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[ 本格/新本格 ]
片桐大三郎とXYZの悲劇
倉知淳 出版月: 2015年09月 平均: 6.60点 書評数: 10件

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文藝春秋
2015年09月

文藝春秋
2018年08月

No.10 6点 パメル 2021/10/09 08:22
元銀幕の大スター・片桐大三郎の趣味は、犯罪捜査に首を突っ込むこと。その卓越した推理力と遠慮を知らない行動力、濃すぎる大きな顔面で事件の核心にぐいぐい迫る。聴力を失った大三郎の耳代わりを務めるのは若き付き人・野々瀬乃枝。この絶妙なコンビが大活躍する最高にコミカルで捧腹絶倒のミステリー!
タイトルからも分かるように作者がドルリー・レーン悲劇の四部作をオマージュにした4編からなる連作短編集。
本家の設定を上手く利用しているため、本家を読んでいた方がより楽しめると思います。
「冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意」本家では「Xの悲劇」に該当。本家と同じシチュエーションや狂気を用いているのが心憎い。だが、犯行の実効性は低いと思うし、推理も説得力がない。
「春の章 極めて陽気で呑気な狂気」本家では「Yの悲劇」に該当。なぜこれを凶器にしたのかのホワイダニットが魅力的。ただ、真相は肩透かし。
「夏の章 途切れ途切れの誘拐」本家では「Zの悲劇」に該当。ホワイダニット、ハウダニット共に楽しめる。見事な反転が決まる誘拐事件の真相にも驚かされる。
「秋の章 片桐大三郎最後の季節」本家では「レーン最後の事件」に該当。本家を読んでいれば、犯人はあの人しか考えられない。それを逆手に取った仕掛けには、してやられた。

No.9 7点 E-BANKER 2021/01/28 22:38
~聴覚を失ったことをきっかけに引退した時代劇の大スター・片桐大三郎。古希を過ぎても聴力以外は元気極まりない大三郎は、その知名度を利用して探偵趣味に邁進する。後に続くのは彼の「耳」を務める野々瀬乃枝~
ということで、かのE.クイーンの有名シリーズを翻案(?)した連作短編集。
2015年の発表。

①「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」=山手線の満員電車で起こる殺人事件。凶器はニコチン毒・・・。犯人は犯行現場を山手線内に見せかける価値があると考えたとあるけど、わざわざ顔を晒して、凶器も捨てて・・・などというリスクの方がどう考えても大きそうだが?
②「極めて陽気で呑気な凶器」=車椅子の老画家殺し。現場近くにあった数多くの“凶器候補”の中から選ばれたのは、なぜか「ウクレレ」・・・。なぜウクレレ?というのが大きな謎となるわけだが、本作はオマージュ作品とは異なり、大五郎の逆説的な解法が決まる。ただ、このロジックは一直線に首肯し難い気がする。
③「途切れ途切れの誘拐」=まさか序盤のあの光景が伏線になっていたとは・・・。そこはいいんだけど、まさか凶器がアレとは・・・(もちろんウクレレではありません)。
④「片桐大三郎最後の季節」=これが一番ヤラレタ。冒頭~終盤まで、亡き巨匠の遺作シナリオ盗難事件に纏わるヌルい展開が続くのだが、ラストはまさかの真相! そうか、これが最終的にやりたかったのね。

以上4編。
E.クイーンのドルリー・レーン四部作のオマージュは言うまでもない。
全体的にはロジック重視の好短編集という評価で良さそう。
もちろん、「ロジックのためのロジック」というようなものもあるけど、そんなことを今さら持ち出したってねぇ・・・
従来の「猫丸先輩」シリーズに負けず劣らずの主人公キャラだし、さすがに短編は手馴れている。
是非シリーズ化or続編に期待したいところ。

(ベストは③か④で迷うところだが、「騙し」がラストに見事決まった④に軍配かな。①②もまずまずの水準。)

No.8 7点 sophia 2020/06/29 17:16
●ぎゅうぎゅう詰めの殺意 6点
●極めて陽気で呑気な凶器 6点
●途切れ途切れの誘拐 8点
●片桐大三郎最後の季節 7点

素晴らしいのは「途切れ途切れの誘拐」ですが、「Zの悲劇」ってこんなのでしたっけ?XやYに対してZは正直言ってあんまり覚えてないんですよね。最初の話の通勤経路の説明でZという言葉が使われるのがまた紛らわしいですし(笑)最終話で急に主観描写になったと思ったら、やはり仕掛けてきました。「最後の事件」のロジックを逆手に取っています。なお、この作品は短編集というか中編集ですが、どの話も内容に比して冗長です。もう少し短くまとめられたのではないかと思います。

No.7 6点 いいちこ 2018/12/07 20:14
各短編によって出来・不出来の差はあるものの、推理の説得力の欠如・アンフェア、犯行のフィージビリティの低さ、捜査の不合理性等、全体として明らかに穴が多い。
プロットの面白さを評価し、それと相殺してこの評価

No.6 7点 名探偵ジャパン 2017/03/05 22:09
ドルリー・レーンオマージュの片桐大三郎。本家同様、耳が聞こえないというハンデを、こちらは会話の内容を助手がタイプし、その文面が大三郎の持ち歩くタブレットに表示されるというテクノロジーでカバー。現代ならではの設定で面白いです。
明らかに三船敏郎がモデルの大三郎。運転手付きの(耳が聞こえないので当たり前ですが)高級外車に乗り、満員電車に乗った経験などない浮世離れした国民的大スター。引退後の道楽で始めた素人探偵ですが、卑劣な犯罪者を一喝し、残された遺族に温かい励ましの言葉をかけるなど、人情派な一面も見せ、気持ちの良いキャラクターに造形されています。

