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無理
奥田英朗 出版月: 2009年09月 平均: 6.14点 書評数: 7件

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文藝春秋
2009年09月

文藝春秋
2012年06月

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2012年06月

No.7 5点 パメル 2022/01/29 08:28
「最悪」「邪魔」などと同じく、登場人物が徐々に追い詰められ、彼らの日常が崩壊していく様子を描いている。
ストーリーは、複数の登場人物の視点を切り替えながら進行する群像劇の構造をとる。社会福祉事務所に勤務し、要注意人物の対応を行う相原友則、東京で女子大生になるため、塾通いをする高校生の久保史恵、詐欺まがいの戸別訪問セールスを行う元暴走族の加藤裕也、新興宗教にすがるスーパーの私服保安員の堀部妙子、ゆめの市議会員で市民団体の突き上げにあっている山本順一。この五人をメインに、荒涼とした地方都市とそこに住む人々のリアルな姿が描かれている。
絶妙な筆捌きで、それぞれの人間模様を活写すると同時に、格差社会が広がりを見せる日本の現状を浮き彫りにしていく。就職率の低下、犯罪発生率の上昇、外国人労働者の流入、既有コミュニティの崩壊。経済的な格差が、日本が陥っている負のスパイラルの原因であることは明らかだが、状況がさらに悪化し、日本という国の底が抜けた時、どのようなことが起きるのか。エンターテインメントの形をとりながらも、日本の行く末をシュミレーションしているかのようだ。あるアクシデントにより登場人物同士が束ねられる結末まで、類まれなる話法と技法で引き込まれる。

No.6 5点 いいちこ 2019/10/19 11:34
格差社会の実態を迫真のリアリティをもって描き切った、綿密な取材と高い筆力は手放しで評価する。
一方、本作の着地、ラストシーンには落胆した。
散々、発散してきたストーリーを収束させきれず、処置に困って投げ出したというだけにとどまらず、1個の作品全体として何の意味も残さないのである。
「負け組」にカテゴライズされる人々、「いまはそうではないものの、いつしか自分も負け組になるかもしれない」という不安を抱えている多くの人々が本作を読んでいる。
著者はこんな絶望的な、何の救いもない未来を描くことで、こうした人々に何を伝えたいのだろうか。
それがまるで見えてこない。
「よく書けてますね。So What?」という評価にならざるを得ない

No.5 8点 HORNET 2017/10/08 08:23
 氏の作品を初めて読んだ。描き方が上手いなぁ。550ページほどの話だが、一気読みしてしまった。お気に入り作家になりそうな勢い。

 市町村合併により3市が一つになった「ゆめの市」。とりたてて売りもない、自家用車がなければどこへも行けないほどの田舎町。学を積んだ若者は都会へ出ていき、学歴のない若者は渋々地元に就職し、日々を凌いでいる。大型チェーン店の進出により昔ながらの個人商店は軒並み潰れ、商店街はほとんどシャッターが下りている。時代の変化に対応することができず、どんどん錆びれていく町で、どうすることもできずにただ毎日の生活に汲々とする人々の姿を描く。

 田舎町で何とか名を成し、成功したい半グレ者。生活保護受給者の相手をしながら、醜い市民と町の姿に嫌気が差している公務員。東京の大学へ進学し、町を出たいと夢見る女子高生。新興宗教を心の拠り所にし、日々口に糊する生活を送る中高年女性。それぞれの人生が、それぞれに展開されていくが、狭い田舎町の中で、少しずつそれらが交錯していく。

 とても面白く読ませてもらったが、ラストのまとめ方はちょっと雑で、尻切れトンボの感があった。でも、過程の展開が十分に面白かったので、それなりに満足した。

No.4 7点 E-BANKER 2015/02/19 23:18
2009年発表の長編作品。
「最悪」「邪魔」の続編的位置付けで、今回は五人の男女がまるでジェットコースターのように、世間という名の荒波に翻弄されるノンストップ・サスペンス(?)

