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[ クライム/倒叙 ]
邪魔
奥田英朗 出版月: 2001年04月 平均: 7.18点 書評数: 17件

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講談社
2001年04月

講談社
2004年03月

講談社
2004年03月

No.17 7点 猫サーカス 2023/12/08 18:14
高校生の渡辺裕輔、主婦の及川恭子、刑事の九野薫の三人が主人公。高校生は親父狩りがきっかけで暴力団に目を付けられ、足を洗いたくても身動きが取れなくなっている。主婦は夫が火事で火傷を負ってから、今の生活が不確かなものに思え、スーパーで働くものの、周囲とうまく溶け込めないでいる。刑事は、同僚刑事の身辺調査に駆り出され、意に沿わない捜査を強いられている。未来を失った彼らのヒリヒリする日々を、これでもかと追い詰め圧倒的な迫力で迫ってくる。高校生の渡辺が、なぜそんな無軌道なことをしているのか。主婦の及川が、スーパーの労働条件の改善に取り組む運動に最初は距離を置きながら徐々に接近していくのはなぜか。刑事の九野が同僚との間に確執が生じるのはなぜか。そういう一つずつのドラマを、それぞれの性格設定を掘り下げることで、緊密に描いている。作者がこの緊迫感あふれるサスペンスで語りかけてくるのは、私たちの生活は不変なものではなく、いつでも変わり得る、ほんの小さなことをきっかけにして、思いもかけない窮地に立たされることがあるということだ。日常生活のその落とし穴と、そういう局面に立たされた時の人間の強さ弱さを、鮮やかな筆致で描いている。

No.16 5点 パメル 2021/05/17 20:00
十七歳の高校生と三十四歳の主婦、そして三十六歳の刑事、この三人の人生の歯車が少しずつズレていく過程を緊密に描いている。
三十四歳の主婦、及川恭子が火傷して入院した夫のもとに駆けつける時、タクシーの窓から小さくなる自分の家を見て、この家はどうなるのだろうと不安に駆られるシーンが冒頭近くに出てくる。その言いようのない不安から、ラスト近くの「悪夢が来たけりゃ来ればいい。どうせ現実以上の悪夢などあるわけがないのだ。」という地点にまでズレていく過程をディテール豊かに、リアルにそして丁寧に積み重ねているので、及川恭子の変貌が鮮やかに立ち上がってくる。
主要な登場人物の人生の歯車がズレていくかたちを描くという点では、前作の「最悪」と同様の構成だが、主婦の挿話を中心軸に置くことで、小説の凄味が増している。派手な事件が何一つ起きなくても、私たちの日常生活の中に潜んでいる謎と不安を掘り下げることで、ミステリに成りうることを実証している。

No.15 4点 レッドキング 2019/07/11 17:00
「奪取」のこと書いてて、主婦が自転車を懸命にこいで行くこの作品のラストを思い出した。後味が良くなくミステリの要素は薄いけれど面白かったんで2点ほどオマケ付けちゃう。

No.14 8点 HORNET 2017/10/16 21:23
 「無理」「最悪」と並ぶ3作の中では一番ミステリっぽいかな。作品としても個人的にはいちばんよかった。
 複数の人物の物語がそれぞれ描かれる中で、次第に一つに重なっていくという手法は他の2作と同じ。ただ今回は、放火という一つの事件を巡って容疑者家族、刑事、裏で暗躍するヤクザとかかわってしまった不良、という組合せなので、偶然ではなく必然的なもの。だから余計にミステリらしく感じたのかな。
 後半は、刑事・九野と、放火容疑者の妻・及川恭子との物語が主になるが、特に、普通の主婦であった恭子の凋落ぶり、追い詰められて狂気に走っていく様の描き方は秀逸。目の前の困難から目を背けたいがゆえに市民団体の活動に没頭していくところなど、よく考えて仕組んであるなあと感心してしまう。
 相変わらずの含みを残した終わり方だが、今回は素直にそれを受け入れられた。

No.13 7点 いいちこ 2016/09/08 14:33
1つの事件を巡って、3人の登場人物がすれ違いつつ、最後に1点に収束するプロットは「最悪」と同様。
本作では主婦の人物造形が群を抜いてよい反面、少年が弱く、「最悪」ほどの効果を挙げているとは言い難い。
ただ、エンタテインメントとしてはやはり一定の水準に達しており、一読の価値のある佳作

No.12 7点 E-BANKER 2016/01/19 22:25
2001年発表。
「最悪」「邪魔」「無理」と続く、作者初期の代表的シリーズ(特にシリーズ名はないが・・・)の二作目。

~及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供二人と東京郊外の建売住宅に住む。スーパーのパート歴一年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がっていく・・・。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織り込んだ傑作!~

やっぱ達者だわ! 奥田英朗は!
もう読み出したら止まらない。他にも佳作の多い作者だけど、この三部作は特にリーダビリティが半端ない。
平凡な主婦の及川恭子、最愛の妻に先立たれた刑事の九野薫、本当は臆病な不良少年の渡辺裕輔。
最初は主役級の三人の人となりが順番に語られ、静かな幕開け。
やがて三人の運命がまるで何かに導かれるようにクロスしていく刹那。
その瞬間から、まるでジェットコースターのように奈落の底へ向けて落ちていく三人・・・
読者もハラハラしっぱなしだ!

