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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
野性の証明
証明シリーズ/村長警部
森村誠一 出版月: 1978年01月 平均: 6.75点 書評数: 4件

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角川書店
1978年01月

角川書店
1978年03月

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1978年06月

KADOKAWA/角川書店
2015年02月

No.4 6点 おっさん 2025/11/22 07:27
少女を背負い、右手に小銃を携え駆け出してくる、迷彩服の男性のアップ。その後方には、やはり銃を装備し横一列になって迫りつつある、軍人の群れのような不気味なシルエット……。

休日に物置の片付けをしていたら、偶然、棚の上から古い文庫本が一冊、転がり落ちてきました。手にとると、カバーのイラスト(by 山下秀男)が懐かしくて懐かしくて。いやでも、実際の小説の中にはこんな場面、無いんですがねw。
森村誠一の『野性の証明』、その角川文庫版の初版(昭和53年3月)でした。雑誌『野性時代』の連載後、角川からその前年に出たハードカバーは、買う気にならなかった中学生時代の筆者も、さすがに映画(『犬神家の一族』『人間の証明』に続く ”角川映画第三弾” として同53年10月にロードショー)の宣伝材料のように、最短で文庫化された本書は、即、購入したんでした。ま、巻末の「解説」も高木彬光だったしねww。
物置の整理の手を休め、突っ立たままページをペラペラめくっていると――冒頭の、僻村の大量殺人で、ああそうだった、そうだった、となり、そうそう、そしてここから転調して、うん、舞台は地方都市になって、謎めいた親娘が登場するんだよな――と、思わず知らず惹き込まれている自分に気づき、溜息をつきました。
あー、降参。

部屋に持ち帰り、その日の夜、遅くまでかかって再読する羽目に。この作者ならではの、癖の強い文体が癖になる、保険金殺人あり強姦殺人あり院内殺人あり(みんな犯人が違う)、横溝正史で始まり、刑事コロンボ(『パイルD-3の壁』)を経て、同時代のディーン・R・クーンツ(異能の女性キャラを配した『悪魔は夜はばたく』)や西村寿行(『君よ憤怒の河を渉れ』以降の冒険ロマン)と並走するようなストーリーが、まさかのG・K・チェスタトンで決着する、闇鍋のような作品を。
あらためて思ったのは――ホントにねえ、力業。要所要所で、小さな手掛かりをもとにした調査と解明があって、そのへんでの、専門知識の取り込みかたが、まあ、いかにも “清張以後” の推理小説ではあるんだけど、そうした細部のリアルが前提のアンリアルを支えきれているかというと……。
ありていにいえば、失敗作でしょう。導入部の、謎の大量殺人がクライマックスのアクション・シーンと重なることで、本作は円環を閉じる。森村誠一らしい、人工的な構成の美学。しかし、そこから明らかになる真相は、男の内に潜む “野性” を証明するいう小説のテーマを、結果的に損ねるものです。
しかし。
さんざん文句をいいながら、最後まで読み返した我が身を振り返りながら、思います。これは、フロイト的には in loveの証だったりするのかしらん?
魅力的な失敗作、と言い直しましょう。まるで様々な可能性の卵のような。
いま読み返すと、さきに言及した西村寿行の諸作のように、来るべき日本ミステリ界の “冒険小説の時代” を先導した一冊のようにも思えます。そして、そうした要素をとことんまで誇張しデラックスな虚構に拡大したのが、あの破天荒な映画版『野性の証明』(監督 佐藤純彌)だったのだと得心がいきます。
まことに忘れがたい作品であり、そして映画です。

No.3 7点 文生 2022/08/19 10:46
寒村での大量殺人という、まるで八つ墓村のような凄惨な事件の描写に引き込まれ、それに続く地方都市の首領と生き残りの少女を引き取った自衛隊員との暗闘も読み応え十分。加えて、皮肉な結末がインパクト大です。多少荒唐無稽な点は否めないものの、エンタメ性の高さでは著者の代表作である『人間の証明』を上回る力作です。

ちなみに、高倉健&薬師丸ひろ子主演の角川映画とは全くの別物で、原作では主人公が自衛隊と闘ったりはしません。

No.2 8点 斎藤警部 2017/04/02 22:18
おお、未だ見えぬ物語の終結部に浮かび上がる、遥かなる接点の蜃気楼よ。。。

「セックスした」の意味を、泣けるほどミステリ文脈で意義深い遥かなる遠回しに言い放った森誠の心意気には震えさせてもらった。しかも、それに続く文脈のスリルへの連繋よ。思えばその直前には敵陣どうしの旨味ほとばしる暴露合戦が最高の人肌で併走させられていたんだっけ。更に。。 やばいぜ、このへんの森誠。 しかしそこには同時に如何にも青臭い露骨さへの危うい傾斜面も潜んでいるのだが。。。構わんさ。見た所、一方の探偵役らしき者が或る事件の犯人でもあるような気がするムズムズが持続。更に、その容疑人を泳がせるために。。。。。参った。。

岩手は北上山地の寒村で起きた、一集落十数名鏖殺(みなごろし)事件。ところが、被害者全て集落民と思いきや、一人明らかに外地から観光客の若い女性が混じっており、その代わり地元側で一人だけ行方不明の幼い少女<<映画では薬師丸ひろ子>>。。 章が切り替わり、その双方(観光の女性と少女)に繋がりを持つ一人の屈強にしてジェントルな男<<同じく高倉健>>が主人公としてようやく現れる。彼は鏖殺事件の強力な容疑者だ。
一方で同じ東北の福島(らしき架空の県)内陸の某大都市では、市の治安と発展を暴力の恐怖で采配する一族がその磐石の基盤を揺るがされかねない事態が、徐々に侵攻を見せ始めるのだが。。。

まさかのオカルト性を見せ付ける飛び道具と、地道ながらスリル有る植物学調査。
章が切り替わる毎の視点の交差ぶり、交錯ぶりも旨き味わい。
戸籍の告白。。、、これは怖い。 おとうさん。。 か。。。

中盤よりこりゃ意外と通俗サスペンスの味わいかな、と思ってたら最後はずっしり社会派魂で締められた。

ピコ太郎や棟方志功と同じ青森県青森市生まれの彬光先生、病床での決死の解説檄文は泣きました!!

No.1 6点 2012/02/27 10:31
森村氏の代表作とされる「人間の証明」が心を打つ作品だっただけに、本書のほうが一般的には人気が少し落ちるのかもしれませんが、個人的にはこっちのほうが好きです。
大量虐殺の生き残りの少女が自衛隊員と、巨悪とに立ち向かうというとんでもない設定で、驚愕のラストあり、サスペンス(アクションかな)ありの強烈なエンタテイメント・ミステリー作品です。ストーリーは素晴らしくかつ馬鹿げてもいますが、ここまでやってくれれば思う存分に楽しめます。もしかしたら海外でも通用するのでは、という気さえします。

証明シリーズ第1作「人間の証明」で新境地を切り拓き、第2作の「青春の証明」が普通っぽすぎたためか、3作目の本書ではまた決めてくれました。
「青春の証明」が普通っぽいと思い込んでいますが、実際どうだったか、実はまったく記憶にありません。ゴメンナサイ。。。


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