三章までは今流行りの一視点三人称の文体なのですが、最終章になって突然完全な一人称に変わります。「これは何かある」と怪しい匂いを感じはしたのですが、見事に騙されました。

No.5 7点 青い車 2017/02/10 16:17
 エラリー・クイーンの設定を模倣した法月綸太郎があるのに、ドルリー・レーンのオマージュはこれまでありそうでありませんでした。いい着想です。けっこうヴォリュームがありますが読みやすく、4作どれも倉知淳らしい意外な方向からの論理展開での解決が楽しめます。中でも最終話は、ダミー推理でも手を抜かず、さらには元ネタからの思い込みを利用したトリッキーなオチがよく出来ていて集大成といっていいでしょう。評価をやや落としたのは、第三話の幕切れは全体的にライトなタッチのこの本で明らかに浮いているように思える点です。

No.4 7点 蟷螂の斧 2016/02/24 21:06
帯より~『聴覚を失ったことをきっかけに引退した時代劇の大スター、片桐大三郎。古希を過ぎても聴力以外は元気極まりない大三郎は、その知名度を利用して、探偵趣味に邁進する。あとに続くのは彼の「耳」を務める野々瀬乃枝。今日も文句を言いつつ、スターじいさんのあとを追う!』~

冬の章・ぎゅうぎゅう詰めの殺意(Xの悲劇に対応)・・・大三郎の推理は、かなり説得力に欠けますね(苦笑)。評価5点。
春の章・極めて陽気で呑気な凶器(Yの悲劇に対応)・・・思い込みや前提を崩してゆく推理方法は気に入りました。評価7点。
夏の章・途切れ途切れの誘拐(Zの悲劇との直接的な関連性は見つかりません。~よって、かなりこじつけの推理をしてみました~本作では副題のとおり3回電話が途切れてしまいます。その要因は名前に関するものでした。Zの悲劇では箱が3つ存在し、それぞれに「HE」「JA」「Z」とあり、これはある名前が途切れたものです。著者がいつかどこかでネタバレをしてくれることを期待して。)・・・内容は強烈な反転とパンチがありました。かなりブラックな味わいです。評価8点。
秋の章・片桐大三郎最後の季節(レーン最後の事件)・・・著者はこれがやりたっかたのですね(笑)。すっかり騙されました。評価9点。
パロディとして、クイーン氏の論理的推理の逆?(特に冬の章など)をあえて描いたのかもしれません。

No.3 7点 HORNET 2016/02/20 22:03
 読みやすさ、ユーモラスな作調、一方で内容としてはしっかりロジカル。幅広い層に受け入れられそうな快作。
 引退した聴覚障害の俳優が探偵役と、クイーンのドルリイ・レーンに重ねた設定になっているが、その探偵役の大スター・片桐大三郎のキャラクターはレーンとはまったく対照的で(表紙からも察せられるとおり)、味があってよい。倉知淳らしい。その表紙や登場シーンのイメージから、実力もなく、偶然やあてずっぽうで事件がうまく解決する、というパターンかと思ったら、いやはや推理に関しては純粋に天才的だった
(笑)。
 クイーンの悲劇四部作を知っている読者なら、思わずニヤニヤしてしまう設定や場面が満載だが、主となる謎自体は(あたりまえのことだが)別仕掛けで施してあり、上手につくってあるなあと思う。ただ、kanamoriさんがおっしゃっているように、私も「夏の章」と「Z」との関連はぴんと来なかった。ただ、作品としてはこの「夏の章」と、最後の「秋の章」が「やられた」感が強かった。特に最後の「秋の章」は、犯人と手口もすぐわかったのに、最終的に騙された…。
 

No.2 6点 虫暮部 2016/01/28 12:31
 ネタがXYZと来れば最終話をどうするかが一番の問題だが、本書はそれを見事にクリア。しかも、そういうミステリ・ファンの意地悪な期待感を巧みに利用しての着地。予備知識があるゆえに引っ掛かるヒネリを繰り出す作者のほうが一枚上手。拍手。

No.1 6点 kanamori 2016/01/19 18:16
聴力を失ったことで引退した元時代劇俳優の大御所・片桐大三郎は、タブレット端末を使って”耳”の役割を務める新人事務員の”のの子”を従え、今日も趣味の探偵捜査に乗り出す-------。

ドルリイ・レーン悲劇四部作をモチーフにした連作本格ミステリ。
通勤ラッシュの山手線車両内でニコチンによる毒殺事件が起きる第1話、マンドリンならぬ、ウクレレで撲殺された画家の事件の第2話。いずれも真相にいたる片桐の推理のロジックには、やや説得力に欠け、納得がいかないところがありますが、クイーンの「X」「Y」の趣向をなぞった設定が愉しい連作です。また、探偵役である片桐をはじめ芸能事務所の面々のキャラクター作りに注力している点も好感が持てます。
幼児の誘拐を扱った第3話は、構図の逆転や意外すぎる凶器にインパクトがあるものの、かなり後味が悪いのが好みの分かれるところですね。「Z」との関連性もよくわからず、これだけ浮いている感じがします。
連作の最後を締めくくる”最後の季節”を読むと、なるほど作者がやりたかったのはコレか、というのがよく分かります。ただ、レーン四部作を下敷きにすることに加え、各話を冬春夏秋の四季モノ連作にすることで、第4話におけるミスディレクションの強化を図っているのですが、そのことが同じ原理のトリックを使った東川篤哉氏の某連作を連想させるために、逆に仕掛けの部分に気付く読者がいるのでは、と思わなくもありません。


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