してはお預けをくらっていたフレンチは本書でついに悲願成就、警部時代の最後の事件となりました。

No.28 4点 ヴォスパー号の遭難- F・W・クロフツ 2017/10/22 13:55
(ネタバレなしです) ジュリアン・シモンズが評論集「ブラッディ・マーダー」(1992年)で「フレンチ警部物のうちでは秀作に属する」と評価した、1936年発表のフレンチシリーズ第14作の本格派推理小説です。序盤は好調です。大西洋を航行中の貨物船ジェイン・ヴォスパー号の船倉で爆発が起き、船員たちの奮闘むなしく沈没してしまう第1章はなかなか劇的です。その後海事審問が開かれ、事故ではなく何者かによる犯罪の可能性が濃厚になり保険会社が探偵を使って調査を開始しますが、その探偵が行方不明になってフレンチの登場になるまでの展開にもよどみがありません。しかしフレンチが失踪者の足どりを追跡する、文字通り「足の探偵」らしさを発揮すると物語の流れは一気にスピードダウンします。捜査が順風満帆でないところがリアリティ重視派の読者にはたまらないのでしょうけど個人的には結構辛かったです。第14章でフレンチが「つぎの三日間はこの事件にかかわって以来もっともつまらない、もっともみのりの薄い日々だった」と述懐してますが、いやいやそこに至るまでも十分じりじりさせられましたよ(笑)。フレンチが最初から「悪党ども」と呼んでいるように複数犯による事件の可能性が高いことも本格派の謎解きとしては好き嫌いが分かれそうです。

No.27 7点 スターヴェルの悲劇- F・W・クロフツ 2016/09/11 03:16
(ネタバレなしです) 1927年発表のフレンチシリーズ第3作である本書は通常の本格派で見られる、誰が犯人か、どのように殺したか、なぜ殺したのかといった解くべき謎が明確に与えられている事件ではなく一体何が起こったのかという網羅的な謎を扱っているのが特徴です。下手に書くと焦点ぼけの謎解きになりかねない難しいテーマですがクロフツの堅実過ぎるぐらいの作風にはかえってマッチしているように思えます。当時としては思い切ったどんでん返しが用意されているのも印象的で(人によってはこのミスリーディング手法は感心しないかもしれませんが)、初期代表作と評価されているのも納得の一冊でした。

No.26 5点 フレンチ警部最大の事件- F・W・クロフツ 2016/09/05 00:06
(ネタバレなしです) 1925年発表のミステリー第5作はシリーズ探偵であるフレンチ警部の初登場作であり、これ以降の作品のほとんどはフレンチ警部(後に警視まで出世します)が登場するようになります。本書は通常の犯人当て本格派推理小説とは毛色が異なっていて、謎の人物「X夫人」の追跡劇が中心のスリラー小説要素の強い作品です。しかし随所ではフレンチによる推理場面がありますので一応は本格派の体裁を保った作品と言えると思います。フレンチの捜査範囲が英国から欧州各国へと広がっていくのですが風景描写に関しては物足りなく、トラベルミステリーの雰囲気は意外と希薄でした。「最大」というタイトルもかなり誇張気味なので期待は割り引いておいた方がいいかも(笑)

No.25 5点 フレンチ警部と紫色の鎌- F・W・クロフツ 2016/08/17 13:58
(ネタバレなしです) 1929年発表のフレンチシリーズ第5作ですが本格派推理小説でなくスリラー小説に属する異色作です。映画館の切符売り子が事件に巻き込まれるのですが物語はフレンチ警部の捜査活動が中心になって描かれていることが本書の特徴であり、異色作と言っても他のシリーズ作品と共通部分も多いです。謎めいた話から驚きの進展を見せる序盤はなかなかサスペンスに富みますが、その後はいつものクロフツらしくじっくり丹念な展開になりますのでスリラー小説としてはやや中途半端な印象も受けます。最後は派手な大捕り物で締めくくられますが結局フレンチは活躍しているようで活躍していなかったような...(笑)。

No.24 6点 英仏海峡の謎- F・W・クロフツ 2016/08/12 11:24
(ネタバレなしです) 1931年発表のフレンチ警部シリーズ第7作はクロフツの特色がよく出た作品で入門編としてお勧めです。犯罪が企業利益に影響を与えるという当時としては社会派ミステリー風な要素、フレンチ警部の足を使った地道な捜査、アリバイ崩し、トラベル・ミステリー要素などが織り込まれています。同時代のクリスティーやカーに比べれば晦渋で読みにくいですが、最後にはシンプルで印象的なトリックとサスペンス溢れる捕り物劇で盛り上がります。まあこのトリックはもはや古典的に過ぎて現代の捜査なら真っ先に可能性として検証されそうなトリックではあるのですが。

