皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ その他 ] 沈黙の町で |
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奥田英朗 | 出版月: 2013年02月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
朝日新聞出版 2013年02月 |
朝日新聞出版 2016年01月 |
No.2 | 7点 | E-BANKER | 2025/01/13 14:07 |
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皆さま、かなり遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。昨年は元旦から激動のスタートでしたが、今年は平和でのんびりした正月だったのでは?(私はいろいろありましたが・・・)
さて、毎年新年一発目に何を読もうかと思案するのですが、今年は本作となりました(本当は別の作品を予定していたのですが、理由あってこうなってしまった) とにかく、まあ、単行本は2013年の発表です。 ~北関東のある県で、中学2年生の男子生徒が部室の屋上から転落し、死亡した。事故か? 自殺か? それとも・・・。やがて、その男子生徒が同級生からいじめを受けていたことが明らかになる。小さな町で起きたひとりの中学生の死をめぐり、町に広がる波紋を描く。被害者や加害者とされた子の家族、学校、警察など、さまざまな視点から描き出される群像小説で、地方都市の精神風土に迫る~ 新年早々、本当に重い話である。 本作の視点人物として登場する、いじめ・死亡事件の被害者、加害者の中学生、それぞれの親たち(特に母親)、校長をはじめとする教師たち、捜査を行う警察、事件を洗う検察官、そして取材する新聞記者・・・ 多くの関係者がひとつの死亡事件により、さまざまな想いを抱き、悶々とし、そして行動する。 作者はまるでそういう実在の事件を見てきたかのように、神の視点ですべてを俯瞰する。 そう、まるでドキュメントのようなリアリティ、雰囲気さえ醸し出している。ただ、決してドキュメントではない(当たり前だが)。 それぞれの人物の心の中まで深く炙り出しているのだから・・・ 本作では、中学生という時期の子供たちの特性についてもいろいろと考察している。 確かに。そういう時期かもしれない。加害者として描かれる中学生も、本来は明るく利発で、正義感の強い子だった。ただ、被害者の「空気を読まない」言動や周囲の雰囲気に吞まれ、やがて流されていく。 いやいや、全くミステリーの書評ではなくなっている… あと、「母親と父親の違い」も浮き彫りになる。子を持つ父親の方は心して読んだほうがよい。ただひたすら、子供に盲目的な愛情を注ぐ母親と、どこか一歩引いてみている父親・・・。当然、夫婦間で諍いが生じます。「盲目的」ということに、作者がどのように見ているかということが気になるところではありますが・・・ そして、どうしても気になるラスト。ラストのラストでついに真相が露わになる。で、これからどうなるのか? 気になるではないか 不幸のどん底のように思っている母親たち、現実に打ちのめされる加害者たち。彼らはこれからどうなっていくのか? バッドエンドもグッドエンドも用意されず、後は読者の匙加減でお楽しみください・・・ということ? とにかく、「人間の業」というものを考えさせられる時間だったなあー 毎年のように起こるいじめを引き金とする悲しい事件。そこには様々な関係者の悲痛な思いまでもが渦巻いている。フィクションを超えた、作者のリーダビリティの高さを十二分に味わうことのできる作品。 (でも重~い気持ちになるよ) |
No.1 | 7点 | HORNET | 2017/11/14 23:00 |
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一応(かなり)、ミステリらしさのある作品ですよ、これは。
ある中学校である日の晩、「息子が家に帰って来ない」という保護者の連絡を受け、校内を見回ったところ部室棟横の側溝で頭から血を流して死んでいる生徒を発見した。部室棟は2階建て、自殺であるとは考えにくい。調べていくうちに、部室棟の屋根に上ること、そして横の銀杏の木に飛び移る「度胸試し」が運動部員たちの間で常態化していたことがわかってくる。さらに、死んだ生徒はテニス部の生徒で、どうやらいじめに逢っていたらしい―。 これは事故なのか、それとも事件なのか?先手を取ろうと動き出す警察、真相の解明を求める被害者の母親、戦々恐々としながらも「我が子だけは違う」と信じたいいじめ加害者生徒の親、両者の板挟みになって対応に苦慮する学校―。 2013年の作品だが、ここ十数年来変わらず問題となっているいじめを題材とし、各立場の思惑を描き出す手腕はさすが。問題は「いじめによる」死なのか、それとも事故なのか、真相をはっきりと描かずに話を進めていくので、ミステリ的にも面白い(推理できる類ではないが)。 ただ、その真相が描かれたところで物語は終わり、真相を受けてどうなったのかは読者の想像に委ねられる。上記の各立場(警察、被害者遺族、いじめ加害者の親、学校)がどうなったのか、描き切ってほしかった読者は消化不良のように感じるかもしれないが、これが奥田英朗氏のいつもの手法。 |