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[ 短編集(分類不能) ]
終身不能囚 傑作短編集(五)
講談社文庫 森村誠一傑作短編集
森村誠一 出版月: 1978年08月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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講談社
1978年08月

No.1 7点 斎藤警部 2025/02/09 22:41
紺碧からの音信 
「止むを得ない、撃墜する」 本作に拮抗し得る切なさの見本があったら見せてみよ。 戦中、戦後に渉る空軍親子二代物語の構造がね、もう一分の漏れもなく、やばいの。 これは読み返すわ。たまらん。 ”主客の逆転” が短時間にこれ程までの燃焼を齎すとはな。 航空自衛隊の鮮烈痛烈な飛行描写も一役演じた。 悪癖(?)左翼演説に振り過ぎなかった事も、本作の美しさに一役買っている。 ナニナニ誤認トリック的な要素もあった。 いやそこはマジでいい話だった。 善意と “ものの弾み” とのすれ違い。。。 ‘風船’ の果たした/果たす/これからも果たし続ける(←最後のが泣ける)役割。。 ファンタジーめいたオープニングから、一転して躍動する映像的空中シーン、やがて分厚い、戦争を挟んだ個人史披瀝へ。 エンドはきれいに割り切ったかな。 でも泣きました。 こいつァ、やばかった。 物語がミステリを包み込む形ながら、ミステリ興味と感動とがじりじりと拮抗しました。  9点強

虫の土葬
森誠さん、だめですよ、いくらなんでも、あなた、、 てか主人公、おばかさんだよなぁ。。 会社を早期退職した中年男が、送別会の帰りに陥った穴。 “上松は、穴の中での怒りと誓いをはやくも忘れかけていた。”  いやいや、この存外にたくましいまさかのストーリー展開、しかと受け取りましたよ。 なかなか最後のキレまで上手に持たすものだ、と愉しく思っていたら。。 あの穴のアレは、穴だけに、ダブル・アナロジーなのだろうか。 寓話的なところに落ちた分、安くなった。 とは言え、これぞ短篇・・・ 主人公が脳内ずっと東京03の角田さんでした。  7点

孤独の密葬
引っ越したばかりのアパートに、前住人宛てのラヴ・レターらしきものが届いた。 数日後、彼女の名前は新聞の社会面に、殺人事件の被害者として再び現れる。 「あら、何を考えてるの、あなたってエッチ!」 道半ばにして唐突な某誤認トリック暴露!? こりゃ驚いたよーー 自然を愛する都会人サークルを背景に、真相目指して二人三脚でサスペンスフルな草の根捜査の末、、 “ブランデーをゆっくり掌で暖めるように、私はこの道程を楽しまなければならない。”   真相は、、 ひでー話だが、ある意味見え透いてるっちゃ見え透いてる。 最後のオチはそっちにもってったか・・  6点

無能の真実
一緒になれない不倫相手との将来に見切りを付け、勢いで婚姻関係を結んだ相手は、怠惰で無能だが、容子(ようす)の良い男、からの・・・  やがて元不倫相手の妻は病死し、あらためての結婚が申し込まれた。 彼にはやはり病を患う息子がいた。 ある日、郵便配達員をしていた “容子の良い男” が郵便物と共に失踪するという事件が起きた。 この展開からの、この反転は泣ける。 これぞ短篇。  7点

無限暗界
社会派ポー? 生まれつき心臓に欠陥を抱える会社員の男は、その日は特に、勤務時から体の具合がおかしかった。 仕事上のしくじりも犯した。 夜は奇妙な悪夢にうなされた。 ファンタジーの羽衣をひらひらさせつつ。。 そっか、あらためて物語の冒頭から振り返ると・・・  6点

行きずりの殺意
「もちろんよ、私、今夜のことは忘れないわ、今度は主人にも紹介するわ」 問題作! 非常時ユーモア、そこへ珍客。 逆方向から観たホワイダニット構築劇か。 これを順叙中篇~長篇でやっても面白そうだが、そうすると本作のキッツイ美点である●●●●性は薄れてしまうかも知れない。 マンションの一室へ強盗に入ったのは若い男。 彼には不幸な生活と、その延長で犯して来たばかりの重い罪があった。 ○○〇かと思いきや。。 最悪だ。。 読まなきゃ良かった。。 あのクソババアさえ。。。。そういう問題じゃないんだ。 しかしこの展開はやはり、凄いな。 あらためて、分厚いホヮイダニット中篇~長篇のかたちで提示して欲しかった気もする。 だが満足。  8点強

喪われた夕日
バカなやつ、バカなやつら。。 田舎暮らしの幼き日、淡い恋心で繋がった二人が(若い)大人になって都会で再会。 やさぐれた主人公は相手の手前精一杯の恰好を付け、それに見合うカネを手に入れようともがく。 勤務先の高級クラブには良いカモがやって来る。 「あいからわず、エッチなのねえ」  プチエロドタバタご都合チャンチャンからのアレと、盛り込んだ急展開でせわしないエンドが訪れたが、いかんせん、浅いのだ。  5点弱

終身不能囚
ギラギラと刺激的なタイトル。 売れない俳優どうしの夫婦。 夫はスタントシーンの事故で、足腰の障碍は幸い残らなかったが、男性機能を失った。 女優を辞め保険外交員を始めた妻は、ホテルの火災現場にて、焼死体で見つかる。 夫は、妻を見棄て去った不倫相手(?)を捜し追い詰めようと調査を始める。 これは、もしや・・・と思ったな。 真相はまあ意外かも知れないが、もっともっと文学的な背景を想像してしまいました。 終局に至り、なんだかバランスがグラグラして、取って付けたような喜悲劇的(?)絵が浮かぶエンド。 更に一押しの思索的クロージング。 ここでタイトルが重い意味を持つ。 或る “復讐” に纏わるサブストーリーがちょっと熱かった。  6点強

言葉択びに文学魂が滲む、元祖昭和のイヤミス/イヤサスと言った風合いだが、リーダビリティも相当に高い。
ところで、エロ系でやるならともかく、某作、きったねー下ネタにまで格調高い描写を施さずにはいられない森村誠一の作家的良心(?)には笑わせてもらいました。

シュルレアリスム風(?)表紙がなかなかエグいんですよ、この文庫本。


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