~合併で生まれた地方都市「ゆめの市」で、鬱屈を抱えながら暮らす五人の男女。人間不信の地方公務員、東京に憧れる女子高生、暴走族あがりのセールスマン、新興宗教にすがる中年女性、もっと大きな仕事がしたい市会議員・・・。縁もゆかりもなかった五人の人生がひょんなことから交錯し、思いもよらない事態を引き起こす~

相変わらずというか、どの作品を読んでも達者だよなぁ・・・と思わされる。
人間の本性というかエゴイズムを“これでもかっ!”というくらい描ききっている本作。
(ラストシーンですべてがいきなり集束される大技がスゴイ!)
地方公務員も女子高生も族あがりのセールスマンも中年女性も市会議員も・・・どこにでもいるような小市民なのだ。
それが、ほんの少しの悪意や嫉妬や保身、油断を抱いた刹那、抗うことのできない大きな濁流に呑み込まれていく。
その転落ぶりが悲しすぎて、読みながら「正視に耐えない」というか、作者への恐ろしさすら感じてしまった。

「ゆめの市」という舞台設定がまた秀逸。
三つの町が合併してできた人口12万人で、恐らく北関東にある架空の小都市。
誰もが田舎の閉塞感や近すぎる人間関係を嫌い、大都会(東京)に憧れを抱く。
でも考えてみれば、それがこの町の良さだったのだ・・・
郊外の国道沿いにできた大型SCは中心部の活気をすべて奪い、町の工場で雇われた外国人労働者は秩序を壊していく。
独居老人や定職につけない若者はどんどん増えていく・・・
人も町も少しずつ少しずつ壊れていく様が容赦なく描写されているのだ。

何だか読んでて怖くなってきた。
確かにそうなんだよなぁって思う。日本という国は毎日ほんのちょっとずつ、でも確実に転落しているに違いない。
「揺るぎない価値観」-それこそが唯一の防御策だろう。
でも難しいんだよなぁ・・・人間の本性なんて他人への妬みや自分の保身だらけだからなぁー
まっ、自分の「本分」って奴を知るしかないかな。
(あまり参考にならない書評でスミマセン)

No.3 7点 ナノ 2013/07/14 23:16
5つもの視点を織り交ぜながらも、読解力が高いとはいえない自分が混乱しなかったのは作者の能力の高さによるところが大きいでしょう。
そして最後の収束は見事。
しかし登場人物たちの行方が放置となっているのは残念です、エピローグで後日談くらいあってもいいかなと。
よく「読者に思考の余地を残す」目的で曖昧な結末などを取り入れた作品がありますが、正直自分は嫌いです。

No.2 4点 いけお 2012/07/20 04:23
ラストでどう繋がるか、各人物の結末はどうなるかで読んでいたのに残念。

No.1 7点 シーマスター 2012/06/22 22:39
『最悪』『邪魔』以来の作者の「漢字二文字シリーズ」(と私が勝手に言っているだけ)の第三弾。

読み始めてまもなく「やはりコレも三交代物語か」と思わせられるが・・・・・

読み止まらなさは相変わらずで、三年前の作品なのに例えば生活保護受給に関するエピソードなどは、つい先月書かれたのではないかと思えるほどの現実感に溢れている。
東野圭吾などの作品でも感じることがあるが、本当に凄い作家は後に読むと「予言書か?」と驚くようなストーリーを書くことがあるように思う。やはり社会を見通す眼力という点でも卓越した才覚を持ち合わせているのだろう。

しかし本作のラストは如何なものだろうか。前二作も(あまりよくは覚えていないが)「これだけグイグイ読ませて最後はソレかよ」と感じた気がするが、今回は複数の話の纏め方があまりにも安易というか、「え~い、面倒だ。これで全部おしまいっ」と片づけられてしまった印象すら受けてしまった。
まぁこの人は結末がどうのとか、オチがどうのとかいう話を書く作家ではないことは解かるが、登場人物たちの「その後」はもう少し書いてほしかった。


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