特に酷いのが及川恭子。
小市民の典型のような生活をしていたはずの主婦のはずが、ほんのちょっとした弾みで落ちていく姿を見せ付けられる。
特にラストが何とも救いがない!
あれだけ心の拠り所だった最愛の子供からも離れなくてはならなくなる・・・ああ救いがない!
その後の物語は何も語られてないのだけど、どうなったのか是非とも知りたくなった。
(残された子供も本当に心配だ! って完全に物語の世界に入り込んでるな)

まぁ正直なところ、「最悪」「無理」と同じようなプロットじゃないか!とも思ったのだが、それはそれで十分に楽しめる作品に仕上がっている。
時間のあるときに一気読みして、とにかくハラハラドキドキさせられることをお勧めします。
(人間の心ってなんて勝手なんだろう・・・って思っちゃうよね・・・)

No.11 6点 take5 2013/11/05 21:27
好みの問題で、『最悪』よりも、中盤まで人物たちがよく書けていたので期待したのですが、義母のくだりやチャリ逃走が見え見えで安っぽくなってしまったというのが感想です。リーダビリティーは高いです。

No.10 8点 Q-1 2012/12/26 06:29
大まかな展開は最悪に準ずるところがあります。
しかし最悪同様に読みを進めるのを止めることができませんでした。
最初の掴みが上手いので、すんなりと物語に入っていけるのが一因だと感じます。
ラストもいい塩梅で読者の想像に任せてる印象を受けました。
謎解き要素は殆ど無いですが、いい作品でした。

想像に任せられましたが恭子を絡ませた続編が見たいです。

No.9 6点 いけお 2012/07/14 09:36
ミステリ的でなくても良いので、提示される謎があればさらに良かったかも。
各人物同士に、最後は直接繋がったオチがあると思ったので意外だった。

No.8 7点 あびびび 2010/05/23 18:53
この作家の小説は外れがない…とつくづく思う。
何気ない日常の中で少しの油断から発展する犯罪。

最後は松山のホステス殺しの福田和子が自転車に乗って
逃げるシーンが思い浮かんだ。

必死で自転車を漕ぐその女性の息づかいと心臓の鼓動が聞こえてきそうだ。

No.7 6点 ある 2010/01/07 01:47
幸せな主婦の日常がドミノ倒しのように崩れていく怖さ。
やや長くもあるのですが,「1000万,出しな!」の辺りから一気に読ませられました。

ただ,読後感があまり良くなかったので6点とさせていただきました。

No.6 10点 りんちゃみ先輩 2009/09/29 14:17
「最悪」に引きつづき、10点。一気に読ませる筆力はすばらしい。この2作品に次ぐ傑作を待ち望んでいます。

No.5 9点 itokin 2008/04/15 11:20
登場人物それぞれの生活感のある表現の仕方は素直に物語に入り込むことが出来好きです。ラストにもう少し救いとか感動があればと思った。

No.4 7点 シーマスター 2007/12/04 23:58
妻を亡くした刑事、普通の家庭の主婦、不良高校生・・・・三者それぞれの物語が刑事を中心に付きつ離れつしながら現実に翻弄される様を、彼らの体温が感じられるような生々しい筆致で描いたリアルフルなサスペンスであり、入れ込めやすい作品だと思う。
中でも平凡な主婦が運命の悪戯により少しずつ日常のレールを外れ、変貌していく様相は圧巻といえるだろう。

ラストは・・・全く未来がないような、そうでもないような不思議な余韻を残す。

No.3 8点 dei 2007/11/16 21:53
はっきりいって怖かった…
心臓にわるい

No.2 9点 jaws 2007/10/11 01:27
最後に残るやりきれなさが素晴らしすぎる。
破滅に向かっていく者たちの感情が文章で、これでもかとばかりにぶつけられてくる。
こちらが『最悪』とつけられるべきだったのではという感すら。

No.1 8点 akkta2007 2007/10/10 20:12
何気ない事件の始まりから物語が進む作品であった。
まったく環境の違う主婦、警察官、高校生などが少しずつ、また複雑に絡まっていき、読み出すと本当に面白い作品であった。最後まで一気に読んでしまった。
登場人物の心理面の書き方が非常に良い作品だと感じた。


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