No.23 5点 フレンチ油田を掘りあてる- F・W・クロフツ 2016/08/02 06:19
(ネタバレなしです) クロフツ晩年の1951年に発表されたフレンチシリーズ第28作(警視としては2作目)となる本格派推理小説です。前半はフレンチが5つの証拠をもとに容疑者を絞り込みますがそれほど強力な説得力があるわけではなくやや手詰まり感を覚えます。ここで第二の事件が起きますがこちらは倒叙スタイルで描かれているのが珍しい構成です。この事件はあまりにあっさりと解決されるのでちょっと拍子抜けですがこれによって第一の事件も解決に向かって進展していくのが上手いプロット展開だと思います。ただ空さんのご講評でも紹介されているように、このミステリーらしからぬタイトル(英語原題は「French Strikes Oil」)は「看板に偽りあり」という気もしますが。

No.22 5点 殺人者はへまをする- F・W・クロフツ 2016/07/27 16:42
(ネタバレなしです) 1943年から1945年にかけて放送されたラジオの脚本から小説化されたものをまとめて1947年に発表された、実質上の第一短編集です(「クロフツ短編集1」(1955年)よりも早く出版されています)。前半の12作は犯人の正体や犯行状況場面を最初から読者に明かしてその後でフレンチ警視の推理によって謎を解くという倒叙型ミステリー、後半の11作は最初から最後までフレンチ警視の視点で謎解きを行うスタイルをとっています。後者にしても登場人物が非常に限られているので犯人当てとしては他愛もなく、どの作品も犯人がどこで失敗したのかが謎の中心になっています。1つ1つは大変短くて読みやすいのですが長編作品以上に物語の要素がなくて推理クイズ的な作品なので、連続して一気に読むとその味気なさにだんだん嫌気がさすかもしれません。トリックに頼った作品も多く、特に「熱心な羊飼い」で使われたトリックとフレンチがつかんだ手掛かりはあまりにも古典的で有名です。また「盗まれた手榴弾」のように書かれた時代ならではの戦時色濃厚な作品が読めるのも特徴です。

No.21 5点 列車の死- F・W・クロフツ 2016/07/15 12:22
(ネタバレなしです) 1946年発表のフレンチシリーズ第26作で後期の代表作と評価されています。列車とその運行を丁寧に描写しているところは鉄道技師出身の作者ならではの個性が発揮されていてなかなか読ませますがミステリーとしてはそれほど感銘できませんでした。内容は組織対組織の色合いの強いスパイ・スリラーで、フレンチの地道な捜査も描かれているとはいえフーダニットの要素もほとんどありません。あっけにとられるほど「暴力的」解決だったのが珍しいですが、でもこれは私が期待するクロフツとは程遠かったです。

No.20 5点 フレンチ警部と毒蛇の謎- F・W・クロフツ 2016/06/29 20:41
(ネタバレなしです) 1938年発表のフレンチシリーズ第18作の本書は倒叙本格派推理小説です。但し創元推理文庫版の巻末解説でも紹介されているように主人公の役割が他の倒叙推理小説と異なるところに本書の工夫があり、殺人場面の直接描写もありません。それでも犯人の正体はみえみえなのですが、ハウダニットに関しては読者に対して最後まで謎として残るようにしています。もっともこのトリックは読者が推理で見破るのは至難の業と思いますけど(フレンチだって証拠確認のために警察力に頼っているし)。

No.19 5点 山師タラント- F・W・クロフツ 2016/06/08 18:52
(ネタバレなしです) 1941年発表のフレンチシリーズ第21作の本格派推理小説です。時代が時代だからかもしれませんが、素性の知れない薬品が簡単に市場に流通するストーリーにはそれほどリアリティーを感じられませんでした。前半は野心家の薬局店員タラントの物語ですがタラントばかりに焦点を当てているわけではなく、彼と利害関係のある人間も丁寧に描写されていて群像ドラマ風です。もっともクロフツなので性格描写という点ではそれほど成功してはいません。フレンチの登場は中盤以降で、いつもながらの地味な捜査に加え、法廷シーンがあるのがクロフツとしては珍しいです。作者は更に法廷後の場面も用意するなどプロットに多少工夫しているところがありますが、棚ぼた気味の解決に加えて謎解き説明が十分でないのが残念です。

No.18 5点 フレンチ警部と漂う死体- F・W・クロフツ 2016/06/01 11:20
(ネタバレなしです) 1937年発表のフレンチシリーズ第16作です。前半は登場人物間の関係を中心に描き、中盤でメインの事件を起こし、後半は船上での探偵活動というプロットが同年に発表されたアガサ・クリスティーの名作「ナイルに死す」と同じなのは興味深いところです。もっとも舞台背景や人物の個性といった外面的要素で比較すると地味な作風のクロフツの不利は避けられないところです。第10章「幕間」では船や船員の様子が丁寧に描写されていますが、これがちっとも面白くないのがクロフツらしいです(笑)。まあフレンチとフレンチ夫人の会話なんかではユーモアを交えたりと頑張ってはいますけど。本格派推理小説としてはうまく伏線を張っているところもありますが、論創社版の巻末解説で紹介されているように謎解き手掛かりが解決前に十分提示しきれていないのは残念です。

