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[ 警察小説 ] 深海の迷路 |
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森村誠一 | 出版月: 1989年10月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
角川書店 1989年10月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2024/01/26 20:52 |
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(ネタバレなし)
その年の2~5月にかけて静岡県沼津市の周辺では、謎の連続レイプ魔が出没。やがて犯人の蛮行は、ついに一人の若い女性の殺傷に至った。一方で静岡市内では6月に、老舗和菓子屋「松華堂(しょうかどう)」の実家である松原家に火災が発生。全焼した焼け跡から、主人とその妻、そして二人の娘の死体が見つかった。だがただひとり難を逃れた松原家の長男で24歳の菓子職人・雄一は、やがて家族が焼死する以前に何者かに殺害されていたらしいと知る。連続レイプ事件と、放火殺人? 事件。二つの事件はやがて思いもよらぬ形で絡み合っていく。 角川文庫四十周年記念の一環として、作者が特別に文庫書き下ろしした短めの長編。ページ数は全部で240ページちょっとと薄めだが、錯綜する事件の構図が複雑にこんがらがる物語は、なかなか読みごたえがある。 妹をレイプ魔に殺された青年・保科竹行と、家族全員を何者かに殺された青年・松原雄一、この二人がアマチュア探偵としてメインキャラクターを務めるが、事態の実相を追いかけるのはそれぞれの事件を追う複数の刑事たちでもあり、その辺の密度感はウォーかヴィカーズあたりの感覚を思わせる。 本来は別途の物語や事象が多重的かつ複合的に絡み合っていく物語の構造は、確実に読み手に強烈なストーリー面での立体感を与えるとは思うが、一方でたぶん人によっては話を転がすための都合のよい偶然が多い、と怒るかもしれない。よく練られていると感心させる反面、そういうピーキーな弱点を具えた作品でもある。 いずれにしろ、フーダニットのパズラーではなく、良くも悪くも警察捜査小説としての面白さが大きい。 終盤のクロージングはいかにも森村作品らしいニヒルさだが、この作品の場合はその苦みがなかなかうまくキマった感じ。余韻のある残酷さというか、作者=神として劇中人物の運命を操った書き手に逆説的なやさしさを感じたりもした。いい終わり方、だと思う。 |