No.17 5点 フレンチ警部とチェインの謎- F・W・クロフツ 2016/05/29 09:57
(ネタバレなしです) 1926年発表のフレンチシリーズ第2作ですがフレンチ警部が登場するのは物語が3分の2ぐらい進んでからです。そこまでは事件に巻き込まれたチェインを主役にした冒険スリラーで、チェインが何度も危機を迎える展開は読み応えたっぷりです。チェインが麻酔剤を飲まされるトリックが図解入りで説明されていますが、これは犯人の解説で判明していて推理要素は皆無です。フレンチが登場して主役交代となり、犯人追跡や暗号解読などが加わりますが典型的な棚ぼた式の解決で、本書のフレンチは名探偵の役割を果たしたとは言えません。

No.16 6点 サウサンプトンの殺人- F・W・クロフツ 2016/05/20 13:00
(ネタバレなしです) 1934年発表のフレンチシリーズ第12作で、前作「クロイドン発12時30分」(1934年)と同じく犯人の正体をあらかじめ読者に提示している倒叙推理小説です。セメント製造会社の面々がライヴァル会社のセメント製法を探ろうと画策する企業小説であり犯罪小説であり、そこにフレンチ側から描いた捜査小説を絡めています。後半になると新たな事件が発生しますが今度は倒叙形式でなく犯人当て要素を含んでいて、全体としては倒叙&本格派のプロットになっているという、構成に工夫を凝らした作品です。理系トリックが使われているところが私にはやや難解に過ぎましたが、これもクロフツならではの特色と言えるでしょう。

No.15 5点 海の秘密- F・W・クロフツ 2016/05/16 03:14
(ネタバレなしです) 1928年発表のフレンチシリーズ第4作です。英語原題も「The Sea Mystery」ですがその割に海の場面が非常に少ないのは期待はずれと思う読者もいるでしょう。とはいえ釣りをしていた親子が死体が詰められた箱を発見し、ほとんど手掛かりらしい手掛かりのない死体からフレンチが被害者の身元に迫っていく前半の展開は「足の探偵」の本領を十全に発揮したものです。一方後半はフーダニット型の本格派推理小説となりますがこちらはやや平凡な出来で、ミステリーを読み慣れた読者には犯人当てとしては容易過ぎると感じるかもしれません。

No.14 5点 ポンスン事件- F・W・クロフツ 2016/05/10 18:49
(ネタバレなしです) 1921年発表の第2長編のアリバイ崩し本格派推理小説です。プロの捜査官であるタナー警部の捜査に対抗させるかのようにアマチュア探偵を登場させているのがいい意味でのアクセントになっています。それでも物語のテンポはゆっくりですが、終盤の追跡劇はなかなかスピーディーでサスペンスに富んでいます(ある意味クロフツらしくない)。デビュー作の「樽」(1920年)にはない工夫を色々織り込んだ意欲作だと思いますが、問題は真相でしょう。堅実な作風のクロフツですが本書では実に大胆なことをやっています。しかしマニア読者なら評価するかもしれませんが、一般的な読者はどちらかといえばお粗末と感じてしまうかもしれません。

No.13 5点 製材所の秘密- F・W・クロフツ 2016/04/25 02:32
(ネタバレなしです) 1959年に「サンデー・タイムズ紙」がベストミステリ99を選んだ時にクロフツの作品から選ばれたのが1922年発表の冒険スリラー小説である本書だったそうです。クロフツは1957年に死去しているので全作品が選考対象だったはずですが、なぜ本書がベスト作品として選ばれたのか不思議ですね。多分イギリスでは冒険スリラーの人気が日本人が想像している以上に高いのでしょう。前半はアマチュア探偵のシーモア、後半はプロの捜査官であるウィリス警部が活躍するのですが、それにしても悪役たちのひそひそ話を盗み聞きする場面の多いこと!多少の都合よい展開には目をつぶりますけど、こうも易々と情報筒抜けを許してしまうとは犯人たち、あまりにも杜撰(笑)。

No.12 8点 死の鉄路- F・W・クロフツ 2015/09/06 00:41
(ネタバレなしです) 1932年発表のフレンチシリーズ第9作の本格派推理小説です。「少年探偵ロビンの冒険」(1947年)の中で本書のことをとりあげていることから作者としても結構自信作ではなかったかと思いますが、私にとっても1番お気に入りのクロフツ作品です。別に凄いトリックが用意されているわけではありませんが、鉄道ミステリーの雰囲気が濃厚で、地道なアリバイ捜査と最後の劇的な展開の対比が鮮やかです。本筋とは関係ありませんが薄暗がりの中、遠方から近づく列車を描いた創元推理文庫版(初版)のジャケットが大変素晴らしいです。

キーワードから探す
nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2813件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)